60年目を迎えた元朝日新聞運動部記者・中条一雄のコラム。
中条一雄の炉辺閑話~いろりばたのひまつぶし~
サッカーあれこれ(60)
◎なでしこの活躍
なでしこジャパンは、アメリカに5点もとられてコテンパンにやられましたが、期待以上の活躍でした。
グループリーグから、相手のオウンゴールやPKを貰って際どく1点差で勝ち上がってきました。その不思議な力、これこそ「運も実力の内」と言っていいでしょう。
選手たちの試合全体の流れを読む力は感心させられました。とくに余裕を持って危険を予知しながら、ガッチリ防ぐ守備陣の粘り強さはたいしたものでした。この守備は、私が好きなイタリアのカテナチオを連想させるもので、準優勝の原因でしょう。
帰国した空港では、出迎えの人々から「ありがとう」とか「ご苦労さん」という声が飛び交ったようです。日本のファンはやさしいですね。堂々と戦い力及ばず、いさぎよくきれいに負ける、これこそ日本人のカタルシス。
かつてわれわれの心を揺さぶった「ドーハの悲劇」が思い出されます。あの悲劇で、日本のサッカーは一挙に盛り上がりました。
新聞各紙の、まるで優勝したときのような、1面から社説まで動員した大々的な報道などを考え合わせると、女子サッカーは今度の準優勝で一挙に盛り上がりそうな予感がします。
少女たちのサッカー願望は「なでしこに続け」とばかり爆発的に増えるのではないでしょうか。
◎なぜ強いアジア勢
私が不思議に思うのは、ワールドカップで男子のアジア勢は、昨年のブラジル大会で1チームもグループリーグすら突破できなかった。それほど欧米と実力差があるのに、女子の方は日本、韓国、中国、豪州と、4チームが、なぜグループリーグを突破したのかということです。
韓国は決勝トーナメント1回戦でフランスに負けましたが、あとの3チームはベスト8に進みました。不思議です。
アジアの女性になにか特殊性があるのでしょうか。これは人類学者の領域でしょうが、私は1964年東京五輪バレーボールの「東洋の魔女」を連想していました。大松博文監督を長とした家庭的な優しい中にも厳しさのある団結的な雰囲気です。
佐々木則夫監督は父親の役割を果たし、一家をまとめていたのではないでしょうか。娘たちは父親を尊敬し、その指示のもとに規律正しく、言われた通り柔順に動く。監督も誰ひとり脱落させることなく、選手23人全員を起用する。まさに部活の仲良しクラブです。
日本以外のアジア勢が家庭的だったというつもりはありませんが、体が小さく圧倒的なストライカーもいない日本の女子には、少なくともそんな雰囲気が、強さの原動力になっていたと思います。
◎どう新人を登用する
男子のサッカーの方は家庭的などとは言ってはおれません。個人の強さ、激しさ、天才的なプレーが求められ、人員も激しく入れ替わり、戦略的にもより高度なものが必要となります。時には選手同士が激しく言い合います。女子にくらべると異質のサッカーといえましょう。
私のみるところ、唯一男子のサッカーに近いことをやっていたのはアメリカだけでした。
問題は来年1月の五輪アジア予選です。今回は前W杯の代表17人を起用しましたが、いつまでも古いメンバーに頼っているわけにはいかないでしょう。新しいメンバーを、どういまの雰囲気に取り込んでいくか。佐々木監督の腕の見せ所です。
アジアはレベルが高く強敵ばかり。「運も実力の内」とばかり言ってはおれないでしょう。
(以下次号)
なでしこジャパンは、アメリカに5点もとられてコテンパンにやられましたが、期待以上の活躍でした。
グループリーグから、相手のオウンゴールやPKを貰って際どく1点差で勝ち上がってきました。その不思議な力、これこそ「運も実力の内」と言っていいでしょう。
選手たちの試合全体の流れを読む力は感心させられました。とくに余裕を持って危険を予知しながら、ガッチリ防ぐ守備陣の粘り強さはたいしたものでした。この守備は、私が好きなイタリアのカテナチオを連想させるもので、準優勝の原因でしょう。
