日本の生殖医療を世界レベルに!

男性不妊症専門医が学術活動ならびに雑感を徒然と綴ります。

FSH (卵胞刺激ホルモン)

2011-03-28 15:20:02 | 日記
男性不妊症に対するスクリーニング検査の中で最も頻度が高いホルモンの異常が血清FSHの上昇です。血清FSHが正常範囲内であるときは通常精液中に精子を認めることが多く、無精子症の場合は閉塞性無精子症(精路の通過障害)を疑います。しかし血清FSHが正常範囲内であっても精子形成障害を認めることが少なからずあり、例えば精子形成が精母細胞、精子細胞など途中段階で分化が停止するmaturation arrestがそうです。精巣の大きさが正常であり、また精管や精巣上体に明らかな閉塞が認められない場合においては、このmaturation arrestを念頭におく必要があると考えられます。

血清FSHが低値の場合、視床下部、下垂体系の異常を考慮します。低ゴナドトロピン性腺機能低下症の場合、血清FSH、LH、テストステロンはいずれも低値を示します。この場合は二次性徴の遅延などにより小児期に発見され、内分泌学的治療を受けていることが多いですが、勃起障害(ED)や射精障害、不妊症を主訴に来院されることも少なくありません。

二次性徴は通常に発来しているが、成人になってから視床下部、下垂体の機能低下が出現してきた二次性低ゴナドトロピン性腺機能低下症の場合には中枢神経系の腫瘍や脳腫瘍、頭部外傷などを除外するため頭部MRIを撮像します。

男性不妊で受診される方は、FSHが高値の場合が非常に多いのですが、これは精子が形成されないため、そのフィードバックで高値となっているのです。よく患者さんから「どうすれば上昇している血清FSH値が下がりますか」と尋ねられますが、FSHが上昇しているのは「原因」ではなく、「結果」なので、精子形成が進めばFSHは正常値に近づきますが、これを下げることは治療にはつながりません。

ちなみにMicro-TESE(非閉塞性無精子症に対する)の精子回収率はFSHのデータに相関がありません。私の今までの350例あまりのデータ解析においても、FSH値が低い方が回収しやすいということはありません。すなわちこのデータで一喜一憂する必要はないのです。

放射線

2011-03-24 18:34:27 | 日記
今回の原発事故の件があり、多くの方から質問を受けていますので、一部分を示しておきます。

「放射線による精巣での精子形成への影響は大きいものがあります。
しかしながら現時点での原発からの放射線量では全く問題ないレベルです。」

精巣内の精細管において精原幹細胞は分裂を重ねて精母細胞となり、精母細胞は減数分裂を経て精子細胞となり、精子に分化していきます。細胞分裂は放射線の影響を特に強く受け、停止してしまう可能性があり、精子形成は被曝線量に依存して一時的もしくは永久に停止します。分裂期の細胞は放射線に非常に感受性を示すのが事実です(これががん治療などで放射線治療が可能な理由です)。

実は成熟した精子自体は放射線耐性なのですが、、。

急照射した場合、4Gy程度の照射で恒久的に細胞分裂が停止することがこれまでの研究でわかっています。
一時的な(回復可能な)細胞分裂の停止に関してはデータは様々ですので何ともいえませんが、0.1Gyほどで起こり始める可能性があるとの報告があります。
(なお原発から出る放射線量の場合、Gyをシーベルトに換算してもほぼ同じだそうです。)

0.1Gy=0.1Sv=100ミリシーベルトですので、現在の原発周囲の1.0ミリシーベルト以下の被曝であれば、まず問題とは考えられないでしょう。ただし線量が非常に少なかったとしても、実際に被曝した場合、精子形成に関しては問題ないでしょうが、精子内の染色体異常や遺伝子突然変異、DNA損傷が誘発される可能性は完全には否定できるものではありません。

例えば、われわれ医療従事者が日常、透視下の検査などで被曝することが多いに考えられる際は、生殖器の防護のための遮蔽(プロテクター)は念入りに行っています。

東日本大震災

2011-03-15 20:00:17 | 日記
大変なことになっています。
今日東京まで日帰りで往復しましたが、影響は首都圏まで確実に広がっています。
いつもと全く雰囲気が違いました。

私は阪神淡路大震災を学生時代に経験しています。
あの地震後の生活は忘れることができません。
余震にとても敏感になり、なかなか寝付けなかったことを覚えています。
ここからが大変なんです。
また、一刻も早く、一人でも多くの方々が救助されることを祈っています。
被災者の方に、民間レベルでどのような支援ができるか、考える必要があります。
出来ることを一つずつやっていくしかないですね。



嬉しいお知らせ

2011-03-10 09:53:39 | 日記
先日三宮での外来の際、2008年にMicro-TESEをされたご夫婦が嬉しい報告をしに来てくださいました。
Micro-TESEで精子回収できたものの、何度となく顕微授精がうまくいかず、ご苦労なさいましたが、このたび妊娠継続中。
5か月に入ったとのこと。
手術をさせていただいたほとんどの方は記憶にありますが、特に印象深いご夫婦であったため、こちらも大変うれしかったです。

以前にも書きましたが、私たちの仕事は精子回収をすることがすべてではなく、妊娠出産まで至っていただくことが一番大事です。
そのために自分が何をできるか、何をすべきか、を考えて今後も努力を重ねたいと思います。

妊娠報告と出産報告はこの仕事をやっていて一番嬉しいお知らせです。
全ての方々にいい結果を出すことは不可能ですが、本来挙児が期待できるカップルの取りこぼしを絶対しないように、そして一人でも多くの方に妊娠出産の可能性をもたらすことができる存在でありたいと強く思います。

第136回日本生殖医学会関西支部集談会

2011-03-07 08:28:42 | 日記
土曜日にMicro-TESE1例終了後、大阪で開かれた本会に行ってきました。
久々に「生殖医療ツーリズムの2例」というタイトルで発表もさせていただきました。
発表後の講演も興味深い楽しいものでした。
終了後は専門医の先生方とカリスマ胚培養士の方々と夕食をご一緒させていただきました。
大変楽しいひとときで、盛り上がりに盛り上がりました。
わかっている方々と話しすると本当に楽しいですね。
今後もいろいろな方たちに色んな事を教えてもらいながら前進していきたいものです。