本邦における生殖医療について、様々なメディアでも取り上げられることが多くなり、非常にありがたいことです。
さらに深い議論となるといいと思います。一部メディアやコメンテーターからは、生殖医療機関が既得権益を守ろうとしているだとか、私利私欲に走っているなど、医療側が敵視されることも多々ありますが、日夜必死に誠心誠意やっている実際の医療現場(患者さんや医療従事者など)を一度でもご覧になってから、そして生殖医療を理解していただいてから指摘していただきたいものです。
さて、不妊治療を保険診療にすることの問題点をさらに挙げていきます。
保険診療になると、薬剤などすべて各保険組合ごとに異なる保険審査の基準に則ったものとなります。おかしな薬剤の使い方や過剰な診療(検査も含む)がチェックされることになります。これはこれで、ガイドラインを策定して運用していけば、決して悪くないシステムなのですが、自費診療が長く続いていたため、不妊治療に使う薬剤など、メーカー側が、ほぼ全く適応承認を取ってきていません。医療機器や培養液、採卵凍結移植その他のキットの承認や保険価格の設定が急いでできるのかという問題点。まだまだエビデンスが乏しい医療であり(妊娠率が世界的にも高くない)、ガイドラインの策定は難しく、実際にクリニックごとに診療内容は大きく異なるのが現状です。
薬剤に関しては、全くの適応外処方が多く、また国際的には何の問題もないが日本の添付文書的に禁忌の薬剤が多い(例えば妊婦へのホルモン剤など)点は最大のハードルだと思われます。治験をクリアしないと適応取得は困難でしょうが、そもそも禁忌とされている薬剤に治験ができるのか、など本邦独自の問題点があります。治験なしで使用実績や海外の報告をもちいて、学会やワーキンググループから添付文章改訂を申請することが、まだ現実的な方法になるかと思われますが、これにもかなりの時間がかかることが予想されます。高度生殖医療においては、実際臨床においては、妊娠後にホルモン補充を行っているのが一般的で、これができないとなると、妊娠率は極めて低いものとなってしまいます。こういったことが他にも多々あり、治療の幅が大幅に狭くなり、医療の質が低下する可能性は極めて高いと考えられます。
このようなことを回避するためには、混合診療の事実上無制限の解禁が不可避でありますが、他の医療への影響が大きすぎることもあり、実際には困難でしょう。検査の回数や適応に関しても、回数を大幅に多く認めるか、ある程度の混合診療がないと、患者さんに対してのテーラーメードでの多様な検査の独自性が失われ、画一的な検査のみ実施可能になるような保険化なら医療の質は大幅に低下することが予想されます。当然のことながら不妊の原因は単純なものではなく、千差万別です。細々としたルールの策定は性急にできるものではありません。
また現在の助成金のルールである、年齢制限と回数制限に関して、保険診療となっても残す場合(残さないというケースはまず考えられませんが)、誰がどのようにカウントするのか、現状の助成制度との移行期の後、カウントはリセットされるのか存続されるのか、などの制度設計が必要になります。これを医療機関側に求めるのは困難です(虚偽の報告の場合、すべて医療機関負担になってしまうと、保険診療を行う施設はまずなくなるでしょう)。
以下に私からの提言を記します。財源には限りがあり、また社会保障費という観点からも、何でもかんでもというわけにはいかないと思います。特に、以下の3-6をパッケージで行わないと、今回の施策はほぼ意味がないものになってしまうと考えます。性急に進めることなく、しっかりした建設的な議論がなされ、また国民にとってより良い方向に進んでいくことを期待します。まずはできるところから保険診療にしていき、高度生殖医療に関しては、議論に時間をかけ、準備が整ってから行わないと大火傷することは明確です。
1. 不妊治療の保険適応を、施設間のレベル差が少ないと考えられる人工授精(注射、点鼻薬、超音波検査、採血、また治療に必要なパートナーの精液検査、精液調整まで適応拡大)、また無精子症などに対しての精巣精子採取術治療にまでに広げる。
2. 体外受精、顕微授精の高度生殖医療に関しては、これまでの助成金制度を拡充する方向で検討する。
→助成金制度に関しては、
・前年度一定の症例件数(例えば501件以上の(体外受精+顕微授精))を施行した施設で治療を行った場合においてのみ。
・所得制限を夫婦合算で1,500万円までに引き上げ、もしくは撤廃。
・逆に年齢制限をこれまでより厳格なものとする(例えば43歳未満→40歳未満など)。
・回数制限は6回→10回に(もしくは年齢ごとに区切った回数制限の緩和)。
・助成金を現在の2倍とする。
これらはすべて、なるべく妊娠の確率の高い、女性年齢が若い間に治療を受けてもらい、妊娠・出産まで繋げてもらえるように誘導、啓発するものです。年齢制限に関しては,、患者サイドからは大きなお叱りがあると思いますが、妊娠率などのデータからの客観的な政治判断が求められると思います。
3.高度生殖医療を受ける女性に対する就労支援。不妊治療休暇などの制定。男性に対しても労働環境を変化させる施策(働き方改革含め)。
4.女性のエンパワーメント(女性活躍、ダイバーシティ)を進める施策。
5. 高等教育に対する重点化 (「プレコンセプションケア」という観点を浸透させる)。
6. 出産・子育てに関する支援。
2020年9月の男性不妊手術件数
micro TESE 16件