帰国した空港では、出迎えの人々から「ありがとう」とか「ご苦労さん」という声が飛び交ったようです。日本のファンはやさしいですね。堂々と戦い力及ばず、いさぎよくきれいに負ける、これこそ日本人のカタルシス。
かつてわれわれの心を揺さぶった「ドーハの悲劇」が思い出されます。あの悲劇で、日本のサッカーは一挙に盛り上がりました。
新聞各紙の、まるで優勝したときのような、1面から社説まで動員した大々的な報道などを考え合わせると、女子サッカーは今度の準優勝で一挙に盛り上がりそうな予感がします。
少女たちのサッカー願望は「なでしこに続け」とばかり爆発的に増えるのではないでしょうか。
◎なぜ強いアジア勢
私が不思議に思うのは、ワールドカップで男子のアジア勢は、昨年のブラジル大会で1チームもグループリーグすら突破できなかった。それほど欧米と実力差があるのに、女子の方は日本、韓国、中国、豪州と、4チームが、なぜグループリーグを突破したのかということです。
韓国は決勝トーナメント1回戦でフランスに負けましたが、あとの3チームはベスト8に進みました。不思議です。
アジアの女性になにか特殊性があるのでしょうか。これは人類学者の領域でしょうが、私は1964年東京五輪バレーボールの「東洋の魔女」を連想していました。大松博文監督を長とした家庭的な優しい中にも厳しさのある団結的な雰囲気です。
佐々木則夫監督は父親の役割を果たし、一家をまとめていたのではないでしょうか。娘たちは父親を尊敬し、その指示のもとに規律正しく、言われた通り柔順に動く。監督も誰ひとり脱落させることなく、選手23人全員を起用する。まさに部活の仲良しクラブです。
日本以外のアジア勢が家庭的だったというつもりはありませんが、体が小さく圧倒的なストライカーもいない日本の女子には、少なくともそんな雰囲気が、強さの原動力になっていたと思います。
◎どう新人を登用する
男子のサッカーの方は家庭的などとは言ってはおれません。個人の強さ、激しさ、天才的なプレーが求められ、人員も激しく入れ替わり、戦略的にもより高度なものが必要となります。時には選手同士が激しく言い合います。女子にくらべると異質のサッカーといえましょう。
私のみるところ、唯一男子のサッカーに近いことをやっていたのはアメリカだけでした。
問題は来年1月の五輪アジア予選です。今回は前W杯の代表17人を起用しましたが、いつまでも古いメンバーに頼っているわけにはいかないでしょう。新しいメンバーを、どういまの雰囲気に取り込んでいくか。佐々木監督の腕の見せ所です。
アジアはレベルが高く強敵ばかり。「運も実力の内」とばかり言ってはおれないでしょう。
(以下次号)
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記名記事の少なかった時代の朝日新聞の中条さんの記事を大事に読みました。それから『週刊朝日』の連載記事は、手にとると最初に読んだものでした。
ぼくは70年代半ばから15年間子どものサッカー指導をしていました。たまたまブラジルのサッカー事情に詳しい人や根性主義のスポーツ観批判する人が身近にいたので、当時としては先進的内容と運営をしていました。だとえば女子も男子と一緒にやっていました。ある女性はFCジンナンでプレーをしました。
中条さんの影響も受けたと思います。テレビの「ダイヤモンドサッカー」と月刊サッカーマガジンが希少な情報源の時代でした。
ヨーロッパのようにスタジアムいっぱいになって観客が歌を歌って観戦するのがうらやましいものでした。今日のように日本でもなるなんて想像もできなく感慨深いものがあります。
中条さんのブログに出会い自分のサッカー体験歴を振りかいる機会になりました。今後も拝読を楽しみに、健筆を期待しております。