医療費抑制の視座 ~ 2011年度の国民医療費(1人当たり30万円超・総額38.6兆円)より

2013-11-15 09:52:37 | 日記
昨日の時事通信ネット記事、今日の朝日新聞ネット記事日本経済新聞ネット記事その他各メディアで既報の通り、厚生労働省の発表によると、2011年度の国民医療費は、総額38兆5,850億円(前年度比1兆1,648億円、3.1%増)、1人当たり30万1,900円(前年度比3.3%増)、GDP比率8.15%(前年度7.79%)、NI比率11.13%(同10.62%)になったとのこと。

この傾向を単純計算すると、先のブログ記事で掲載した資料1〔=社会保障給付費の見通し〕で示される政府見通しよりも社会保障費の膨張速度は大きくなる。「国民医療費」は「年金」と並んで社会保障費の相当部分を占めるもので、その帰趨は社会保障システムの持続可能性を左右する大きな要因だ。「国民医療費」とは、資料1〔=国民医療費の範囲〕にあるように、医療に要する全ての費用ではない。そう考えると、『医療に関係する全費用』は更に大きいということになる。

2011年度の国民医療費に関する結果の概要について、主なものを順を追って見ていく。先ずは過去からの推移ということで資料2だが、これを見るだけで直観的に国民医療費に対する危機感を直ぐに抱くだろう。

資料3は、医療サービス需給両面での利権の場所を示す端的な円グラフである。医科診療医療費が7割超、薬局調剤医療費が2割弱という順であり、マクロの視点からの効率的な医療費抑制とは、医科診療と薬局調剤に係る需給両面での利権の縮小ということになる。資料4~6を包括的に見ていくと、高齢者医療費(65歳以上で人口1人当たり72万円、70歳以上で同81万円、75歳以上で同89万円)の抑制、患者等負担の増額、公費と保険料の均衡ある負担の分担が必須であることがわかる。

医療費を巡る課題は、どんな指標からアプローチしても、マクロの視座では同じことになってしまう。少子高齢社会での社会保障費用負担原則は、まさにこの線でいくしかない。



<資料1>

(出所:厚生労働省資料


<資料2>

(出所:厚生労働省資料


<資料3>

(出所:厚生労働省資料


<資料4>

(出所:厚生労働省資料


<資料5>

(出所:厚生労働省資料


<資料6>

(出所:厚生労働省資料

『介護離職』をする年齢層 ~ 40代半ば以降に増加する傾向

2013-11-12 21:22:11 | 日記
先のブログ記事に続き、今回も介護離職に関するデータを見てみる。厚生労働省「平成24年雇用動向調査結果」に書かれており、下の資料は該当部分の抜粋である。

40代半ば以降の女性の離職率が高くなる傾向にある。その年齢になると、自分の親が介護を必要とする状態になるからかもしれない。現状では女性比率が高いとは言え、先のブログ記事にあるように、男性でも介護離職は過去5年間で毎年2万人もいる。

介護離職問題は、女性の問題ではなく、男性も含めた40代以降の人々全員に降りかかってくる可能性のある大きな課題である。



<資料>

(出所:厚生労働省資料

『介護離職』は年間10万人 ~ 介護保険制度は浸透していないのか?

2013-11-11 22:19:39 | 日記
本日、大手経済誌より『介護離職』問題についての取材を受けた。どのような記事になるかはまだわからないが、今後、国レベルでも大きな問題として焦点を当てていく必要があると思われる。

介護離職に関する直近の公式データは、総務省「平成24年就業構造基本調査結果」に出ており、当該部分だけ抜粋すると下の資料1・資料2の通りだ。「過去5年間に介護・看護のため前職を離職した者は48万7千人」とあり、介護離職は毎年10万人と最近しばしば言われるのは、このデータを基にしてのことであろう。

これは、介護は家族が行うべきと考える人が多いからなのか、家族に要介護者を抱えていると職場で不利になるからなのか等々、幾つかの要因が指摘されている。いずれにせよ、介護保険制度の周知も含めて、職場において介護保険制度に関する主任者のような存在を内製化するか外部委託するか等々、何らかの制度化が必要と考える。

介護離職問題は、社会政策のみならず、経済政策の観点からも、今後の大きな課題となっていくはずだ。



<資料1>

(出所:総務省統計局資料


<資料2>

(出所:総務省統計局資料

「国の借金」の増加 ~ 高齢化による社会保障費の増加

2013-11-10 21:44:59 | 日記
昨日の日本経済新聞ネット記事などで既報の通り、財務省の発表によると、「国の借金」の残高が9月末時点で1011兆1785億円。記事概要は以下の通り。

