田中康夫長野県知事らの新党結成に関し、朝日新聞の若手記者が田中氏の取材メモをねつ造し、これをもとに同紙が虚偽の記事を掲載していたことが発覚した。朝日新聞ではNHK番組の改変問題をめぐって取材資料が月刊誌に流出する不祥事が起きたばかり。しかも、今回は情報のねつ造という報道機関の根幹にかかわる問題だ。責任は重大である。
朝日新聞の調査によれば、田中氏と現国民新党の亀井静香氏が8月に会談したとの情報を政治部が得て、会談場所と会談の中身を取材するよう長野総局に要請。ところが総局記者は田中氏に直接取材したように装い、「長野県内で2人が会った」と推測して報告し、会談の内容までねつ造して政治部に連絡メモを送ったという。
残念ながら、誤報は時として起きる。しかし、誤報は意図してするものではない。ねつ造は意図してウソを作り上げるものだ。報道機関が決して犯してはならない犯罪的行為である。記者は「功名心だったかもしれない」と説明しているという。一般常識が欠如しているというほかないだろう。
長野総局や政治部のチェック体制にも疑問が残る。複数の記者が関係者を取材し、そのメモに基づいてデスクらが記事をまとめる手法は政治取材などでは日常的に用いられる。だが、今回、一方の当事者である亀井氏から裏付け取材をしたのかどうか。
これらの疑問は何ら解消されていない。朝日新聞が説明しないからである。
不祥事が発覚したのは23日、田中氏が会見で「この件について朝日記者の取材は受けていない」と指摘したのが発端だ。朝日新聞は29日夜になって報道各社にファクスを送信し、不祥事と関係者処分を発表したが、報道各社が求めても記者会見をしなかった。さらに30日朝刊でおわびと経過を掲載したが、結論は、「今回のケースでは、そもそもの連絡内容が取材に基づかないものであったうえ、結果として、そのことをチェックできませんでした」とあっさり記すのみである。
朝日新聞は先に記事資料流出を認めた時も、関係者に謝罪文書を送付したと発表するだけで会見していない。だが、企業や役所に不祥事が起きれば、原因や背景について説明責任を求め、「関係者処分というトカゲのしっぽ切りで終わらせるな」と主張してきたのは朝日はじめ私たちメディアだ。
非を認めたがらない、官僚的、エリート意識が強い……。かねて朝日新聞はそう指摘されてきた。朝日の論調に比較的理解を示してきた識者の間からも、「功名心の優先」や、記者会見を行わない点に対し、「会社の体質ではないか」との声が出始めている。
毎日新聞は、絶えず朝日を「目の敵」のように批判し、それを売り物にするかのような一部メディアと一線を画してきた。そして、毎日新聞がいつも正しいというつもりも毛頭ない。ただ、メディアは、もう少し謙虚になって誠実で丁寧な説明を心がけたい。
毎日新聞 2005年8月31日
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参考ブログ:Irregular Expression
朝日新聞の調査によれば、田中氏と現国民新党の亀井静香氏が8月に会談したとの情報を政治部が得て、会談場所と会談の中身を取材するよう長野総局に要請。ところが総局記者は田中氏に直接取材したように装い、「長野県内で2人が会った」と推測して報告し、会談の内容までねつ造して政治部に連絡メモを送ったという。
残念ながら、誤報は時として起きる。しかし、誤報は意図してするものではない。ねつ造は意図してウソを作り上げるものだ。報道機関が決して犯してはならない犯罪的行為である。記者は「功名心だったかもしれない」と説明しているという。一般常識が欠如しているというほかないだろう。
長野総局や政治部のチェック体制にも疑問が残る。複数の記者が関係者を取材し、そのメモに基づいてデスクらが記事をまとめる手法は政治取材などでは日常的に用いられる。だが、今回、一方の当事者である亀井氏から裏付け取材をしたのかどうか。
これらの疑問は何ら解消されていない。朝日新聞が説明しないからである。
不祥事が発覚したのは23日、田中氏が会見で「この件について朝日記者の取材は受けていない」と指摘したのが発端だ。朝日新聞は29日夜になって報道各社にファクスを送信し、不祥事と関係者処分を発表したが、報道各社が求めても記者会見をしなかった。さらに30日朝刊でおわびと経過を掲載したが、結論は、「今回のケースでは、そもそもの連絡内容が取材に基づかないものであったうえ、結果として、そのことをチェックできませんでした」とあっさり記すのみである。
朝日新聞は先に記事資料流出を認めた時も、関係者に謝罪文書を送付したと発表するだけで会見していない。だが、企業や役所に不祥事が起きれば、原因や背景について説明責任を求め、「関係者処分というトカゲのしっぽ切りで終わらせるな」と主張してきたのは朝日はじめ私たちメディアだ。
非を認めたがらない、官僚的、エリート意識が強い……。かねて朝日新聞はそう指摘されてきた。朝日の論調に比較的理解を示してきた識者の間からも、「功名心の優先」や、記者会見を行わない点に対し、「会社の体質ではないか」との声が出始めている。
毎日新聞は、絶えず朝日を「目の敵」のように批判し、それを売り物にするかのような一部メディアと一線を画してきた。そして、毎日新聞がいつも正しいというつもりも毛頭ない。ただ、メディアは、もう少し謙虚になって誠実で丁寧な説明を心がけたい。
毎日新聞 2005年8月31日
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