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男性不妊症専門医が学術活動ならびに雑感を徒然と綴ります。

着床前診断(PGD)について

2012-02-29 14:33:01 | 日記
私はオーストラリアにいましたので、このPGDは本当にとても気軽にやる認識でいます。
PGDとは読んで字のごとく、受精卵の染色体や遺伝子に異常がないかどうかを調べます。
たしかにこのPGDを行うことにより、習慣性流産のリスクや遺伝病など様々なスクリーニングができるようになりました。

私が経験するのは、染色体異常で精子形成障害がおきてしまっている方に、micro-TESEを行い精子回収ができたんだけれど、その後流産の連続で出産まで至らないという事例です。
たしかに染色体に異常をもつ受精卵の多くは着床しても流産してしまいます。
受精卵の中には染色体異常がないものもある可能性があるわけで、なぜそのような選択肢をとってはいけないのでしょうか?

本邦においてはこのPGDの適応が非常に厳しく、患者が希望してもすぐ行えない事情があります。
せっかくの技術なんだからもっと活用できるようにスピード感をもって前進させればいいのに、と思っています。
羊水検査よりPGDを先行させる方がwifeの負担はずっと減るのに。

なお、PGDの世界では非常に先を行っているオーストラリアでも男女の産み分けは適応外です。
簡単にできるんですけどね。これはやっぱり倫理的に問題あるんでしょうか。
私見では全然OKだと思ってるんですけどね。

患者が望めば何でもいいといっているわけではないですが、困っている人がいて、それを救える手段もある、こんなときにそれを妨害する(いいすぎでしょうか?)のはもうひとつですね。議論をして、明確なルールを決めたいですね、早急に。




片側か両側か

2012-02-24 23:11:41 | 日記
久しぶりの更新となってしまいました。
micro-TESEの際、片側で精子が回収できないとき、そのまま終了するか、もう片側行うかは非常に議論のあるところです。
片側を頑張って探しまわった結果、全くいい精細管がなかった場合、もう片側の精巣において施行するかはドクターによって違います。

利点は精子回収の可能性が上がること。
欠点は術後の痛みが2倍になること、男性ホルモンが下がりえること。手術時間が2倍になること。

私の場合は特別患者さんからリクエストがない限り、必ず両方やることにしています。

なぜなら、
いままでの450例を超える自験例から、片側で精子が回収できなかった約8%において、もう片側から精子が回収できていること。
染色体が46XYの患者においては術後男性ホルモン補充をしなければならないほどの低下となったことがないこと。
が理由です。

クラインフェルターの方は術後男性ホルモン低下がひどく補充することもありますが、このクラインフェルター症候群においては片側で発見できなかった14%の症例で、もう片側で精子が発見できています。合併症を減らすのは当然としても、チャンスをみすみす逃しているかと思うと、いたたまれない気になります。なんとかホルモン低下しないように両側手術を行っています。コツはやはり出血させないことだと思っています。もちろん精子が回収できていたとしても、良好な精子が回収できない場合はもう片側いきます。

片側だけで中止してしまっている場合、確かに確率は低くなりますが、0ではありません。
後悔のない、納得のできる選択をしましょう。
実際に結構精子回収例はあり、妊娠出産まで行った方も多くおられますよ。

micro-TESE後の男性ホルモン

2012-02-10 16:12:59 | 日記
以前にもこのネタは書きましたが、最近余りに良くない症例を多く見かけますので少し苦言を。

最近婦人科クリニックでもmicro-TESEをやられることも増えて来ていますが、ここに大きな問題があります。
micro-TESEという手術は精子回収率を上げると同様に、術後の変化を出来る限り小さくしようという手術です。
精子回収できれば、その後はどうなってもいいというわけではありません。
私自身はmicro-TESEは生殖の分野に全く詳しくない泌尿器科医がやるよりも、生殖の分野で現在活躍中の婦人科医が手掛けるほうがいいのではないかと考えていますが、そのためには熟練者のもとでトレーニングを積む必要があります。
そこで、この術式の長所、短所をきっちりと理解していただいたうえで、行っていただきたいのです。

患者さんにとってはたとえ精子回収できなくても、その後の人生の方がずっと長いわけです。
出血や感染などの合併症はどうにでもなりますが、組織量を多くとりすぎたり、いたずらに出血したりしたことによる精巣へのダメージ、すなわち術後の男性ホルモン低下は恒久的に残る可能性があり、一生引きずることにもなりかねません。

どうしても婦人科の不妊クリニックで最初にやられ、その後second opinionや2回目のmicro-TESEを希望されて私のところに来られた患者さんの中に、こういったダメージを受けている方が多いのは否めない事実です。