
何十年かぶりに氏の作品を読みました。
井上氏の作品に初めて触れたのは「氷壁」でした。
まだ学生のころだったと思います。
ボクは子供のころから山に親しんできたので,そのタイトルに惹かれたのがきっかけですが,その後次々に文庫本を読んだ記憶があります。
久しぶりに本屋さんでこのタイトルを目にして買い求めました。
読み始めて初めて知ったのですが,氏は登山家ではなかったんですね。
ご子息の修一氏が最後に「父の趣味」と題した中で,「父の登山は穂高に限られ,山頂にたどり着いたのは涸沢岳一回だけである」という記載があり,これにはびっくりしました。
さて,この本は,井上靖氏の山と自然にまつわるエッセー集です。
「氷壁」に関わる内容のほか,これまで綴ってきた紀行集やエッセー集に収められなかった作品などをエッセーとしてまとめたものです。。
タイトルになっている「穂高の月」についてのエッセーですが,涸沢から穂高の山の上に昇った月を眺めて「月は少し暗い表情で,不思議な巨大な黒い山塊をながめ降ろしている感じである。」という記載があり,穂高を照らす月に良い印象を持たなかったようであります。
ボクにはそう思えないので,氏の気持ちを読み取ることができませんでした。
ブックカバーの裏表紙には以下のように概要が記されています。
「あすなろ物語」「しろばんば」に描かれた古郷・天城に寄せる思い,「氷壁」の舞台となった穂高岳への山行,さらにはネパール・ヒマラヤへの旅。文学者の自然観と,作品構築に至る思案が現れたエッセー50篇を収録。自然と旅を背景にした作品の成立過程をたどる。
著者は明治40年生まれであります。
久しぶりに氏の作品を読んでみて感じたことは,最近の小説にはない表現の豊かさ,多彩さを感じたことです。
最近のストレートな書きっぷりの小説が悪いということではないけど,日本の四季や風景を豊かに視点でとらえ,それを表現するボキャブラリーの多彩なことに敬服しました。
お勧めの一冊です。