守覚法親王五十首歌 21首
春歌上
守覺法親王五十首歌よませ侍りけるに
藤原定家朝臣
春の夜の夢のうき橋とだえして峯にわかるるよこぐもの空
守覺法親王五十首歌に
藤原定家朝臣
大空は梅のにほひにかすみつつくもりもはてぬ春の夜の月
守覺法親王の五十首歌合に
藤原定家朝臣
霜まよふ空にしをれし雁がねのかへるつばさに春雨ぞ降る
春歌下
守覺法親王五十首歌よませ侍りける時
藤原家隆朝臣
この程は知るも知らぬも玉鉾の行きかふ袖は花の香ぞする
夏歌
守覺法親王五十首歌よませ侍りける時
藤原定家朝臣
夕ぐれはいづれの雲のなごりとて花たちばなに風の吹くらむ
秋歌上
守覺法親王五十首歌よませ侍りける時
藤原家隆朝臣
明けぬるかころもで寒しすがはらや伏見の里の秋の初風
守覺法親王五十首歌よませ侍りけるに
顯昭法師
萩が花まそでにかけて高圓のをのへの宮に領巾ふるやたれ
守覺法親王五十首歌よませ侍りけるに
藤原家隆朝臣
有明の月待つやどの袖のうへに人だのめなる宵のいなづま
秋歌下
守覺法親王家五十首歌の中に
藤原家隆朝臣
蟲の音もながき夜飽かぬふるさとになほ思ひそふ松風ぞ吹く
守覺法親王五十首歌よみ侍りけるに
春宮權大夫公繼
もみぢ葉の色にまかせて常磐木も風にうつろふ秋の山かな
冬歌
守覺法親王五十首歌よませ侍りけるに
皇太后宮大夫俊成
ひとり見る池の氷に澄む月のやがて袖にもうつりぬるかな
守覺法親王五十首歌よませ侍りけるに
皇太后宮大夫俊成
雪降れば峯のまさかきうづもれて月にみがける天の香具山
離別歌
守覺法親王五十首歌よませ侍りける時
藤原隆信朝臣
誰としも知らぬわかれの悲しきは松浦の沖を出づる舟人
羇旅歌
守覺法親王の家に五十首歌よませ侍りけるに旅歌
皇太后宮大夫俊成
夏刈の葦のかりねもあはれなり玉江の月のあけがたの空
皇太后宮大夫俊成
立ちかへりまたも來て見む松島やをじまの苫屋波にあらすな
藤原定家朝臣
こととへよ思ひおきつの濱千鳥なくなく出でしあとの月影
藤原家隆朝臣
野邊の露うらわの浪をかこちてもゆくへも知らぬ袖の月影
雜歌中
守覺法親王五十首歌よませ侍りけるに閑居のこころをよめる
藤原有家朝臣
誰かはと思ひ絶えてもまつにのみ音づれて行く風は恨めし
守覺法親王五十首歌よませ侍りけるに閑居のこころを
藤原定家朝臣
わくらばに問はれし人も昔にてそれより庭の跡は絶えにき
雜歌下
守覺法親王五十首よませ侍りけるに
寂蓮法師
背きても猶憂きものは世なりけり身を離れたる心ならねば
守覺法親王五十首歌よませ侍りけるに
源師光
長らへて生けるをいかにもどかまし憂き身の程をよそに思はば