かながわ平和運動推進委員会

神奈川県高等学校教職員組合の平和について考えるブログです。

[5]卒業証書は本名で、 [6]就職差別と進路保障

2007-02-06 21:01:08 | 平和通信vol150(2007/2)
[5]卒業証書は本名で

指導要録など公文書への記載の仕方
 
 指導要録への名前の記載は、日本人生徒は住民票の記載に基づいて正しく記入することになっているのと同様、外国籍生徒の場合は、外国人登録証どおりの本名を記載します。韓国・朝鮮籍や中国籍の生徒は漢字で記入し、ふりがなはできるだけ母国語の発音に近いカタカナで記入することになっています。南米やフィリピンなどその他の国の生徒は、アルファベットやカタカナ表記になると思います。日常的に通称名を使用している生徒については、本名の下にカッコ書きで通称名を記入します。生年月日については、各教育委員会で対応が違うようですが、西暦記載にすべきだと思います。神奈川県教委は「元号に西暦を併記できる」という対応ですが、元号など通用しない外国人生徒には、併記ではなく、横浜市教委などのように「西暦のみ」があるべき姿だと思います。また、国籍は「指導上参考となる諸事項」欄に、国籍をきちんと記入すべきだと思いますが、この指示も、各教育委員会によって対応がまちまちになっているのが現状です。

調査書
 
 調査書など、指導要録に基づいて記入するものは、指導要録の記載に準じるのが原則です。ただ、就職試験の際の調査書の場合、就職差別を避けるために通称名だけにするという対応をしている学校もあると思いますが、学校が企業側に事前に連絡を取って差別がないように配慮を求めるなど、外国人生徒を支える体制を作っていくことが大切です。また、進学の場合、最近では生徒の記入する入学願書は、外国人登録証通りの本名記載を求める大学が増えていますので、もし学校側が調査書に通称名だけしか記入していない場合、トラブルになりかねませんので気をつける必要があります。

名票・出席簿は
 
 本名を使うか、通称名を使うかは、入学前の面談などで十分話し合って決める必要がありますが、基本は本名が望ましいわけですから、学校側が通称名を勧めたりすることがないように気をつけるべきです。また、ミドルネームなどがあって、長い名前の場合、学校側が面倒だからというような理由で勝手に省略形にしたりすべきではないと思います。日常的に愛称として呼ぶ場合と、名票・出席簿など公的なものは区別して、公的なものは極力本名に近いものにしていくべきではないかと思います。

卒業生台帳、卒業証書について
 
 卒業生台帳は、指導要録と同様に本名(必要に応じて通名を併記)を記載します。学校生活では通称名で生活していた生徒も、卒業をきっかけに本名で生きて行こうとする生徒もいます。卒業前にもう一度本名を確認した上で、卒業生台帳に記入します。新たに外国人生徒であることがわかった場合は、指導要録も訂正しておく必要があります。卒業証書は、指導要録や卒業生台帳に基づいて本名を記載することが原則ですが、通称名を名乗っている生徒の場合、呼名があることから、様々な配慮が必要になります。これまでの事例では

・証書に本名(通称)で記入した

・証書には本名が記載してあるが、呼名は通称名で行った。

・本名と通称名の2枚の証書を用意したなどがあります。
 また、本名の記載について、ハングル文字、アルファベットなどで記載した例もあ ります。
 いずれにせよ、ずっと通称名だったから卒業式もそうだろう、と勝手に判断しな いで、卒業前にもう一度外国人生徒の在籍の有無を確認し、指導要録と卒業生台帳 に本名をしっかり記載すると同時に、どういう名前で卒業していくのか、本人・保 護者と今後の生き方を含めた話し合いをしていくことが大切だと思います。

(両面見開きのカコミに)
神奈川県教育委員会、「在日外国人(主として韓国・朝鮮人)にかかわる教育の基本方針」
 
 すべての人間は生まれながらにして自由で、かつ、尊厳と権利とについて平等である。これは人類普遍の原理であり、「世界人権宣言」及び日本国憲法や教育基本法の基底となっている理念である。1979年(昭和54年)、我が国はこの「世界人権宣言」の精神の具体的な実現のため、国際連合で制定された「国際人権規約」を批准している。すべての人々が共に生き、共に発展していく社会を創造することは人類共通の願いであり、その実現に向かって教育の果たす役割は大きい。 神奈川県の教育は、個人の尊厳を重んじ、平和を愛し、心と身体の調和のとれた、健康で、人間性と創造性豊かな人間の育成をめざしており、各市町村では、地域の粋性を生かしたさまざまな教育が行われている。県教育委員会でも、「自然、人とのふれあい教育」、「福祉教育」、「国際理解教育」、「男女平等教育」など神奈川の特色ある教育及び同和教育を推進してきた。
 国際理解教育については、1988年(昭和63年)、国際理解教育研究協議会より、平和教育と「内なる民際外交」の視点から、国際理解教育を推進することが急務であり、行政の取り組みの方向として、在日外国人、とりわけ在日韓国・朝鮮人児童・生徒にかかわる教育についての基本となる考え方を明らかにする必要があるという提言を受けた。
 本県には、約125か国、6万人[1989年(平成元年)6月30日現在の外国人登録者]の外国人が県民として生活しており、このうちの約半数が韓国・朝鮮人である。 この人たちの多くは、1910年(明治43年)の韓国併合後の我が国の植民地政策等をはじめとする歴史的経緯及び第二次世界大戦後の

[6]就職差別と進路保障

日本人じゃないと雇えない!

