醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより   1525号   白井一道

2020-09-20 10:31:26 | 随筆・小説


  
 藤井聡太二冠「自作PC」の値段にパソコンマニアもびっくり 
 


秋葉原にある日本最大規模のパソコンパーツショップ「ツクモeX.」の店員は驚きを隠さない。
「大学などの研究機関や、動画編集を業務とする企業が使うようなパーツです。一般の家電量販店ではまず取り扱っておらず、ウチのような専門店じゃないと手に入らない。ましてや藤井(聡太、18)さんのように将棋ソフトのために購入した人は見たことがない」
 将棋界で快進撃を続ける藤井二冠は棋譜の分析のためのパソコンを自作することで知られているが、9月10日付の中日新聞に掲載されたインタビューで、〈最新のはCPUに「ライゼンスレッドリッパー3990X」を使っています〉と明かした。
 CPUはコンピュータの頭脳にあたるパーツだが、藤井二冠が名前を挙げたのは今年2月に発売された最新モデルで、お値段なんと約50万円。通常の家庭用パソコンのCPUであれば価格は2万~3万円程度である。
 この高級品が「将棋の分析に最適」と評するのは、今年の世界コンピュータ将棋選手権で優勝した将棋AI「水匠」の開発者である杉村達也氏だ。
「CPUの性能で読みの速さが変わります。家庭用パソコンのCPUが1秒間に約200万手読むのに対し、藤井二冠が使っているCPUでは30倍の6000万手読めます。短時間でより多くの局面を検討できるので、効率よく研究できます」
 6月の棋聖戦第二局では、藤井二冠の妙手「3一銀」が、将棋ソフトが4億手読んだ段階では悪手なのに、6億手読むと最善手になることが話題となった。
「普通のCPUなら10分以上かかるが、藤井二冠と同じものなら10秒で導き出せます」(同前)
 将棋ライター・松本博文氏はこういう。
「高性能コンピュータが膨大な分析結果をはじき出しても、咀嚼して自分の力にできるかは別問題。超ハイスペックのCPUを使いこなせる藤井二冠の棋力こそ規格外です」
 天才棋士だからこそ活かせる“手駒”なのだ。
※週刊ポスト2020年10月2日号

醸楽庵だより   1524号   白井一道

2020-09-19 13:04:49 | 随筆・小説



  安保法制成立5年    『赤旗』主張より



 今こそ「戦争する国」の阻止へ
 日本国民の空前の反対世論・運動を無視し、違憲の集団的自衛権行使などを可能にした安保法制=戦争法の成立が強行されて、きょうで5年です。同法の成立は、歴代政府が憲法9条の下で許されないとしてきた海外での武力行使に道を開き、日本を「戦争する国」につくり変える歴史的暴挙でした。この5年間で、米国の戦争に自衛隊が参戦し、武力行使する危険が鮮明になっています。
軍事衝突の危険いっそう
 北朝鮮の核・ミサイル問題をめぐり、米国の著名ジャーナリスト、ボブ・ウッドワード氏の新著『レイジ(怒り)』(15日発売)が波紋を広げています。北朝鮮による大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験などで米朝間の緊張が極度に高まった2017年、トランプ政権の下で米軍が改定した朝鮮半島有事の作戦計画に「80発の核兵器の使用」が含まれていたことを明らかにしたためです。
 17年に自衛隊の制服組トップだった河野克俊・前統合幕僚長も著書『統合幕僚長』(8日発売)で、当時の状況を振り返り、「もし、北朝鮮が計算を誤り、米国のレッドラインを踏み越えたら軍事オプション(選択肢)は現実味を帯びる。米国が軍事攻撃に踏み切った場合、当然、日本には大きな影響がある。その時、自衛隊として取れるオプションは何か?」「私の責任の範疇(はんちゅう)で頭の体操は当然していた」と語っています。
 河野氏はかつて、この自衛隊のオプションが安保法制に基づくものであることを告白しています(「朝日」19年5月17日付インタビュー)。その際、想定したのは、「戦闘地域」でも自衛隊による米軍への兵站(へいたん)が可能になる「重要影響事態」や、米軍への武力攻撃に対し集団的自衛権の行使として自衛隊が反撃できる「存立危機事態」だとされます(同)。核兵器使用を含めた米軍の戦争に、自衛隊が参戦する検討をひそかに進めていたとすれば極めて重大です。
 安保法制は、集団的自衛権の行使や「戦闘地域」での米軍に対する兵站のほか、▽地理的制約なく米軍の艦船や航空機などを防護するための武器使用▽内戦などが続く地域での治安活動や「駆け付け警護」―も可能にしました。
 自衛隊による米艦や米軍機の防護は、初めて実施した17年から19年までに32回に上ります。安倍晋三前首相はこれによって「日米同盟はかつてないほど強固なものになった」とも述べています。
 防衛庁幹部を歴任し、内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)も務めた柳沢協二氏は、米中間の軍事緊張が高まる南シナ海で日米共同訓練が行われていることなどに触れ、「米軍と共同行動する自衛隊は、米艦が襲われたときに武器を使ってこれを守らなければならないのですから、不意の軍事衝突に巻き込まれる危険も『かつてなく強固』になる」と指摘しています(『抑止力神話の先へ』)。

敵基地攻撃能力保有狙う
 菅義偉・新政権は、安倍前政権の方針を継承し、敵基地攻撃能力の保有について年末までに結論を出すため検討を進めています。集団的自衛権の行使などを可能にした安保法制の下で日本が他国を攻撃できる能力を持つようになれば、東アジアの軍事緊張が激化するのは明らかです。安保法制の廃止はいよいよ急務となっています。

