さて、「不妊治療を保険診療に」することに反対する意見の一つとして、施設間における治療レベルの非常に大きな格差があります。
例えば、最も施設のチーム力が問われることの一つと考えられる、「精巣精子使用ICSI」を例に挙げてみましょう。
2017年に発表された2016年の日本産婦人科学会のデータによると、本邦で高度生殖医療を行った施設は587施設。
そのうち、「精巣精子使用ICSI」が行われたのは228施設のみ。また、実施11例以上の施設が58施設しかないのです。51例以上となると4施設しかありません。全体で妊娠例が報告されたのは53施設、実際出産まで至ったのはたったの43施設(7.3%)。まさにこの治療の専門家として個人的に考えるに、高いレベルを保つためには、そして患者さんに提供できるレベルとすれば、最低年間51例程度は必要なのではと考えます。
もちろん施設の規模など、一概に施行していない施設のレベルが低いとはいえませんが、他、体外受精、射出精子使用顕微授精においても同様の傾向があります。大規模に行っているところに治療周期は集中している、患者が選択して集中していることが他の疾患に比し顕著です。quality controlの観点からも医療において、症例数というのは施設のレベルを量る要素の一つであることはいうまでもありません。
また世界的に考えても、生殖医療を大規模にやっているところはほぼすべて都市部に存在し(生殖年齢の人口は都市部に集中していることも大いに影響していますが)、その格差はますます開いていきます。
地方の患者も、レベルの高いクリニックを求めて、都市部への通院を選ばれている患者が多くなるのは欧米ではより顕著です。
都市部で大規模な施設を運営することは、賃料、人件費などの固定費が増大することになります。もちろん最先端の治療を行うためには、最新の医療機器が不可欠であり、その分自由診療というカテゴリーから、患者さんへの費用負担が大きくなる傾向は否めません。それでも成功率を求めて、患者さんは選択されるのです。その結果ますます診療内容の格差が開いていきます。この繰り返しが長い間ずっと行われてきたわけです。だから体外受精1周期当たりのコストが30万円から80万円と施設によって大きな差が生まれてきたのです。ここに公的負担として、助成金が(年齢制限や所得制限はあるものの)1周期当たり30万円というのが現状です。
ここに保険診療をいきなり導入すると何が起こるか?診療点数の決め方は様々な観点から、平均的な点数が設定されます。平均的な点数となると、大規模な先進施設はほぼコストダウンとなり、何かを削らなくては運営していけなくなります。お分かりのように、その結果として医療の質の低下が生じます。
豪州ビクトリア州などは公的負担の条件として、症例数(採卵数)の最低ラインがあります。年間に採卵2000件以上(前年度実績)の施設で治療を行う場合のみ、公的負担があるなど。これを2016年の本邦に当てはめると、587施設中48施設(8.3%)だけで治療を受ける際に公的助成を受けられることになります。
スウェーデンでは公立病院で治療を受ける、妻の年齢が40歳以下である場合にのみ、公的助成があります。にもかかわらず、大半の患者は助成のないプライベートクリニックで治療を受けています。
これらから鑑みても、本邦で「不妊治療を保険診療に」することには絶対に反対です。
保険診療にするのではなく、助成金制度の拡充を図れば、解決できることは多く、地方においても、たとえば中国地方に一つ、四国に一つ、九州に一つなど、大規模施設が生まれ、そこに選択的に集中し、高いレベルが保てるのではないかと考えます。データを分析しても、日本の生殖医療を行う施設は多すぎます。どこでも助成を受けられる体制(軽い審査はありますが)を厳格に変えれば、淘汰は進み、本気で生殖医療をやらないと廃れていくという構図を図るべきであり、「不妊治療を保険診療に」することは完全に逆行することにつながります。
2020年8月の男性不妊手術件数
micro TESE 22件
simple TESE 5件
精索静脈瘤手術 40件
例えば、最も施設のチーム力が問われることの一つと考えられる、「精巣精子使用ICSI」を例に挙げてみましょう。
2017年に発表された2016年の日本産婦人科学会のデータによると、本邦で高度生殖医療を行った施設は587施設。
そのうち、「精巣精子使用ICSI」が行われたのは228施設のみ。また、実施11例以上の施設が58施設しかないのです。51例以上となると4施設しかありません。全体で妊娠例が報告されたのは53施設、実際出産まで至ったのはたったの43施設(7.3%)。まさにこの治療の専門家として個人的に考えるに、高いレベルを保つためには、そして患者さんに提供できるレベルとすれば、最低年間51例程度は必要なのではと考えます。
もちろん施設の規模など、一概に施行していない施設のレベルが低いとはいえませんが、他、体外受精、射出精子使用顕微授精においても同様の傾向があります。大規模に行っているところに治療周期は集中している、患者が選択して集中していることが他の疾患に比し顕著です。quality controlの観点からも医療において、症例数というのは施設のレベルを量る要素の一つであることはいうまでもありません。
また世界的に考えても、生殖医療を大規模にやっているところはほぼすべて都市部に存在し(生殖年齢の人口は都市部に集中していることも大いに影響していますが)、その格差はますます開いていきます。
地方の患者も、レベルの高いクリニックを求めて、都市部への通院を選ばれている患者が多くなるのは欧米ではより顕著です。
都市部で大規模な施設を運営することは、賃料、人件費などの固定費が増大することになります。もちろん最先端の治療を行うためには、最新の医療機器が不可欠であり、その分自由診療というカテゴリーから、患者さんへの費用負担が大きくなる傾向は否めません。それでも成功率を求めて、患者さんは選択されるのです。その結果ますます診療内容の格差が開いていきます。この繰り返しが長い間ずっと行われてきたわけです。だから体外受精1周期当たりのコストが30万円から80万円と施設によって大きな差が生まれてきたのです。ここに公的負担として、助成金が(年齢制限や所得制限はあるものの)1周期当たり30万円というのが現状です。
ここに保険診療をいきなり導入すると何が起こるか?診療点数の決め方は様々な観点から、平均的な点数が設定されます。平均的な点数となると、大規模な先進施設はほぼコストダウンとなり、何かを削らなくては運営していけなくなります。お分かりのように、その結果として医療の質の低下が生じます。
豪州ビクトリア州などは公的負担の条件として、症例数(採卵数)の最低ラインがあります。年間に採卵2000件以上(前年度実績)の施設で治療を行う場合のみ、公的負担があるなど。これを2016年の本邦に当てはめると、587施設中48施設(8.3%)だけで治療を受ける際に公的助成を受けられることになります。
スウェーデンでは公立病院で治療を受ける、妻の年齢が40歳以下である場合にのみ、公的助成があります。にもかかわらず、大半の患者は助成のないプライベートクリニックで治療を受けています。
これらから鑑みても、本邦で「不妊治療を保険診療に」することには絶対に反対です。
保険診療にするのではなく、助成金制度の拡充を図れば、解決できることは多く、地方においても、たとえば中国地方に一つ、四国に一つ、九州に一つなど、大規模施設が生まれ、そこに選択的に集中し、高いレベルが保てるのではないかと考えます。データを分析しても、日本の生殖医療を行う施設は多すぎます。どこでも助成を受けられる体制(軽い審査はありますが)を厳格に変えれば、淘汰は進み、本気で生殖医療をやらないと廃れていくという構図を図るべきであり、「不妊治療を保険診療に」することは完全に逆行することにつながります。
2020年8月の男性不妊手術件数
micro TESE 22件
simple TESE 5件
精索静脈瘤手術 40件
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