○国債839兆6096億円、借入金54兆6007億円、政府短期証券116兆9683億円。
○10月1日時点人口推計(1億2730万人)をもとに単純計算すると、国民1人あたり約794万円の借金。
○2013年度予算で新規の国債発行額が42兆円超。
○国の借金の膨張に歯止めがかからず、総額は今年度末には1107兆円になる見通し。

毎年度の補正予算と含めた全体の予算規模の推移を見れば、予算編成を税収見合いに抑える努力をしていないので、「国の借金」が増えるのは当然である。下の資料1〔=一般会計における歳出・歳入の状況〕と資料2〔=公債残高の累積〕を見ても、それは明らかであろう。「4条公債」とは建設国債、「特例公債」とは赤字国債のことだ。

下の資料3〔=公債残高の増加要因〕、資料4〔=目的別歳出構成の推移〕、先のブログ記事の資料2〔=一般会計の主要経費別歳出額の推移〕と合わせれば、「国の借金」の増加要因が公共事業関係費から社会保障関係費及び地方交付税交付金に移っていることや、地方財政でも社会保障関係費の歳出が増加傾向にあることが、容易に察せられる。

高齢化に伴う社会保障関係費の歳出削減が必要なのは、国でも地方でも同様であることがわかる。子ども子育て・児童福祉に関しては、今までの予算規模の小ささや高齢社会を支える若年層の人材確保という観点からは、むしろ増額していくべきだ。高齢者向けの少しの減額分を若年層向けの多くの増額分に充てても、全体として歳出削減にすることは可能である。



<資料1:一般会計における歳出・歳入の状況>

(出所:財務省資料


<資料2:公債残高の累積>

(出所:財務省資料


<資料3:公債残高の増加要因>

(出所:財務省資料

<資料4:

(出所:総務省資料

国民健康保険料の上限額引上げ ~ 『歳入増』と『歳出減』の不均衡

2013-11-09 16:03:30 | 日記
昨日の読売新聞ネット記事毎日新聞ネット記事では、厚生労働省が国民健康保険料の年間上限額を引き上げる方針であることについて報じており、概要は次の通りだ。


○2014年度から39歳以下と65~74歳は2万円、40~64歳は4万円、それぞれ引き上げ。
○上限額について、すべての加入者が負担する医療分は65万円から67万円、40~64歳が負担する介護分は12万円から14万円に引き上げ。
○単身世帯の場合、年収1000万円以上で医療分の上限額の67万円に達することになり、これ以上の収入がある世帯はすべて同じ負担額。
○高齢化による医療費や介護費の増加に伴い、高所得者の負担を増やして国保財源の安定化を図る。



詳細は、厚生労働省・社会保障審議会医療保険部会(第70回)の資料を参照されたい。これは国民健康保険に関することで、下の資料にあるように、医療保険全体の3割程度を占める。

社会保障と税の一体改革においては、社会保障財政の健全化のために消費増税が行われることになっているが、同時に部分的な保険料引上げも検討されている。年金・医療・介護それぞれの分野において保険料を引き上げるということは、消費税のような広く一般の社会全体としての受益者負担ではなく、各分野での特定の受益者負担である。

どちらであっても、社会保障サービス費用総額が上がるので、そのための負担増を様々な手法で誰かが賄うということだ。少子高齢化が今後ますます進んでいくことはわかり切っているので、費用総額(社会保障に係る歳出)は増え、負担総額(社会保障に係る歳入)も増やさないといけない、とされる。社会保障制度改革を考える時、最終的には負担増を求める先を誰にするのかという点に行き着く。

しかし、それでは社会保障システムの持続可能性は高まらない。歳出増だから歳入増を図るのではなく、歳入に見合った歳出に抑えるという政治メッセージを発信していく必要がある。これは、以前から誰もがわかっていることだろう。この政治メッセージは、政治家からはなかなか発せられない。社会保障に関する政治的議論では、『歳入増』と『歳出減』が均衡しない。だから、政治家でない人々が発する社会保障制度改革案の方が持続可能性が高いのではないか。真の社会保障制度改革は、政治側ではできないと思っておくべきかもしれない。深刻な財政危機が体感されていない間は、民間側が制度内で上手に泳いでいくことしかないだろう。



