今年の芸術鑑賞は『学校DE寄席』、軽高の体育館に寄席がやって来るという企画でした。
担当の堀内先生が準備から当日まで、細かく丁寧な対応をしてくれました。
朝の9時くらいでしょうか、舞台の搬入の方が事務室に挨拶に見えました。
午後1時40分開演で、1時間半上演の予定ですから、丸一日仕事です。
実は、私は、落語や漫才など、いわゆる「お笑い芸」が大好きで、CDやDVDを結構持っているのです。
ネタをやるお笑い番組も録画をして観たりしていますし、東京に出かけて行って時間があるときには、新宿の末広亭や上野の鈴本演芸場に寄ることもあります。
そんなわけで、今日は前々からとても楽しみにしていました。
「オープニングトーク」は古今亭志ん輔さん。
高校生向けに落語の約束事などを話してくれました。
今の高校生は「M1グランプリ」や「レッドカーペット」や「オンバト」などに出るような若手漫才師に興味はあっても、落語はあまり観ないようです。
体育の桜井先生がステージ上に呼び出され、「大工の熊」さんの役をやらされました。
道具の担ぎ方だとか、歩き方だとか、戸の開け方だとか、いろいろ言いながら、いいようにからかわれていました。
これで「つかみはOK」ということでしょう。
話の中で「何事も『間』が大事です。日本の文化はこの『間』や『無』を大事にする文化です」というようなことを言っていたのが特に印象に残りました。
「間抜け」の語源もこの「間」から来ているんですよね。
続いて桂才紫(かつら さいし)さんの落語。
大学を出てからこの世界に入った方で、35歳。
寄席の最初(「開口一番」)は「若手の古典落語」がしきたりだそうです。
演目は『子ほめ』。
ご隠居から大人と子どものほめ方を教わった八っつぁんが、実際に試してみるがうまくいかないというお馴染みの話でした。
その後は、太神楽(だいかぐら)曲芸の鏡味仙三(かがみ せんざ)さん。
この方も大学を出てからこの世界に入った現在34歳。
演目の最初は「傘まわし」。
傘の上にいろいろなものを載せて回す、正月になると「おめでとーございます」「いつもよりたくさんまわっております」と言いながらよくテレビに出ていた海老一染之介・染太郎さんが得意としていたあれです。
次が「ばちの芸」。
3本から4本の、太鼓を打つばちのような道具を投げ上げたり立てたりします。
最後は「五階茶碗の芸」。
あごの上に茶碗ほかいろいろなものを積み上げていき、バランスを取る芸です。
どれも相当な修業をしたのだろうなと感じるものでした。
会場からは「おー」「すごーい」という歓声が上がっていました。
「ラス前」は、動物ものまねの江戸家まねき猫さん。
先代の江戸家猫八さんが他界され、その息子の江戸家子猫さんが、昨年猫八を襲名しましたが、まねき猫さんはその妹さんなのだそうです。
清少納言の『枕草子』の「春はあけぼの やうやう白くなりゆくやまぎは・・・」のくだりに合わせて、鶏や猫や犬や虫や烏や、そのほかいろんな生き物が四季を彩りました。
トリは、真打ち古今亭志ん輔さんの登場。
「演題は当日のお楽しみ」ということでしたが、『子はかすがい』でした。
別名『子別れ』とも言います。
「オープニングトーク」で大工の熊さんが出てきましたが、この話の主人公も、酒が原因で妻息子と別れた大工の熊さんでした。
なるほど。
期するところあって酒を断った熊さんが偶然息子を見かけ、また3人で暮らし始めるまでの人情話ですが、圧倒的な話芸で観衆を引き込み、場内を静寂が包みました。
いやあ、すごいですね、プロは。
志ん輔さんの師匠の志ん朝さんも人情話が得意で、私は大好きでしたが、志ん輔さんも56歳になり、ますます円熟味が増していますね。
(それぞれの様子は「軽井沢高校ニュース-6月号その2-」でご覧いただけます。)
昨日の日記で、初めての聴衆を前に短時間で手ごたえのある話をするのは難しい、と書きましたが、実は、今日のこの芸術鑑賞で、プロの話者はどんな話芸を披露し、聞き手はどんな反応を示すのか、といったことを見据えて書いたものでした。
花束贈呈の後、志ん輔さんは「ライブというのは空間の共有です。演者が振動させた空気が聞き手の体を揺らし鼓膜を揺らすのです」というようなことを言っていました。
若手のお笑い芸人が、本来の芸である漫才やコントを捨てて、テレビのトーク番組だけに専念するようになったら、たぶん芸人としてはそこで終わりでしょう。
ネタを作り上げ、何度も練習して、ドキドキしながらライブに掛ける、しかも出演料はさほど高くない、その手間暇や土臭さを省いて、その場限りの思いつきで成り立ち、ギャラを考えると割のいいトーク番組などに移っていった方が、タレントとしては楽なのだと思います。
でも、人間、楽をするようになるときっとダメなんだろうな、ということではないでしょうか。
そのライブでさえ、今は、人気のある若手芸人にとっては、若い女性から「キャーッ」と言われるだけの場になっていて、決して芸を磨く場ではなくなりつつあるような気もしています。
落語家は、若手イケメン漫才師とは若干環境が違うのかもしれませんが、いずれにしても、放っておいても向こうからお客さんがやって来る場所を飛び出して、ほとんどの客が「初心者」、場合によったら大して落語に興味もないような高校生がいる場所へ自分から出かけていく。
若者の関心が薄い古典芸能に興味を持ってもらおうと、果敢にいろいろなことに挑戦する志ん輔さんほかの皆さんには、歌舞伎界で同じようなことに挑戦し続ける、中村勘三郎さんの姿が重なって見えました。