メイキング・オブ・マイマイ新子

映画「マイマイ新子と千年の魔法」の監督・片渕須直が語る作品の裏側。

マイマイフランス便り(7)

2010年02月18日 06時17分22秒 | 日記
 2月13日土曜日。
 アンギアンの高級感あふれるホテルの部屋で目覚め、しかしそこで長く過ごせるわけでなく、朝食をとると荷造りして出発。入れなかったスパが恨めしい。
 といっても、今日は夕方までは自由行動の日だったのですが。
 前回2007年、リール市の映画祭に『マイマイ新子と千年の魔法』(と、当時はまだ題名も定まってなかった)の予告編を携えてやってきたときに、交通ゼネストにぶつかってしまい、パリからそれほど遠くないル・ブルージェの航空博物館に調べ物に行こうとして行けなかった恨みがあります。今日はその雪辱戦というわけだったのですが、まあ、調べ物は新発見もなく、当たり障りのない結果に終わり、じゃあ、パリにでも出るか、ということになりました。

 パリの蚤の市に行って、まず腹ごしらえ、とイタリア人が経営するイタリア料理屋へ。
「今夜の食事、ピザ屋を予定してるんだよね」
 といいつつ、イーブさんとイランさんはピザを注文しています。フランスで出るスパゲティはアルデンテではないのがけしからん、というのが持論の縄田さんは、しかし、スパゲティを注文してしまい、出てきた皿を見つめては、
「やっぱり。麺に艶がない」
 とかボヤいています。
「いや、しかし、腹具合が良くありませんので、これくらいのほうが防府でうどんを食うみたいで丁度いいというもんです」
 実はこの日、メンバーは連戦にくたびれきって体調ガタガタになっております。

 骨董とかガラクタを眺めるのはいろいろ楽しいのですが、いかんせん、冷凍庫のように寒い。キャフェへ飛び込んでショコラで暖を取ると、また古本屋へ出撃。イランさんが見つけていたという穴場的な古本屋には、アニメーション関係の専門書がどっさりと並んでいました。イーブさんはその棚を空にせんばかりの勢いで買い漁っています。こちらもトルンカとディズニーの本を一冊ずつ。テックス・アヴェリーの本も欲しかったのですが、「これは他の店にもっときれいなのがありますから」とイランさんに押し留められてしまいました。まあ、この町にはあちこちに本格的なアニメーションの専門書がごろごろしてるというわけなのね。うらやましいね。
 一方で、学者然とした縄田記者は、「アランがこんなに並んでいますぞ」と、哲学に思いを馳せておられます。

 夕方になったパリを離れ、車でアルジャンテゥーユ市(Argenteuil)へ移動。こういう車中でスコッと寝てしまう癖がついてしまいました。ということで、目が覚めるとその町に到着しています。道中の風景の記憶はまるでありません。


 アルジャンテゥーユの映画館は廃止の運命にあったのですが、同じく映画館主であったイーブさんたちが継続を呼びかけて、半ば政治レベルの運動までやったことから今でも経営が続いていて、そこを巡回映画祭であるイマージュ・パル・イマージュの上映会場のひとつにさせてもらっているという関係のようです。映画館同士の連帯がここにはあります。

 ここでは18時からまず、『アリーテ姫』の上映。次いで20時半から『マイマイ新子と千年の魔法』の上映と続きます。イーブさんは『アリーテ姫』を気に入ってくださっていて、ぜひこの映画をこそこの絶好の機会に上映したいとプログラムを組んでくださったわけです。

 上映開始前に集まってきた観客を眺めていると、8日のフォーラム・ド・ジマージュの片渕須直特集上映のプログラムの貴伊子の顔が大写しになったページを広げておられる方がおられます。しかも老夫妻です。
 白人男性とアジア系女性のカップルが、
「『アリーテ姫』の原作も手に入れてるんですよ」
 と、話しかけてこられ、見ると日本の学陽書房が英語の副読本用に出版した英語版でした。まあ、あの原作は、イギリスでの版元もすぐになくなってしまって、映画制作時にすでにこちらでも入手できなかったというものでしたから。
「『アリーテ姫』は原作の子どもっぽさが消えて、大人っぽく深い映画になっていて素敵でした」
 とのこと。すでに何回かご覧になっているようです。
「今日は、1時間かけてパリを渡ってきました」
 恐れ入ります。
 さらに、8日のフォーラム・ド・ジマージュでもお顔を見かけた在仏日本人男性の方とも挨拶を。

 自分でも久しぶりに見る『アリーテ姫』だったのですが、なんと日本のアニメ事情から逸脱し、独立して存在する映画であることか。そして、閉じ込められた場所の底から「外の世界に待つ挫折ですら今の私にはうらやましい」と口にする主人公の健気さが、なんだかまぶしかったです。
 いくらか「外の世界に待つ挫折」的ではある『マイマイ新子と千年の魔法』の状況は、ある意味では『アリーテ姫』の頃の自分の気分から見ると、それでも明るい。ようやく外の世界を歩き始めたアリーテ姫そのもののようです。映画のラストでアリーテを乗せた船がたどり着いた陸地。あそこが山口県防府という土地だったのですね、きっと。
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