醸楽庵だより   1523号   白井一道

2020-09-18 08:10:54 | 随筆・小説


 ウラジオストクは「中国固有の領土」か=始まった極東奪還闘争
                          フォーサイト-新潮社ニュースマガジンより
                                    名越健郎拓殖大学海外事情研究所教授
 9月にアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合を開催したロシア極東のウラジオストクは、2年前の2010年、市の創設150周年を盛大に祝った。ウラジオストクはもともと中国領で、1860年の北京条約によりロシア領に移管。帝政ロシアはこの天然の良港に、「極東を制圧せよ」を意味するウラジオストクという名前を付けた。だが、中国の新しい歴史教科書には、「極東の中国領150万平方キロが、不平等条約によって帝政ロシアに奪われた」との記述が登場した。中国はある日突然、ウラジオストクを「中国固有の領土」として返還を要求しかねない。中露間で歴史的なパワーシフトが進む中、ロシアにとって、尖閣問題は他人事ではない。
未解決はグルジアと日本のみ
 プーチン大統領は2004年ごろから周辺諸国との国境画定を重視し、次々に成果を挙げてきた。ロシアは14カ国と陸上国境を接し、ソ連崩壊後国境画定問題が積み残されたが、プーチン政権はこれまでに、中国、カザフスタン、アゼルバイジャン、ウクライナなどと国境を画定。バルト諸国ともほぼ合意した。ノルウェーとも懸案の海上国境を画定させたし、北朝鮮との17キロの国境線も画定した。

 プーチン大統領は05年、国民との対話で、北方領土問題の質問に対し、「われわれはすべての隣国とのあらゆる係争問題を解決したい。日本も含めてだ」と述べたことがある。大陸国家のロシア人にとって、国境が不透明なことは不安感、焦燥感を生むようだが、石油価格高騰で政治・社会が安定したことから、困難な国境問題の調停に乗り出す余裕が生まれた。周辺諸国で国境線が画定する見通しがないのは、南オセチア、アブハジアの独立を承認した対グルジア国境、それに日本との北方領土問題だけだろう。
 近隣諸国との国境問題で、プーチン政権はまず中国との懸案に取り組んだ。中露国境問題は長い歴史を持ち、1960年代末にはウスリー川の川中島の領有権をめぐって中ソ両軍が武力衝突し、数百人が死亡。中国が圧倒的なソ連軍の兵力を前に敗北し、以後、中国は米中接近に動いた。両国は80年代後半のゴルバチョフ時代に国境交渉を再開。91年に中ソ国境協定を結んで東部国境をほぼ画定、94年にエリツィン政権との間で西部国境も画定した。しかし、極東のアルグン川のボリショイ島、ウスリー川のタラバロフ島、大ウスリー島の3つの川中島をめぐる総面積375平方キロの境界線だけが未画定で、積み残された。

領土折半で合意
 969年2月に発生した中ソ国境の珍宝島(ソ連名=ダマンスキー島)をめぐる紛争で、珍宝島に進入したソ連国境警備隊員(装甲車の上)を連行する中国国境警備隊兵士(手前の後ろ姿)。翌3月には両国による武力衝突に発展した【AFP=時事】
 1969年2月に発生した中ソ国境の珍宝島(ソ連名=ダマンスキー島)をめぐる紛争で、珍宝島に進入したソ連国境警備隊員(装甲車の上)を連行する中国国境警備隊兵士(手前の後ろ姿)。翌3月には両国による武力衝突に発展した【AFP=時事】
 プーチン政権はこの3島の帰属交渉を中国側と秘密裏に進め、04年10月、北京での中露首脳会談で、(1)タラバロフ島は中国領(2)大ウスリー島とボリショイ島はほぼ2分割――という形で電撃的に決着。国境追加協定が締結され、05年に批准書を交換。08年に議定書に署名し、係争地の半分が中国に引き渡された。
 プーチン大統領は合意に際し、「中露の40年にわたる国境問題に終止符が打たれた。両国は英知を集め、相互利益に沿って、互いに受け入れ可能な決断を下した。専門家レベルでは対立した問題を首脳間で政治決着させた」と自賛した。その後、この折半方式はカザフとの国境やノルウェーとの海上国境でも適用されたが、ラブロフ外相は「日本との国境問題は中露とは歴史的経緯が異なり、適用されない」としていた。
 中露交渉は極秘裏に進められ、線引きの詳しい地図も公表されていない。どちらが先に折半を言い出したのかなど、交渉の内幕も不明だ。ハバロフスクなどで、領土割譲への反対デモが議会や住民の間から出たが、プーチン政権は押し切った。極東では、「中国側がプーチン政権幹部に賄賂を贈った」といった噂も流れた。当初は、相互譲歩が喧伝されたが、ロシアは領土を半分割譲し、中国も半分しか獲得できなかった敗北感が残り、近年は互いに言及を避けている。
 ロシアが長年実効支配してきた領土を半分中国に割譲したことは画期的だが、あえて譲歩した最大の理由は、「21世紀の超大国」である中国との紛争の芽を事前に摘んでおきたいとの思惑によるものだ。国境を未画定のまま放置すれば、中国はいずれ、極東への途方もない領土要求を持ち出しかねない。中露国境を早めに画定させた方が得策とロシアは考えたようだ。


醸楽庵だより   1522号   白井一道

2020-09-17 12:25:56 | 随筆・小説




 菅内閣誕生で完成「2012年体制」の悪夢 二階氏が後継指名した最大の狙いは
                                       全国新聞ネット 2020/09/17



 安倍晋三首相が突然の辞任表明記者会見をするや否や、瞬く間に菅義偉官房長官を後継とする流れが二階俊博自民党幹事長によって作られ、2週間余りのメディア旋風を経て首相指名がなされた。いったい何が終わり、何が変わるのか、あるいは変わらないのか。分かるようで分からない有権者も少なくないのではないか。
                                      上智大学教授 中野晃一


