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入居金に6000万も払ったが…77歳で高級老人ホームに入った私が、わずか2年で「退去」を決意したわけ

2023年11月30日 08時03分36秒 | 不動産と住環境のこと
入居金に6000万も払ったが…77歳で高級老人ホームに入った私が、わずか2年で「退去」を決意したわけ(文春オンライン) - Yahoo!ニュース

 


 ライブハウス「ロフト」創設者・平野悠さんは2021年、77歳にして千葉県鴨川市にある自立型高級老人ホームへの入居を決意した。入居資格は60歳以上、入居時には介護を必要としないこと。入居金は6000万円かかるというから驚きだ。


【画像】入居金は6000万円…高級老人ホームでの暮らしを見る(全12枚)


 太平洋を望む温泉大浴場で体をいたわり、館内レストランでは専属シェフが作る美食に舌鼓――高級ホテル並みの豪華な施設で悠々自適の老後ライフを謳歌していた平野さんだったが、このたびこの老人ホームからの退去を決意したという。一体どんな心境の変化があったのか? エッセイを寄稿していただいた。


◆◆◆


 結局、私は老人ホームを少々甘く見ていたようだ。死ぬまでに1億円以上かかると言われる豪華な自立型高級老人ホーム。パンフレットを見ると、健康そうな老人たちが明るくにこやかに生活している。私は2年前、倉本聰脚本のドラマ『やすらぎの郷』のようなめくるめく愛の宿での老後生活に憧れて、未来型(?)老人ホームに入居した。「孤立無縁の隠居生活」をテーマに暮らしてみたが、たった2年で頓挫してしまった。


高級老人ホームに入ったわけ
 老人ホームに入ろうと決めたのは、コロナ禍がきっかけだった。3年前、私が経営するライブハウスから早くもクラスターが発生してしまい、私はその責任をとって会長職から退いた。肉体的にも精神的にも消耗していた時期だった。


 私生活では、長年の妻(いい人なんですが)とは家庭内別居状態で、半年以上口もきかない日が続いていた。カミさんとの30年にもわたる生活のなかで、ろくなことをしてこなかった自分。きっと私を恨んでいるはずだ。来るべき老後にアルツハイマーになったり、歩けなくなったりした時、とてもシモの世話までカミさんに身を任せる気にはなれなかったのだ。


 もうすぐ80歳、いつ死んでもおかしくない歳になって、自分の死に様は医療や介護の専門家に委ねるのが一番だと思い、一人で老人ホームに入居しようと決意した。




全く不満のない生活をしていたはずだった
 当時の私の老後のテーマは「東京ではないどこか海の見える田舎で暮らす」ことだった。わが理想郷を求めて辿りついたのは、三井不動産が運営する高級老人ホーム「パークウェルステイト鴨川」。最終的な入居の決め手は、高層階にある自分の部屋からの眺望だった。実際入居後は、眼下に広がる鴨川湾、サーファーが群れる海、街の灯りや緑の山や潮風の中を銀河鉄道の如く走り抜ける外房線に毎日感動していた。


 一人きり(?)の孤独的な生活にも1年で十分慣れた。私の自室は65平米の広さで、キッチンもついている。一人で暮らすには十分な設備だ。広大な太平洋を眺めながらたくさん本を読み、音楽を爆音で聴き、楽しかった青春を追憶し、ひとりぽつんと酒を飲む。ベランダにやって来るトンビも手なずけたし(半年かかった)、孤独な老人を慰めてくれるだろうAI犬・アイボも買ったし、メダカも30匹ほど飼うことにした。


 ホームの館内は高級ホテル並みの豪華さで、食堂、図書館から露天風呂、各種会議室、ジム、カラオケ、ビリヤードなどの娯楽施設まである。スタッフも親切で、提携する亀田病院によるサポートも完璧、全く不満のない生活をしていたはずだった。


 にもかかわらず退去しようと決めた理由の一つに、私が所属していた地元のテニスサークルでの些細な口喧嘩がある。


退去を決意したきっかけは…
 ある日、仲間の一人がサングラスを買ったと自慢していたので、それを悪気なく茶化してしまった。すると激高した相手から「ちょっと金持っているからって、あんなところに住んで偉そうな顔をして……」と言われた。周りにいた人たちは無言。


