新古今和歌集の部屋

美濃の家づと 二の巻 冬歌4

 

 

 

             西行

小ぐら山ふもとの里に木葉ちれば梢にはるゝ月を見る哉

三の句、もじあまりいと聞ぐるし。例の此ほうしの、わろき

くせなり。 此哥は、小倉山、木葉ちれば、梢にはるゝ月を、

ふもとの里に見る哉といふ意なり。かやうに心得ざれば、

見る哉といふこと、より所なし。其故は、本のつゞきのまゝ

にしては、たゞ見るといへるのみ、こなたのうへにて、其外はみな、

かなたのうへのみにて、こなたにつきたる詞なき故に、とゝの

ひわろき也。近き世の哥には、さることいと多し。人の心つかぬこと也。

五十首哥奉りしに     雅經

秋の色をはらひはてゝや久かたの月のかつらに木がらしの風

二の句、俗言にいへば、はらひはてたかしてといふ意なり。然れ共、

疑はずして、はらひはてゝと、治定したるさまにあらまほ

しき哥也。 下句いやしきすがた也。此事春ノ部にといへり。

風寒み木葉はれゆく夜な/\に残るくまなき庭の月影

初句、寒みいかゞ。 三の句、に°もじいうならず。

千五百番哥合に      俊成卿女

さえわびてさむる枕に影みれば霜ふかき夜の有明の月

さえわびては、さゆるにわびてなり。

             通具卿

霜むすぶ袖のかたしき打とけてねぬよの月の影の寒けき

二の句にてきりて心得べし。 袖のかたしき、よくもあらぬ詞也。

五十首哥奉りし時     雅經

影とめし露のやどりを思ひ出て霜に跡とふあさぢふの月

めでたし。下句詞めでたし。

冬の御哥の中に      太上天皇御製

冬の夜のながきをおくる袖ぬれぬ暁がたのよものあらしに

須磨ノ巻に、枕にそばだて、四方のあらしを聞玉ふに云々。涙お

つともおぼえぬに、枕もうくばかりに成にけり。√冬の夜

のながきをおくる程にしも暁がたのつるの一こゑ。此哥、

契沖ひきおけり。何に出たるか、ふとはおぼえず。

百首哥奉りし時      摂政

さゝの葉はみ山もさやに折そよぎこほれる霜を吹あらし哉

萬葉二に√さゝの葉はみ山もさやにみだれども云々。

題しらず         俊成卿女

霜がれはそことも見えぬ草の原誰にとはましあきのなごりを

めでたし。下句詞めでたし。 花宴巻に、√うき身世に

やがて消なば尋ねても草の原をばとはじとや思ふ。 狭

衣に、√尋ぬべき草の原さへ霜枯て誰にとはまし道芝の露

百首哥の中に       慈圓大僧正

霜さゆる山田のくろのむらすゝきかる人なしに残る比かな

此僧正の歌、かゝるたぐひ多し。西行がふりをまねばれ

たるもの也。

 

 

 

※風寒みは、式子内親王の歌

※冬の夜の…何に出たるか、ふとおぼえず。
元信集 冬の夜の長きをおくる程にしも暁方のつるの一声

※かる人なしに残る比かな 刈る人なしみ残る比かな
穂久邇文庫、筑波大山崎宗鑑筆は「なしに」、歴博伝為相は「なしみ」。

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