 安倍政権か、安倍内閣か

 まず「内閣」「政権」「体制」という、政治に関わる基礎的な概念の整理から入ることとしよう。
 言うまでもなく内閣は、最もシンプルには首相と閣僚、つまり政治家からなる政府のトップのことである。広義では、これに各省庁の官僚制を含めた政府全体を指すこともある。
 これに対して政権は、首相や閣僚たちで構成する内閣に加えて、一方ではその指揮下にある官僚制、そしてもう一方では立法府で政府を支える与党を含む。つまり、内閣と政権は重なる概念である。
 ところが内閣が行政府のみを指し、三権分立の下、国会にある与党とも緊張関係に立ちうる別個の組織であるのに対して、政権は、英国型の議院内閣制に倣って政府と与党の一体化を強調する点が決定的に異なる。
 体制となるとさらに概念は広がる。それは、与党だけでなく野党を含めた政党システムのあり方や、政府と市民社会の関係、憲法はじめ法体系などまでも包摂し、通常、より安定的なものである。
 かつて冷戦期に、政権交代が起きないまま自民党政権が38年続いた政治システムは1955年体制と呼ばれ、その下では内閣の交代や改造が頻繁になされていた。
 さて、本稿で論じたいのは、2012年12月26日から7年8カ月の長きにわたり続いた安倍首相の下で形成されたのが「安倍内閣」あるいは「安倍政権」だったのか、はたまた「2012年体制」とも呼ぶべきものなのか、そして菅への交代によって変わる、あるいは継承され定着が図られるのは何なのか、である。
 ■民主党政権に近似する皮肉
 朝日新聞記事データベース「聞蔵IIビジュアル」を活用して、安倍首相の在職期間中に絞って「安倍内閣」もしくは「安倍政権」のいずれかへの言及を含む記事を検索し、そのヒット件数(記事数)を在職日数で割ったものを、同様に何人かの他の自民党の首相と比較したグラフをここに示す(ただし、中曽根康弘についてはデータベースが1984年からの記事に限ることから期間を狭め、また安倍第2次政権についても執筆の都合から歴代最長在職期間記録を更新した2020年8月24日までとした)。
一見して明らかなのは、2006年から2007年までの第1次にせよ、つい終わりを迎えたばかりの第2次にせよ、「安倍政権」に言及する記事数が突出して多く、かつて一般的だった「内閣」をはるかに凌駕(りょうが)していることである。中曽根や竹下では、「内閣」と呼ぶ記事数が「政権」と言及するものの2倍であったものが、第2次安倍政権では「政権」という呼称が定着し、逆に「内閣」とする記事の3倍を超えている。
 実はこうした報道における用語法や政治認識の変化は、第2次安倍政権に先んじた民主党への政権交代を経て加速した。「政府与党一体化」や「政治主導」を強調した民主党では、鳩山由紀夫、菅直人、野田佳彦のいずれの首相でも、「政権」としての言及が「内閣」をゆうに上回っており、「鳩山政権」に至っては1日あたり9.9件も(「鳩山内閣」は4.7件)記事があったことが確認できた。皮肉なことに、「内閣」でなく「政権」であったという意味では、安倍は小泉よりも民主党政権に近似しているのである。

 ■2012年体制の本質と懸念

 もちろん根本的な違いは、民主党が政府与党一体化や政治主導によって二大政党制の一方を担うことを目指して挫折し3年3カ月で下野したのに対して、第2次安倍政権が7年8カ月も続き、かつ第1次政権の時から、「政権」たることに満足せず「戦後レジームからの脱却」をうたったように、「体制」変革までも射程に入れていたことである。
 つまり安倍は、2012年12月に民主党政権とともに二大政党制が崩壊した際に政権復帰を果たし、官邸支配と呼ばれる強権的な仕方で、不都合な公文書の隠蔽(いんぺい)、改ざん、廃棄までも自ら犯すほどに官僚制を掌握、操縦した。
その後も「1強体制」と言われるまでに与党内そして野党を圧倒したのみならず、マスコミを懐柔、圧迫してきた。さらには違憲の安保法制を強行しただけでなく、憲法53条に基づく臨時国会の開会請求を再三無視し、カジュアルに憲法違反を続けてきた。
 森友学園問題、加計学園問題、桜を見る会問題、検察幹部定年延長問題、カジノ汚職事件、河井夫妻による買収事件など枚挙にいとまがない数々のスキャンダルについて、法の支配をゆがめ、説明責任(アカウンタビリティー)の放棄を繰り返しても、菅官房長官が「全く問題ない」「適切に対応している」「その指摘は当たらない」と言えば済んでしまう、新しい政治体制(レジーム)――言うなれば2012年体制――を築いてきたのである。
 菅が、安倍や二階によって後継首相に選ばれたのは、安倍内閣が倒れても、安倍政権を存続させ、その取り組んできた体制変革を定着させるのに最適な人物だからにほかならない。
安倍政権とそのミッションを引き継ぐ以外に当面存在基盤がない以上、まずは菅内閣が安倍内閣にとって代わっただけで(用語法の変化を反映して菅政権との呼称が多用されるにしても)、実態としては安倍政権がそっくりそのまま続くと言って差し支えない。
 しかし、もし継承したはずの政権枠組みが早晩崩れるようなことがあったら、菅内閣は短命に終わるだろう。他方、菅内閣が安定し長期化した暁には、安倍政権に始まった2012年体制が内閣の交代を経てもなお存続することになり、アカウンタビリティーのない政治がニュー・ノーマルとして常態化することになる。
 菅内閣誕生のご祝儀相場に便乗した早期の解散総選挙がうわさされるが、現在のタガが外れた政治体制の起点に民主党の崩壊があることを想起すると、新生・立憲民主党を中心とした野党共闘が有権者に対して選択肢を示すことができるか、日本政治は重大な岐路に立っていると言わざるを得ない。