「そうか、地元の人たちの目にはそういう風に見えていたのか」と私は愕然としてしまった。


 さらに後日、駅に向かう入居者専用のシャトルバスの中で、長老のO氏からこう切り出された。O氏は夫婦でこのホームに入居している。


「平野さん、俺はね、このホームを出てゆくことにした」


 夕暮れ時の鴨川の町には、侘しく秋の雨がふりそそいでいる。


「えっ、どうしてそんな決意をなされたのでしょうか。Oさんの場合、ご夫婦で1億円以上の入居金を払っているはずですが」



「お金の問題ではないんです。ここには映画館も劇場も美術館もスポーツクラブもスーパー銭湯も気軽に入れる飲食店や喫茶店もないでしょう」


「そういえば山頭火や一風堂のラーメン、CoCo壱のカレーが食べたいな」と私。


「外に出て街を散策しても商店街には人が全くいなくて、ホームから海岸まで20分以上かかるし、夜の海の散歩は危険だし。そうなると時折の買い物以外は外には一歩も出ず、閉じこもるしかない。毎日がこのホームの中で完結してしまう」


「だからといって朝から館内でカラオケや麻雀をやるのは味気ないですしね。私の老後のテーマは『孤独と海』なんです」


「平野さんは海の風景が好きだからここにいると言っているが、私はそうでもないですから。妻も都会が恋しいみたいで、友達や親類となかなか会えない、と愚痴をこぼしている。ここはね、足腰が立たなくなったり、重病にかかっている人たちにとっては素晴らしい場所です。自分もそうなったら、またこういう老人ホームに入ることになると思うが」とO氏。


新しい住処でやりたかったこと
 たしかに今の私はまだ元気がありすぎる。体の不調はない。このホームでも一番元気がいいと言われる。食事もほとんど自分で作る。


 一方、自立型老人ホームといえど、館内には車椅子の人や重病を患っている人が多く、まさに「ザッツ、老人ホーム」という雰囲気。『やすらぎの郷』のように、インテリジェンスある入居者たちとバーで一杯飲みながら余生を語ってみたいと夢見ていたが、そんな余裕はなさそうだった。


 私はこの新しい住処で、相変わらず一波乱を起こそうと考えていた。過疎化が進む鴨川の市長やこの老人ホームを運営する不動産会社の偉いさんを引っ張り出し、東京の著名人を呼んでYouTubeあたりで、トークセッションをしたかったのですがね。他にも、イベントを開催したり、ジャズやロックが流れる喫茶店を開いてみたいなどと考えていたが、いずれも何もしないうちに頓挫してしまった。


 ついには地元の人たちとは友情を育み、親しくなることもできなかったな。せめて漁師さんとは友達になりたかった。


東京に戻ろうと思った
 そうなると散歩か買い物に行く以外、広大な海の見える部屋から食堂と露天風呂、館内のジムに行く以外誰とも話すこともなく、一歩も外に出ないで部屋に引きこもっている日常が続くことになる。この地に私がいる必然性は全くなく、私はこの地では何もしないだろうし、何もできないだろうと思った。ただ死ぬのを待つだけか? と毎日痛飲する。このままいたずらに時間は過ぎてゆき、老いさらばえて死んでゆくのだろうか。そう思い、なんともやりきれないでいた。


 最終的に、私は何かしらの可能性がある「都会」に戻ることを決意した。歌舞伎町の雑踏を歩きたい、たくさんのライブや映画も演劇も見たい。色々な催事にも参加したい。会社での復権も果たしたい。若い連中と酒を飲み、親しい友と友情を交換し、私を含めて連中の最後をも見届けたいと思った。そうするには、ここは東京から離れすぎている。


 今更ながら、この老人ホームに入居するのはちょっと10年早かったのかもしれない。重い病気にかかったり、ヨロヨロになって歩けなくなった時こその老人ホームだと実感している。


退去の費用は…なんともよく散財したものだ
 最後に少しだけお金の話を。この老人ホームでは、共益費、基本サービス料として毎月20万円弱かかる。その他に生活費や交通費、電気水道料金とか酒代とかで10万以上はかかってしまう。入院することになったらさらに大変だ。


 私の場合、入居金は6000万円だった。90歳になるまでの13年間をこのホームで過ごせば、全額が償却される契約だ。もちろん部屋の売り買いはできない。退去するとなると2年分の居住費などに加えて、入居金の2割弱(1000万円ほど)が問答無用でさっ引かれる。あとは部屋の原状回復費用とかで、いくら請求されるのかわからない。


 ソクラテスは「ただ生きることではなく、よく生きること」「よく生きるためには何をすべきか」と説いた。今私はそれを肝に銘じている……。


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