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主夫の徒然なるままに

「中学受験はしないという選択」財部真一



「塾講師が本音で語るー中学受験はしないという選択(財部真一)2024」 を読んでみた。

 東京では、小学生の5人に1人が中学受験をするそうだ。私の住む地方では、中学受験をする生徒は、少ない。が、大手の塾では、中学受験を活発に推し進め、利益をあげている。高校受験をメインにした塾で教えてきた経験上、中学受験は詳しくない。そこで、この本を読んでみた。

 私が教室長をしている教室では、年に数回、全体保護者会というものを実施した。個別に一人一人の保護者と面談するのではなく、30人前後の保護者の方々に来ていただいて、いろいろなお話をさせてもらった。そのなかで、いつも強調していたことは、今、「教育は、情報戦」だということである。『「知らない」「昔と同じと思っていた」では、子供たちは、たいへん損をすることになる』このことを強調して、保護者の方々に最新の情報を伝えてきた。


 そういう私も塾講師を引退して数年、教育界の最新情報に接すると、その変化に驚くことが多くなってきた。中学受験もいろいろな角度から情報を得たつもりだったけれども、この本から「なるほど」という部分に気づかされた。

 この本の<はじめに>では、中学受験を否定するために書いたのではないと述べられている。しかし、だれでもが中高一貫校を目指すべきかどうかは、一旦立ち止まって考えてみようと言うことだ。
 
 中高一貫校を目指す理由は、ずばり一言で言って「一流の大学に合格すること」につきると思われる。そのために必要なものは、

  母親の『狂気』と父親の『経済力』

 一流の大学に合格実績を持つ中学校に入学させるためには、算数の難問を解ける力が必要だが、その問題は、国立大学医学部生でも解けない問題が含まれる。計算だけとっても、

 植木算・周期算・集合算・和差算・差分け算・つるかめ算・差集め算・過不足算・平均算・消去算・年齢算・分配算・倍数算・相当算・損益算・濃度算・仕事算・のべ算・ニュートン算・旅人算・通貨算・流木算・時計算

 算数の計算だけでこれだけのものをこなす努力と時間。個人的にどうしても、中国の『科挙』を思い起こす。科挙に合格さえすれば、一族の安泰と高給が約束される。それも40歳でも50歳でも合格さえすれば。だが、清朝末期でにも科挙を続け、論語などを必死に勉強し、世界の強力な科学を学ばずして、西洋列強の餌食となった。その中学入試のための算数の勉強は人生と社会に有意義であろうか

 問題は、高校受験や大学受験と違い、中学受験は、「親主導」での勉強になるとである。 早ければ小3、だいたい小4で塾通いが始まる。 母親の『狂気』なくして一流進学中高一貫校の合格は難しい。 さらに、その母親の狂気を支えるのは、専業主婦を許す父親の『経済力』、年間100万円はかかる塾費用、3年で300万、中学3年でかかる私立中学費用100万×3年、計600万円の費用が9歳から14歳頃までに必要となる。 東大や医学部合格なら安いものかもしれないが。

 中高一貫校のメリットは解説不要だと思われる。一流の大学にはいるためにはベストの選択だと推測されるから。もちろん、アンチのこの本では、中学受験や中高一貫校での勉強や生活のデメリットにも多く解説されている。


 「深海魚」成績が全く上昇せず学校内成績がずっと下位にいる生徒をさす。 残酷な言葉である。私の教室は、高校受験をメインとする塾なので私立中学に通う生徒は多くない。それでも、時々、私立中学の生徒が入塾する場合がある。深海魚の場合である。
 いい塾だと友達から聞いて、お母さんと一緒に中2生がきた。教室にいる子供たちと比べても理解力が劣るわけでもなく暗記力もある。少しの努力で立ち直れるはずと見ていたが、まったくやる気がない。その理由を聞いてみると、「どんなに努力しても最下位の成績から抜け出せない」という。この教室なら、正直に言って彼より理解力の無い生徒もいる。少し時間をかけて見て行こうと思った。が、2カ月で母親が退塾させると言ってきた。母親には待ってあげる余裕はなかったようだ。



 近くの開業医の息子が医者と一緒にやってきた。医学部合格を何名もだす中高一貫校から公立中学にかわったので面倒を見てくれと言う新中3生である。お父さんには残念な感覚がにじみ出るいたが、本人は、これでサッカーができると明るい感じであった。塾では、人気者で明るい生徒であった。勉強は、公立3番手校レベルで大半が私立大学に行くレベルの成績であった。医大付属の高校へ推薦入試を目指すとのこと。筆記テストもあるので、英語は特に力を入れて指導していたが、そのテストがまるで私の作成した英熟語完成プリント問題そのままで、自信をもって合格を期待していたそうだ。後に知ったことだが、その高校では、3年間1000万円程度の費用がかかり、大学と合わせて4000万円の費用がかかるとのこと。開業医の息子であれば高くはない費用なのだろう。

