かながわ平和運動推進委員会

神奈川県高等学校教職員組合の平和について考えるブログです。

多文化共生社会を学校から

2007-02-06 21:14:35 | 平和通信vol150(2007/2)
特集
多文化共生社会を学校から
~高等学校の在日外国人~

< はじめに:平和が危ういとき >
 
 中東で戦争が始まったり、朝鮮半島の情勢が緊張するなど国際関係が悪化すると、拝外主義が蔓延します。「テロを起こした人たちはイスラム教徒だ」→「イスラム教の人はテロを起こす」・・「拉致の実行は北朝鮮だ」→「朝鮮人は日本人を拉致する」、心の中で語順がひっくり返ると簡単に意味が変わってしまいます。外国人嫌いの空気は日本で暮らす外国人を包む暗雲です。
 だれでも見知らぬ人との出会いは不安です。異質なものの出会いは、たえず緊張が伴い、時として互いに傷つけあうこともあるかもしれません。しかし異質なもの同士の出会いは、一方で予想もしなかった実りを私たちにもたらしてくれることもあります。私たちの隣人とその子どもたちに「ようこそ」といえるように願いを込めてこの特集を組みました。
(在日外国人教育小委員会2006年10月25日)


被差別体験・生徒たちの声(「全国在日外国人生徒交流会」で)

 「日本語がわからないので、転校していった時にいじめられた」「友達から変な言葉、と言われた。いじめはあったけど忘れた。今は友達になった。日本語が話せなかったときは暗かった。話せるようになって明るくなった。」「泣いたら負けだよね。いじめらても、言葉が言えずくやしかった。」
「後輩の生徒(日本人)から『フィリピン人!』と言われる。後輩だから、『ま、いいか』と許しているが、後になって『なんでそんなことを言われないといけないのか』と腹が立ってくる」「(中2)中国のまねされるのがいやで、保健室にずっといた。グループ化がいや。みんななかよく、でない。」「髪の色の違いで中学の頃いじめられた。だから髪を黒く染めている」「友達に自己紹介したとき、バイトしていると言ったら、『外国人がバイトできるんだ』と言われ傷ついた。暴力よりも言葉の方が人を傷つける。」
「前に住んでいた所で、友達が家に来て韓国のものにさわりたくない、学校で遊んでても、手をつなぎたくない、と言われて、何で韓国人の母に生まれたのか、恨んだ。」

高校受験~入学~在学~卒業:とりくみカレンダー
 高校入学前、9~10月:志願者への情報提供

①日本語を母語としない人たちのための高校進学ガイダンス
 毎年9月~10月に神奈川各地で行われます。高校の先生の参加が不可欠です。(→本文P7「高校入試の壁」参照)

②神奈川県の外国人向けの高校入試制度
「在県外国人特別募集」
 後期募集について、来日3年以内で神奈川県在住の外国籍の志願者が対象です。募 集校は鶴見総合高校、神奈川総合高校、橋本高校、有馬高校、ひばりが丘高校、愛 川高校、横浜市立横浜商業高校。
「特別な受検方法(引き揚げ者等を保護者とする志願者の受検方法)」
 日本語の習得が不充分な人向けの高校入試の特例措置です。国籍は問いません。学 力検査問題にふりがな、学力検査時間の延長、別室受検、簡単な日本語で面接。前 期募集、後期募集とも来日6年以内が対象です。

 入学前、1~3月:入試選抜と合格者への情報提供

③受験者・合格者の言語状況の把握
 本人および保護者の日本語の理解力によっては学校からの情報提供が伝わらないこ とがあります。「特別な受検方法」で受検した者や調査書の情報、中学校に問い合 わせをするなどして把握しておきましょう。

④加配要求
 学習言語としての日本語の習得が不十分な生徒のために「取り出し授業」などの方 法で日本語を学べる体制をつくらねばなりません。そのために非常勤教員の加配が 必要になりますが「国際化」という名目で要求できます。加配による授業計画を立 てて教育委員会に要求しましょう。(→学習言語についてはP13[4]言葉の  壁・言語能力の誤解)

⑤県立高校通訳支援事業
 入学手続きや合格者説明会で保護者が日本語を理解できず、困ることがあります。 神奈川県教育委員会では日本語を母語としない生徒の在籍校には必要に応じて通訳 の派遣の費用を負担する制度があります。事前に申請する必要がありますが、積極 的に利用しましょう。また、日本語の不得意な保護者のために、配布する資料は合 格者の母語訳を付けたり、ルビ振り、通訳の配置などの配慮が必要です。


 第一学年、4~5月:新入生へのとりくみ

⑥在籍握把(国籍把握、本名把握)
(→詳しくは本文P9[3]入学後-まずは在籍把握から)

⑦奨学金、授業料免除
 4月当初では、在日韓国・朝鮮人向けの奨学金や、インドシナ難民家族向けの奨学 金など、国籍やその他の条件によって、外国籍生徒向けの奨学金を出してくれると ころがあります。また授業料免除についてなど、忘れずに情報提供しましょう。

⑧神奈川県外国籍生徒交流会「クロスワールド」への参加
「神奈川県在日外国人(多文化・多民族共生)教育研究協議会」主催で外国籍生徒のための生徒交流会「クロスワールド」が行われています。 毎年5月には新入生歓迎会が実施されます。各校への案内が出されますので、生徒の参加を呼びかけてください。

学校生活の中で

⑨多文化な居場所をつくる
 孤立しがちな子どもたちのために、学校の中での居場所作りをサポートしましょ  う。たとえば日本人生徒も交えて「多文化研究会」のようなサークル活動を始める ことも1つの方法です。

⑩「かながわ外国人教育相談」の利用
 外国籍生徒は様々な問題を抱えている場合が少なくありません。いじめ、在留資 格、進路など、場合によっては学校だけでは解決できないことも少なくありませ  ん。そんなときは「かながわ外国人教育相談」を利用してください。
 (相談日 第1・3水曜 第2・4土曜 午後2時~5時)電話045-222-1209

⑪こんな場合は公欠に
 16歳になり、外国人登録のため、市区町村の窓口に行くとき。
 生徒が入国管理局に行くとき。在留期限が近づいたら、日本にさらに在留したい場 合、家族で入国管理局に出向き、在留延長申請をしなければなりません。
 出身国によっては、選挙人登録や兵役登録などのため、領事館・大使館に行くと  き。