醸楽庵だより   1521号   白井一道

2020-09-16 06:39:22 | 随筆・小説



 『リテラ』2020.9.15より
  菅政権は第3次安倍内閣か



 総裁選のさなかから「安倍政権の継承」を連呼していた菅義偉・自民党新総裁だが、まさかここまでとは-----。昨日あたりから、菅政権の人事情報が続々と報じられているが、重要ポストで名前が出ているのは、安倍首相の盟友とお気に入りだらけなのだ。
 留任決定の二階俊博幹事長、留任が有力視されている麻生太郎財務相はいわずもがな。党三役では下村博文・元文科相の政調会長就任が決まった。周知のように、下村元文科相は、安倍首相の側近中の側近で、極右政策の推進役を担ってきた。おそらく、菅政権では政調会長として改憲をゴリ押ししていくのだろう。 
 さらに、菅氏は当初、国民的人気の高い河野太郎防衛相を抜擢するのではないかという予測が流れていたが、蓋を開けてみると、加藤勝信厚労相が最有力になっている。
 コロナ対策であれだけ失策を重ねてきたのに、“政権の要”である官房長官に抜擢とは信じがたいが、加藤厚労相といえば、安倍首相が家族ぐるみの付き合いをしてきた故・加藤六月氏の娘の夫で、最も面倒を見てきた政治家。初入閣の際も、加藤氏の義母と親友である安倍首相の母親・洋子氏がプッシュしたという裏話がささやかれたほどだ。
 官房長官にはもうひとり、萩生田光一文科相の名前もあがっているが、萩生田氏も完全に安倍首相の子飼いだ。いずれにしても安倍首相のプッシュの結果であることは間違いない。
 ほかにも、安倍首相の家庭教師を務めていた平沢勝栄氏の初入閣まで確定的になるなど、安倍首相に近い政治家の入閣はまだまだ増えると見られている。
 『バイキング』(フジテレビ)でフットボールアワーの岩尾望が、「安倍政権の継承」を連呼する菅氏の政権を「第3次安倍政権」と皮肉っていたが、閣僚の顔ぶれをみると、それはもはや冗談でなく、完全な傀儡政権が誕生することが確定的になったというわけだ。
 まったくあきれるほかないが、しかし、菅“新首相”の誕生の経緯をみれば、この結果も当然と言っていいだろう。
 マスコミは菅氏がポスト安倍を射止めた理由として、二階幹事長、麻生副総理の支持を得たことを挙げているが、最も大きいのはやはり、安倍首相の“事実上の後継指名”をとりつけたことだった。
 報道されているように、安倍首相は今年の春先まではむしろ、ポスト安倍を狙うことを隠さなくなった菅氏に警戒感を募らせ、むしろ菅氏を外す動きを見せていた。
 ところが、6月、コロナで失政を繰り返し、支持率が低下すると、安倍首相は“政権投げ出し”を考え始め、菅氏をポスト安倍にすることを検討し始める。
 6月10日には、麻生財務相と1時間にわたって会談、その席で菅官房長官を毛嫌いする麻生財務相を「岸田で石破に勝てるのか」と説得。同時に二階幹事長にもその意向を伝え、これを受けて、6月17日、二階幹事長が菅官房長官に支持を伝えた。
 そして、6月19日に、安倍、菅、麻生、甘利明氏の四者で会食をおこなったのだが、この席で菅官房長官を後継者にする方向が決まったのだという。その後、6月24日に安倍首相と二階幹事長が会食して、“菅後継”は確定した。
「とにかく6月の時点で安倍首相の態度が一変して、急に菅官房長官を推し始めたのは確か。これはもちろん、自分が政権を投げ出したくなり、あとを押し付けるのに菅氏が最も都合が良かったというのはある。しかし、もうひとつ、具体的な日時や場所まではつかめていないが、永田町では6月の早い段階で安倍首相と菅官房長官の間で“人事や政権運営に安倍首相の希望を最大限取り入れる”という密約を交わしたといわれている。安倍首相からは加藤、萩生田、下村の主要ポストへの抜擢に加え、今井(尚哉)補佐官を残すことなども条件につけたといわれている」(全国紙政治部デスク)
 おそらく、安倍首相は菅政権になってもこの“オトモダチ”たちに自分の野望のために働かせ、完全なる院政を敷こうとしているのだろう。
 しかも、安倍首相のオトモダチといえば、ゴリゴリの極右思想と新自由主義思想の持ち主というだけでなく、暴言や失言の常習者で、様々な不正や利権に暗躍してきた連中でもある。
「持病の悪化」とやらに同情していたら、この始末。いったい国民はこの男にどこまでやりたい放題させるつもりなのか。      (野尻民夫)

醸楽庵だより   1520号   白井一道

2020-09-14 07:28:59 | 随筆・小説


  
 『リテラ』より
 大坂なおみ選手が「日本に差別はない」というネトウヨに反論!

  Aマッソの差別ネタ報じるニュースをRTして怒りの一言

 プロテニス選手の大坂なおみ選手が、差別抗議デモをめぐりキレッキレの発信を行っていることは、きのう本サイトでお伝えしたばかりだが、またどうしてもお伝えしたいツイートがあったので紹介したい。
 日本でも多くの心ある人々が差別に声をあげている一方で、「日本には差別はない」という言説が広くはびこっている。大坂選手が、こうした「日本に差別はない」論に、「日本にも差別はある」と突きつけたのだ。
 既報のとおり、大坂選手は、差別に抗議の声をあげるとともに、差別をなくすために、より多くの人が沈黙せずに声をあげ動いてほしいと発信している。6月4日には、大坂選手が生まれ3歳までを過ごした日本・大阪で、本日7日午後行われる差別抗議デモの告知をシェアし、普段は使わない日本語で〈お願いします〉と参加を呼びかけていた。
 この大坂選手の呼びかけに対し、日本のネトウヨと思しきアカウントが、〈日本には差別はない。引っかき回すな(There is no racism in Japan. Do not make a disturbance)〉と大坂選手に絡んだ。

 するとこのクソリプに対して、大坂選手は、昨年日本のお笑いコンビ・Aマッソが、「大坂なおみに必要なものは?」というふりに対して、「漂白剤。あの人日焼けしすぎやろ」という差別ネタを披露し、後に謝罪したことを報じる英語のニュースをリツイートし、ローマ字で〈NANIIIIII?!〉=「なにいいいいい?!」と投稿したのである。
 日本にも差別はある。大坂選手は、「日本に差別はない」論をハッキリと否定したのだ。大坂選手の指摘はその通りだ。しかも大坂選手に限っても、Aマッソの件はほんの一例にすぎない。大坂選手をめぐっては、日清のアニメCMのホワイトウォッシュ問題もあったし、ニューヨークタイムズが大坂選手の母・環さんの差別体験について記事にしたこともある。
 もちろんこれは大坂選手だけの話ではない。日本でも、アフリカ系をはじめとする多くの外国人が、個人個人の意識や感情に基づく偏見・差別のみならず、制度的にも差別的扱いを受け著しい不利益を被っている。
 とりわけ、国連からも「現代の奴隷制度」と批判された外国人技能実習生や外国人留学生、アメリカにおけるアフリカ系と同様に歴史的・制度的に抑圧されてきた在日コリアンは、このコロナ禍においても、現在進行形で、政府や自治体により極めて不当な差別的仕打ちを受けている。
 私たちはBLACK LIVES MATTERを支持するとともに、日本における差別をも自覚し抗議の声をあげていくべきだ。
 プロテニス選手の大坂なおみ選手が、差別抗議デモをめぐりキレッキレの発信を行っていることは、きのう本サイトでお伝えしたばかりだが、またどうしてもお伝えしたいツイートがあったので紹介したい。
 日本でも多くの心ある人々が差別に声をあげている一方で、「日本には差別はない」という言説が広くはびこっている。大坂選手が、こうした「日本に差別はない」論に、「日本にも差別はある」と突きつけたのだ。
 既報のとおり、大坂選手は、差別に抗議の声をあげるとともに、差別をなくすために、より多くの人が沈黙せずに声をあげ動いてほしいと発信している。6月4日には、大坂選手が生まれ3歳までを過ごした日本・大阪で、本日7日午後行われる差別抗議デモの告知をシェアし、普段は使わない日本語で〈お願いします〉と参加を呼びかけていた。
 この大坂選手の呼びかけに対し、日本のネトウヨと思しきアカウントが、〈日本には差別はない。引っかき回すな(There is no racism in Japan. Do not make a disturbance)〉と大坂選手に絡んだ。
 するとこのクソリプに対して、大坂選手は、昨年日本のお笑いコンビ・Aマッソが、「大坂なおみに必要なものは?」というふりに対して、「漂白剤。あの人日焼けしすぎやろ」という差別ネタを披露し、後に謝罪したことを報じる英語のニュースをリツイートし、ローマ字で〈NANIIIIII?!〉=「なにいいいいい?!」と投稿したのである。

