かながわ平和運動推進委員会

神奈川県高等学校教職員組合の平和について考えるブログです。

[1]外国籍の子どもたちの不就学・高校中退、[2]高校入試の壁

2007-02-06 21:10:39 | 平和通信vol150(2007/2)
[1]外国籍の子どもたちの不就学・高校中退

 Aくんが中学に行かなくなったわけ

A君:17歳(6歳で来日。非日系ブラジル人の父と日系2世の母の3人家族。)
 来日時、小学校1年生に編入する年齢でしたが、日本語や日本のことがよくわからないからという理由で1年遅らせ、保育園に入園しました。小学校1年生になったときには、ひらがなは書けるようになっており、日本の生活にもなれ、順調に学校生活をおくっていました。
 11歳のころ、ポルトガル語を習うためにブラジル人学校へ通い始めました。2ヶ月たった頃、出産のため担当教員がブラジルへ帰国し、新しく赴任した教員に「体は大きいのに、こんなに(ポルトガル語が)わからなくて恥ずかしくないの」と言われ、やめてしまいました。この時のショックが日本の学校での生活にも尾を引き、1年遅らせて入学していることを気にしだしました。
 中学1年の時、制服の第1ボタンをはずしていたら、教員にそれをとがめられ、殴られました。それを知った母親は「父親も殴ったことがないのに、今度こういうことがあったら、警察に訴える」と抗議しました。これをきっかけに、A君とその教員との関係はギクシャクし、A君は「先生にいじめられている」と感じるようになり、学校を休みがちになりました。中学2年と3年になった時は、教員がかわっているので
はと期待して学校へ行きましたが、教員は皆持ち上がりでかわっていなかったため、結局、中学2、3年ともに学校へは行かなくなってしまいました。

外国籍の子どもの不就学
 
 最近「不就学」と呼ばれる概念は、今まで「不登校」と呼ばれていた事例も含み、義務教育(小・中学校)に通っていない子どもたち全体をふくむ、きわめて幅の広い概念としてとらえられているようです。外国から来た子どもたちは、いずれの教育機関でも学ぶことなく不就学に陥る割合が高いといわれます。たとえば栃木県小山市教育委員会の報告によると2006年2月1日現在、登録済み外国人のうち小中学校学齢相当の子どもは308人ですが、公立学校に在籍する子どもは179人で、就学率は58.1%に過ぎない、というものです。転出・帰国を数に入れたとしても、実際の就学率は65%前後であろうと、同市教委は推定しています。35%ほどが不就学といいます。
 高校に行かない、行けない、中退する子どもたちも少なくありません。ある推計では特別永住者(在日コリアン)の子をのぞく外国籍の子どもたちの高校まで進学する者の率は全国の推計で30%程度といいます。もちろん厳密な統計は存在しませんので、あくまでも“ある推計”にすぎません。


定時制高校を中退したCくん
 
 日本人と結婚したお母さんに連れられて10才の時ベトナムから日本に来たCくんは日本の小学4年に編入しました。その後母親は離婚し、家族は母とCくんと妹の3人だけ。その後中学をへて定時制高校に入学しました。日常会話は充分日本語でこなせますが、学校の勉強は思うようにふるいません。学習言語としての日本語の習得が不十分のようです。高校受験に際し、本人は全日制の高校を希望しましたが、中学校の先生の指導で定時制高校に変えられてしまいました。一学期の途中からしばしば休みがちになります。担任の先生が理由を問いただしますと、そのたびにもっともらしい休みの理由を答えます。Cくんはいつも「学校に行く」といって家を出て、学校に足を運ばず、ふらふらしていたようです。結局家族会議の結果、Cくんは高校をやめて働くことになりました。

不就学・高校中退の理由
 
 不就学・高校中退の理由は様々です。子どもたちの学びと発達の権利をなかなか認めない排外的な日本の入国管理制度、不十分な日本語教育、学校でのいじめの放置、日本人教師の無理解、多文化共生教育の欠如、親の教育に対する無理解、経済的困難・・おそらく単一の原因に還元することはできないでしょう。これら、すべてが複合的に折り重なって、子どもたちを学校から引き離し、遠ざけてしまう重層的な差別が引き起こす結果が不就学・高校中退という現象として現れているといえましょう。


―― 子どもたちの声 ――――――――――――――――――――――――――
・最初言葉が分からないとき、「あいうえお」の宿題からだった。差別やひいきでは なく、順調にできた。小学生の時特別な教室で勉強していて、他の子も入ってきた り、ちゃんとやってくれてた。イジメとかなく、自分の国に誇りを持って、自分の 国のことを考えていた。自分の国のことを知りたいと言ってもらえるとうれしい。 高1の時、人権作文を書いて、全校の人権LHRがあって講演会の後、全校の前で 読んだ。その帰り、先輩とかも名前覚えてくれて、へんなことも言われない。

・ただ自分がクオーターなだけでいじめられた。くやしかった。同じ人間で国が違  う、血が違うだけで。「何が違うんだろう?何がおかしんだろう?」小学生の頃、 隠すことじゃないのに隠したりした。くやしいけどその人の前では泣かない。

・「兄はアメリカ国籍。アメリカで生まれて帰ってきたから。」という話しを聞い  て、「オレは日本人なのかな?」と悩む。(日本生まれの在日コリアン)