⑫海外修学旅行は再入国許可を忘れずに
 外国籍の子どもには、いったん海外に出ると、その子に付与されている上陸許可の 効力や、在留資格は消滅してしまいます。海外修学旅行に行く場合は出かける前に 入管から、「再入国許可」を得ておく必要があります。

第3学年、進路指導・卒業

⑬進路指導で
 その生徒がどういう在留資格を持っているかは卒業後の進路に影響を与えます。生 徒の在留資格を把握しておきましょう。
(→在留資格を持たない生徒の問題については本文P21参照)

⑭卒業証書は本名で
 外国籍の生徒は日本風の通称名を名のっている場合があります。出席簿の名表、指 導要録卒業生台帳、卒業証書などの名前の欄にはどう書いたらよいでしょうか。本 文を参照して
 下さい。(→本文P16[5]卒業証書は本名で)

2006年日本語を母語としない人たちのための高校進学ガイダンスにて

[1]外国籍の子どもたちの不就学・高校中退、[2]高校入試の壁

2007-02-06 21:10:39 | 平和通信vol150(2007/2)
[1]外国籍の子どもたちの不就学・高校中退

 Aくんが中学に行かなくなったわけ

A君:17歳(6歳で来日。非日系ブラジル人の父と日系2世の母の3人家族。)
 来日時、小学校1年生に編入する年齢でしたが、日本語や日本のことがよくわからないからという理由で1年遅らせ、保育園に入園しました。小学校1年生になったときには、ひらがなは書けるようになっており、日本の生活にもなれ、順調に学校生活をおくっていました。
 11歳のころ、ポルトガル語を習うためにブラジル人学校へ通い始めました。2ヶ月たった頃、出産のため担当教員がブラジルへ帰国し、新しく赴任した教員に「体は大きいのに、こんなに(ポルトガル語が)わからなくて恥ずかしくないの」と言われ、やめてしまいました。この時のショックが日本の学校での生活にも尾を引き、1年遅らせて入学していることを気にしだしました。
 中学1年の時、制服の第1ボタンをはずしていたら、教員にそれをとがめられ、殴られました。それを知った母親は「父親も殴ったことがないのに、今度こういうことがあったら、警察に訴える」と抗議しました。これをきっかけに、A君とその教員との関係はギクシャクし、A君は「先生にいじめられている」と感じるようになり、学校を休みがちになりました。中学2年と3年になった時は、教員がかわっているので
はと期待して学校へ行きましたが、教員は皆持ち上がりでかわっていなかったため、結局、中学2、3年ともに学校へは行かなくなってしまいました。

外国籍の子どもの不就学
 
 最近「不就学」と呼ばれる概念は、今まで「不登校」と呼ばれていた事例も含み、義務教育(小・中学校)に通っていない子どもたち全体をふくむ、きわめて幅の広い概念としてとらえられているようです。外国から来た子どもたちは、いずれの教育機関でも学ぶことなく不就学に陥る割合が高いといわれます。たとえば栃木県小山市教育委員会の報告によると2006年2月1日現在、登録済み外国人のうち小中学校学齢相当の子どもは308人ですが、公立学校に在籍する子どもは179人で、就学率は58.1%に過ぎない、というものです。転出・帰国を数に入れたとしても、実際の就学率は65%前後であろうと、同市教委は推定しています。35%ほどが不就学といいます。
 高校に行かない、行けない、中退する子どもたちも少なくありません。ある推計では特別永住者(在日コリアン)の子をのぞく外国籍の子どもたちの高校まで進学する者の率は全国の推計で30%程度といいます。もちろん厳密な統計は存在しませんので、あくまでも“ある推計”にすぎません。


定時制高校を中退したCくん
 
 日本人と結婚したお母さんに連れられて10才の時ベトナムから日本に来たCくんは日本の小学4年に編入しました。その後母親は離婚し、家族は母とCくんと妹の3人だけ。その後中学をへて定時制高校に入学しました。日常会話は充分日本語でこなせますが、学校の勉強は思うようにふるいません。学習言語としての日本語の習得が不十分のようです。高校受験に際し、本人は全日制の高校を希望しましたが、中学校の先生の指導で定時制高校に変えられてしまいました。一学期の途中からしばしば休みがちになります。担任の先生が理由を問いただしますと、そのたびにもっともらしい休みの理由を答えます。Cくんはいつも「学校に行く」といって家を出て、学校に足を運ばず、ふらふらしていたようです。結局家族会議の結果、Cくんは高校をやめて働くことになりました。

不就学・高校中退の理由
 
 不就学・高校中退の理由は様々です。子どもたちの学びと発達の権利をなかなか認めない排外的な日本の入国管理制度、不十分な日本語教育、学校でのいじめの放置、日本人教師の無理解、多文化共生教育の欠如、親の教育に対する無理解、経済的困難・・おそらく単一の原因に還元することはできないでしょう。これら、すべてが複合的に折り重なって、子どもたちを学校から引き離し、遠ざけてしまう重層的な差別が引き起こす結果が不就学・高校中退という現象として現れているといえましょう。


―― 子どもたちの声 ――――――――――――――――――――――――――
・最初言葉が分からないとき、「あいうえお」の宿題からだった。差別やひいきでは なく、順調にできた。小学生の時特別な教室で勉強していて、他の子も入ってきた り、ちゃんとやってくれてた。イジメとかなく、自分の国に誇りを持って、自分の 国のことを考えていた。自分の国のことを知りたいと言ってもらえるとうれしい。 高1の時、人権作文を書いて、全校の人権LHRがあって講演会の後、全校の前で 読んだ。その帰り、先輩とかも名前覚えてくれて、へんなことも言われない。

・ただ自分がクオーターなだけでいじめられた。くやしかった。同じ人間で国が違  う、血が違うだけで。「何が違うんだろう?何がおかしんだろう?」小学生の頃、 隠すことじゃないのに隠したりした。くやしいけどその人の前では泣かない。

・「兄はアメリカ国籍。アメリカで生まれて帰ってきたから。」という話しを聞い  て、「オレは日本人なのかな?」と悩む。(日本生まれの在日コリアン)

・靖国神社問題、サッカーアジアカップ、こういうことがあると学校に行きにくい。 正直言って私とは関係ない。でも「あんたたち中国人はこうだろ」と言われる。ど うして私も含むの? だから社会の授業でけんかになる。