 『お客さん』大手塾には、毎年、必ず多くの「お客さん」がいる。「お客さん」とは、多額の授業料をいただいていているにもかかわらず、能力的にみてムリだったり、やる気が全くない生徒で、先生が労力を費やしても無駄と思える生徒である。中小塾にはいないのかというともちろん必ずいる。ただし、大手塾ほどではない。大手塾は、名が通っている場合が多く、その塾の塾生であることが大人のステータスになっている場合があるからだ。大手塾では、クラスが下になれば、先生も下の先生があてがわれる。自分の子が「お客さん」かどうか、親はしっかりと見極めてほしい。不幸なのは誰なのかだ。

 第5章では、親世代とは大きく違う大学受験について書かれている。中高一貫校受験の目的が、大学受験を有利にするためならば、大学受験についてしっかりと認識しなければ、受験は失敗する。何度も言うように「受験は情報戦である。」

 ▼激変する大学入試方式

 「大学入試共通テスト」の毎年の各科目の平均点が変わっていない。このことは、テストの難しさが変わらないのでなく、難しくなっている、難化しているということだ。

 理由の一つが、平均点を押し下げている層が、受験しなくなったこと。私大の推薦入試などの活用で受験する必要がなくなった。

 もうひとつの理由は、選択科目の多様化や傾斜配点、国立でも3科目入試などが増えていること。つまり、より得意科目だけで勝負できるようになったからである。


 ▼私立大学入試「多様化の真実」

推薦入試などが私立大学で50%を超えたと事実を知らない方はいないと思う。底辺の大学は学生獲得が大変である。とのかく学生を確保しなければ存続にかかわる。しかし、底辺の大学に同情しているばあいではない。あの早稲田でさえも6割近くが推薦(AO入試など含む)での合格をだしている。理由の一つが、中学受験高校受験大学受験で入学する生徒が燃え尽きてしまっていること。目的が、大学合格であり、大学での勉強ではないからだ。推薦での合格者は明確に大学での勉強に目的意識をもち、入学後もアクティブに活動する。大学入学が目的ではない。

 ただし、これは<表の理由> つまり、<裏の理由>がある。

『大学偏差値ランキングの維持』

ペーパー入試結果で多くの学生を確保しようとするとどうしても合格点が下がってしまう。大学ランキングが下がる。そうすると大学ブランドに傷がつく。それを防止するためにテストでの合格者を絞り、高得点を獲得できる学生のみを合格とし、大学ランキングを維持する。結論として、上位の私立大学一般入試では、合格は難しく、希望するのであれば、一般入試以外での合格を模索せよ、となる。

 地域2番手の高校に進学した教え子が、お茶の水女子大に推薦合格したことを報告に来た。女子大の東大と言われるお茶の水女子大に合格したことに私は本当に驚いた。地域no.1の高校に進学しなかったことが幸運の獲得につながったのかもしれない。指定校推薦を勝ち取った。

 両親は離婚し、祖父に育てられた15歳の彼は、中3で反抗期にどっぷりとなり、公立高校も受けずに、私立底辺校に進学した。その後、青山学院大学に推薦で合格したと報告に来た。一緒に来た塾生の友達は、工業高校に行き、無事就職できたとうれしどうであった。あの高校からあの大学へ合格できるのか?というのが私の印象だ。もちろん努力もあるだろうが、親世代の大学入試とは、やはり、どこがが違うと認識せねばならなかった。


『6年後の大学入試はどうなる』

少子化の影響を我が子に照らしてみよう。18歳人口のピーク、1992年には、205万人であった。大学の入試倍率は、国公立私立とも6倍以上であった。6年後に大学受験する12歳の人口が105万人。去年生まれた子は約75万人。少子化が進む将来に、大学側の「学生獲得戦争」が激化するのは火を見るよりも明らかだ。今、10歳の子に現在の大学入試での合格を考えて1日中勉強させることが正しい選択かどうか、考える余地は十分ありそうである。

 さて、だからと言って、中学受験が正しい選択か否かを断言することはできない。中学受験がその子にとって素晴らしい経験になるかもしれないし、悲惨な結果になるかもしれない。親がしっかりと子供本位に子供を見守っていくしかないのが結論である。


 私の教え子には、高校生になってから医者を目指し、国立医学部に合格して医者になった子がいる。また、世界的に有名な医者の息子は、母から低学年で勉強付
づけにさせられ、調理師を目指す結果ななった子もいる。医学部合格者の多い中高一貫校に進学し、まともな礼儀作法も知らない傲慢な高校生を見てしまったこともある。優秀な子が集まると言うことで、ある塾講師が、長男をなんとかその中高一貫校に入学させて、結局公立中学の深海魚になった生徒も見てきた。子育てに正解はないが、やはり、子供の成長を子供の視点で見守るしかないかもしれない。


 中学受験を考えている親御さんは、ぜひ、一読することをお勧めします。






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