ヒマジンの独白録(美術、読書、写真、ときには錯覚)

田舎オジサンの書くブログです。様々な分野で目に付いた事柄を書いていこうと思っています。

「文字と言葉」

2018年02月09日 11時14分16秒 | ことば
今の私たちは、文字を読み書きするのが当たり前に行っていますが、一般大衆の識字率が高くなったのは、少なくとも二百年もたっていないのです。

それ以前の段階では文字を読み書ける人々は、日本では武士や貴族などの特権階級か商人の一部だけでした。
また、西洋では文字が普及したのはグーテンベルグによる印刷術の発明によるところが大きかったと思われます。
さて、日本の時代劇に「瓦版」や「高札」などにより世間の事件や政府の「お触れ」を大衆が見ている場面があります。
そんな時、「おいら、字が読めねんだよう、何て書いてあるのか、ちょいとお前さん読んでくれねえかよう」などと大工などの職人さんが文字を読める人に言ってる場面を眼にすることがあります。

日本において識字率が高くなったのは、明治政府による学校教育の普及によるところが大きかったと思われます。
当時の明治政府は「富国強兵」を遂行しなければ西洋列強に立ち向かう国力を付けることが出来ないとの認識を持ち、そのための人材育成の一環としての学校教育だったのだろうと思われます。

近代以前には人々はどのようにして詩や物語を知ったのでしょうか。
詩や物語を人々に伝えたのは、西洋ではかっては「吟遊詩人」であり、わが国では「琵琶法師」などでした。
詩や物語を人々が知るようになったのは、それらの人による「語り」を通じてだったのです。

いまの私たちは新聞・書籍などの活字を通じていろんなことを知ることが出来、小説を読むことで作者の内面の心情に触れることが出来るようになっています。
また、今の時代はパソコンやスマホがそれらの媒体にとって代わりつつあります。
現代の私たちは、今や手紙を書くことも少なくなってきています。
たいていの用件の通知はメールで済ますことも珍しくありません。

ですが、思い起こせば今のそれらの技術はせいぜいここ10数年しかたっていない仕組みなのです。
この仕組みは、電気が無くなると使えない仕組みなのです。
東日本大災害の時は、わたしたちはそのことをいやというほど知ってしまったのですが、「のど元過ぎればなんとやら」でもはや忘れているかのようです。

昨日のわたしの記事にも書きましたが「最後に残るものが、ヒトの肉体」であるとすれば、「肉体と肉声を通じた意思の通い合い」を演劇に求めることが出来ます。
唐十郎氏は、1968年には、それを見事に私たちに伝えていたのです。
恐るべし「慧眼」というべきでしょう。

さて、今ではこれらのアングラ演劇とは違った方法を取り入れ活動をしている人たちがいます。
平田オリザや三浦基という人たちです。
平田オリザの実践している演劇法は「現代口語演劇」と称されているようです。

かっての新劇やアングラ演劇とも違う独特の演劇法と言われています。
書籍を購入して読んでみました。これです。



アングラ世代とはまた違った演劇の手法なので、少し取っ付きにくい面もあります。
演劇は時代を映す鏡でもあるので、機会があれば実際の舞台も観たいと思っている次第です。

いずれにせよ、演劇は古典的な額縁舞台を除けば、作り手とそれを受け止める観客との間の「生身の肉体と肉声」を通じての意思の交流でもあるとすれば、唐十郎の語ったことは今でも大きな意味を持っています。
現在の人との間の交流の希薄さを埋めることが出来る一つの方法であることは、間違いないと思われます。
なぜなら、言葉を発することが「意思の交流の出発点」となるからです。

<追記>

幕末から明治初期にかけて、西洋の「民主制」を導入するにあたり、「自由民権論者」が行った行動にはいくつかの方策がありました。
その一つに、民権論者が各地に出かけ「辻説法」があったとの事です。
また、それらの文字を読めない集落の人々を集めて「講話会」(今でいえば読書会のようなもの)を行ったという記録もあるそうです。
それらの中から「五日市憲法」などの「自主憲法」なども考え出されていったと言われています。
多摩地方の田舎に在って、「日本帝国憲法」をもしのぐ内容の「民主制」を備えたものであったそうです。
こんな時に役立ったのは「文字」ではなく「言葉による説法」や川上音二郎による「オッペケペー」という歌謡(今の演歌の源流と言ってよい)だったのです。

こんな事例が過去にあったことを知れば、どんなに技術が進歩しようとも、「肉声を他の人に向かって発することの重み」はいささかも失ってはいけないことに思えるのです。









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