[2]高校入試の壁
 
 「日本語を母語としない人たちのための高校進学ガイダンス」が神奈川で取り組まれるようになってから今年2006年で12年目になります。2006年から県教育委員会と市民団体「多文化共生教育ネットワークかながわ」の協同事業として行われています。12年のとりくみの中で受けた相談内容を見ていくと、外国籍の生徒が高校入試を目の前にしてぶつかるさまざまな壁が見えてきます。


二つの言葉を覚えることの難しさ
 
 外国人向け補習教室に通う日本で生まれ育った現在中学2年生のペルー人生徒の場合です。両親が寂しそうな顔でこう支援者に語りました。「私たちには教科書も読めないし、勉強をみてあげられないんです。」子どもと親との会話は主にスペイン語で得意な教科は国語。この子はまた二時間半ほぼぶっ続けで教えていても集中力が途切れることがない、能力的にも意欲の面でも問題はない生徒なのに、数学が大の苦手で分数や速さの計算もおぼつかないのです。ひょっとしたら二つの言語を身につけなければならなかったために、ある時期に学校で勉強していたことが身に付かないままになってしまったのではと思わされてしまいます。

日本に来てまもない子どもの高校受検
 
 神奈川県の場合、来日3年未満の外国籍の受検生対象の「在県外国人特別募集」があります。現在は7校(とりくみカレンダー参照)にあります。小学校4年以降に来日した生徒には「引き揚げ者等を保護者とする志願者の受検方法申請書」を提出することで、ルビ振りや時間延長、面接では易しい日本語でゆっくり質問するなどの「特別な受検方法」により受けられます。
 外国籍生徒のハンディキャップを考慮した制度といえますが、まだ不十分な点があります。「在県外国人特別募集」を行っている学校は川崎や横須賀、県の西部にはなく、県全域の生徒が通えるような募集枠の設置が望まれます。また、制度の狭間で救済されない生徒もいます。来日してすぐに日本国籍に変更したものは「在県外国人特別募集」では受けられません。また来日3年以内を1日でもオーバーしてもこの制度の対象になりません。また、特別枠では英国数の3教科のペーパーテストがありますが、来日して間がなくても中国など漢字圏出身の生徒は漢字を拾い読みして問題の意味を推測できるので、非漢字圏の生徒より圧倒的に有利です。英語が公用語になっているフィリピン出身の生徒なども有利になります。このように同じ外国籍でも「格差」があるのです。
 また「特別な受検方法」についても、ルビをふったり、学力検査時間を延長することがどれだけ得点に結びつくか、それによって日本語の力が十分ではないために中学校での成績も芳しくない生徒が入学できる可能性が高くなるのか、甚だ疑問もあります。日本語が十分でないということをアピールして合格後に取り出し授業などの支援が受けやすくなるといった効果はありそうですが。また、中学校への周知が徹底しておらず、中学校の教員がこの措置の存在を知らなかったなどという例もよく耳にします。
 外国出身の受検生の背景にあるこのような言語的な壁に対して、どのような支援を与えることが「適正」な競争になるのか?これに答えることは非常に困難です。最適な選択はまだ見えてきていませんが、辞書の持ち込みや試験問題の翻訳など、すべきこと、できることは沢山あるはずです。

日本に長く住んでいても
 
 では、幼少期から日本にいる生徒はどうなのでしょう。特別な配慮は必要ないのでしょうか?日本で生まれたり、小学生の低学年ぐらいで来日した生徒の場合、母語よりも日本語の方が流ちょうなのに授業についてこられず、「低学力」と見られてしまうことがよくあります。これは両親の日本語の教育力や、学習言語の取得時期などの問題が指摘されていますがいずれにしてもその学力差は高校入試に向かうときに大きな壁となって立ちふさがっています。

言葉以外の壁
 
 教育制度は国・地域によって様々です。出身地で割り算を勉強したばかりだったのが、日本に来たら小数の割り算をやっていた、という話もよくあります。中国北部出身の生徒は、学校では英語ではなくロシア語を勉強していました。こうした学習内容のギャップを補うため、実年齢よりも学年を落として編入させることもありますが、体格や精神年齢が周囲と違うことからうまく適応できなかったという例もあります。また、横浜市では原則的に実年齢の学年に編入させています。中学校を卒業してから来日した生徒が、地元の中学校にも夜間中学にも入れない場合も多くあります。学年を落として受け入れて、日本語での学習に慣れた時点で「飛び級」させるなど、義務制での柔軟な受け入れ体制が必要です。

家庭・保護者に高校入試の情報提供を
 
 外国出身の保護者の中には、行政や学校からのインフォメーションが不十分だったり、言葉の問題から、入試や日本の教育制度について知識が十分でない方も多くいらっしゃいます。高校進学という大きな分岐点で保護者がその相談に乗れないというのは生徒にとってどれだけ心細いでしょう。「進学ガイダンス」は生徒だけではなく、保護者のためのものでもあるのです。もちろん、保護者の次に身近にいる(はずの)教員がケアをすることも必要です。

[3]入学後-まずは在籍把握から、[4]言葉の壁・言語能力の誤解

2007-02-06 21:06:48 | 平和通信vol150(2007/2)
[3]入学後-まずは在籍把握から

在籍把握の重要性
 
 在県外国人特別募集やルビ振りや時間延長など特別な受検で入学した生徒は、高校入学前から外国人だとわかるのですが、通名(日本名)を名乗り、日本語も問題なくしゃべる生徒は外国人だとわかりません。入学後まず重要なのは、それぞれの生徒の国籍やルーツ、日本生まれなのか、外国で生まれたかなどの「在籍把握」です。県教育委員会は、毎年5月に外国籍生徒の「在籍調査」をやるように各学校に指示を出します。この在籍調査がいつからはじまったかというと、神奈川県教委が1990年3月、「在日外国人(主として韓国・朝鮮人)にかかわる教育の基本方針」(17・18ページに全文掲載)を制定してからです。この基本方針の背景には、在日コリアンのNGOや私たち組合員の長年にわたる実践や運動があり、県教委自らが在日外国人の子どもたちにかかわる教育の必要性を認めたからです。
「基本方針」は、学校教育における取り組みの方向性を次のように整理しています。