 「日本人じゃないと、無理なんですけれど」
これは、昨年(2005年)横浜市内の外国人高校生がアルバイト応募を拒否された時の、ファーストフード店長のことばです。その後の高校生からの訴えで会社は謝罪しましたが、高校生の心には、「二度とその店には行きたくない」と深い傷が残りました。このように日本社会には依然として就職差別があり、外国人高校生に進路への不安の影を落としています。
日立就職差別裁判で、国籍による解雇無効の判決(1974年)が出されてから30年以上経過しました。この間、就職差別撤廃運動のとりくみ等により、差別の壁は少しずつですが取り除かれてきたはずでした。

 南北に分断された母国の事情や生活基盤の喪失等によって、やむなく日本で働き生活せざるを得なくなった人たちとその子孫である。 このような経過のなかで、この人たちの人権は長い間軽視されてきた面があり、現在でも、教育、就労、福祉等において在日韓国・朝鮮人に対する厳しい差別や偏見が根強く残っている状況がある。そのため、児童・生徒が学校や地域社会において、本名が名乗れないという実態もある。 神奈川の子どもたちが多様な文化と個性を尊重し、たがいに認め合いながら、正しい認識のもとに、身近に存在する差別や偏見を克服していくことは、国際社会において、健全な国際人として認められ、よりよく生きていくためにも大切なことである。また、県内に居住する外国人が本名を名乗り、民族的自覚と誇りをもって生きるとともに、県民として、共に住みよい神奈川の創造をめざすことのできる環境づくりも必要である。
 県教育委員会は、以上の認識に立って、学校、家庭、地域社会の協働のもとに、在日外国人にかかわる教育を積極的に推進するため、次の基本的事項を定める。

1 学校教育では、人間尊重の精神を基盤にした国際理解教育を深め、正しい認識に 立って差別や偏見を見抜く感性を養うとともに、差別や偏見を批判し排除しようと する勇気ある児童・生徒を育成する。
  また、在日外国人児童・生徒に対しては本名が名乗れる教育環境をつくり、民族 としての誇りをもち、自立できるよう支援する。

2 社会教育では、差別や偏見を根絶し、共に生きることのできる国際社会の実現を めざし、指導者の啓発・研修をはじめ、生涯学習の充実に努める。

3 教育行政では、在日外国人にかかわる教育に関する理解と認識を深めるため、学 校教育及び社全教育の充実を図るとともに、あらゆる機会をとらえて啓発活動を進 める。

 地方公務員の国籍条項も、消防職など一部を除いて無くなってきました。教員採用試験も、「常勤講師採用」という制限つきですがどこでも在日外国人が受験できるようになりました。
一方、差別事件は無くなりませんでした。1989年には、川崎市の外国人高校生が国籍を理由に就職応募を拒否される就職差別事件がおこりました。また1999年には、横浜で外国人高校生が国籍を理由にアルバイトの採用を拒否される事件がおこっています。どちらの事件も、会社側が謝罪し差別した間違いを認めて決着しましたが、日本社会に残る差別意識の根深さを浮き彫りにしました。それとともに、就職差別に正面から取り組むことの大切さも明らかになりました。

就職差別を許さないとりくみ

 そもそも労働基準法や職業安定法には、国籍による就職差別・労働条件の差別はしてはならない、と明記されています。また、国際人権規約などからも「内外人平等」は世界の常識であり、国籍や民族による就職差別は厳しく禁じられています。
学校も、外国人生徒の就職活動を正面から支えることが必要です。そのためには、まず、生徒の国籍をきちんと把握すること。そして、生徒の同意のもと、希望する就職先に国籍を隠さずにチャレンジしていくこと、が求められています。これまでもある高校では、「今回応募する生徒は外国籍ですが、何ら問題ないですよね」と国籍による差別をさせないよう申し入れ、さらに「スペイン語が出来るので、簡単な通訳ならできますよ」と外国人生徒としての能力を最大限会社にアピールして就職内定を得ています。
 また、就職差別を見逃さない体制づくりも必要です。生徒が会社から差別を受けたら、すぐに学校として対応します。その差別の事実経過を調査して行政に報告します。神奈川県には、このため「採用選考に係る不適正事案対応システム」ができています。昨年のアルバイト応募拒否事件も、このシステムを通じて神奈川県が対応しました。
 これらの取り組みには、学校と生徒・保護者間で信頼関係を築いておくことが大前提となります。日頃から、国籍や民族について率直に話し合える学校、外国人であることを隠さずにいられる学校、が実現しているでしょうか。そこから、進路保障の第一歩が始まります。