エウレカセブン「第七の幸運をもたらす宿」

人気アニメ「エウレカセブン」を愛し、ツッこみ、ゲスの勘ぐりでエピソードを読み解くブログです(ひでぇ)。リンクフリー。

第9話「ペーパームーン・シャイン」Paper Moon Shine 前編

2005-06-12 08:14:29 | 各話ガイド(第1クール)


ティプトリーの頼みで、ヴォダラクの聖地、シウダデス・デル・シエロに降り立った月光号。
その地は、かつて空の都と呼ばれたほど美しい街だったというが、今や廃墟と化している。
停泊中、レントンはリフを楽しむが、突然ホランドに殴りつけられ、泣きながら廃墟へと駆け出していく。
ニルヴァーシュを繰り、レントンを追ってきたエウレカは、そこで自らの過去を打ち明けるのだった
。そこへ、軍の定時爆撃を知らせるサイレンが響き渡る。レントンは、ニルヴァーシュで応戦しようと駆け出していく。【公式あらすじ】





ティプトリーは察していた。シウダデス・デル・シエロにゲッコーステイトを向かわせるということは、彼らにつらい選択を強いるということだと。ノルブという男を探すには、いつかは立ち寄らないわけにはいかない場所でもある。ホランドはたまたま寄るだけだと気遣うが、ティプトリーは激しくそれを拒否した。ヴォダラクにとって、かの地は、グレートウォールに向かうための「清めの地」ではあるが、同時に、訪れた全ての人間にとって「選択の門」であるという。
ゲッコーステイト、とりわけホランドに、それをうやむやにさせないために念を押すのだった。彼女の言葉は、この地に、決して逃がしてはいけない、何か大切なものが待ち受けていることをホランドに自覚させているようにも見てとれた。

荒れ果てたシウダデス・デル・シエロ空港の跡地に残る、滑走路の真ん中に月光号は着陸した。コンパク・インターフェアレンサーを作動させ、駐機中に州軍レーダーに引っかからないようにしてはいたが、周りに機体を隠す山はなく、上空を戦艦や偵察機が通過すれば目視されてしまうことには違いなかった。
機関室のジョブスは念のため、いつでも発進できるように備えていた。ケンゴーも、この地にそう長くは留まらないだろうと、ホランドの考えを予想していた。タルホはそれを認めた。「尻尾を巻いて逃げ出したいのもいるみたいだしね」彼女の言葉から察するに、ホランドには、何かこの地に長居したくない特別な理由があるのかもしれなかった。



ティプトリーが月光号を降りるときがやってきた。ホランドとハップが見送りに出ていた。別れ際にティプトリーは、黄金に輝く不思議な液体の入った、大きなガラス瓶をホランドに差し出した。「いらねぇよ、そんなモン」とホランドは断ったが、「いつか必要になるかもしれない。そのとき、これがないと困るでしょ?」とティプトリーが言葉を重ねたため、結局受け取ることにした。「こんなモンが必要にならないことを祈るよ」・・・ホランドも、この液体が何であるかは分かっているようだった。

空港の生きている設備を利用して、月光号に飲料水の補給をしているムーンドギーのもとに、レントンがうれしそうに駆け寄ってきた。ようやく完成した彼の新しいリフボードを披露しにきたのだ。周りを取り囲む廃墟の形状により、滑走路周辺には、いい波が来ていた。ホランドは、給水が完了次第すぐに出発するとムーンドギーに伝えていた。せっかくいい波がきているのに、と不思議がるレントン。給水に時間がかかりそうなので、二人はその間、リフをすることに決めた。



最高のリフスポットであるにもかかわらず、周りには誰もいない。レントンとムーンドギーは、この穴場でリフを思う存分満喫し、それでもまだ給水が終わっていなかったため、二人並んで寝転んで、心地よかったリフの余韻を味わっていた。
そこに、険しい表情で現れたホランド。「何をやっている・・・何をやっている、って聞いてンだあぁッ!!」
いきなり怒鳴りだしたホランドの剣幕に、おろおろして説明の言葉を重ねるレントン。怖くて、自分でもおかしいと思うほど、しゃべるのが止まらない。愚かしい言葉がつらつらと紡ぎ出されるその様に、ホランドは怒りを爆発させた。

右の拳でレントンは殴り飛ばされた。
おろおろするムーンドギー。いきなり殴られた理由が分からないレントン。
「っ痛ぇ・・・なんなんですか、いきなり」「・・・うっせえ」顔をそむけ、ただ言い捨てるホランド。レントンは噛み付いた。
「いきなり殴ることないじゃないですか! ・・・理由、説明してくださいよ!」ホランドに詰め寄るレントン。
「うっせえんだよォ!」今度は左の拳で殴られた。