① 正しい認識に立って差別や偏見を見抜く感性を養うとともに、差別や偏見を批判 し排除しようとする勇気ある児童・生徒を育成する。

② 在日外国人児童・生徒に対しては本名が名乗れる教育環境をつくり、民族として の誇りをもち、自立できるよう支援する。

 年度はじめに各学校で実施されている外国人生徒の在籍調査は、この「基本方針」の理念を具体化する第一歩のとりくみとして、1990年5月からはじまったものです。在籍調査の目的は、単に行政上の統計資料にし、県の施策に反映させるためではありません。在日外国人生徒の存在を、教職員一人ひとりが把握し、さまざまな支援をしていくためのものです。たとえば、目の前の生徒が本当は外国人なのに、日本人として扱っていたらどんなことが起こるでしょうか。
 
 ○「朝鮮奨学金」という奨学金があります。他の奨学金ほど成績面がきびしくなく  韓国籍か朝鮮籍のどちらかの国籍を持っていればもらえる奨学金です。担任が関  係ないと思って伝えなかったために申請できず、「もっと早く知っていたら」と  後から指摘される事例が毎年のようにあります。

 ○外国人生徒は、16才の誕生日前に「外国人登録」のために本人が役所に行き、 「外国人登録証」の常時携帯義務がはじまります。日本人生徒にはない制度のた   め、この時期あらためて外国籍であるがゆえの不安感に襲われ、不安定になる生  徒 もいます。その時、担任が精神的なフォローをしたり、役所に行くのを公欠  扱いするなどの保障があれば生徒たちにとってどんなに心強いことでしょうか。
 
 ○キャリア教育が全県的に実施され、
  1年次から進路を考える機会も増えてきていますが、外国人生徒に対して、公務  員の国籍条項や就職差別の実態を意識した上で、進路指導がなされているでしょ  うか?
 
 ○最近の大学入試では、願書に外国人登録どおりの本名記載を求める大学も増えて  います。もし、生徒が願書に書いた名前と、学校が発行する調査書の名前が違っ  ていたら?
 
 他にも外国人であるがゆえに、様々な配慮や支援が必要になる場合があります。

 在籍把握は、決して「プライバシーの侵害」ではなく、逆に生徒の権利を守るためにこそ必要なのです。

県立高校の外国人生徒在籍状況
 
 昨年5月に、神高教では、「在日外国人生徒、日本語を母語としない生徒についての状況調査」を実施しました。(回収:72分会(定・通含む)在籍あり:44分会)
 回収率が約半分なので、正確な分析とは言えませんが、外国人生徒が特定の学校に集中する傾向が見て取れます。上位10校の内、在県外国人枠をもつ学校5校、定時制3校となっています。在県枠校や定時制に集中しているということは、全日制の一般枠に外国人生徒は入りにくいということを表しています。どこの高校にも外国人生徒が入れるような入試制度の改善が必要とされます。

―― 子どもたちの声 ――――――――――――――――――――――――――
・南米=事件、というイメージがある。レストランでも誰かにじっと見られている。

・ニュースとかで、「金~容疑者」とか「ペルー人の~」とか外国人であることが強 調されるけど、日本人の場合は名前だけとかで扱われる。そういうマスコミ報道は おかしい。

・給食の「いただきます」の習慣もわからなかった。初めはチヤホヤ……でも少し立 つと自分から話しかけていかないといけない状況だった。

・はじめて学校に行ったとき、ピアスをつけていて叱られた。

・フィリピンは小さいとき、ピアス穴をあける習慣がある。日本と違う。

・ピアスをつけていたことで先生とけんかになった。ベトナムでは生まれたとき、お 母さんがピアスをつけてくれる。とても大切なものです。

・自分は日本と韓国のダブルなので、自分はさらにアフリカとか南米とか、もっと国 をまたいだ結婚をしたい。

・再入国カードを書かなあかんけど、自分だけ人と違っていて、格好いいと思われて いる。
・電車で私の隣の席にすわらない、さけられている。

[4]言葉の壁・言語能力の誤解
 
 日本語を母語としない子どもが高校に入学して久しいです。しかし、まだその子どもたちへの日本語指導・教科指導に関して系統的で有効な指導方法は定まっていません。ここでは、「言語能力の誤解」「学校にできること」「保護者ができること」について、言語習得と認知の発達という視点で日頃の疑問をまとめてみました。

「あの子はしゃべれるから大丈夫だ」って本当?

 5月に文部科学省から「日本語指導の必要な外国人児童生徒」の調査がきます。どのような基準で該当の生徒を把握していますか?文部科学省も基準を提示していませんが、学校の授業についていけるだけの日本語(学習言語)を身につけているか否かを基準とすべきでしょう。教科書の内容を思い浮かべればわかるように、日常生活で用いられている言葉とは異なり、授業を理解するには、はるかに抽象的で専門的な言葉を必要とします。
 言語は、その機能から生活言語と学習言語の2つに分けることができます。その習得にかかる年数も異なります。ここを一緒にして誤解している人が多いと思います。

 
「しゃべることができれば学校の授業についていける」のでしょうか?

 しゃべることができても学校の授業についていけません。その理由を一般に知られている仮説を通して説明します。言語能力は日常の伝達に必要な生活言語能力(会話能力)と学習に必要な言語能力の2つの側面に分けられると考えられています。(Cummins 1984) 

(1)生活言語能力

① よく慣れている場面で相手と対面して会話する力で、高頻度 の語彙と簡単な文法 構造を使用する力です。

② 母語では大体就学年齢までに発達する。

③ 学習者の第一言語の能力に関わりなく発達する。

④ 第二言語学習者は、習得に1年から2年要する。

(2)学習言語能力 

① 低頻度の語彙と、複雑な構文や抽象度の高い表現などの話し言葉と書き言葉を理 解し、使用できる能力を指します。

② 文脈から類推しにくく、高い認知能力を要求する。

③ 母語話者でも意図的に学習しなければ習得出来ない。

④ 第二言語学習者が母語話者のレベルに近づくのに、少なくとも5年か
 ら7年必要とする。
 
 学習言語力は、母語で育っていれば、第二言語に転移します。例えば「かけ算」を第一言語で習った子どもは、そこで使用される言葉(言い方)は学ばなければなりませんが、概念そのものを第二言語で学び直す必要はないのです。

 
日本語を母語としない子どもたちに学校ができることは何でしょうか?