 日本にも差別はある。大坂選手は、「日本に差別はない」論をハッキリと否定したのだ。大坂選手の指摘はその通りだ。しかも大坂選手に限っても、Aマッソの件はほんの一例にすぎない。大坂選手をめぐっては、日清のアニメCMのホワイトウォッシュ問題もあったし、ニューヨークタイムズが大坂選手の母・環さんの差別体験について記事にしたこともある。
 もちろんこれは大坂選手だけの話ではない。日本でも、アフリカ系をはじめとする多くの外国人が、個人個人の意識や感情に基づく偏見・差別のみならず、制度的にも差別的扱いを受け著しい不利益を被っている。
 とりわけ、国連からも「現代の奴隷制度」と批判された外国人技能実習生や外国人留学生、アメリカにおけるアフリカ系と同様に歴史的・制度的に抑圧されてきた在日コリアンは、このコロナ禍においても、現在進行形で、政府や自治体により極めて不当な差別的仕打ちを受けている。
 私たちはBLACK LIVES MATTERを支持するとともに、日本における差別をも自覚し抗議の声をあげていくべきだ。

醸楽庵だより   1519号   白井一道

2020-09-13 11:41:43 | 随筆・小説

 
 潰瘍性大腸炎の再発を理由にして安倍晋三氏は総理を辞職した。この理由は嘘なのか。



 ジャーナリスト山岡俊介氏の有料配信のネットメディア『アクセスジャーナル』がある。ここに次のような記事が載せてある。
 「8月28日の記者会見時の安倍首相自身の説明によれば、辞任表明したのは、持病の潰瘍性大腸炎が再発したためとされる。
 ところが本紙の元には、こんな情報が入って来た。
「当初、官邸側は慶応大学病院に診断書を出してもらい、それを公表するつもりだった。記者会見に医者同席の案もあった。ところが、大学病院側は拒否。なぜなら、潰瘍性大腸炎は再発しておらず、ストレスから来る一時的な症状悪化に過ぎないから。いくら何でも“虚偽診断”はできないと。
そして、実は慶応大学首脳は、“病気を政治に利用した”ということで内心はカンカンだというのです」
この告発者、その確かな情報源も具体的に明かしてくれた。
しかしながら、これを明かすとその情報源、引いては慶応大学側に迷惑がかかるので明かせないことをご容赦願いたい。
また、この告発者は『リテラ』というニュースサイトの8月29日に出た記事(冒頭写真)に触れ、いい目の付けどころをしているともいった。
是非、その記事を見ていただきたいが、安倍首相は会見で6月の定期健診で再発の兆候が見られたにも拘わらず、その時期以降の首相動静をチェックすると、連日会食、しかも仏料理にステーキなど、本当に再発の兆候が見られていたなら、絶対に避けるべき食事をしていると指摘した。
しかも、同記事によれば、第1次安倍政権を投げ出した前回も、潰瘍性大腸炎が原因とされるが、この際に同じく慶応病院の医師団が公表した診断は「潰瘍性大腸炎」ではなく、強度のストレスと疲労による「機能性胃腸症」だったと。それが今日、潰瘍性大腸炎が事実とされるのは、1回目の政権投げ出し後の08年1月発売の『文藝春秋』に安倍首相が寄せた手記でそういっているに過ぎないという。」
『リテラ』8月29日の記事
「8月17日、安倍首相が慶應義塾大学病院を受診したというニュースが流れた直後、本サイトは「公然の受診や健康不安情報流出は安倍首相の“政権投げ出し”を正当化するための演出ではないか」という疑惑を指摘した。
 昨日28日の辞任表明会見をみて、その疑惑はますます濃厚になったというべきだろう。それは、安倍首相自身の病気や健康状態、辞任決断の経緯などに関する説明が、矛盾だらけのシロモノだったからだ。
 まず、安倍首相は、今回、辞任を決断した原因が持病の潰瘍性大腸炎の再発であるとして、その経緯をこう語った。
「本年、6月の定期健診で再発の兆候が見られると指摘を受けました。その後も薬を使いながら、全力で職務に当たってまいりましたが、先月中頃から、体調に異変が生じ、体力をかなり消耗する状況となりました。そして、8月上旬には潰瘍性大腸炎の再発が確認されました」
 つまり、安倍首相は、6月の段階で潰瘍性大腸炎再発の兆候があることを知り、7月中頃には体調が悪化していたというのだが、しかし、それにしては安倍首相、その6〜7月にやたら会食ざんまいの生活を送っているのだ。
首相動静から、ざっとあげてみよう。まず、6月19日には、東京・虎ノ門のホテル「アンダーズ東京」のレストラン「ザ タヴァン グリル&ラウンジ」で麻生太郎副総理兼財務大臣、菅義偉官房長官、自民党の甘利明税制調査会長と会食しているが、この店は〈高温のオーブンで香ばしくジューシーにグリルした熟成肉〉(HPより)がウリの店だ。
 安倍首相はその翌日、6月20日にも永田町の「ザ・キャピトルホテル東急」のレストラン「ORIGAMI」で秘書官と食事。さらに、6月22日には、丸の内の「パレスホテル東京」の日本料理店「和田倉」で自民党の細田博之・元幹事長と、6月24日には赤坂の日本料理店「たい家」で自民党の二階俊博幹事長、林幹雄幹事長代理と食事している。
 安倍首相が「体調に異変が生じ、体力をかなり消耗する状況になっていた」と説明した7月中旬以降もこの会食ざんまいは変わらない。というか、6月よりさらに料理がこってりしている感じさえする。
 7月21日には松濤のフランス料理店「シェ松尾 松濤レストラン」で長谷川榮一首相補佐官、前秘書官の鈴木浩外務審議官、秘書官らと食事し、翌日22日には銀座のステーキ店「銀座ひらやま」で二階幹事長、林幹事長代理、自民党の元宿仁事務総長、野球の王貞治氏、俳優の杉良太郎氏、政治評論家の森田実氏、洋画家の絹谷幸二氏と会食。
 さらに、7月30日には、丸の内の「パレスホテル東京」内の「和田倉」で自民党の岸田文雄政調会長と会食している。和田倉は日本料理店だが、新聞各紙の報道によれば、安倍首相はここでもステーキを注文。鶏の生姜焼きを注文した岸田政調会長とビール、ウイスキーの水割りを酌み交わしたという。
 これがほんとうに「潰瘍性大腸炎の再発の兆候」があり、「体調が悪化」した人の食生活なのだろうか。潰瘍性大腸炎の活動期は、消化しやすく、高たんぱく・低脂肪の大豆製品や鶏肉、魚類などが推奨され、脂肪の多い食品や、油を使用している料理、アルコール類は控えめにするよう指導されるはずなのだが。」

