犯行現場となった東京都立大学(大学公式サイトより)
東京都立大学でいつものように授業を終えた社会学者・宮台真司さん(63)が突然大学内の歩道で男に襲われ、全身を切られ重傷を負ったのは11月29日のことだった。
【画像】「地図上は宗教施設の名前が…」倉光容疑者が自殺した別宅
警視庁は事件から2週間後、現場から歩き去る男の防犯カメラ映像を公開。だが、住宅街に逃げ込んだ男の足取りをなかなかつかむことはできず、関係者からは捜査能力の低下を嘆く声や、“迷宮入り”を囁く声もあがっていた。
思いもよらぬ形で事件が幕引きを迎えることになったのは、2カ月後の1月30日のこと。なんと、ようやく苦戦のうえ辿り着いた倉光実容疑者(41)が既に自殺していたことが判明したのだ。
地元の私立高校進学後「周囲に溶け込めなくなった」
社会部記者が話す。
「端緒となったのは倉光容疑者が乗っていた、防犯カメラに映った自転車でした。警視庁は車種を特定して購入者を洗い出し、ようやく1月30日に倉光容疑者に辿り着きましたが、時すでに遅し。倉光容疑者は公開手配4日後の12月16日、実家の別宅で首を吊り、母親に発見されていたことがわかったのです。自宅からは凶器とみられる全長30センチの斧や、『家族や知り合いに迷惑をかけた』という内容の遺書も見つかりました。警視庁は容疑者死亡のまま書類送検する見込みです」
近隣住民らによると、倉光容疑者は神奈川県相模原市の一軒家で、水道工事業を営む父と母の3人で暮らしていた。姉が2人おり、倉光容疑者は末っ子。地元の中学校を卒業後、相模原市内の私立高校に進学した。
この頃から周囲に溶け込めなくなったとみられ、大人になってからも内気な態度は変わらず、住民らが倉光容疑者を日常的に見かけることは少なかったという。
近隣住民の女性が話す。
「黄ばんだ染みのあるボロボロのTシャツを着て…」
「倉光さんは大柄の坊主頭で、夏はいつも背中に黄ばんだ染みのある、ボロボロのTシャツを着ていました。防犯カメラの映像に映っていたお洒落なオレンジの帽子を被るようなイメージが全くなく、写真を見ても正直ピンと来なくて……。よく乗っていた、シルバーの自転車も同じくボロかったですね。体格がいいので自転車が、子供のおもちゃみたいに見えましたよ。
毎日、朝7時頃に両親が住む家に出かけ、夜8時頃になると帰って来る。仕事をしている様子もなく、『一体何をしている人なんだろう?』と不思議に思っていました。挨拶をするとニタっと笑い無言で立ち去るので、少し不気味でしたが」
倉光容疑者が働けなかったのには「ある理由があった」と証言するのは、別の近隣住民だ。
「20年前ぐらいでしょうか、倉光容疑者のお母さんと話していたら『息子が精神的な病気で働けないんです』と言っていたのを覚えています。
『息子は引きこもりで自分が死んだら困ってしまう』という理由で、自殺の現場となった別宅を10年ぐらい前に買ったとも言ってました。
仲の良い普通の家庭だとは思いますが、お母さんはあるキリスト教系の宗教に入っていたようで、数年前にお父さんとタバコを吸って立ち話をしていた時、『女房が宗教にハマって困る』とぼやいていたこともありましたね」
地図上の自宅の場所には「宗教施設の名前」
近隣住民らによると、自殺した別宅には住宅地図で宗教施設の名前が記載されていたほか、以前は若い男女が談笑する「集会」が開かれ、住民らが勧誘されることもあったという。
倉光容疑者はこの別宅で寝泊まりをしており、人の出入りは本人のほか、母が週1度ほど掃除にやってくるだけで、孤独な生活を送っていたようだ。近隣住民の男性が話す。
「息子さん(倉光容疑者)と違い、お母さんはいつも明るく挨拶してくれて、愛想が良かった。私が朝ゴミを出す時に、お母さんはいつも決まった時刻に自転車に乗りやってきて、顔を合わせることが多かったです。別宅の窓を開けて換気したり片付けしたりして1時間ぐらいすると、帰っていくんです。40歳といい歳して片づけも一人でできないのか、と思わないこともなかったですが……。
息子さんが亡くなった後にも、玄関の靴を片付けたりしに家に来ていましたね。その時、お母さんは目も合わせてくれないほど落ち込んでいて、声もかけられませんでした。てっきり心筋梗塞とか脳卒中とか、病気で亡くなったと思っていて、自殺と知ったのは報道された今日になってからです」
倉光容疑者の自殺当日には、朝から救急車や消防車が自宅前に止まるものものしい雰囲気だったという。
また、倉光容疑者の家族は警察に対し、倉光容疑者が「公開手配当日から食事も喉を通らなくなる」というおかしな様子だったと証言しているようだ。自殺前日の“異変”は近隣でも目撃されていた。
「いつもは夜7時頃まで家にいませんが、あの日は夕方4時頃に帰って来て、珍しく1階の電気が全部煌々と点いていて、
『いつもと違うな』と思ったのを覚えています。今考えれば、何か自殺の準備を一人で進めていたんじゃないかという気がしますね」(前述の近隣女性)
一方、被害者である当の宮台さんは、倉光容疑者の自殺が報じられると、「動機がわからず、気持ちの踏ん切りはつきにくい。人が亡くなるのはどんな理由があっても悲しいことだ」とコメント。襲撃の背景は不明だが、知名度が高く発言で注目を集めることもあり、知らぬ間に倉光容疑者の身勝手な恨みをかった可能性も否定できない。
宮台さんのイベントに届いた何通もの“嫌がらせメッセージ”
事件の10日前、宮台さんが登壇したイベントの会場だった新宿のバー店主が話す。
「イベントを開催後、全く顔も知らない不審者から店の従業員にTwitterで、粘着質に絡むような嫌がらせのメッセージが何通も届いたんです。警察もこうした不審者が犯行に及んだ可能性があるとみたのか、今回の自殺が発覚する10日前に店の従業員に突然連絡がきて、イベント客のリストを回収されました。
宮台さんは若者と議論をするのが好きで、大学生が開くような小さなイベントでも気さくに来てくれますし、一般人との距離感が近い。オープンに人と関わる宮台さんだから標的になってしまったのかもしれません」
ひっそりと住宅街に暮らしていた物静かな40代の男の狂気は、なぜ突然宮台さんに向かうことになったのだろうか。本人の口から事件の真相が語られることは二度とない。
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