・靖国神社問題、サッカーアジアカップ、こういうことがあると学校に行きにくい。 正直言って私とは関係ない。でも「あんたたち中国人はこうだろ」と言われる。ど うして私も含むの? だから社会の授業でけんかになる。

[2]高校入試の壁
 
 「日本語を母語としない人たちのための高校進学ガイダンス」が神奈川で取り組まれるようになってから今年2006年で12年目になります。2006年から県教育委員会と市民団体「多文化共生教育ネットワークかながわ」の協同事業として行われています。12年のとりくみの中で受けた相談内容を見ていくと、外国籍の生徒が高校入試を目の前にしてぶつかるさまざまな壁が見えてきます。


二つの言葉を覚えることの難しさ
 
 外国人向け補習教室に通う日本で生まれ育った現在中学2年生のペルー人生徒の場合です。両親が寂しそうな顔でこう支援者に語りました。「私たちには教科書も読めないし、勉強をみてあげられないんです。」子どもと親との会話は主にスペイン語で得意な教科は国語。この子はまた二時間半ほぼぶっ続けで教えていても集中力が途切れることがない、能力的にも意欲の面でも問題はない生徒なのに、数学が大の苦手で分数や速さの計算もおぼつかないのです。ひょっとしたら二つの言語を身につけなければならなかったために、ある時期に学校で勉強していたことが身に付かないままになってしまったのではと思わされてしまいます。

日本に来てまもない子どもの高校受検
 
 神奈川県の場合、来日3年未満の外国籍の受検生対象の「在県外国人特別募集」があります。現在は7校(とりくみカレンダー参照)にあります。小学校4年以降に来日した生徒には「引き揚げ者等を保護者とする志願者の受検方法申請書」を提出することで、ルビ振りや時間延長、面接では易しい日本語でゆっくり質問するなどの「特別な受検方法」により受けられます。
 外国籍生徒のハンディキャップを考慮した制度といえますが、まだ不十分な点があります。「在県外国人特別募集」を行っている学校は川崎や横須賀、県の西部にはなく、県全域の生徒が通えるような募集枠の設置が望まれます。また、制度の狭間で救済されない生徒もいます。来日してすぐに日本国籍に変更したものは「在県外国人特別募集」では受けられません。また来日3年以内を1日でもオーバーしてもこの制度の対象になりません。また、特別枠では英国数の3教科のペーパーテストがありますが、来日して間がなくても中国など漢字圏出身の生徒は漢字を拾い読みして問題の意味を推測できるので、非漢字圏の生徒より圧倒的に有利です。英語が公用語になっているフィリピン出身の生徒なども有利になります。このように同じ外国籍でも「格差」があるのです。
 また「特別な受検方法」についても、ルビをふったり、学力検査時間を延長することがどれだけ得点に結びつくか、それによって日本語の力が十分ではないために中学校での成績も芳しくない生徒が入学できる可能性が高くなるのか、甚だ疑問もあります。日本語が十分でないということをアピールして合格後に取り出し授業などの支援が受けやすくなるといった効果はありそうですが。また、中学校への周知が徹底しておらず、中学校の教員がこの措置の存在を知らなかったなどという例もよく耳にします。
 外国出身の受検生の背景にあるこのような言語的な壁に対して、どのような支援を与えることが「適正」な競争になるのか?これに答えることは非常に困難です。最適な選択はまだ見えてきていませんが、辞書の持ち込みや試験問題の翻訳など、すべきこと、できることは沢山あるはずです。

日本に長く住んでいても
 
 では、幼少期から日本にいる生徒はどうなのでしょう。特別な配慮は必要ないのでしょうか?日本で生まれたり、小学生の低学年ぐらいで来日した生徒の場合、母語よりも日本語の方が流ちょうなのに授業についてこられず、「低学力」と見られてしまうことがよくあります。これは両親の日本語の教育力や、学習言語の取得時期などの問題が指摘されていますがいずれにしてもその学力差は高校入試に向かうときに大きな壁となって立ちふさがっています。

言葉以外の壁
 
 教育制度は国・地域によって様々です。出身地で割り算を勉強したばかりだったのが、日本に来たら小数の割り算をやっていた、という話もよくあります。中国北部出身の生徒は、学校では英語ではなくロシア語を勉強していました。こうした学習内容のギャップを補うため、実年齢よりも学年を落として編入させることもありますが、体格や精神年齢が周囲と違うことからうまく適応できなかったという例もあります。また、横浜市では原則的に実年齢の学年に編入させています。中学校を卒業してから来日した生徒が、地元の中学校にも夜間中学にも入れない場合も多くあります。学年を落として受け入れて、日本語での学習に慣れた時点で「飛び級」させるなど、義務制での柔軟な受け入れ体制が必要です。

家庭・保護者に高校入試の情報提供を
 
 外国出身の保護者の中には、行政や学校からのインフォメーションが不十分だったり、言葉の問題から、入試や日本の教育制度について知識が十分でない方も多くいらっしゃいます。高校進学という大きな分岐点で保護者がその相談に乗れないというのは生徒にとってどれだけ心細いでしょう。「進学ガイダンス」は生徒だけではなく、保護者のためのものでもあるのです。もちろん、保護者の次に身近にいる(はずの)教員がケアをすることも必要です。