長考が相手のプレッシャーに…」師匠が考える藤井聡太竜王・名人の“3つの武器”とは
6/25(日) 11:12配信
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藤井聡太も羽生善治も…「忘れ物」は棋士の職業病なのか
から続く 次々とタイトルを奪取し、将棋界を席巻する天才・藤井聡太。その師匠である杉本昌隆八段が、瞬く間に頂点に立った弟子との交流と、将棋界のちょっとユーモラスな出来事を綴ったエッセイ集『 師匠はつらいよ 藤井聡太のいる日常 』(文藝春秋)。
【写真】藤井聡太七冠の師匠・杉本昌隆八段と姉弟子・室田伊緒女流二段 その中の一篇「藤井竜王『三つの武器』(2021年12月2日号)を転載する。 (段位・肩書などは、誌面掲載時のものです)
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タイトル保持者と比べてしまうと「八段」の段位は平社員
『師匠はつらいよ 藤井聡太のいる日常』(文藝春秋)
藤井聡太新竜王の誕生から数日経つ。テレビ、新聞、ラジオでは連日この話題が取り上げられた。きっと今は色々な雑誌にも掲載されていることだろう。 「竜王と名人と三冠と八段(私)では、誰が一番格上なのですか?」
タイトルの解説をしているときに時折聞かれる。
棋戦の序列は竜王、名人の順(タイトルとしては同格)。席次では次に三冠(複数タイトル保持者)となる。タイトルの数では上回っていても、竜王、名人の重さはそれを凌駕する。この2つのタイトルが別格とされる所以である。
なお竜王対名人の対局では、保持しているタイトルの総数で上座が決まる。これが同数の場合、棋士番号が若い(棋士になった日が早い)ほうが上座となる。 藤井竜王はタイトルを四つ保持し、渡辺明名人の三冠より1つ多い。なので藤井竜王が序列1位で事実上のトップになるのだ。
ちなみに私の「八段」も段位は高いが、タイトル保持者と比べてしまうとまあ……平社員ですな。
常識に挑戦するのが藤井将棋
さて、これだけの偉業である。今回は、改めて藤井将棋の強さを述べてみたい。
1 相手に威圧感を与える長考 一般的に相手の長考はありがたいものである。
「しめしめ、相手は次の正解が分からず迷っているに違いない」 残り時間が切迫すれば間違いも起きる。しかしこれは一般的な棋士の場合。藤井竜王は秒読みに追い込まれるのを全く苦にしない。なので、相手からするとこれがプレッシャーになるのだ。
「藤井竜王が1時間長考? 早くも勝ちを読み切ろうとしているのでは?」
藤井竜王の考えている姿そのものが相手への威圧感になるのだ。
2 常識を超える感性 「普通はこう指すよね」
感想戦等でよく言われる言葉。無難だから、前例があるから、人により理由は様々。だが、そんな常識に挑戦するのが藤井将棋だ。
棋士が脱帽するほどの信頼感
今回の竜王戦第2局で現れた「7一金」もそれ。意表をつくようでも深い研究と読みに裏付けられている。奇をてらった指し方はせず、常にまっすぐなのだ。
3 正確無比の終盤力
将棋の終盤は「悪手の海を泳ぐようなもの」とも言われる。4~5通りの候補手が浮かぶある場面。正解は1つだけで後は全部負け、これがひたすら続くのだ。
藤井竜王は詰め将棋で鍛えた読みの能力により、終盤のミスが極端に少ない。
「藤井相手に互角の終盤では勝てない」
ときにこんなことさえ言われる。その真意は、こちらは悪手の波に飲まれてしまうが、藤井は決して間違えないから。棋士が脱帽するほどの信頼感があるのだ。
競争は激しくなるが、将棋界はますます活性化しそう
タイトルが動いた竜王戦第4局の最終盤、実は難解ながら豊島将之前竜王にチャンスが訪れていた。
究極の二択で選んだ手が結果的に敗着で、勝利の女神は藤井に微笑む。勝負のアヤは紙一重だとあらためて思ったものだ。
まだ19歳、これからもタイトルを増やし続けるのは間違いなく、他の棋士からすると(藤井竜王を倒さねば自分たちの未来はない)との思いであろう。 若きトップの誕生。競争は激しくなるが、将棋界はますます活性化しそうである。楽しみだ。
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このエッセイは『 師匠はつらいよ 藤井聡太のいる日常 』(文藝春秋)に収録されています。週刊文春連載を待望の単行本化。藤井聡太とのエピソード満載、先崎学九段との対談「藤井聡太と羽生善治」も特別収録して好評発売中です。 「飛車を振るとさばけないので…」絶対に飛車を振らない天才・藤井聡太の師匠が“振り飛車党”になったわけ へ続く
杉本 昌隆