<資料>

(出所:厚生労働省資料

介護人材政策に関する考え方(8) ~ 介護事業に係る『労働者』と『使用者』

2013-11-08 22:55:15 | 日記
厚生労働省「介護人材確保の推進に関する検討委員会」でも検討が進められているが、確保すべき『介護人材』とはどういう職種のことを指すのか。厚労省・社会保障審議会では、介護人材の確保に関して、次のような論点提起がなされている。

○ 団塊の世代が75歳以上となってくる2025年度に向け、地域包括ケアシステムを構築し、在宅サービスを充実していくにあたり、介護人材は、237~249万人が必要と推計されており、現在の149万人から毎年6.8~7.7万人の人材を確保していく必要がある。
○ そのためには、学卒就職者やハローワークなどを通じて新たに入職してくる者を維持・増加させるとともに、離職して他産業へ流出していく者が介護分野に定着するよう取り組むことが重要。
○ そこで、介護人材の確保にあたっては、人材の新規参入の促進と定着を図る取組が必要であり、他の産業に比べて離職率が高いことや平均賃金が低いことなどの課題を踏まえ、以下の視点で取組を推進していくことが必要である。
  1)参入の促進 2)キャリアパスの確立 3)職場環境の整備・改善 4)処遇改善

およそ殆どの介護サービスや医療サービスは、公的保険制度を資金源とする社会保障サービスであると同時に、事業(ビジネス)である。介護事業は雇用の場であり、使用者と労働者がいる。『介護人材』と言うと、介護事業に係る労働者の離職問題や賃金問題に関する論点がばかりに見受けられる。厚労省が提示する介護人材関係資料は数多あるが、直近での代表例は資料1~3のようなものだ。

これらも含めて、介護事業に係る労働者に焦点を当てることは常ではあるが、介護事業に使用者に焦点を当てることはあまり見たことがない。介護事業の経営の在り方に関しては、これまで方向性を示す主張が少なくないが、政府・審議会レベルで大きく取り上げていくべきだ。例えば、先のブログ記事(☆1☆2)でも書いたように、社会福祉法人の特別養護老人ホームに巨額の内部留保が貯まっていることが問題視されているが、これは介護事業経営の在り方を問う契機になるはずだ

介護人材政策に関しては、労働者の確保・育成だけでなく、使用者(経営者)の確保・育成についても、今後積極的に提起していく必要がある。



<資料1>

(出所:厚生労働省資料


<資料2>

(出所:厚生労働省資料


<資料3>

(出所:厚生労働省資料


《参考》
介護人材政策に関する考え方について書いた先のブログ記事(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)

介護保険3施設 ~ 入所と退所

2013-11-04 21:08:10 | 日記
先のブログ記事では、特別養護老人ホームでの入所と退所について書いた。直近の厚生労働省調査によると、退所に関して、死亡が6割強程度で、それ以外の退所先が医療施設である場合が3割弱であった。特養が本来持っているべき『終の住処』の機能はまだ不十分であり、医療施設がその代わりになっている場合がまだまだあるということだ。

これを介護保険3施設にまで拡げると、下の資料〔=介護施設における入所者・退所者の状況〕のようになっている。介護3施設の役割は先のブログ記事の資料1〔=介護保険3施設の概要〕に書いてある通りだ。介護老人福祉施設(特養)以外の介護老人保健施設(老健)も介護療養型医療施設(介護療養病床)も、入所元・退所先ともに医療機関が最多となっている。

入所元としての医療機関からの転入はさておき、退所先としての医療機関への転出に関しては、それが『終の住処』行きになるような場合をなるべく減らすような工夫が必要なのではないか。医療施設の本体機能は、入院から退院までであって、『終の住処』ではないはずだ。



<資料>

(出所:厚生労働省資料

社会保障と財源 ~ 消費増税は不確実、高齢化は確実

2013-11-03 23:30:46 | 日記
来年4月からの消費増税が決定しているが、これに関する説明でよく見るのは、資料1〔=社会保障・税一体改革による社会保障の充実〕と資料2〔=社会保障の安定財源確保〕である。一見してすぐに理解できるほど単純ではない。

そもそもこの2つの資料は、消費税率について改正前5%と改正後10%の変化を示しているが、それは再来年10月以降の話だ。来年4月の時点では、消費税率は8%である。この場合、資料3〔=平成26年度の社会保障の充実・安定化について〕が来年度の姿となる。

来年4月の消費増税(5%→8%)の後にどのような景気動向になるかは、再来年10月の消費増税(8%→10%)が実施できるかどうかに大きな影響を及ぼす。普通に考えれば、消費増税直後は、直前までの駆け込み需要の反動も手伝って、景気は反転するだろう。景気動向がどうであろうと、一年分の高齢化は確実に進むので、税収にかかわらず年金支給額の増加や高齢者医療費の増加は容易に予想される。

