今年は「4年に一度の特別な年」の福岡国際マラソンだったのであるが、海外招待選手の顔ぶれを見て唖然とさせられた。昨年2位のドミトリー・サフロノフ(ロシア)に、6年前の優勝者であるドミトロ・バラノフスキー(ウクライナ)のような強豪はいた。しかし、現在、マラソン世界最強国であるケニアとエチオピアのランナーが一人もいなかった。五輪代表選考レースであるというのに。今夏の世界選手権のメダリストも上位入賞者もいないという寂しさ。これは一体どういうことか?
悪い話を連想してしまった。かつて、某大会において、男子の優勝がケニア、女子の優勝者がエチオピアとなった際に、当時のJOCの要職にある立場の人(故人)が
「黒いのばかりが勝ってもしょうがない。」
と暴言を吐いたというのである。陸上競技の関係者ではなかったが、この一言で解任されていてもおかしくはなかったと思う。ちなみに、優勝したケニア人とはエリック・ワイナイナ。日本で日本人コーチの指導を受けて、五輪のマラソンでメダルを獲得したランナーである。
まさか、陸連やテレビ局までもが、このような思考にたどりついたのか。アフリカ選手の独走ばかり見せるマラソンの中継など視聴率が取れないと、テレビ局が彼らの出場に難色を示したのか?
以下はあくまでも僕の憶測である。福岡国際マラソンのコースレコードは、2年前に北京五輪の銅メダリストであるツェガエ・ケベデ(エチオピア)がマークした2時間5分18秒である。2002年に高岡寿成がマークした日本最高記録を58秒も上回る。4年前の福岡で佐藤敦之が2時間7分13秒の日本歴代4位の記録をマークして以来、2時間8分を切った日本人ランナーはいない。
そんな現状のマラソン・ニッポンの五輪代表選考レース。先頭集団を引っ張るペースメイカーの設定タイムが1km3分。ゴール予想タイムが2時間6分35秒である。
この「遅すぎる」ペース設定が、強豪ランナーの出場交渉でネックになったのではないだろうか?彼らの代理人が求めるのは2時間5分以内のタイムが出せるペースメイカーである。ペースメイカーという存在が、日本のマラソン中継のテレビ視聴者や、スポーツマスコミにおいては今なお違和感を抱かせる存在となっているが、コースレコードを更新すればタイムボーナスが支給されることが当たり前の海外都市マラソンから見れば、ペースメイカーがコースレコード更新を狙わない大会など、不可解としか言いようがないのであろう。そう思えば、昨年の大会のペースメイカーの「暴走」も腑に落ちる。
僕の憶測が間違いでなければ、もはや、自己ベストが2時間6分35秒以内のランナーが来日することは困難かもしれない。
4年前の福岡から、2ヶ月前に世界最高記録の出たベルリンでもペースメイカーを務めた、アイザック・マチャリアらは今回もいい仕事をした。20kmは1時間11秒、中間点は1時間3分29秒、で通過した。注目の川内優輝も20km過ぎてから集団から脱落していった。五輪を狙うのは来年2月の東京で、今回は練習としての出場だと明言していた。2週間後の防府読売マラソンにもエントリーしているという。目指すマラソンの2月前に40km走を2度行なう、というのはマラソン練習のセオリーとしては適切だ。実業団ランナーなら普通に行なっている。彼はそれを公式レースで行なうというだけのことだ。
1km3分というペースはもはや、「世界のトップ」のスピードではない。しかし、有力ランナーは次々と脱落していった。7年前の優勝者で、北京五輪代表の尾方剛、世界選手権2度出場の入船敏、アテネ五輪6位入賞の諏訪利成らベテランをはじめとして、優勝の期待もかかった昨年のアジア大会代表の佐藤智之も遅れて行った。20km過ぎて残った日本人は、2年前の世界選手権代表の前田和浩、順天堂大時代には箱根駅伝5区で驚異的な走りを見せ、「山の神」と呼ばれた今井正人、同じく明治大学を箱根のロードに蘇らせた岡本直己らに絞られた。
ペースメイカーが役目を終えた25km過ぎて岡本が脱落。そしてペースを上げたのは、一般参加の二人のケニア人。ジョセファト・ダビリとジェームス・ムワンギ。いずれも留学生として日本の高校に入学、卒業後は実業団入りして日本を拠点で活動している。ダビリは初マラソン、ムワンギは世界選手権にも出場しているが2時間10分を切っていない。しかし、もし、今回外国選手が優勝するのなら、この2人のどちらかだろうと思ったが、僕はマラソン経験があり、昨年のアジア大会マラソン銀メダリストの北岡幸浩と同じNTNに所属するムワンギの方が来る、と予想していた。
一時は集団から離れた岡本が追いつき、今井、前田、岡本の3人による「日本人トップ争い」が始まった。この時点では、日本人トップはこの3人の中からと思われてた。
ダビリは25km過ぎて、30kmまでの5kmを14分32秒まで上げた。日本人の3位集団はこの時点で1分以上の差をつけられた。今井と前田がペースを上げて岡本が脱落していく。今井はトヨタ自動車九州、前田は九電工。ともに地元福岡の強豪チームの所属だ。駅伝やトラックで何度も顔を合わせている。しかし、ここで2人だけの勝負に入ってはいけない。真の敵は遥か前にいる。気温は18℃まで上がっているという。なかなか縮まらない3位とトップの差。しかし、香椎の折り返しを過ぎて、川内が2人との差を縮めてきた。
(つづく)
悪い話を連想してしまった。かつて、某大会において、男子の優勝がケニア、女子の優勝者がエチオピアとなった際に、当時のJOCの要職にある立場の人(故人)が
「黒いのばかりが勝ってもしょうがない。」
と暴言を吐いたというのである。陸上競技の関係者ではなかったが、この一言で解任されていてもおかしくはなかったと思う。ちなみに、優勝したケニア人とはエリック・ワイナイナ。日本で日本人コーチの指導を受けて、五輪のマラソンでメダルを獲得したランナーである。
まさか、陸連やテレビ局までもが、このような思考にたどりついたのか。アフリカ選手の独走ばかり見せるマラソンの中継など視聴率が取れないと、テレビ局が彼らの出場に難色を示したのか?