(1)授業に関して
 
 日本に来たばかりの子どもは、教科の内容を理解する日本語力が備わっていません。ある程度日本語を集中的に学び、その後教科指導に入ることができれば理想的です。いくつかの高校で行われていますが、実際は教員配置の点などから不可能であると思われます。そのため、日本語と教科指導とを同時に行わなければなりません。
 比較的容易にできることは、授業中での説明時のことばは「ゆっくり」「一文は短く」説明は「より具体的に」「知っていることをベースに」といわれています。教科書にはルビを。母語の方が得意なら、重要単語には母語訳をつけることによって、出身国での既習事項と関連付け学習者の集中力を増すことができると思います。

(2)取り出し授業での注意
 
 国語・地理・歴史・保健などの科目で、日本語が不充分な生徒を在籍クラスから取り出して授業をしています。生徒によっては本人が望まない例を耳にします。個人により、理由は異なると思いますが、一つには自分の異質性を他の生徒にあからさまにしたくない、自分の異質性を自分で認めたくない、在籍クラスと異なって、進度が遅れるのではないか、等が理由として考えられます。前者に関しては、校内に於ける日々の「多文化教育」が必要です。後者に関しては、在籍学級のカリキュラムとの進路を視野にして、日本語の習熟状態によっては教える順番や内容を絞る必要があると思います。

(3)支援・指導上での留意点
 
 外国に繋がる子どもたちの多くは、親や社会構造の中で自身の意志とは関わりなく日本で学ぶことを余儀なくされています。国を発つときに覚悟していても学習意欲をずっと繋げていくのは難しいです。言葉も通じず、自分のアイデンティティーを失いがちになります。いわば、壊れやすいガラス細工の様な状態なのかもしれません。
 この子どもたちを前にして、われわれ教員が忘れてはならないことは、学校教育や家庭教育の求めることが文化により異なることです。例えば、指示や質問のしかた、うなずきかた、話の聴き方などの違い等。このような細かな要件も居心地の悪さや勉強をする気持ちを削ぐことになることもあります。同時に、受容的な態度で接すること、さらに母語や母文化を尊重することも必要であります。この母語・母文化継承はその子どものアイデンティティーを確立する上では重要な意味を有します。

(4)学校通知文の翻訳や面談時の通訳の必要性
 
 学校通知文の多言語訳や親子面談時等の通訳配置は、彼・彼女らの存在を大切に思っていることを表明することに繋がります。何気なく子どもに託していると思いますが、通知文に関しては、相当の日本語力を必要としますし、趣旨が完全伝わらないことがあるでしょう。ましてや、子どもを通訳に利用することは避けてください。自分の都合の悪いことは親に説明しにくく、正確に伝わらないことが多々あると思います。更に悪いことには親子間の関係を壊すことに繋がり兼ねません。日本語をしゃべれない親は、仕方なく市役所等公の場所に出かける時に子どもを通訳代わりに連れていきます。このようなことを通して、親の権威は下がる一方です。子どもとは別に通訳が同席することによって、保護者も子どもも安心し学校に好意的な態度を示します。通訳が信頼できる存在であると思われた場合には、相談役やカウンセラーといった存在にまで発展することさえあります。翻訳や通訳の手配は慣れないと煩わしいですが、いつかその効果を確信する日がくると思います。


家庭のできることは何でしょうか?~家庭内言語について

 保護者面談をしていると、時々家庭内で母語を禁止している例を耳にします。これは、逆効果です。子どもは慣れない日本の学校でストレスがたまっていると思います。安心してきちんと話せる母語を話す場所を奪ってはいけません。人は母語で考える力や推理する力、さらに読み書き能力を培います。北米やヨーロッパの研究者は言っています。「就学時に母語の基礎がそなわっている子どもは、学校での読み書きもしっかりできる。逆に家庭で母語を使用することで、現地語の習得が遅れることはない。それどころか、親の現地語の力が高くなければ、子どもとの会話の質が落ち、結果子どもの知的発達や、学力にマイナスの影響をあたえる可能性がでてくる。」(Commins 2005)
 多くの子どもはいずれ母語を使わなくなり、徐々に使えなくなって(喪失)しまいます。年齢が幼い程、その速度が速いようです。しかし、保護者は学習する充分な時間や機会が持ちにくく、日本語の上達は遅く、親子間の共通の言葉を失ってしまいます。コミュニケーションがうまくいかず親子の関係にも影響を与えます。強制的に家庭で母語禁止をすると、学習困難や情緒不安を引き起こす場合もあります。親は、母語を通して、人生の先輩として、自分の生き様に自信を持って伝えて欲しいと思います。

[5]卒業証書は本名で、 [6]就職差別と進路保障

2007-02-06 21:01:08 | 平和通信vol150(2007/2)
[5]卒業証書は本名で

指導要録など公文書への記載の仕方
 
 指導要録への名前の記載は、日本人生徒は住民票の記載に基づいて正しく記入することになっているのと同様、外国籍生徒の場合は、外国人登録証どおりの本名を記載します。韓国・朝鮮籍や中国籍の生徒は漢字で記入し、ふりがなはできるだけ母国語の発音に近いカタカナで記入することになっています。南米やフィリピンなどその他の国の生徒は、アルファベットやカタカナ表記になると思います。日常的に通称名を使用している生徒については、本名の下にカッコ書きで通称名を記入します。生年月日については、各教育委員会で対応が違うようですが、西暦記載にすべきだと思います。神奈川県教委は「元号に西暦を併記できる」という対応ですが、元号など通用しない外国人生徒には、併記ではなく、横浜市教委などのように「西暦のみ」があるべき姿だと思います。また、国籍は「指導上参考となる諸事項」欄に、国籍をきちんと記入すべきだと思いますが、この指示も、各教育委員会によって対応がまちまちになっているのが現状です。

調査書
 
 調査書など、指導要録に基づいて記入するものは、指導要録の記載に準じるのが原則です。ただ、就職試験の際の調査書の場合、就職差別を避けるために通称名だけにするという対応をしている学校もあると思いますが、学校が企業側に事前に連絡を取って差別がないように配慮を求めるなど、外国人生徒を支える体制を作っていくことが大切です。また、進学の場合、最近では生徒の記入する入学願書は、外国人登録証通りの本名記載を求める大学が増えていますので、もし学校側が調査書に通称名だけしか記入していない場合、トラブルになりかねませんので気をつける必要があります。

