第一 春歌上
38 守覺法親王五十首歌よませ侍りけるに
春の夜の夢のうき橋とだえして峯にわかるるよこぐもの空
隠 通隆 守覚法親王五十首 源氏物語
40 守覺法親王五十首歌に
大空は梅のにほひにかすみつつくもりもはてぬ春の夜の月
隠 通隆 守覚法親王五十首
44 百首歌奉りける時
梅の花にほひをうつす袖のうへに軒漏る月のかげぞあらそふ
隠 有隆雅 後鳥羽院初度百首 伊勢物語
63 守覺法親王の五十首歌合に
霜まよふ空にしをれし雁がねのかへるつばさに春雨ぞ降る
隠 通 守覚法親王五十首
91 百首奉りし時
白雲の春はかさねてたつた山をぐらのみねに花にほふら
隠 雅 後鳥羽院初度百首
第二 春歌下
134 千五百番歌合に
櫻色の庭のはるかぜあともなし訪はばぞ人の雪とだにみむ
隠 通隆雅 千五百番歌合 伊勢物語
第三 夏歌
232 五月雨のこころを
たまぼこのみち行人のことづても絶えてほどふるさみだれの空
隠 有
235 五十首歌奉りし時
さみだれの月はつれなきみ山よりひとりも出づる郭公かな
隠 隆雅 老若五十首歌合
247 守覺法親王五十首歌よませ侍りける時
夕ぐれはいづれの雲のなごりとて花たちばなに風の吹くらむ
無 有 守覚法親王五十首 源氏物語
254 千五百番歌合に
ひさかたの中なる川の鵜飼舟いかに契りてやみを待つらむ
隠 有隆雅 千五百番歌合
第四 秋歌上
363 西行法師すすめて百首よませ侍りけるに
見わたせば花も紅葉もなかりけり浦のとまやの秋の夕ぐれ
無 源氏物語
420 (攝政太政大臣)家に月五十首歌よませ侍りし時
さむしろや待つ夜の秋の風ふけて月をかたしく宇治の橋姫
隠 通有隆雅 月花百首
480 千五百番歌合に
秋とだにわすれむと思ふ月影をさもあやにくにうつ衣かな
隠 通 千五百番歌合
487 百首歌奉りし時
ひとり寝る山鳥の尾のしだり尾に霜おきまよふ床の月かげ
隠 隆 千五百番歌合
532 (攝政太政大臣)左大將に侍りける時家に百首歌合し侍りけるに柞をよみ侍りける
時わかぬ浪さへ色にいづみ川ははその森にあらし吹くらし
隠 定隆雅 六百番歌合
第六 冬歌
671 百首歌奉りし時
駒とめて袖うち拂ふかげもなし佐野のわたりの雪のゆふぐれ
隠 通隆雅 後鳥羽院初度百首
672 攝政太政大臣大納言に侍りける時山家雪といふことをよませ侍りけるに
待つ人のふもとの道は絶えぬらむ軒端の杉に雪おもるなり
隠 通隆雅
第七 賀歌
739 千五百番歌合に
わが道を守らば君を守らなむよはひはゆづれすみよしの松
隠 通隆雅 千五百番歌合
第八 哀傷歌
788 母の身まかりにける秋野分しける日もと住み侍りける所に罷りて
玉ゆらの露もなみだもとどまらず亡き人戀ふるやどの秋風
隠 隆
第九 離別歌
891 題しらず
忘るなよやどる袂はかはるともかたみにしぼる夜半の月影
無 雅 伊勢物語
第十 羇旅歌
934 守覺法親王の家に五十首歌よませ侍りけるに旅歌
こととへよ思ひおきつの濱千鳥なくなく出でしあとの月影
隠 有雅 守覚法親王五十首
952 攝政太政大臣歌合に羇中晩風といふことをよめる
いづくにか今宵は宿をかりごろもひもゆふぐれの嶺の嵐に
隠 有隆雅
953 旅歌とてよめる
旅人の袖吹きかへす秋かぜに夕日さびしき山のかけはし
隠 有隆雅