醸楽庵だより   1518号   白井一道

2020-09-12 10:36:39 | 随筆・小説



「ふるさと納税制度を導入したのが菅氏だ。その問題点」



自民党総裁選が9月14日に投開票となる。現時点では、国会議員票の約7割を固めた菅義偉官房長官が選挙戦を優位に進めている。
 その菅氏が選挙戦で実績としてアピールしているのが、ふるさと納税制度の導入だ。菅氏は、総務相時代の2007年に制度の創設を表明し、2012年に官房長官に就任してからは控除の限度額を倍増させた。
 ふるさと納税は、基礎控除(自己負担額)の2000円を除き、寄付した金額がそのまま税額控除される。さらに、寄付先の自治体から寄付金額に応じた返礼品が届くので、寄付をすればするほど寄付者が“もうかる”仕組みだ。
 この制度に反発したのが、地方税を所管する総務省だ。ふるさと納税は自治体間の返礼品競争を招くとともに、高所得者ほど節税効果が高まる。しかし、制度の問題が改善されることはなかった。なぜなら、提唱者が安倍政権のナンバー2である菅官房長官だったからだ。
 総務省では2014年、自治税務局長(当時)を務めていた平嶋彰英氏が菅官房長官に対して直接、制度上の問題点を指摘していた。しかし、事務次官候補の一人だった平嶋氏は翌年7月に自治大学に異動となり、省外に出された。ふるさと納税に反対したことによる平嶋氏への左遷人事と言われ、霞が関の官僚を震え上がらせた。
 いったい、官邸で何が起きていたのか。現在は立教大学で特任教授を務める平嶋氏が実名で当時の様子を語ってくれた。
──ふるさと納税の寄付控除の上限枠倍増は、どのようにして求められたのですか。
 2012年12月に第2次安倍政権が発足して、ふるさと納税制度をつくった菅義偉さんが官房長官になりました。13年は消費増税の問題などがあったのでふるさと納税には手つかずだったのが、菅さんは、2014年になって寄付控除額の倍増と、税金の還付手続きで確定申告を省略する「ワンストップ特例」の導入、2000円の基礎控除の廃止を求めてきました。
──総務省では反対意見が多かったのでしょうか。
 賛成する人なんていません。総務省の役人どころか、少しでも税制度のことを知っている人なら「こんな制度はおかしい」と思っています。自民党でも、制度の変更を頑張っていたのは菅さんぐらいではないでしょうか。
 実際に、自民党に説明に行った時も国会議員の方から「受益者負担(公共サービスを受ける人が税負担をするという原則)はどうするんだ」というご意見もありました。
──菅さんは、ふるさと納税は自分の生まれ育った所に税金を払うことができる制度だとアピールしています。
 では、日本に在住している外国人が、子供を日本の学校に通わせながら「税金は母国に払う」と言ったらどうしますか。賛成する日本人はほとんどいないでしょう。
 また、自治体間の返礼品競争が激しくなることもわかりきっていました。その結果、アマゾンのギフト券を返礼品として配る自治体も出てきました。事実上の現金還元です。こうなると、自治体も返礼品を豪華にしていかなければならない。結局は、高知県奈半利町でふるさと納税制度をめぐって町職員を巻き込んだ汚職事件まで起きてしまいました。
──たしかに、ふるさと納税は基礎控除の2000円を除いて寄付額の全額(現在は住民税の2割が上限)が控除されるうえに、返礼品を得ることができます。確実な節税方法ですが、税金を払って返礼品をもらうことは専門家から批判も多いです。菅官房長官が控除額を住民税の1割から2割に引き上げようとした時、問題点を伝えたのでしょうか。
 2014年12月、レクの資料と『100%得をする ふるさと納税生活』(扶桑社)という本のコピーをクリアファイルに入れて、内閣官房長官の執務室に行きました。この本には、年収1億円ほどと思われる著者が、600万円のふるさと納税をすることで税金の還付を受け、さらに手数料を除いた599万8000円に対する返礼品について<お取り寄せグルメ>と表現し、<これ、まじで生活できちゃうじゃないか……>と書いてありました。
 私としては、当時は消費増税の負担を国民に求めていた時だったので、ふるさと納税が高額納税者の節税対策になっている現状を示し、制度の問題点を説明しました。
──菅官房長官はどう答えたのでしょうか。
「地元に貢献したくて寄付する人もいる。そういう人間ばかりではない」と言うだけで、制度上の欠陥については理解を示してもらえる感じではありませんでした。「これはダメかな」と思ったのですが、資料だけは読んでもらいたいと思って、クリアファイルに入れて執務室に置いてきました。
