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男性不妊症専門医が学術活動ならびに雑感を徒然と綴ります。

DHEAに関して

2017-07-02 22:23:47 | 日記
最近外来で急にDHEAに関しての問い合わせが多くなりましたので、注意を喚起しておきたいと思います。
おそらく間違った情報がネットなどで氾濫しているものと思われ、外来でDHEA-sを測ってほしい、DHEAの内服を行いたいとよく聞かれます。

DHEAが造精機能に良い影響を与えるというエビデンスは全くありません。
昔からこの分野をよく理解されていない医師が造精機能障害に男性ホルモンを投与するという過ちを行ってきました。
ホルモンにはfeedback機構というものがあり、テストステロンを投与するとFSH, LHという下垂体からのホルモンは低下します。これらのホルモンは精子形成に非常に大事なホルモンであり、低下することにより、造精機能障害が起こります。絶対禁忌です。たとえばテストステロンや類似物質をよく使用するボディビルダーのいわゆるsteroid-induced infertilityというのは昔から有名な話です。

テストステロンは精子形成にどのように作用しているのでしょうか?難しい話になりますが、精細胞にはアンドロゲンレセプターがなく、セルトリ細胞に作用し、そのセルトリ細胞が精細胞の分化を進めるべく、様々な物質を出しているのです。ということでセルトリ細胞を働かせるFSHというホルモンが非常に大事になります。このテストステロンとFSHを共に上昇させるのがクロミッドというお薬になります。クロミッドは症例を選べば、精液所見の向上が見込める数少ない薬ですが、これもエビデンスレベルでなく、実際に本邦では保険も通りません。効果予測も非常に難しく、理論的にFSHが低い、Tが低い(造精機能障害のある方でこういうタイプはほとんどいないのですが、、)患者さんに使われます。


どうしてもテストステロンが重要だ!欲しいんだ!という方に対し、いろんなトライアルが大規模にされた時代もありました(20年以上も前になります)。比較的年配の方にテストステロン補充やDHEAサプリを摂っていただくと調子よい(男性更年期障害の緩和)ので、なんとなく元気になる(精子形成とは別の話ですが)ので、テストステロンはダメとしても、DHEAなんてのはテストステロンを軽く上昇させて(期待でき?)、FSHもさほど下げずに(下がりすぎるとやっぱり良くないよねと)、使ったら精液所見が悪くなるんだろうかと(よくならないことは百も承知ですが)。特に若い方の造精機能に対して影響出るのか、と。

Pharmacokinetics of dehydroepiandrosterone and its metabolites after long-term daily oral administration to healthy young men
Fertil Steril. 2004 Mar;81(3):595-604

結果はDHEA高容量(200mg)でもFSH, LH, テストステロン、精液所見、全く変化なしでした。
なぜこうなるのかは、これまた難しい話になりますので興味ある方は論文読んでください。
DHEA-sを男性不妊患者に測定する意味がない理由もここにあります。
またこれは造精機能障害のない健康男性(精子濃度の平均が120M/mlというレベル)です。もちろんよくならないことは判っているので低下しないかを見た論文です。
造精機能障害のある患者(たとえばFSHが15mIU/mlとか、精子濃度が極めて低い方)に対して投与を行った時のホルモン動態などのデータはありませんが、悪くなる可能性が十分ある(可能性は高いと個人的には思っています)わけで、患者を実験台にしてスタディーが組めるわけがありません。

少しでも男性因子をよくしたいという患者さんの切実なる思いはよく理解していますが、意味のない(乏しい!さらに逆効果になることが予想される)ものを出したり検査をするつもりは私にはありません。ある患者さんは精液所見が良くなったから!といわれますが、精液所見は非常に変動するものです。1回の検査でよくなったというのは、残念ながらたまたまそういう結果が出たとしか言えないのです。ですから外来で何度も何度も精液検査をするのです。また精液検査をする施設、環境によってもかなり大きく変動します。コンピューターを使っての分析であったとしてもそうです。

医学は科学で長い年月の積み重ねで現在に至っています。もちろん新たな進歩はいつの時代になってもあるわけですが、今回のDHEAはそういった類のものではありません。ネット情報で自分にも効果があるのではないかというこのたびの問い合わせの多さに時代を感じるところではありますが、どうぞご理解ください。

最近いろいろと非常に忙しく、こういった情報発信が全くできていなかったことも今回の事態の原因の一つかと思います。当院の松林統括院長やRCOの北宅院長のように専門医がブログで英文論文(間違った論文もいっぱいあるのですが、、)を丁寧に解説されている姿勢には本当に頭が下がります。患者さんにおかれましては、氾濫する情報の中から、正しいものを取捨選択する姿勢を持っていただきたいと思います。医師の言うことも絶対ではなく、特に日進月歩のこの世界で不勉強は害悪にさえなりうるという覚悟で医療従事者側も覚悟しなくてはいけません。私もできる限りの発信をしていきたいと考えます。


2017年7月の予定

2017-07-02 22:17:51 | 日記
7月の予定です。
外来診療
・リプロダクションクリニック大阪(予約要06-6136-3344、金 17:00-19:30、土祝10:00-15:00): 7/7(金), 8(土), 14(金), 15(土), 21(金), 22(土), 28(金), 29(土)

・リプロダクションクリニック東京(予約要03-6228-5351、水木 17:00-19:30、日祝10:00-15:00): : 7/2(日), 5(水), 6(木), 12(水), 13(木), 16(日), 19(水), 23(日), 26(水), 27(木), 30(日)

・石川病院(予約不要 火9:00-12:00, 15:00-18:00):7/4(火), 11(火), 18(火), 25(火)

7/1, 9, 17, 20は休診です。宜しくお願いいたします。

手術はリプロダクションクリニック大阪、リプロダクションクリニック東京、石川病院でほぼ毎日行っております。
お問い合わせください。もちろん週末の手術も可能です。
micro-TESE, simple TESEは日帰り手術、精索静脈瘤手術は1泊2日、もしくは日帰り手術です。

2017年6月の男性不妊手術件数
micro-TESE 16件
simple TESE 4件
精索静脈瘤手術 10件