名票・出席簿は
 
 本名を使うか、通称名を使うかは、入学前の面談などで十分話し合って決める必要がありますが、基本は本名が望ましいわけですから、学校側が通称名を勧めたりすることがないように気をつけるべきです。また、ミドルネームなどがあって、長い名前の場合、学校側が面倒だからというような理由で勝手に省略形にしたりすべきではないと思います。日常的に愛称として呼ぶ場合と、名票・出席簿など公的なものは区別して、公的なものは極力本名に近いものにしていくべきではないかと思います。

卒業生台帳、卒業証書について
 
 卒業生台帳は、指導要録と同様に本名(必要に応じて通名を併記)を記載します。学校生活では通称名で生活していた生徒も、卒業をきっかけに本名で生きて行こうとする生徒もいます。卒業前にもう一度本名を確認した上で、卒業生台帳に記入します。新たに外国人生徒であることがわかった場合は、指導要録も訂正しておく必要があります。卒業証書は、指導要録や卒業生台帳に基づいて本名を記載することが原則ですが、通称名を名乗っている生徒の場合、呼名があることから、様々な配慮が必要になります。これまでの事例では

・証書に本名(通称)で記入した

・証書には本名が記載してあるが、呼名は通称名で行った。

・本名と通称名の2枚の証書を用意したなどがあります。
 また、本名の記載について、ハングル文字、アルファベットなどで記載した例もあ ります。
 いずれにせよ、ずっと通称名だったから卒業式もそうだろう、と勝手に判断しな いで、卒業前にもう一度外国人生徒の在籍の有無を確認し、指導要録と卒業生台帳 に本名をしっかり記載すると同時に、どういう名前で卒業していくのか、本人・保 護者と今後の生き方を含めた話し合いをしていくことが大切だと思います。

(両面見開きのカコミに)
神奈川県教育委員会、「在日外国人(主として韓国・朝鮮人)にかかわる教育の基本方針」
 
 すべての人間は生まれながらにして自由で、かつ、尊厳と権利とについて平等である。これは人類普遍の原理であり、「世界人権宣言」及び日本国憲法や教育基本法の基底となっている理念である。1979年(昭和54年)、我が国はこの「世界人権宣言」の精神の具体的な実現のため、国際連合で制定された「国際人権規約」を批准している。すべての人々が共に生き、共に発展していく社会を創造することは人類共通の願いであり、その実現に向かって教育の果たす役割は大きい。 神奈川県の教育は、個人の尊厳を重んじ、平和を愛し、心と身体の調和のとれた、健康で、人間性と創造性豊かな人間の育成をめざしており、各市町村では、地域の粋性を生かしたさまざまな教育が行われている。県教育委員会でも、「自然、人とのふれあい教育」、「福祉教育」、「国際理解教育」、「男女平等教育」など神奈川の特色ある教育及び同和教育を推進してきた。
 国際理解教育については、1988年(昭和63年)、国際理解教育研究協議会より、平和教育と「内なる民際外交」の視点から、国際理解教育を推進することが急務であり、行政の取り組みの方向として、在日外国人、とりわけ在日韓国・朝鮮人児童・生徒にかかわる教育についての基本となる考え方を明らかにする必要があるという提言を受けた。
 本県には、約125か国、6万人[1989年(平成元年)6月30日現在の外国人登録者]の外国人が県民として生活しており、このうちの約半数が韓国・朝鮮人である。 この人たちの多くは、1910年(明治43年)の韓国併合後の我が国の植民地政策等をはじめとする歴史的経緯及び第二次世界大戦後の

[6]就職差別と進路保障

日本人じゃないと雇えない!

 「日本人じゃないと、無理なんですけれど」
これは、昨年(2005年)横浜市内の外国人高校生がアルバイト応募を拒否された時の、ファーストフード店長のことばです。その後の高校生からの訴えで会社は謝罪しましたが、高校生の心には、「二度とその店には行きたくない」と深い傷が残りました。このように日本社会には依然として就職差別があり、外国人高校生に進路への不安の影を落としています。
日立就職差別裁判で、国籍による解雇無効の判決(1974年)が出されてから30年以上経過しました。この間、就職差別撤廃運動のとりくみ等により、差別の壁は少しずつですが取り除かれてきたはずでした。

 南北に分断された母国の事情や生活基盤の喪失等によって、やむなく日本で働き生活せざるを得なくなった人たちとその子孫である。 このような経過のなかで、この人たちの人権は長い間軽視されてきた面があり、現在でも、教育、就労、福祉等において在日韓国・朝鮮人に対する厳しい差別や偏見が根強く残っている状況がある。そのため、児童・生徒が学校や地域社会において、本名が名乗れないという実態もある。 神奈川の子どもたちが多様な文化と個性を尊重し、たがいに認め合いながら、正しい認識のもとに、身近に存在する差別や偏見を克服していくことは、国際社会において、健全な国際人として認められ、よりよく生きていくためにも大切なことである。また、県内に居住する外国人が本名を名乗り、民族的自覚と誇りをもって生きるとともに、県民として、共に住みよい神奈川の創造をめざすことのできる環境づくりも必要である。
 県教育委員会は、以上の認識に立って、学校、家庭、地域社会の協働のもとに、在日外国人にかかわる教育を積極的に推進するため、次の基本的事項を定める。

1 学校教育では、人間尊重の精神を基盤にした国際理解教育を深め、正しい認識に 立って差別や偏見を見抜く感性を養うとともに、差別や偏見を批判し排除しようと する勇気ある児童・生徒を育成する。
  また、在日外国人児童・生徒に対しては本名が名乗れる教育環境をつくり、民族 としての誇りをもち、自立できるよう支援する。

2 社会教育では、差別や偏見を根絶し、共に生きることのできる国際社会の実現を めざし、指導者の啓発・研修をはじめ、生涯学習の充実に努める。

3 教育行政では、在日外国人にかかわる教育に関する理解と認識を深めるため、学 校教育及び社全教育の充実を図るとともに、あらゆる機会をとらえて啓発活動を進 める。

 地方公務員の国籍条項も、消防職など一部を除いて無くなってきました。教員採用試験も、「常勤講師採用」という制限つきですがどこでも在日外国人が受験できるようになりました。
一方、差別事件は無くなりませんでした。1989年には、川崎市の外国人高校生が国籍を理由に就職応募を拒否される就職差別事件がおこりました。また1999年には、横浜で外国人高校生が国籍を理由にアルバイトの採用を拒否される事件がおこっています。どちらの事件も、会社側が謝罪し差別した間違いを認めて決着しましたが、日本社会に残る差別意識の根深さを浮き彫りにしました。それとともに、就職差別に正面から取り組むことの大切さも明らかになりました。