消費増税が嫌ならば、年金と医療を中心とした社会保障歳出を削減していくしかない。そうでなくとも、社会保障歳出は国家財政を逼迫させている。政治・行政だけでなく、企業団体や消費者団体やマスコミも、増税等歳入増加策か社会保障歳出削減策かの二者択一を示していくしかない。歳出増加は確実だが、歳入増加は不確実。これが今の社会保障財政を巡る悲観すべき真の姿である。



<資料1>

(出所:厚生労働省資料


<資料2>

(出所:厚生労働省資料


<資料3>

(出所:厚生労働省資料

24時間型『定期巡回・随時対応サービス』 ~ 社会保障サービスとて採算性が最重要

2013-11-02 18:27:25 | 日記

今日の日本経済新聞ネット記事では、「定期巡回・随時対応サービス」が長野県内でも始まることについて報じている。これは、介護保険法に基づき、2012年度から実施されている介護サービスで、概要は下の資料〔=定期巡回・随時対応サービスについて〕の通りだ。

厚生労働省の調査によると、定期巡回・随時対応サービスの事業所数は335ヶ所、利用者数は4,261人(いずれも本年9月末現在)。下の資料に掲載されている第5期介護保険事業計画での実施見込みの通りには、事業参入は進んでいない。まだ開始2年目で、サービス内容が周知されていないことや事業採算性への懸念があるとされている。

訪問介護と訪問看護が事業の柱の一つということもあって、利用者宅が集中している都市圏での利用は比較的進んでいるが、地方圏ではそうではない。先のブログ記事の資料2にあるように、定期巡回・随時対応サービス(同資料では『定期巡回・随時対応型訪問介護看護』)の受給者1人当たり費用額は、施設サービスよりも相当安価だ。

しかし、最終的には個々の事業所における採算性が普及の進捗を左右する。マクロではなくミクロで見つめていくと、都市圏と地方圏でそれぞれ適している介護サービスの内容が異なる。定期巡回・随時対応サービスは、施設系サービスではなく居宅系サービスなので、都市圏向けに適していると思われる。社会保障サービスとて、事業採算性の善し悪しが参入の可否、事業の成否を決める


<資料>

(出所:厚生労働省資料


特別養護老人ホーム ~ 軽度者冷遇・中重度優遇では割り切れない

2013-11-01 23:18:17 | 日記

昨日の朝日新聞ネット記事によると、厚生労働省は、特別養護老人ホームへの入居を「要介護3」以上に限定する案について、認知症など一定の条件を満たす場合は「要介護1~2」(軽度者)でも例外的に入居を認める方針とのこと。これは、一昨日の厚生労働省・社会保障審議会の第51回介護保険部会で提示された資料に掲げられている。

本件については先のブログ記事にも書いたが、そう遠くない時期に、特養の利用者構成は「要介護3」以上(中重度者)で占められることになるだろう。資料1〔=特養における要介護1・2の利用者の割合〕及び資料2〔=特養における要介護1・2の新規入所者の割合〕を見ると、全国平均では、特養利用者に占める軽度者の割合は1割程度でしかない。

だから、制度上は特養の入所基準が厳しくなったとしても、実態上は軟着陸であろう。いわゆる社会保障制度改革プログラム法案が今臨時国会に提出されているが、今回の特養入所基準厳格化の動きは、先のブログ記事で掲げた同法案の趣旨を踏まえた施策の一つだ。にもかかわらず、例外的な柔軟措置が提示されたのは、実際にはそう簡単に割り切れるものではないからだろう。

上記の朝日記事によると、「要支援向けサービスの費用総額は、今のままだと毎年5~6%増える見通し。これを75歳以上の「後期高齢者」の人数の伸び率(3~4%)に抑える。25年度時点で費用を約1600億円圧縮できるという」とのことだが、介護保険給付総額が10兆円に達しようとしている中での1600億円圧縮を軽度者向け介護サービス内容の見直しで賄おうとするのであれば、同様に、中重度向け介護サービス内容の見直しとそれによる費用圧縮額を示すべきだ。介護保険財政の配分の重点化シフトに当たっては、中重度か軽度かではなく、あくまでも介護保険財政を投入することによる費用対効果で測っていくべきである。介護保険制度の持続可能性を維持・向上していくには、それが唯一最善の途と思料する。


<資料1>

(出所:厚生労働省資料


<資料2>

(出所:厚生労働省資料