goo blog サービス終了のお知らせ 

新古今和歌集の部屋

絵入横本源氏物語 須磨 去らぬ鏡の影は


御鬢掻き給ふとて、鏡台に寄り給へるに、面痩せ給へる影の、我ながらいとあてに清らなれば、

言ふとも無くて、柱隠れに居隠れて、泪を紛らはし給へる樣、猶ここら見る中に類ひ無かりけりと、おぼし知らるる人の御有樣なり。
 
 


ひたをもむきに、物ぐるほしき世
にて、たちまさることもありなんなど
聞えしらせ給。日たくるまでおほとの
     蛍そちのみや 頭
ごもれり。帥宮、三位中将などおはし
   源
たり。たいめし給はんとて、御なをし
など奉る。位なき人はとて、むもん
の御のをし、中/\いとなつかしきをき
給て、うちやつれ給へるいとめでたし。
御びんかき給ふとて、きやうだいに
より給へるに、おもやせ給へるかげの
我ながらいとあてにきよらなれば、
 源詞
こよなうこそをとろへにけれ。此
かげのやうにややせて侍る。哀なる
              紫
わざかななどの給へば、女君゙なみだを
ひとめうけてみをこせ給へる。いと忍がたし
 源
  身はかくてさすらへぬとも君が

あたりさらぬかゞみのかげははなれじ
と聞え給へば、
 紫
  わかれてもかげだにとまるもの
ならばかゞみをみてもなぐさめてまし。
いふともなくて、はしらがくれにゐ
かくれて、泪をまぎらはし給へるさま、
猶こゝら見るなかにたぐひなかり
けりと、おぼししらるゝ人の御有
      蛍
さまなり。みこはあはれなる御物語
聞え給て、くるゝほどにかへり給ぬ。
 源心
花ちる里の心ぼそげにおぼして、
つねにきこえ給もことはりにて、
かの人も今ひとたびみずは、つら
しとや思はんとおぼそせば、その夜
はまたいで給ふ物から、いと物うくて、
いたうふかしておはしたれば、

女御かくかずまへ給て、立よらせ給へる
ことゝ、よろこび聞え給さま、かきつゞ
けんもうるさし。いといみじう心ぼ
そき御有さま、たゞこの御かげに
かくれて、すぐひ給へる年月、いとゞ
          源の
あれまさらんほどおぼしやられて殿
の内いとかすかなり。月おぼろにさ
し出て、池ひろく山こぶかきわた
り心ぼそげにみゆるにも、すみは
なれたらん岩ほのなかおぼしやらる。
花ちる
にしおもてには、かうしもわたり給はず
やと、うちくつしておぼしけるに、哀
そへたる月かげの、なまめかしうしめや
      源の         にほ
かなるに、うちふるまひ給へる匂ひ、にる
物なくて、いと忍びやかにいりたまへば、
花ちる
すこしゐざりいでゝやがて月を見て
 

ひたをもむきに、物狂ほしき世にて、立ちまさる事も有りなん」な
ど聞こえ知らせ給ふ。日たくるまで、大殿籠れり。
帥宮、三位中将など御座したり。対面(たいめ)し給はんとて、御
直衣など奉る。
「位無き人は」とて、無紋の御直衣、中々いと懐かしきを着給ひて、
打やつれ給へる、いとめでたし。御鬢掻き給ふとて、鏡台に寄り給
へるに、面痩せ給へる影の、我ながらいとあてに清らなれば、
「こよなうこそ衰へにけれ。この影のやうにや、痩せて侍る。哀れ
なるわざかな」など宣へば、女君涙を一目浮けて見起こせ給へる。
いと忍がたし
 源
  身はかくて流離へぬとも君が辺り去らぬ鏡の影は離れじ
と聞え給へば、
 紫
  別れても影だに留まる物ならば鏡を見ても慰めてまし
言ふとも無くて、柱隠れに居隠れて、泪を紛らはし給へる樣、猶こ
こら見る中に類ひ無かりけりと、おぼし知らるる人の御有樣なり。
親王は哀れなる御物語聞え給て、暮るる程に帰り給ひぬ。
花散里の心細げにおぼして、常に聞こえ給ふも理りにて、彼の人も
今一度見ずは、辛しとや思はんとおぼそせば、その夜は又出で給ふ
物から、いと物憂くて、いたう更かして御座したれば、女御、
「かく数まへ給ひて、立ち寄らせ給へる事」と、喜び聞こえ給ふ樣、
書き続けんもうるさし。いといみじう心細き御有樣、ただこの御陰
に隠れて、過ぐひ給へる年月、いとど荒れ勝らん程おぼしやられて、
殿の内いと微かなり。月朧に差し出でて、池広く山木深き辺り、心
細げに見ゆるにも、住み離れたらん巌の中おぼしやらる。
西面には、かうしも渡り給はずやと、打屈つしておぼしけるに、哀
れ添へたる月影の、生めかしうしめやかなるに、打振る舞ひ給へる
匂ひ、似る物無くて、いと忍びやかに入り給へば、少し居ざり出で
て、やがて月を見て
 
 
和歌
源氏
身はかくて流離へぬとも君が辺り去らぬ鏡の影は離れじ
 
よみ:みはかくてさすらへぬともきみがあたりさらぬかがみのかげははなれじ
 
意味:私の身は遠く流離う事になりましたが、貴女の近くにいられるように、鏡に映るように、貴女をいつも思っています。
 
備考:君が辺り去らぬ鏡のは影を導く序詞
 
 
紫上
別れても影だに留まる物ならば鏡を見ても慰めてまし
 
よみ:わかれてもかげだにとまるものならばかがみをみてもなぐさめてまし
 
意味:例え別れましても、もし影だけでも留まられるものでしたら、鏡を見て慰められるのですが。そう言う事は無いので寂しい。
 
備考:
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「源氏物語和歌」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事