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新古今和歌集の部屋

絵入横本源氏物語 花散里 花散里を訪ねてぞとふ

時鳥ありつる垣根のにや。同じ声に打鳴く。慕ひ來にけるよとおぼさるる程も艶なりかし。
 

あまたして、おぼめくなるべし。
 誰共なし女
  ほとゝぎすかたらふこゑはそれ
ながらあなおぼつかなさみだれの空。
                惟光
ことさらにたどると見れば、よし
/\√うへしかきねもとていづるを、
人しれぬ心にはねたうも哀にも
       地
おもひけり。さもつゝむべきこと
ぞかし。ことはりにもあれば、さすが
   源心
なり。かやうのきはに、つくしの
五゙節こそ、らうたげなりしばやと、
まづおぼしいづ。いかなるにつけても、
御こゝろのいとまなく、とし月
             地
をへてもくるしげなり。なをかう
やうにみしあたりのなさけは、す
ぐし給はぬにしも、なか/\あま
たの人のものおもひぐさなり。
      花ちる
さて、かのほいのところは、おぼし
やりつるもしるく、人めなくしづか
にて、おはするありさまを見ぬも
            麗景
いとあはれなり。まづ女御の御かた
にて、むかしの御物がたりなどき
        地
こえたまふに、夜ふけにけり。廿日
の月さしいづるほどに、いとゞ木だ
かきかげども、こぐらう見えわた
りて、ちかき橘のかほりなつか
       麗景
しくにほひ、女御の御けはひ
ねびにたれど、あくまでよういあり、
            源心
あてにらうたげなり。すぐれて
はなやかなる御おぼえこそなかりし
かどむつましうなつかしきかた
    院ノ
には、おぼしたりしものをなど、思ひ
いできこえ給ふにつけてもむかし
のことかきつらねおぼされてうち
なき給ふ。ほとゝぎすありつるかき
ねのにや。おなじこゑにうちなく。
したひきにけるよとおぼさるゝほ
どもえんなりかし。√いかにしりてか
など、しのびやかにうちずじ給。
 源
  √たち花のかをなつかしみ時鳥
花ちるさとをたづねてぞとふ。
 源心
いにしへわすれがたうおぼえたまへ
らるゝなぐさめには、まづまいり
はべりぬべかりけり。こよなくこそ
まぎるゝこともかずそふことも侍
けれ。おほかたの世にしたがふも
のなれば、昔がたりもきかすべき
人なうなりゆくを、ましていかに
つれ/"\もまぎるゝことなく
 

数多して、おぼめくなるべし。
 誰共なし女
  郭公語らふ声はそれながらあなおぼつかな五月雨の空
「殊更にたどる」と見れば、
「よしよし。植へし垣根も」とて出づるを、人知れぬ心には、ねた
うも哀れにも思ひけり。
さも慎むべき事ぞかし。理にもあれば、流石なり。かやうの際に、
筑紫の五節こそ、らうたげなりしばやと、先づおぼし出づ。如何な
るに付けても、御心の暇無く、年月を経ても苦しげなり。猶、かう
やうに見し辺りの情けは、過ぐし給はぬにしも、中々数多の人の物
思ひぐさなり。
さて、彼の本意の所は、おぼしやりつるもしるく、人目なく静かに
て、御座する有樣を見ぬもいと哀れなり。先づ女御の御方にて、昔
の御物語りなど聞こえ給ふに、夜更けにけり。廿日の月差し出づる
程に、いとど木高き蔭ども、木暗う見え渡りて、近き橘の香懐かし
く匂ひ、女御の御氣配ねびにたれど、あくまで用意有り、あてにら
うたげなり。勝れて華やかなる御覚えこそ無かりしかど、睦ましう
懐かしき方には、おぼしたりし物をなど、思ひ出で聞こえ給ふに付
けても、昔の事かきつらねおぼされて打泣き給ふ。
時鳥ありつる垣根のにや。同じ声に打鳴く。慕ひ來にけるよとおぼ
さるる程も艶なりかし。
「如何に知りてか」など、忍びやかに打誦(ず)じ給ふ。
 源
  橘の香を懐かしみ郭公花散る里を訪ねてぞとふ
「いにしへ忘れ難う覚え給へらるる慰めには、先づ參り侍りぬべか
りけり。こよなくこそ紛るる事も数添ふ事も侍りけれ。大方の世に
従ふ物なれば、昔語りも聞かすべき人無う成り行くを、まして如何
に徒然も紛るる事無く
 
 
引歌
※植へし垣根も
出典不明歌(紫明抄)
花散りし庭の梢も茂り合ひて植ゑし垣根もえこそ見分かね
注 新体系「見こそわかれぬ」、全集「えこそ見わかね」と異なっている。

※如何に知りてか
古今和歌六帖 物語
いにしへの事語らへばほととぎすいかに知りてかふるごゑのする
 
和歌
誰共なし女
郭公語らふ声はそれながらあなおぼつかな五月雨の空
 
よみ:ほととぎすかたらふこゑはそれながらあなおぼつかなさみだれのそら
 
意味:今聞こえた声は確かに昔聞いたほととぎすと思いましたが、まあ覚束ない五月雨の空ですこと。(今の歌は確かに源氏樣のように聞こえましたが。あまりに久しぶりなので)
 
備考:源氏の「をちかへり」の返歌
 
 
源氏
橘の香を懐かしみ郭公花散る里を訪ねてぞとふ

よみ:たちばなのかをなつかしみほととぎすはなちるさとをたづねてぞとふ

意味:先程まで垣根にいたほととぎすは、昔を思い出す橘の香を懐かしんで、この橘の花散る里の宿を探して訪ねてきたんですよ。

備考:
本歌
古今和歌集 夏歌
さつきまつ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする

古今和歌六帖 時鳥
橘の花散る里のほととぎす語らひしつつ鳴く日しぞ多き
万葉集巻第八 1473 大伴旅人
 宰帥大伴卿和歌一首
橘之花散里乃霍公鳥片戀為乍鳴日四曽多寸
橘の花散る里の霍公鳥片恋しつつ鳴く日しぞ多き
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