 すると、その後にすぐ、内閣官房の職員が私の所にコピーをわざわざ返しに来ました。その後には総務省の上層部からも電話がかかってきて、これ以上は何も言わないように忠告されました。
──翌年の7月に、平嶋さんは自治大学校長に異動となります。事務次官候補だった平嶋さんが省外に出されたことで、安倍政権に異論を唱えた人にたいする「見せしめ人事」との声もあがりました。
 私の人事については、高市早苗総務大臣が記者会見で法令に則って「適材適所で任命する」と答え、菅さんも国会で「まったくの事実無根」と答弁していますから、私が何か付け加えることはありません。
 ただ、クリアファイルの件から年が明けた2015年の初めに、高市大臣から「菅さんと何があったの? 謝りに行ってきなさいよ」と言われたことはありました。ですが、官僚として制度上の欠陥を指摘するのは当然の仕事なので、謝る必要はないと思ってそのままにしていました。
 こういった経緯もあったので、人事については何かあるかもしれないなとは思っていました。
──官房長官に意見することに、怖さはなかったのですか。
 日本が戦争で負けたのは、米国と戦っても負けることはわかっていたのに、軍人を含む官僚たちが政治家に客観的な事実を報告しなかったからです。政治家にとって耳の痛い話でも、役人は事実をちゃんと報告することが仕事です。それをしなかったから、たくさんの悲劇が起きた。
 私としては、事実を伝えることは役人としての当然の仕事で、このことについては今でも後悔はありません。
──ふるさと納税では、地方自治体で働く職員の負担増も問題になっています。
 自治体の納税課で働く職員を描いた『ゼイチョー!』という漫画をご存知でしょうか。この漫画では、税金を滞納する人に対してどうやって税金を払ってもらうかについて描かれています。
 会社員の方は給料から天引きで税金が引かれているので知らない人が多いのですが、税金の滞納者は生活が苦しい方がほとんど。シングルマザーで水商売をしながら子供を育てている女性など、本当に税金を払えない人がたくさんいます。そういった人に対しても、職員は「今すぐ全額払えなくとも、地域社会の会費なので、必ず払ってもらわなければなりません。分割で払いましょう」などと説得して、日々徴収作業をしているのです。
 その一方で、高額所得者が自分の住んでいる自治体に税金を払わずに、高級肉やカニなどをもらっている。税金とは、国民の財産から現金を無理に納めてもらうという意味で、役人にとって神聖な仕事です。ふるさと納税は、そういった神聖な税制度の根幹を揺るがすものなのです。
 誤解しないでいただきたいのは、私は、ふるさと納税をして返礼品を得ている人を批判しているわけではありません。ふるさと納税は、やった方が経済的合理性があるのですから、高額所得者が返礼品をもらいたいと思うのは当然のことです。問題は、こういう制度をつくってしまったこと。総務省の後輩たちには申し訳ない気持ちです。私としては、もっと別のやり方があったのではないかと、今でも忸怩たる思いです。
──現在、自治体が提供する返礼品は、送料や手数料などの経費を含めて寄付額の5割までに制限されています。一方で、返礼品を紹介するウェブサイトが人気を集めています。
 経費を含めて5割までということは、寄付した人の金額の5割が税収から失われているということです。返礼品を紹介するウェブサイトは、ふるさと納税の金額から15%ほどの手数料を得ていると報道されています。近年ではテレビなどでウェブサイトの広告が出ていますが、これも原資は地方自治体の税収になるはずだった税金です。
──ふるさと納税制度をめぐっては、アマゾンギフト券などの返礼品で寄付者を集めた大阪府泉佐野市が制度の対象外となり、同市が国に裁判を起こしました。最高裁では、高裁の判断を覆して泉佐野市が勝訴しました。
 総務省が負けたのは当然です。返礼品は法律で禁止されていないのですから。むしろ、高裁で総務省が勝ったことの方が不思議でした。総務省が返礼品を制限する通知を出しても、法的な根拠がなければ裁判では勝つことができないだろうなと思っていました。
──すでに総務省を退官しているとはいえ、自ら関わった制度の成立のウラ事情を話そうと思ったのはなぜでしょうか。
 菅さんとしては、役人の意見を政治家が押さえつけ、自らの政策を実現させることがリーダーシップだと思っているのかもしれませんが、ふるさと納税は、税制度に対する国民の不信感を高めることになります。
 私は、膵臓がんにかかり、昨年は脳梗塞になって現在はリハビリ中です。それでも、メディアの方がふるさと納税の成立までの経緯を検証したいというのであれば、それは制度に関わった当事者の一人として、説明する責任があると思っています。
(聞き手/本誌・西岡千史)

