新古今和歌集の部屋

家長日記 建仁元年八月十五夜の具親早退

源家長日記

八月十五夜ことはりも過てくまなく侍しに、よもすがら連歌和歌會侍き。そのよいさゝかれいならぬ事いできて、具親とくいでられ侍。御たづねたび/\侍しに、そのよし申ともかゐなきとゝやおぼしめしけむ、いでぬる事をくちをしきこととおぼしめす御氣色なり。ながき夜も程なき心ちしてあけぬれば、おの/\まかりいづ。十六日のまたとうめしによりて大はんどころに參りたれば、おほせられし御事やさしく侍き。よべの月にしも具親早出したること、くちおしさ思ひしつめがたし。はやくわか所にめしこむべし。とおほせ有。おそろしきものからやさしくうけ給て、やがてめしにつかはす。御使にもさきだてまいりたれば、此よし申ふくめてめしこむ。布衣なよらかにてそこはかとながめゐたる氣色、いとをしくをかし。秋の日もくらしかねたるに、月もはなやかにさしいでゝ、よべのひかりなをくまなきをつく/"\ひとりながめて、とのももりつかさにてかくなん。
  くまもなく名におふ秋の空よりも
       思ひいである夜半の月かな
返事
  さぞなげに思ひわぶらん今宵しも
       かごとかましく月ぞさやけき
十七日のあしたにこのよしを奏し侍しかばゆるされにき。はかなき御むづかりとかをかぶる事なれど、をかしきふしにもなりぬべき事のみこれらまで侍よ。めしこめられしほどはおそろしく心まどひせしを、つく/"\と思ひとけば、よ人のきかんもこれはさまであしかるまじきことちおもはれたりしことはりなり。
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