就職差別を許さないとりくみ

 そもそも労働基準法や職業安定法には、国籍による就職差別・労働条件の差別はしてはならない、と明記されています。また、国際人権規約などからも「内外人平等」は世界の常識であり、国籍や民族による就職差別は厳しく禁じられています。
学校も、外国人生徒の就職活動を正面から支えることが必要です。そのためには、まず、生徒の国籍をきちんと把握すること。そして、生徒の同意のもと、希望する就職先に国籍を隠さずにチャレンジしていくこと、が求められています。これまでもある高校では、「今回応募する生徒は外国籍ですが、何ら問題ないですよね」と国籍による差別をさせないよう申し入れ、さらに「スペイン語が出来るので、簡単な通訳ならできますよ」と外国人生徒としての能力を最大限会社にアピールして就職内定を得ています。
 また、就職差別を見逃さない体制づくりも必要です。生徒が会社から差別を受けたら、すぐに学校として対応します。その差別の事実経過を調査して行政に報告します。神奈川県には、このため「採用選考に係る不適正事案対応システム」ができています。昨年のアルバイト応募拒否事件も、このシステムを通じて神奈川県が対応しました。
 これらの取り組みには、学校と生徒・保護者間で信頼関係を築いておくことが大前提となります。日頃から、国籍や民族について率直に話し合える学校、外国人であることを隠さずにいられる学校、が実現しているでしょうか。そこから、進路保障の第一歩が始まります。




[7]排外キャンペーン・強制送還におびえる子どもたち

2007-02-06 20:56:18 | 平和通信vol150(2007/2)
[7]排外キャンペーン・強制送還におびえる子どもたち

意図的に流される外国人犯罪者イメージ
 
日本政府は一貫して外国人労働者の受け入れを認めない政策を堅持してきました。バブル経済の崩壊(1992年ごろ)以降には、「外国人」を危険な存在であるかのように印象づける情報が、警察や入管から日常的に流されはじめました。それとともに入管法の改定を繰り返し、外国人管理を強化してきました。日本経済を支えてきた外国人労働者は摘発を受け、入管収容施設に強制収容され、強制送還されました。また外国人の存在が治安悪化を招いているとして、2003年10月17日、東京都・警視庁・法務省入国管理局・東京入国管理局より、「首都東京における不法滞在外国人対策の強化に関する共同宣言」が出され「不法滞在者を今後五年間で半減させる」として外国人狩りを宣言しました。排斥の対象になってきたのはオーバーステイの外国人労働者ばかりではありません。ラテンアメリカからの日系人の家族、中国帰国者の呼び寄せ家族、インドシナ難民の呼び寄せ家族、ビルマやアフガニスタンからの難民申請者なども管理統制の対象であり、様々な理由から在留資格を認められなかったり、取り消されたりして強制送還されています。

実体のない陰におびえる人々
 
このような外国人犯罪者増加による治安悪化のキャンペーンの根拠となる犯罪統計が存在しないことを指摘しておきます。過去10年にわたる警察統計を見ても「来日外国人」の犯罪が全体の犯罪に占める率は、長期的に見ても安定して2%前後で、97%の犯罪は日本人によるもので、とても「治安悪化」の原因を外国人に押しつけることはできません。警察統計の分析については、詳しく論じるには紙面が限られていますが、次の書物を参考にしてください。「外国人包囲網~『治安悪化』のスケープゴート」(現代人文社、外国人差別ウオッチネットワーク編、2004年)
 
国際化の進行と共に、外国人人口が増えれば、実数としての犯罪者も増える、これは当たり前のことです。それに特定の民族あるいは国籍と犯罪は因果関係を持たないことは自明のことです。外国人と犯罪とを結びつける当局のキャンペーンに、人々が引きずられてしまうのは、それは異質な者に対する人々の不安を反映していると言えるでしょう。

石原都知事の発言におびえる高校生
 
県立高校に通うA君は高校2年生。中国籍。残留邦人の呼び寄せとして日本にやってきており、在留資格もしっかりしています。2年生になってから、学校を休みがちになってきました。「東京都の石原知事の発言が怖い」「クラスになじめない」と信頼している教員に語ったそうです。結局彼は学校を続けることを断念しました。

まるでナチス時代の
ユダヤ人のように!
 オーバーステイのまま生活をし続けるある母娘の家族の場合。Bさんは日本に入国時1998年の2月は12歳で小学校5年生に在籍、そのまま中学・高校に進学しました。本国にいる親族は内戦ですべて死亡しているので、帰国しても頼る人がいません。支援者とともに在留を求める申請(在留特別許可)を考えましたが、不許可になった場合のリスクが大きいので踏み出せません。「警察や入管の摘発部隊がときおり町にやってくるので、今まで住んでいたアパートを放棄し、今は友人の家の屋根裏部屋に逃げ込んでいます。まるで『アンネの日記』のようです。ここから少女は高校に通っていますが、自転車には乗らないようにしているといっています。自転車に乗っていると警察に声をかけられることがあるからと。(支援者談)」Bさんはその後、高校を無事卒業しアルバイトを続けています。

学校に通う在留資格のない子どもたち

日本での外国人の在留はその人の活動によって定められた「在留資格制度」によって認められています。たとえば、観光の活動は、在留資格「短期滞在」に含まれ、この在留資格では「臨時の報酬」等に該当する報酬のみを受ける活動を行う場合を除き、働くことは認められていません。この在留資格制度は外国人の権利の観点から定められた制度ではなく、外国人の活動に制限を加えることが目的の制度です。在留期限を越えたまま滞在し続けたり、在留資格の更新が不許可になって、滞在を続けている子どもたちが存在します。その数は18歳以下の推定で数千人、家族を含めればおそらく1万人ぐらいはいるだろうと思われます。これらの子どもたちは摘発されると強制送還までの間、入国管理局の収容施設に強制収容されたり、児童相談時に保護されたりする可能性があります。
非正規滞在の子どもであっても、教育を受ける権利があり、日本の学校に通うことができます。文部科学省の方針に則ったもので、「就学事務ハンドブック」(1993年、第一法規出版)にも明記されています。日本も参加している子どもの権利条約には「初等教育を義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとする」(第28条)とあり、子どもの滞在が合法かどうかは関係ありません。そして実際に、非正規滞在の子どもたちが日本の学校に通っています。これらの子どもたちを救済する手段はないのでしょうか。