醸楽庵だより   1517号   白井一道

2020-09-11 16:38:25 | 随筆・小説



   儀式が失われていく社会


 
華女 隣の息子さん、最近学校に行く姿を見なくなったけれど、どうかしたのかしら。
句郎 学校に行く時間になると熱が出るという話をこの間、隣の主人から聞いたよ。
華女 毎朝、登校時間になると熱が出るなんて、少し変じゃない。そんなことってあるのかしら。だってもう中学生でしょ。
句郎 登校時間が過ぎるとケロッと熱は下がり、元気になるらしい。自分の部屋に籠り、ゲームをしているらしいよ。
華女 もう学校に行かなくなって、どのくらいになるのかしら。お母さんも手に負えなくて放っているみたいよ。
句郎 親にとっては心配だよね。聞いちゃ、悪いなと思って聞くこともできないしね。
華女 私、河合隼雄の本を何気なく読んでいたら、不登校の子供の話が出ていたので読んでみたのよ。隣の息子さんと同じような症状の子供さんの話が出ていたわ。これから学校に行かなくちゃいけないと思うと、熱やお腹の痛みなど、いろいろな身体症状が出て来て、その時間が過ぎるとケロッと治ってしまうというようなことが書かれていたわ。
句郎 登校拒否症状が隣の息子さんにはあるということなのかな。
華女 そうなのかもしれないわ。登校拒否する子供は発達の過程に社会性が欠けている。いや子供の発達の過程に社会的問題があるからではないかと私は河合隼雄氏の著書を読んで思ったわ。
句郎 子供の発達の過程に今の社会の在り方が反映し、今の社会の在り方が子供の学校への登校を拒否する症状をうんでいるという事なのかな。
華女 結婚について考えてみると男の人と女の人とが合意して一緒に生活し始めることが実体的な結婚よね。もちろん同棲ということもあるけれども、同棲して結婚ということもあるでしょう。同棲も結婚も実体としては一緒よね。
句郎 でも結婚と同棲は違うように思う。同棲の場合は簡単に別れられるように感じるが、結婚すると別れることが難しいように思う。結婚するより離婚することは困難だという話はよく聞くよね。
華女 同棲と結婚との違いは何が違うのかしら。
句郎 結婚は社会的なものであるが、同棲は私的なものだからじゃないのかな。
華女 結婚は両親族との縁戚関係も生じるということね。同棲の場合は、一緒に住んでいる男女だけの問題だけれども、結婚は両親族との関係が生じるということね。そのことが結婚は社会的なものだということなのね。
句郎 結婚の場合は結婚式という儀式をするでしょ。今でも仏滅の日に結婚する人はいないと言うじゃない。
華女 仏滅の日に結婚式をする人がいないから仏滅の日の結婚式場は安いと言うじゃない。
句郎 結婚式というのは立派な儀式なんだ。この儀式をすると結婚したという実感が生れてくる。
華女 そうなのよね。私も結婚式をして良かったと思っているわ。事情があってやむを得ず結婚式ができなかった人が結婚して25年を経て、結婚式をあげた女性が涙ながらに話しているテレビを見たことがあるわ。
句郎 生活を秩序するものとして儀式は必要なもののようだ。例えば暦にしても五節句というものが昔はあった。一月七日の朝に春の七草(セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ)の七草粥を作り、ようやく芽吹いた春の七草の「気」をいただき、その一年の無病息災を願った。三月三日は桃の節句。誕生した女児を祝福し、健やかな成長を願った。五月五日は端午の節句。誕生した男児を祝福し、健やかな成長を願った。7月7日は七夕の節句。牽牛織女の二星を祭り、若い男女の逢瀬を願った。9月9日は重陽の節句。高きにのほり、老人の不老長生、無病息災を願った。このように子供から老人まで、一人一人の存在を親族全体で受け入れ、言祝ぐ儀式があった。このような儀式が人間を成長させ、その年にあった役割を自覚する儀式があった。この儀式が人間存在を社会化する役割を果たしていた。このような儀式が廃れていく中で人間精神に異常が起きて来た。そのような人間精神の異常現象として、登校拒否、不登校現象というものが起きてきているということなのかな。

醸楽庵だより   1516号   白井一道

2020-09-10 12:07:51 | 随筆・小説


   
 デモクラシータイムス「3ジジ放談」を聞く



華女 三人のお爺ちゃんが政治について言いたいことを言う番組ね。
句郎 早野透さん、佐高信さん、平野貞夫さんの三人が言いたい放題のことをいう番組のようだ。この中に地上波のテレビ政治ニュースや解説番組では決して聞く事のできない真実があるようにも感じている。
華女 今回はどのような話だったのかしら。
句郎 平野さんの話に興味が掻き立てられた。まず、安倍総理の辞任について、医師団からの発言がないということを話していた。
華女 総理大臣が病に倒れ、総理の職を辞した方がいたわね。小渕首相は脳梗塞を患い、辞任した総理だったわね。
句郎 その時は医師団から病についての発表があった。早野透氏がそうだったなと、発言していた。しかし今回の安倍総理の病状についての医師団からの発表はなかった。ただ潰瘍性大腸炎が再発したと本人が説明しただけだった。確かに体の調子が悪いのは間違いのないことのようだけれども、なぜ医師団からの発表がないのか。それには何かを隠したい理由があるのではないかと言っていた。
華女 安倍総理に何かを隠したいことでもあるのかしら。
句郎 佐高信氏が次のようなことを言っていた。2007年7月の参院選では自民党が惨敗したが、安倍首相は続投を表明し、8月27日に改造内閣で再起をかけた。しかし農業共済組合の補助金不正受給問題で当時の遠藤武彦農水相が辞任するなどの不祥事が続いた。安倍首相が突然の辞任を発表したのは、2007年9月12日だった。その2日前の9月10日には、臨時国会で所信表明演説を行い続投の意向を示しており、突然の辞任表明に皆、驚いた。なぜ安倍総理は突然辞任したのかというと、それは安倍総理の3憶円脱税事件があったと、佐高氏はニヤリとして言っていた。
華女 安倍総理の3憶円脱税事件とは、どのような事件だったの。
句郎 父親の安倍晋太郎が無くなり、安倍事務所を晋三氏が相続した際の相続税脱税事件だったようだ。この事件を揉み消すために安倍晋三氏は総理の職を辞したのではないかと佐高氏は述べていた。
華女 今回も安倍総理には何か疚しいことがあるのではないかということなのかしら。
句郎 それは河井杏里議員の公選法違反事件のようだ。
華女 河井議員の公選法違反事件と安倍総理は関係があるのかしら。
句郎 自民党本部から河井杏里議員に一億五千万円の選挙資金が交付されたと言われている。参議院広島地方区は与党と野党で一議席づつ分け合ってきた選挙区だった。そこに自民党候補者を二人立てて、自民党が独占しようとしたのが、今回の事件の発端だった。河井候補がしたことは同じ自民党の溝手顕正候補者の支持者たちに選挙地盤を育成する目的でお金をばら撒いた。野党候補の地盤にお金をばら撒くのではなく、溝手陣営の地盤にお金をばら撒いた方が効果的だと考えたからではないかと思う。自民党議員は票をお金で買っている。これが公選法違反ということになればお金の出どころ、自民党本部が打撃を受けることになる。自民党本部と検察との間に戦いが始まっている。その発火点が黒川検事長の定年延長問題だった。この戦いに安倍総理は敗北した。黒川氏を検事総長にすることに失敗した。河井氏の公選法違反事件の結果を想像し、安倍総理は辞任したのではないかと佐高氏は述べている。河井氏の公選法違反事件だけではなく、森友事件で財務省近畿財務局の職員が自殺した事件があった。わたしは日本国民に雇われていると常日頃自覚し、国民のために仕事をしていると思っていた職員が国民の意志に反する行為をしたと自覚した赤木さんは自分で自分を罰して亡くなった。亡くなった奥さんがなぜ夫はそのような悪事をさせられたのか、国民の意志に反するようなことをなぜ政府はしたのか、このことを知りたいと裁判を起こした。河井杏里議員の公選法違反事件と森友事件の裁判、この二つの事件を揉み消したいというのが安倍総理の辞任だったと3ジジたちは言った。