東京五輪が2021年7月に延期。「開催中止」も囁かれている。地価上昇を見越して、都心の高層マンションやオフィスに移住を決めた読者も多いだろう。はたして、これから不動産は“買い“なのか。
新型コロナウイルスの経済的影響に関する言説に注目が集まる経済アナリストの森永卓郎氏は「いまは不動産投資をするべきではない」と警鐘を鳴らす。
その真意はーー。
『年収200万円でもたのしく暮らせます コロナ恐慌を生き抜く経済学』の発刊を控える森永氏が、不動産投資のリスクについて分析・提言する》 *本稿は、『年収200万円でもたのしく暮らせます コロナ恐慌を生き抜く経済学』 (PHPビジネス新書)の内容を抜粋・編集したものです。
「買えば上がる」の構造が崩れた
東京都心部の不動産投資は、いまはお勧めしません。 東京都心の地価は、2021年の東京オリンピック前に大暴落を起こします。 これは一般常識で考えても当たり前の話です。たとえば、東京・銀座5丁目の鳩居堂(きゅうきょどう)前の路線価は、2019年で坪1億5048万円です。
バブル直後のピークだった1992年の時でさえ、1億2045万円でした。これだけでも、十分バブルであることがわかるでしょう。 そもそも鳩居堂はお香も売っている文房具屋です。仮に30坪だったとして、いま銀座でその広さの土地を手に入れるのに、単純に45億円かかります。文房具屋を営むのに45億円の金を投じて採算が合うかというのは子どもが考えてもわかる話で、採算が合うわけがありません。
なぜ、こんなに都心の土地が高騰しているのでしょうか。 東京都心の不動産を賃貸に回したときの利回りは、わずか1%か2%程度。物件によってはゼロです。それなのに物件を買う人がいるのは、「買えば上がる」からです。
土地を保有しているだけで地価が上がっていくなら損はしないだろう、ということです。 佃のタワーマンションは数億円します。麻布、赤坂となると、10億円はくだりません。ところが、サラリーマンの生涯年収は2億円程度。
どうして10億円のマンションが買えるのかというと、「金で金を稼がせている」からです。バブルを起こしてマネーゲームで金を稼ぎ、それが東京という街を形づくってきたのです。 そのおこぼれに預かる富裕層と、その富裕層の“しもべ“がたくさん集まってきているのが東京の構造であり、私はその構造が崩れると考えています。
5%以上の表面利回りが確保できる物件を狙え
出典:森永卓郎著『年収200万円でもたのしく暮らせます』(PHP研究所刊)
いまバブルを起こしているのは、東京都心部だけです。他の地域は、そもそもバブルを起こしていないので、バブル崩壊の影響は、ほとんど受けないでしょう。 それでは、バブルを起こしている場所とそうでない場所をどう見分けるのか。
それは、不動産投資をしたときにきちんと利回りが取れるかどうかです。 不動産投資の利益は、「インカムゲイン」と「キャピタルゲイン」の2種類に分かれます。 「インカムゲイン」というのは、購入した不動産を貸し出すことで得られる「家賃収入」です。
その家賃収入が投資金額に対してどれだけの比率になるかというのが、「表面利回り」です。 投資家は家賃収入のなかからローン返済や諸経費を支払わないといけませんし、空室になるリスクにも対応しなければなりません。 ですから、表面利回りが3%を下回っている物件は、手を出してはいけません。可能なら5%以上の利回りを確保しておくべきです。
都心の不動産には表面利回りが3%を下回っているものがたくさんあります。それだと賃貸に回しても、実質赤字になりかねません。
それでも、買い手が後を絶たなかったのは、「キャピタルゲイン」が得られるからです。キャピタルゲインというのは、物件を売却したときに得られる「値上がり益」です。 東京都心の地価は、リーマン・ショックの影響で一時的に下落した後、この10年間、ほぼ一貫して上昇してきました。つまり、インカムゲインが取れない物件でも、キャピタルゲインで十分な収益が獲得できていたのです。
ただ、これまで述べてきたように、コロナ後のライフスタイルの変化のなかで、その構造は変わる可能性が高いでしょう。少なくとも、値上がり狙いで都心の物件を買ってはいけないと私は思います。