「在留特別許可」という救済の道

在留特別許可とは、在留資格のないまま日本に暮らす外国人に在留資格を認める入管法に定められた正規の手続きです。非正規滞在者であっても、法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めた場合には、在留特別許可が与えられ、合法的に日本に滞在することができます。在留特別許可は法務大臣の「裁量」とされ、その判断基準は公表されていません。
子どもたちはすでに母国での教育を断ち切られ、「親の都合」で言語も習慣も違う国から日本にやってきました。その後その子を育てたのは日本社会です。強制送還は「国家の都合」で教育を断ち切る行為です。日本の学校に通う学齢期の子どもたちの学びと発達の保障のために、最善の方策を考えると、日本での在留の確保が必要です。「在留特別許可」による救済はまだまだ困難な場合も多く、学校や地域など、子どもたちを取り巻く人々の支援が欠かせません。
参考:「先生!日本(ここ)で学ばせて!」(外国人の子どもたちの『在留資格問題』連絡会編、現代人文社2004年)



 



[8]外国人児童生徒へのいじめの現れ方

2007-02-06 20:50:56 | 平和通信vol150(2007/2)
[8]外国人児童生徒へのいじめの現れ方

川崎W女児いじめ事件
『教育委員会の調査の結果、本件は、民族差別を背景に、平成12年(ママ)4月よりほぼ1年間にわたって、中国人の父親と日本人の母親をもつ女子児童(当時3年生)に対して行われた暴力及び侮辱を中心とする、全市的に見ても稀な、きわめて悪質ないじめであり、川崎市立M小学校及び学校を指導する立場にある教育委員会の責任は重大であると深く認識するものです。』川崎市教育委員会教育長が当該小学校校長宛に出した通知(2004年1月)は、ある深刻な民族差別に関わるいじめ事件について、教員の責任を厳しく追及しました。
加害者の一人は同学年の男子児童で、1、2年生の頃から被害児童を「中国人」とはやし立てることがありました。3年生になって、被害児童はその男子児童と同じクラスになり、その男子児童を中心に、クラスに男子3人、女子3人のいじめ集団が形成され、担任の前でも公然といじめが行なわれました。5月頃から、毎日のように「のろま」「うんこ」と罵られ、近くに寄ると鼻を手で押さえて「臭い」という身振りをされました。また、いじめの中心となったA少年からは、頭を叩く、足を蹴る、髪を引っ張るなどの暴力行為が繰り返され、被害児童が授業中に発言すると野次を飛ばされ、「お前はみんなから嫌われている」と言われました。担任教員(すでに退職)は、こうした状況を単なるふざけあいと放置し、学年懇談会の場でも、保護者がPTA役員である加害児童の肩を持つような発言に終始しました。当時8歳だった少女の苦しみは、誰も理解することなどできません。いじめを受けた1年間、身長の伸びさえ止まりました。少女はこの時の恐怖から心身に変調をきたし、一時は幼児がえりなどの感覚障害も発症し、後に医師からPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断され、現在に至ります。被害少女とその家族は川崎での生活に希望を失い、横浜への転居を余儀なくされました。川崎市教委が冒頭の総括とともに家族に謝罪したのは、事件から2年余りが経った、少女が小学校を卒業する直前の時期でした。
当時のM小学校教員は全員が転勤し、当時の様子はすでに忘れ去られてしまいました。加害児童の保護者はいじめの事実を頑として否定し続けたため、ただ謝罪だけを求める被害少女の保護者は、ついに訴訟を起こしました。支援者はこれを「川崎W女児いじめ訴訟」と呼んでいます。

外国人は日本人に化けるよう圧力を受ける

少女が執拗にいじめられたきっかけのひとつはおそらく、父親が中国から日本に帰化した後も、家族が父親の中国姓を名乗り続けたことにあります。名前の一部(またはすべて)が外国風であるというだけで、いじめ・差別は日常化します。日本で暮らす外国人は可能な限り日本人に化けるよう圧力を受けるので、古くから居る在日韓国朝鮮の場合、実に9割が通名(日本名)を日常的に使用しています。近年その数を増やしている、ブラジルやペルーなどから来た南米日系人も、「日本社会に受け入れてもらうために」という理由で、本来の名にあるポルトガル語やスペイン語を隠匿するひとが少なくありません。かれらは外国に繋がることを恥じるよう強要され、ありのままに生きるなと命令され続けるのです。

差別やいじめをなくす責任はだれにあるのか

私たちが求めているのは、こんな社会でしょうか、こんな学校でしょうか? 
「がんばれ! いじめに負けず、本当の自分に自信を持って生きるんだ!」と呼びかけるのは良いことのように思われますが、外国人ばかりが努力させられ、日本人が何もしないというのでは困ります。差別やいじめをなくす責任が誰にあるのか、真剣に考えるべきでしょう。

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22001年末に東京都町田市のコンビニ、ポプラ町田駅前店(東京都町田市原町田1-1-3)にこんなポスターが張ってありました。
(中国語で)「ここは、、、盗窃犯罪取締強化地区」
(日本語で)「不審なアジア系外国人を見かけたらすぐ「110番」をしてください。」「町田警察署 町田防犯協会 電話722ー0110」(042)
町田署に電話したところ、「このポスターには新聞への抗議の投書もされていて一部掲示場所は撤去してところもある」とのこと。それでも町田警察署としては差別と認めていないのはなぜかと聞くと「ピッキングが(アジア系外国人が)多い」と。「全体の何%なんですか?」と聞くと、「数字はもっていない」というおそまつぶりです。アジア系外国人への悪意としか思えません。1月18日(金)午後1時に町田警察署長へ抗議と撤去の申し入れを行うことになりました。なぜこれが差別になるのか、イケナイことなのか、ということをじっくり話してみたいと思っています。本来、違法行為である差別を取り締まるべき警察が考え方を変えてもらわないと本当に困るからです。
情報提供「NPO法人TAE(東京エイリアンアイズ)」より