「なんだよ! いきなり2度も・・・ なんなんだよ!」理不尽な暴力に、レントンは恨みがましくホランドを見つめたが、彼は背を向けたまま黙っている。「・・・そうかよ、・・・そうかよぉぉ!」何度もそう叫んだ末、レントンは泣きながらボードをつかんで駆け出した。ホランドは自分のことが嫌いなのだ、今のレントンにはそれくらいしか理由が思い付かなかった。気の抜けた表情でレントンの後姿を見送るホランド。視線を地面に落とし、騒動の始末をつけるように「フン」と首を振った。

空港の端に腰をおろし、退屈そうに眼下に広がる廃墟を見ていた、エウレカの3人の子供たち。遠くに、ティプトリーの姿が小さくなっていくのが見えた。子供たちは遠ざかる彼女の姿を見ていたのかもしれない。
離れたところで、エウレカは無残に焼け落ちたデル・シエロの双塔を見上げていた。エウレカは、この地に着いてから様子が少しおかしかった。「ママ、怖い顔をしている」心配そうな表情のモーリス。

塞ぎこんで振り返ったエウレカの前を、ボードに乗ったレントンが横切った。レントンの目に涙が浮かんでいるのを見てとったエウレカは、どうしたのとレントンに声をかけるが、耳に入らないのか、レントンはそのまま行ってしまった。



荒れ果てた無人の街をボードで飛ぶレントン。涙を拭いながら飛行していたため、目の前の標識に気づかず、激突して転倒してしまう。起き上がったレントンの目に入ったのは、道路に転がっていた焼けた木炭だった。不思議に思って周囲を見回したレントンは、建物の廃墟に埋もれた不発弾を見つけた。「単なる廃墟じゃない」「真新しい・・・ってことは、爆撃があったのは最近」

そのとき、レントンは背後で人が動く気配を感じた。レントンが振り返ると、その人影は廃墟の奥へと駆け出した。思わずボードでそれを追いかけるレントンだが、干してあった布に視界を奪われ、廃墟の斜面を転がり落ちてしまう。
谷状の廃墟の最下層で、レントンはトレーラーハウスの集落にたどり着いた。そして住民の人々の中に、ティプトリーの姿を見つけた。

月光号では、レントンが廃墟に向かって飛び出したことを、エウレカがホランドに伝えようとしていた。しかし、ホランドは「悪い」と言ったきりで、動く気配を見せなかった。

ティプトリーのトレーラーハウスに招かれ、再びお茶をごちそうになるレントン。
「それは災難だったねえ」一通りレントンの話を聞いたティプトリーが相槌をうつ。レントンはトレーラーハウスの内部の雰囲気に、違和感を感じていた。祭壇に、高僧の姿を描いた絵画。ここは住居ではないようだった。
「ここは外見はトレーラーハウスだけど、中身は修道場だからねえ」レントンの感じていた疑問にティプトリーが答えた。
レントンは続けて、ヴォダラクが本当に反政府組織なのかと尋ねた。学校で先生やクラスメイトから聞いた話では、何を考えているのか分からない怖い集団という、漠然としたイメージしか浮かばなかったからだ。今まで、ヴォダラクについて何の関心もなかったせいもあるが。



「分からない、知らないものは『怖いもの』・・・それはみんな一緒」ティプトリーは紅茶のカップを置いて言った。
レントンは、ヴォダラクに属する彼女は怖くないと、素直に感想を口に出した。
「人は見た目では分からない、大地は見たまま、何も変わらない」「それをみんなが理解してたら、ここもこんなことにはならなかったでしょうね」

不定期にスカブが隆起する、怒れる大地。ティプトリーは、この大地が人間だけのものではないと言う。しかし、この惑星に移住してきた人々は、揺れる大地にパイルバンカーを打ち込むことで、この大地を制圧したつもりでいる。彼女の口調は、それがどんなに愚かなことであるかと、そうレントンに伝えたいようだった。

「でも、パイルバンカーがないと地殻変動が起こるって、教科書に───」
自分の知っていた世界が、実は別の姿をしていた・・・そんな未知の恐怖を無意識下で感じて、レントンは反射的にそう答えていた。
「それじゃ、なんでパイルバンカーがあると地殻変動がなくなるの?」
彼女の質問に、レントンは答えられなかった。そんなこと、誰も教えてくれなかった。いや、疑問にすら思っていなかった・・・。
「あなたはただ、誰かが記したことを読んだだけ・・・違う?」

