ヒマジンの独白録(美術、読書、写真、ときには錯覚)

田舎オジサンの書くブログです。様々な分野で目に付いた事柄を書いていこうと思っています。

戯曲「るつぼ」の読み方-その3

2019年11月03日 18時44分25秒 | 読書
しばらくブログの更新をさぼっておりましたが、本日は「るつぼ」の読み方を続けます。
前回の「るつぼの読み方」ではアビゲイルのプロクターへの「愛」がセイラムでの悲劇の根底にはあったのではないかと示唆しておきました。
今回はそれについてテキストに即してもう少し立ち入ってみたいと思います。
使用したのはハヤカワ演劇文庫版です。
アビゲイルとプロクターが登場する場面を順を追って見てゆきましょう。
アビゲイルは第一幕の初盤から登場します。
物語はセイラムの牧師サミュエル・パリスの家の二階の寝室で彼の娘ベティ・パリス(10歳)がぐったりとベッドに横たわっていたことから始まります。ベティがベッドの上で身動きもしないでいる原因が何なのかはその時点ではだれにも明らかにはされていません。横たわるベティ・パリスのベッドのそばでパリス牧師とアビゲイルは次のような会話を交わします。ちなみにパリス牧師は彼の姪の孤児であったアビゲイルを引き取り育てていたのです。
パリス牧師は彼の娘のベティの突然の意識不明の原因が、少女たちが深夜に森の中で行った怪しげな行動にあるのではないかと疑っているので、そのことをアビゲイルに詰問します。
パリス「ねえ。アビゲイル、罪はいずれは下りるだろうが、もしおまえが森の中で悪魔と取引をしていたのなら、今そう言ってくれ。さもないと、きっとわしの敵に知られてわが身の破滅だ。」
アビゲイル「でも、悪魔を呼び出したりはしませんでした。」
アビゲイルはパリス牧師にはこのように言ったのであるが、実はそれは大人向けの言辞であり、仲間うちでは次のように言っていたのだ。
意識の戻ったベティへの発言。
アビゲイル「いいこと。あたしたちは、みんなで踊った。そしてテイチュバが魔法で、ルース・パトナムの死んだ姉妹を呼び出した。ただそれだけ。お前たちの誰かが、それ以外のことを一言でももらしてごらん、あたしは恐ろしい夜の闇に乗じておまえたちのところに行き、身の毛もよだつような怖い目にあわせてやるからね。あたしにはそれができるんだ。」
そして、同室にいたメアリ・ウオレン(ジョン・プロクターの召使の少女)に向かいアビゲイルは次のように発言する。
メアリ・ウオレン「アビー、ベティは死ぬわ!魔法を使うのは罪よ、あたしたちはーーーー」
アブゲイル「おだまり、メアリ・ウオレン!」

そんな中にジョン・プロクターが入ってくる。ジョン・プロクターは三十代半ばの農夫である。ここで同室にいる三人の関係を見ておこう。アブゲイルは七か月前まではプロクター家に雇われていた。そしてその後プロクターの妻により解雇された。その理由はアビゲイルとプロクターとの間の雇人と使用人を超えた関係にあった。プロクター家でアビゲイルの後で召使として雇われたのがメアリ・ウオレンである。
プロクターに見つけられたメアリ・ウオレンはどぎまぎしながら次のように言う。
メアリ・ウオレン「あ! いま帰ろうとしてたんです、旦那さん。」
プロクターはそれに対して次の言葉を放つ。
プロクター「お前は馬鹿か、メアリ・ウオレン? 家から出てはならんと言ったのが聞こえなかったのか? 何のために給料を払っているのだ? 牛よりもおまえを探すほうが大仕事だ!」
この言葉でメアリ・ウオレンは退場して、その部屋にはまたもや意識不明に陥ったベティ・パリス以外にはプロクターとアビゲイルの二人がいるのみである。
アビゲイル「わあ! あなたって、やっぱり強いのね、忘れていた、ジョン・プロクター!」
プロクターはアビゲイルが話すベティ・パリスが気絶した経緯を聞くと、次のように言う。
プロクター「あいかわらず、悪い女だ! 二十歳にならないうちに、さらし台でみせしめにされるぞ。」
アビゲイル「ひとこと言って、ジョン。やさしい言葉を。」といいながらプロクターに迫るのである。
プロクター「いや、だめだ、アビー。あれはすんだことだ」
アビゲイルはそれに対して、プロクターがパリス家を訪ねてきたのは、自分に会いに来たのだと言わんばかりに次のように言葉を続ける。
アビゲイル「ばかな女の子が飛ぶのを見に、わざわざ五マイルやって来たというわけ? ちゃんと判っているんだから。」アビゲイルはプロクターがパリス家までやって来た動機が自分に会いたいから来たのだと言わんばかりの態度でプロクターに接するのである。
アビゲイル「あたしは熱に対して敏感なの、ジョン。あなたの熱があたしを窓に引き寄せる。見たことあるわ、あなたが見上げていたところ、淋しさに燃えながら。あたしの窓を見上げたことがないと言えて?」
プロクター「見上げたかもしれない。」
アビゲイル「当然よ。あなたは冬のように冷たい人ではないもの。わかっているわ、ジョン、わかってるのよ。夢を見て、眠れないのよ。夢を見ると、目がさめ起きあがり家の中のなかをあるきまわるの、まるであたしがどこかの扉から入ってきやしないかって気がして。(プロクターに必死でしがみつく)」
プロクター「可哀そうな子ーーーー」
アビゲイル「どうして子供呼ばわりするの?」
プロクター「時おりおまえをいとしく思うことはあるかもしれない。しかし、二度とおまえに手をだすようなことがあったら、その前にこの手を切りすてよう。もう忘れてくれ。おたがいに心から愛し合っていたわけではないんだ。」

突然のプロクターの出現に初めは戸惑っていたアビゲイルは少女らしい一途な思いをプロクターに告げるのであるがその思いはプロクターに拒絶されてしまうのである。
ひとりの少女の一途な思いがセイラムでどのように周りの人々を巻き込み展開してゆくのだろうか。

今日はここまでとします。

ーーーー次回に続くーーーー








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