『バフェットからの手紙』に、こんな一節があります:
経営者が目に見える部分で恥ずべきことを行っているのなら、陰でも似たようなやり方をしている可能性が高いのです。
台所にゴキブリが一匹しかいないことなどほぼありません。
When managements take the low road in aspects that are visible, it is likely they are following a similar path behind the scenes.
There is seldom just one cockroach in the kitchen.
原文:http://www.berkshirehathaway.com/letters/2002pdf.pdf
邦訳:バフェットからの手紙 第4版
株式に長期投資をする場合、「経営者に信頼が置けるのか」という点が非常に重要になると言えるのだと思います。
投資判断をする上では、その見極めが重要で、なにか不誠実な対応をしている部分を1つでも見つけたら、投資対象としては警戒すべきなのです。
そして、これは、投資信託も同じです。
『AI日本株式オープン(絶対収益追求型)』という投信を調べていると、検証期間を恣意的に設定している例が複数も見つかりました:
- バックテストの期間を恣意的に設定し、「AIファンドは、すべての年度でプラスのリターンを獲得」と喧伝。
- 予測精度の評価期間を恣意的に設定し、「AI(人工知能)を活用することで、高い予測能力を獲得」と喧伝。
- 検証結果の掲載期間を恣意的に設定し、 メディア掲載時に、見栄えの悪そうな期間を隠した。(⇦ 冒頭見出し図についての詳細)
また、AIを活用したファンド運用の実態を誇大に報告したりもしていたと思います:
- 月報での『非AIモデル(転換点予測モデル)』の扱いについて
- 「AI」と「ヒト」の役割分担に関する説明での矛盾点
- 米大統領選時におけるテスト運用の内容について:AIに判断によって回避出来たと言えるのか?/AIは「ヘッジシグナル」を発するのか?
- AI日本株式オープンで使われているのは、「人口知能」??? 販売会社の説明について
- AI日本株式オープンは、「AIファンド」ではないかもしれない???
「次世代の資産運用」とまで称し、大々的に宣伝されたファンドでありながら、このような『恥ずべき事例』があったのです。
これらの行為は、企業会計で言えば、「不正会計:経営状態を意図的に正しく伝えない」とも言えるものだと思います。
投資信託の都合の良い部分だけを見せて、投信購入者を意図的に欺き、実態より良く見せかけようとしているからです。
これを不正だと言える“ルール”があるかないかだけの違いです。
株式投資の場合であれば、投資家(株主)保護の観点から法整備が進み、情報の透明性についても向上するよう、株主の権利を守るための改善が行われています。
それこそが、資本市場の健全な発展には不可欠な要素であるからです。
翻って、投資信託はどうでしょうか?
残念ながら、「企業会計」並みの目的意識は、欠如しているとしか言いようがありません。
例えば、ファンドのパフォーマンス評価で「配当込みTOPIX」ではなく「TOPIX」を比較対象にするなど、本来であれば、ありえないことです。
それに、対ベンチマーク運用で「配当無しのTOPIX」をベンチマークとするファンドなど、誰が「上場」(=商品化)を認めたりするでしょうか?
☞ 『三菱UFJ システムバリューオープン』 vs 『TOPIX』
このような事例(投信購入者を欺くような行為だと以前から批判されているにもかかわらず、未だに改善すらされない)はすぐに見つけられます。
「会計」の実務家や学者の方々であれば、こぞって問題にし、情報開示・商品化の在り方を正すように働きかけるような事案であると思います。
少し前に、家計の金融資産に占める投資信託の割合が低下していたことが判明し話題となりましたが( 家計の投信保有、実は減っていた 証券業界に衝撃:日本経済新聞 )、
これは、業界関係者の「怠慢」が招いた必然とも言える結果ではないでしょうか。
このように投資信託の場合は、現状では、株式投資以上に「情報の透明性」が欠如しているため、
「信頼のおける運用会社かどうか?」という判断がより重要になってくると言えます。
以前、ダメなアクティブファンドの見分け方について書きましたが、これは、冒頭の「バフェットからの手紙」の視点と同じ考え方です。
まず第一に、“ゴキブリ”を見かけた運用会社は避けるべきだと思っています(この点については、後で、他の事例も紹介したいと思います)。
事態の深刻さは、開発・商品化における各フェーズにおいて、「ゴキブリ」が処理されることなく、平然と闊歩出来てしまった事実にあります。
残念ながら、大手運用会社ですら、一部の商品開発・運用の実態は、このような嘆くべき状況にあると言えます。
ですが、決して、悲観だけする必要はないと断言できます。
というのも、「顧客本位」の視点に立った非常に素晴らしいコンセプトの下で商品開発が行われた事例も散見されるようになっているからです。
その代表的な1つが、「eMAXIS Slim」だと思います。
当ファンドのような商品を開発してくれる人たちが運用会社にいるという点は、「投信ビジネスの健全な発展」が絵空事ではないと期待させてくれる好事例だと思います。
アクティブファンドにおいても、(残念ながら、未だにその兆候は見られませんが)、今後は、同様の視点が芽生えることを願うばかりです。
「資本市場の健全な発展のために求められる、投資信託のあり方」について、真剣に考えるべき時に来ているのだと思います。