エウレカは、ニルヴァーシュに乗って、デル・シエロの廃墟上空を飛行していた。レントンを探していたのだ。
あきらめきれない彼女に、タルホが無線で警告した。「ニルヴァーシュは・・・『危険』だわ。分かっているわよね?」
そのとき眼下に、エウレカはトレーラーハウスの集落を見つけた。



ティプトリーはレントンを連れて外に出ていた。「なんで、こんな何もないところに、わざわざ集まってくるの?」
レントンの問いに、テゥプトリーはため息をついて答えた。「それは『選択の門』だから」
・・・シウダデス・デル・シエロ、空の都。かつてその美しさで知られたヴォダラクの地。グレートウォールへの道を辿るべきか、それともこの大地に留まり続けるべきか。ここに来た全ての者に、何かを選ばせる・・・そんな街。

「なのに、ボロボロだ・・・」
レントンは素直に感想をもらした。塔は破壊されており、とてもじゃないがかつての美しかった光景など、彼には想像できそうになかった。
「そう、数年前のある日、軍がこの街を襲撃したの」「塔ごとこの街を破壊して、ただヴォダラクを信じていた人たちを、軍は虐殺していった・・・」ティプトリーは塔を見上げ、過去のできごとをレントンに語ったのだった。その瞳は強い感情に震えていた。

「ティプトリーさん!」突然、男が慌てて叫んでかけてきた。
「大変だ! ヤツがまた現れた!・・・『白い悪魔』だ!」男はそういって、ティプトリーとレントンを、トレーラーハウスの中へ隠れさせた。

すぐ外で、何か大きなものが着陸する音がして、トレーラーハウスに振動が伝わってきた。続いてキャノピーが開く音が聞こえた。
そして、先ほどのものより小さな物体が地面に降りた気配がした。
「レントン! いるのは分かってるの! ・・・みんな心配してるっていうから、はやく出てきて!」
エウレカの声だった。自分を探しに来てくれたのだと、驚くレントン。その直後・・・。



「きゃぁ」彼女は悲鳴を上げた。
レントンがあわてて外に出ると、エウレカに向かって、石つぶてが容赦なく次々と投げられていた。大勢の住民が、悪鬼を見るかの形相で、憎憎しげに少女へ石をぶつけていた。エウレカは両手で顔をかばっていたが、飛んでくる石の数があまりにも多く、全てを防ぎきれずに、綺麗な額に傷を受けていた。石をぶつけられながらも、エウレカはレントンの姿を見つけると、安堵した表情を見せる。

たまらなくなったレントンは飛び出して彼女を抱きかかえ、「この子が何をしたっていうんだ!?」と群集に向かって叫んだ。
「そいつは人殺しだ!」「私たちが何したっていうの!?」「軍の犬め!!」人々からは罵倒の声が返ってきた。

「何言ってんだ、エウレカは───」ただの女の子じゃないか・・・レントンがそう叫ぼうとしたとき。
「いいの」エウレカ自身がレントンの言葉をさえぎった。
「なんで!?」驚くレントン。彼女は反論しなかった。「私、本当に軍の犬だったから」

突然サイレンが谷間に鳴り渡り、人々は蜘蛛の子を散らすようにこの場から次々と逃げていった。
ティプトリーが二人のもとに駆け寄って、緊張した口調で叫んだ。「あなたたちも早く逃げなさい! 定時爆撃が来るわ!」
レントンとエウレカは空を見上げた。夕日を背に、接近する空中戦艦のシルエットが大きくなっていくのが見えた。

(後編に続きます)




【今週のみどころ、ツっこみどころ】A-part
●ドギー兄さんのリフる姿が、またもやおあずけになってしまった! ファンは第33話までガマンしましょう。
●ホランドの理不尽な暴力。内面的な深い理由があるんだろうけど、描写がキツイので、日曜の朝に子供が見れたもんじゃない。
●メーテルのウサギリュック! 商品化されたらキミは購入するか!? 親戚の幼女に背負わしてみたいか!?
●レントンの壮絶すぎる階段落ち。ビル3つほどの高さから転げ落ちました。蒲田行進曲の銀ちゃんもビックリ!
●ヴォダラク教徒の生活、信仰の内容。また思わせぶりな設定をチラチラ散りばめてからに!
●ティプトリーおばさんが、レントンに対してやたらサバけた態度を取っている件。やっぱりこれが地の性格だったんだ。
●ヴォダラクのトレーラーハウスが集まっている、選択の門の入り口が、「シャドウハーツII」のとあるシーン(ギョレメの谷)に激似してました。
●白い悪魔。「(元・塔州)連邦(軍特殊部隊)の白い悪魔」ですな(笑)。