KANCHAN'S AID STATION 4~感情的マラソン論

マラソンを愛する皆様、こんにちは。
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やがて哀しきカンボジア代表③

2012年04月21日 | マラソン事件簿
“走るお笑い芸人”の元祖とも言うべき、間寛平氏がアテネ五輪に出場する可能性があった、と報じられていたことを皆さんはご記憶だろうか?もしかしたら、関西版のスポーツ新聞の飛ばし記事だったのかもしれない。

ギリシャのアテネからスパルタまで約256kmを36時間以内で走破する、スパルタスロンというウルトラマラソン大会がある。当然、夜も走らなければいけないが、街灯に照らされた舗装路を走るわけではない。懐中電灯を頼りに真っ暗な峠道も走らなければならない。開催されるのは9月。昼間は太陽が照りつける。まさに究極の鉄人レースである。

寛平さんはこのスパルタスロンに3度完走しているのだが、アテネ五輪の年の2004年のスパルタスロンは五輪の会期中に五輪の公開競技として開催され、日本代表に寛平さんが出場する、というのである。寛平さんのスパルタスロン完走は、テレビのドキュメンタリー番組でも放映された。以後、日本からの出場者が増加し、男女とも日本人のアベック優勝、という年もあった。もっとも、この大会、参加資格は

1.100kmマラソンを10時間30分以内で完走したことがある。
2.200km以上のマラソン大会を完走したことがある。

というものであるから、とてもホノルルマラソンのようなノリでは参加出来ない。

寛平さんは、スパルタスロンの知名度を高めた功労者ということで、特別推薦の出場だという。この大会のエントリーを取り仕切る。国際スパルタスロン協会日本支部のトップは坂本雄次氏。あの「24時間テレビ」のマラソンのトレーナーとしておなじみの方だ。顔に大きなホクロがトレードマーク、と言えば、思い出す人も多いだろう。寛平さんの世界一周アースマラソンにも同行していた。

吉本興業の後輩である清水圭氏のラジオ番組「スポーツBOMBER」に寛平さんが出演していたのを偶然耳にした。清水氏が五輪出場の可能性について質問したのを、寛平さんは実にあっさりと否定したのだった。

「あれ(スパルタスロン)はオリンピックではやらへんやろ。だって、テレビ中継出来んやろ?」

寛平さんのこの一言に、僕は感心させられた。さすがは長年エンタテイメントの世界で生きてきた人だと思った。いかに今の五輪が「テレビ頼み」であるかを見抜いていたのだ。実際に、五輪種目を減らす際に槍玉となるのは、「テレビで見ていて面白くない競技」だと言われているからだ。野球が五輪種目から外れたのも、ルールが分からない人間には見ていて面白くない上に、一試合に2時間以上もかかるから、という説もあったくらいである。そして、寛平さんはマラソンをする自分をどこか醒めた(冷めた?)目で見ているところがある。実はこの点が僕が彼に対して好感を抱いている点なのだが、

「出られるものなら、出てみたいですね。」

といった類のリップサービスを一切やらなかったのだ。

実際に、スパルタスロンを五輪の公開競技として実施するというのは、ガセネタだった。寛平さんの五輪出場も幻と消えたが、それによって寛平さんが失ったものは無かったと思う。

「より長く」を追求した寛平さんと対照的に、猫ひろし氏は「より速く」を求めた。彼の年齢なら、それが可能だったのだが、「より速く」の先にあるのは、五つの色の五つの輪である。

「カンボジアのような国なら、五輪の代表になれるぞ。」

というあの、パソコンやネットにも縁がない人にもその名が知られたIT企業の元社長の言葉を真に受けたのか、カンボジアでのビジネスを成功させたい彼の元部下に唆されたのか、猫氏は「見てはいけない夢」を見てしまったと思うのだ。

現時点で、猫氏の五輪出場を国際陸連が承認する可能性は極めて低い。もし、承認されるとしたら。それは「ジャパン・マネー」が動いた時であろう。国際陸連(IAAF)の公式サイトをご覧になれば分かるが、「オフィシャル・パートナー」の中には、日本の民放テレビ局もあるのだ。もちろん、赤坂にある、「世界陸上」を放映している局である。はたして、猫氏にそこまで投資する価値かあるとその局が見ているかどうかは疑問だが。

3年がかりで世界一周するアースマラソンから帰国した寛平さんは何事もなかったように、CMではおなじみのギャグを連発し、「探偵!ナイトスクープ」の探偵として視聴者の依頼に応えている。アースマラソンの経験を講演して回るだけで食べていけそうなものなのだが、そんな事をしなくても、何も困らないのだ。

五輪に出られなかったとしたら、猫氏は失うものが大きいだろうなと、思う。

「カンボジアの若いランナーの夢を奪った男」

という汚名は、五輪に出られなくなっても消えないだろう。国内のマラソン大会に出場しても、沿道からの声援は今年2月の別大とは違ったものとなるだろう。「ゲストランナー」としての商品価値は暴落してしまった。

僕の友人はこんな感想を漏らした。

「猫もある意味被害者じゃないか?」

そうかもしれない。カンボジアの陸連や五輪委員会、そしてスポンサーを信じてやってきたことだ。梯子を外されたような気分だろう。しかし、国籍をまるで住民票の本籍地を変更するような気軽さで変えてしまったのは、軽率と言われても仕方ないだろう。

次の猫氏の出場予定の大会は、自身が「協賛」として名を連ねる6月のプノンペン国際ハーフマラソンである。実はこの大会も公認ハーフマラソンではなく、市内を周回するジョギング大会に近いものだという。

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3 コメント

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カンボジア代表 (giants-55)
2012-04-25 00:29:33
書き込み有り難う御座いました。(レスは当該記事のコメント欄にも付けさせて貰いました。)

昔、「進め!電波少年」というハチャメチャな番組が在りましたけれど、其の中の企画で「バツイチになりた~い!」というのが在りました。司会の松村邦洋氏と結婚(実際に婚姻届を提出。)し、3日後に離婚するというトンデモ企画だったのですが、猫氏の件も、其れに近い感じが在りますね。

唯、コメント欄の方にも書かせて貰ったのですが、違法で無いので在れば、好ましさは全く無いけれど、ネット上で見られる様なバッシングには共感出来ないでいます。

猫氏の「マラソンが好き。」という気持ちには偽りが無いと思っているので、此れ以上“妙な形”で利用されなければ良いが・・・と思っております。
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giants-55さんへ (かんちゃん)
2012-04-26 08:29:34
書き込みありがとうございました。

電波少年の企画、見てはいませんがそういうのもあったと聞いたことがあります。「バツイチ」というのがなんかカッコいいもののように思われていた時代ですね。僕は20年バツイチしてますが、何もいいことはありません(泣)。

猫氏もある面では被害者、という意見も一理あると思います。責められるのは、カンボジアの陸連や五輪委員会の関係者と、彼を利用して一儲けを企てたスポンサーでしょう。代表を自ら辞退しろという声も強いようですが、国際陸連の裁定が出るのを待ってもいいと思います。

こちらのブログもよろしくお願いします。
返信する
為末大選手の見解 (かんちゃん)
2012-04-30 15:39:45
世界陸上メダリストである為末選手がこの問題(騒動)についての自身のツイッターでのコメントをまとめています。

http://togetter.com/li/289153

猫氏の行動は倫理として批判されるべきものとした上で、

「カンボジア国内の選考に外国人が口をはさむのは内政干渉的」

という指摘は鋭いと思います。そういう部分においては、猫氏に代表辞退を強要はできないなと思います。
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