以下はあくまでも僕の憶測である。福岡国際マラソンのコースレコードは、2年前に北京五輪の銅メダリストであるツェガエ・ケベデ(エチオピア)がマークした2時間5分18秒である。2002年に高岡寿成がマークした日本最高記録を58秒も上回る。4年前の福岡で佐藤敦之が2時間7分13秒の日本歴代4位の記録をマークして以来、2時間8分を切った日本人ランナーはいない。
そんな現状のマラソン・ニッポンの五輪代表選考レース。先頭集団を引っ張るペースメイカーの設定タイムが1km3分。ゴール予想タイムが2時間6分35秒である。
この「遅すぎる」ペース設定が、強豪ランナーの出場交渉でネックになったのではないだろうか?彼らの代理人が求めるのは2時間5分以内のタイムが出せるペースメイカーである。ペースメイカーという存在が、日本のマラソン中継のテレビ視聴者や、スポーツマスコミにおいては今なお違和感を抱かせる存在となっているが、コースレコードを更新すればタイムボーナスが支給されることが当たり前の海外都市マラソンから見れば、ペースメイカーがコースレコード更新を狙わない大会など、不可解としか言いようがないのであろう。そう思えば、昨年の大会のペースメイカーの「暴走」も腑に落ちる。
僕の憶測が間違いでなければ、もはや、自己ベストが2時間6分35秒以内のランナーが来日することは困難かもしれない。
4年前の福岡から、2ヶ月前に世界最高記録の出たベルリンでもペースメイカーを務めた、アイザック・マチャリアらは今回もいい仕事をした。20kmは1時間11秒、中間点は1時間3分29秒、で通過した。注目の川内優輝も20km過ぎてから集団から脱落していった。五輪を狙うのは来年2月の東京で、今回は練習としての出場だと明言していた。2週間後の防府読売マラソンにもエントリーしているという。目指すマラソンの2月前に40km走を2度行なう、というのはマラソン練習のセオリーとしては適切だ。実業団ランナーなら普通に行なっている。彼はそれを公式レースで行なうというだけのことだ。
1km3分というペースはもはや、「世界のトップ」のスピードではない。しかし、有力ランナーは次々と脱落していった。7年前の優勝者で、北京五輪代表の尾方剛、世界選手権2度出場の入船敏、アテネ五輪6位入賞の諏訪利成らベテランをはじめとして、優勝の期待もかかった昨年のアジア大会代表の佐藤智之も遅れて行った。20km過ぎて残った日本人は、2年前の世界選手権代表の前田和浩、順天堂大時代には箱根駅伝5区で驚異的な走りを見せ、「山の神」と呼ばれた今井正人、同じく明治大学を箱根のロードに蘇らせた岡本直己らに絞られた。
ペースメイカーが役目を終えた25km過ぎて岡本が脱落。そしてペースを上げたのは、一般参加の二人のケニア人。ジョセファト・ダビリとジェームス・ムワンギ。いずれも留学生として日本の高校に入学、卒業後は実業団入りして日本を拠点で活動している。ダビリは初マラソン、ムワンギは世界選手権にも出場しているが2時間10分を切っていない。しかし、もし、今回外国選手が優勝するのなら、この2人のどちらかだろうと思ったが、僕はマラソン経験があり、昨年のアジア大会マラソン銀メダリストの北岡幸浩と同じNTNに所属するムワンギの方が来る、と予想していた。
一時は集団から離れた岡本が追いつき、今井、前田、岡本の3人による「日本人トップ争い」が始まった。この時点では、日本人トップはこの3人の中からと思われてた。
ダビリは25km過ぎて、30kmまでの5kmを14分32秒まで上げた。日本人の3位集団はこの時点で1分以上の差をつけられた。今井と前田がペースを上げて岡本が脱落していく。今井はトヨタ自動車九州、前田は九電工。ともに地元福岡の強豪チームの所属だ。駅伝やトラックで何度も顔を合わせている。しかし、ここで2人だけの勝負に入ってはいけない。真の敵は遥か前にいる。気温は18℃まで上がっているという。なかなか縮まらない3位とトップの差。しかし、香椎の折り返しを過ぎて、川内が2人との差を縮めてきた。
(つづく)
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