simple TESE 1件
精索静脈瘤手術 39件
さらに深い議論となるといいと思います。一部メディアやコメンテーターからは、生殖医療機関が既得権益を守ろうとしているだとか、私利私欲に走っているなど、医療側が敵視されることも多々ありますが、日夜必死に誠心誠意やっている実際の医療現場(患者さんや医療従事者など)を一度でもご覧になってから、そして生殖医療を理解していただいてから指摘していただきたいものです。
さて、不妊治療を保険診療にすることの問題点をさらに挙げていきます。
保険診療になると、薬剤などすべて各保険組合ごとに異なる保険審査の基準に則ったものとなります。おかしな薬剤の使い方や過剰な診療(検査も含む)がチェックされることになります。これはこれで、ガイドラインを策定して運用していけば、決して悪くないシステムなのですが、自費診療が長く続いていたため、不妊治療に使う薬剤など、メーカー側が、ほぼ全く適応承認を取ってきていません。医療機器や培養液、採卵凍結移植その他のキットの承認や保険価格の設定が急いでできるのかという問題点。まだまだエビデンスが乏しい医療であり(妊娠率が世界的にも高くない)、ガイドラインの策定は難しく、実際にクリニックごとに診療内容は大きく異なるのが現状です。
薬剤に関しては、全くの適応外処方が多く、また国際的には何の問題もないが日本の添付文書的に禁忌の薬剤が多い(例えば妊婦へのホルモン剤など)点は最大のハードルだと思われます。治験をクリアしないと適応取得は困難でしょうが、そもそも禁忌とされている薬剤に治験ができるのか、など本邦独自の問題点があります。治験なしで使用実績や海外の報告をもちいて、学会やワーキンググループから添付文章改訂を申請することが、まだ現実的な方法になるかと思われますが、これにもかなりの時間がかかることが予想されます。高度生殖医療においては、実際臨床においては、妊娠後にホルモン補充を行っているのが一般的で、これができないとなると、妊娠率は極めて低いものとなってしまいます。こういったことが他にも多々あり、治療の幅が大幅に狭くなり、医療の質が低下する可能性は極めて高いと考えられます。
このようなことを回避するためには、混合診療の事実上無制限の解禁が不可避でありますが、他の医療への影響が大きすぎることもあり、実際には困難でしょう。検査の回数や適応に関しても、回数を大幅に多く認めるか、ある程度の混合診療がないと、患者さんに対してのテーラーメードでの多様な検査の独自性が失われ、画一的な検査のみ実施可能になるような保険化なら医療の質は大幅に低下することが予想されます。当然のことながら不妊の原因は単純なものではなく、千差万別です。細々としたルールの策定は性急にできるものではありません。
また現在の助成金のルールである、年齢制限と回数制限に関して、保険診療となっても残す場合(残さないというケースはまず考えられませんが)、誰がどのようにカウントするのか、現状の助成制度との移行期の後、カウントはリセットされるのか存続されるのか、などの制度設計が必要になります。これを医療機関側に求めるのは困難です(虚偽の報告の場合、すべて医療機関負担になってしまうと、保険診療を行う施設はまずなくなるでしょう)。
以下に私からの提言を記します。財源には限りがあり、また社会保障費という観点からも、何でもかんでもというわけにはいかないと思います。特に、以下の3-6をパッケージで行わないと、今回の施策はほぼ意味がないものになってしまうと考えます。性急に進めることなく、しっかりした建設的な議論がなされ、また国民にとってより良い方向に進んでいくことを期待します。まずはできるところから保険診療にしていき、高度生殖医療に関しては、議論に時間をかけ、準備が整ってから行わないと大火傷することは明確です。
1. 不妊治療の保険適応を、施設間のレベル差が少ないと考えられる人工授精(注射、点鼻薬、超音波検査、採血、また治療に必要なパートナーの精液検査、精液調整まで適応拡大)、また無精子症などに対しての精巣精子採取術治療にまでに広げる。
2. 体外受精、顕微授精の高度生殖医療に関しては、これまでの助成金制度を拡充する方向で検討する。
→助成金制度に関しては、
・前年度一定の症例件数(例えば501件以上の(体外受精+顕微授精))を施行した施設で治療を行った場合においてのみ。
・所得制限を夫婦合算で1,500万円までに引き上げ、もしくは撤廃。
・逆に年齢制限をこれまでより厳格なものとする(例えば43歳未満→40歳未満など)。
・回数制限は6回→10回に(もしくは年齢ごとに区切った回数制限の緩和)。
・助成金を現在の2倍とする。
これらはすべて、なるべく妊娠の確率の高い、女性年齢が若い間に治療を受けてもらい、妊娠・出産まで繋げてもらえるように誘導、啓発するものです。年齢制限に関しては,、患者サイドからは大きなお叱りがあると思いますが、妊娠率などのデータからの客観的な政治判断が求められると思います。
3.高度生殖医療を受ける女性に対する就労支援。不妊治療休暇などの制定。男性に対しても労働環境を変化させる施策(働き方改革含め)。
4.女性のエンパワーメント(女性活躍、ダイバーシティ)を進める施策。
5. 高等教育に対する重点化 (「プレコンセプションケア」という観点を浸透させる)。
6. 出産・子育てに関する支援。
2020年9月の男性不妊手術件数
micro TESE 16件
simple TESE 1件
精索静脈瘤手術 39件