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サッカーあれこれ(19)

◎絶好の席で観戦
 9月6日、クラマーさん訪問の折りに、私はミュンヘンのアリアンツ・アレーナで、明石さん、小澤夫妻と一緒に「2014年ブラジルW杯予選のドイツ対オーストリア」の試合を、観戦する幸運に恵まれました。
 アリアンツは生命保険会社の名前です。ネーミングライツ(命名権)期間は30年と聞きました。(余計なことですが、炉辺閑話風にいいますと、あのベッケンバウアーが見習いとして最初に就職したのが、このアリアンツ保険です。年上の女性を孕ませたことは有名な話)。アレーナは2006年ドイツW杯のために建設され、開幕戦がやられたところです。(私はW杯記者の資格をJFAから剥奪されたので、残念ながらこの開幕戦など見れませんでした。痛恨の極み)
 ところで、われわれの席ですが、バックスタンド中央のピッチから10段ばかり上。サッカー専用ですからピッチがすぐそこにありました。サイドラインあたりの選手の、ぶつかる音や息使いまでが聞こえる。汗まで飛んでくるとは言いませんが(私は1982年スペイン大会のイタリア3-2ブラジル戦は最前列で選手の汗を感じました)、とにかく迫力満点の絶好の席でした。
 日本は再びW杯開催の立候補をめざしているようです。たしかにJリーグのおかげでスタジアムは増えました。立候補もいいでしょう。だが、サッカー専用は浦和、鹿島などいくつかだけです。すべてが専用になるくらいでなくては、まだまだダメ、サッカーが実感できない、日本の観客は不幸だ、Jリーグの落ち込みも当然だと、私は思いますね。

◎個性的なドイツのファン
 入場料は通常約1万円ですが、明石さんがバイエルン・ミュンヘンの後援会会員の顔を生かして約8500円と安くしてもらいました。数年前、ここでブンデスリーガを見たことがあるのですが、第一印象はとにかくデカいこと。その時も人、人、人。観衆はまるで借金取りが借金を忘れ、財布を落としても気が付かない(変な表現ですね)といった興奮状態でした。この日も収容人員いっぱいの6万8千席完売と発表されました。
 たまりませんな、いつもヨーロッパで感じるこのウキウキした雰囲気。とくに最近のドイツはブンデスリーガの2部でも、常に2、3万人を集めるほどです。周辺各国リーグが赤字に苦しんでいるのがウソみたい。ドイツ人はサッカーしか趣味が無いのか、と言いたくなるくらいでした。
 観客のサッカーの見方が、日本とちがいます。個性的です。みんな食い入るようにピッチの動きを見ているから、掛け声も「そこだ」「いいぞ」「いまだ」「それ行け」「ヘマするな」と言った調子。クローゼが先取点を挙げると、ほとんど全員が立ち上がりした。W杯予選だったとはいえ、またドイツが勝って当然の試合だったとはいえ、選手みんな真剣そのもので、魂をぶつけあうような試合でした。「応援が選手を育てている」とつくづく感じました。
 ここらあたり、画一的な日本の応援と大違い。いっせいに「おお、日本。おお、日本」とやっているうちは、とうてい日本代表は世界レベルになれない。日本は応援と選手の距離が遠すぎます。彼我のサッカー観の違いでしょうか。
 試合は夜8時半から始まったのですが、昼は明石さんのお世話で、バイエルン・ミュンヘン(BM)の練習場を見せてもらいました。端っこのグラウンドで、腹の出た連中が試合をしていました。聞けばドイツとオーストリアのサッカー記者同士のの親善試合でした。オーストリアが勝ったそうですが面白い。恒例になっているのでしょう。
 案内してくれたBMの広報担当マーチン・ヘゲルさん(サッカー・ダイジェストに寄稿していた元ライター)によると、「BMの入場収入は全体の12%だ」ということ。「えっ、12%?」と聞き返しますと「そうだ、あとの88%はグッズやスポンサーなどからの収入だ」とのこと。驚きましたね。いつも満員、そしていまや33戦負け知らず(10月6日現在)なのに、わずか12%とは。
 クラマーさんから「昔のBMは入場料収入だけで運営していた」と聞きました。サッカー界の様変わり。商業主義によって成り立っていることを実感せざるをえません。

◎サッカー記者60年の眼力
 ちょっぴり自慢したいのは、この試合での、ドイツ全体の動きの中で一人だけちぐはぐな動きをしている背番号「3」の左ウイングバックでした。まるで最近の長友の生き写しのようで、無難にお座なりな横パスばかりで、一向に前に蹴らない。ゲームを動かそうという気概がない(長友はイタリア語ができるせいか、ザック・ジャパンに甘えている。まあ、本大会ではやってくれるでしょうが)。
 隣の明石さんに「あの選手、後半に交代にさせられるよ」と言ったところ、本当にハーフタイムに彼ただ一人が交代させられました。さすが記者歴60年(私のこと)、サッカーを見る目は鋭く並の記者とは違います。無料配布された分厚いプログラムを見ると、退場選手はマルセル・シュメルツァー(ドルトムント)とありました。ドルトムントは10月22日の欧州CLで、アーセナルを破るなど好調です。勝ち越し点を喜ぶ中心にシュメルツァーの姿が見えました。オーストリア戦で、彼はきっと体の調子でもおかしかったのでしょう。
(以下次号)
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