968 攝政太政大臣歌合に秋風といふことを
忘れなむ待つとな告げそなかなかにいなばの山の峯の秋風
隠 通有定雅
980 和歌所にてをのこども旅歌つかうまつりしに
袖に吹けさぞな旅寝の夢も見じ思ふかたより通ふうら風
隠 隆雅 三体和歌 源氏物語
982 詩を歌にあはせ侍りしに山路秋行といふことを
みやこにも今や衣をうつの山ゆふ霜はらふ蔦の下みち
隠 無 元久詩歌合 伊勢物語
第十二 戀歌二
1082 攝政太政大臣家百首歌合に
靡かじなあまの藻鹽火たき初めて煙は空にくゆりわぶとも
隠 隆雅 六百番歌合 源氏物語
1117 海邊戀といふことをよめる
須磨の蜑の袖に吹きこす鹽風のなるとはすれど手にもたまらず
隠 隆
1137 冬戀
床の霜まくらの氷消えわびぬむすびも置かぬ人のちぎりに
隠 隆雅
1142 (攝政太政大臣)家に百首歌合し侍りけるに祈戀といへるこころを
年も經ぬいのるちぎりははつせ山をのへの鐘のよそのゆふぐれ
隠 隆雅 六百番歌合
第十三 戀歌三
1196 西行法師人々に百首歌よませ侍りけるに
あぢきなくつらき嵐の聲も憂しなど夕暮に待ちならひけむ
隠 有雅
1206 戀歌とてよめる
歸るさのものとや人のながむらむ待つ夜ながらの有明の月
隠 無
第十四 戀歌四
1284 八月十五夜和歌所にて月前戀といふことを
松山と契りし人はつれなくて袖越す浪にのこる月かげ
隠 無
1291 攝政太政大臣家百首歌合に
忘れずはなれし袖もや氷るらむ寝ぬ夜の床の霜のさむしろ
隠 無 六百番歌合
1320 千五百番歌合に
消えわびぬうつろふ人の秋の色に身をこがらしの森の下露
隠 通隆雅(前田)千五百番歌合
1324 被忘戀のこころを
むせぶとも知らじな心かはら屋にわれのみたけぬ下の煙は
隠 無 建永元年7月当座
1332 千五百番歌合に
尋ね見るつらき心の奧の海よ汐干のかたのいふかひもなし
隠 千五百番歌合 源氏物語
第十五 戀歌五
1336 水無瀬の戀十五首の歌合に
白栲の袖のわかれに露おちて身にしむいろの秋かぜぞ吹く
隠 隆雅(前田)水無瀬恋十五首
1389 題しらず
かきやりしその黑髪のすぢごとにうち臥すほどは面影ぞたつ
無 有(前田)
第十六 雜歌上
1454 近衛司にて年久しくなりて後うへのをのこども大内の花見に罷れりけるによめる
春を經てみゆきに馴るる花の蔭ふりゆく身をもあはれとや思ふ
隠 雅
1555 和歌所の歌合に海邊月といふことを
藻汐くむ袖の月影おのづからよそにあかさぬ須磨のうらびと
隠 無 卿相侍臣歌合
第十七 雜歌中
1644 後白河院栖霞寺におはしましけるに駒引のひきわけの使にて參りけるに
嵯峨の山千世にふる道あととめてまた露わくる望月の駒
無 通
1684 守覺法親王五十首歌よませ侍りけるに閑居のこころを
わくらばに問はれし人も昔にてそれより庭の跡は絶えにき
隠 隆雅 守覚法親王五十首
第十八 雜歌下
1723 最勝四天王院の障子に大淀かきたる所
大淀の浦に刈りほすみるめだに霞にたえてかへる雁がね
隠 無 伊勢物語
1757 和歌所にて述懷のこころを
君が代にあはずは何を玉の緒の長くとまでは惜しまれじ身を
無 無 卿相侍臣嫉妬歌合
1872 同じ時外宮にてよめる
契ありて今日みや川のゆふかづら長き世までもかけて頼まむ
隠 有隆雅