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男性不妊症専門医が学術活動ならびに雑感を徒然と綴ります。

逆行性射精

2011-11-28 17:09:14 | 日記
最近逆行性射精症例が非常に多く来院されます。
すなわち婦人科だけの診察で、お手上げになるのが多い疾患です。
ただ単に精子の数が少ないだけ、運動率が低いだけではなく、精液量が極端に減ってしまい、運動精子が極めて少なくなります。
射精は最初の飛び出しの中に、運動精子が多く、それが膀胱側へ流れ込み、たらーっと後になって出てくる中には運動精子が少なくなります。よって運動率が極端に低下することが多いのです。
このような場合、わずかに射出精子を用いて顕微授精を行っても、うまくいく確率は低いのが現状です。
アモキサンやトフラニールなどの抗うつ薬の副作用を利用する治療が功を奏することも多いですが、うまくいかない症例も存在します。
以前は導尿して膀胱の中を空にして、培養液を注入し、射精してもらってからまた導尿して精子を得るやり方がなされていましたが、このやり方でも、わずかな尿の浸透圧で精子頭部の細胞膜はダメージを受けてしまい、得られる精子は質が悪くなってしまうことは広く知られるようになりました。

1.精巣精子を使用する顕微授精
2.前立腺圧出液中の精子を使用する顕微授精
3. 尿中精子を用いた人工授精、体外受精、顕微授精
が、治療のメインになりますが、何が一番成績が良いでしょうか?

脊髄損傷の方と同様ですが、私のデータでは、精巣精子の成績が一番良いです。
もちろんこのような場合は精巣上体精子でも構いませんが、いろんな合併症を加味すると精巣精子が第一選択です。
simple TESEという小切開で約10分で終わります。
毎回毎回何回もに渡り導尿されることを考えると、成功率、奥さま側の負担、金銭的な負担を加味しても、私の場合、精巣精子使用の顕微授精をfirst choiceにしています。もちろんケースバイケースでいろんなパターンがありますので、一概には言えませんが、最近ではこういうふうにシフトしています。

年末の予定

2011-11-14 14:10:20 | 日記
11月も中旬となり、年末に向かっていきます。
年末の予定をお知らせいたします。

11/29-12/4までHuman Reproduction学会の発表のため、オーストラリアメルボルンにいっています。
その間不在となりますのでご了承ください。
11/30, 12/2の石川病院外来は代診医の担当になりますが、初診の方はそれ以外の日に来ていただけるとありがたいです。
12/9も日本生殖医学会発表のため不在で同様の形態となります。
石川病院では年末は12/30まで外来を行っております。年末の手術対応も可能です。

英ウィメンズクリニックですが、11/19, 26, 12/10, 17, 18, 24, 25の9:00-14:00まで外来を行っております。
完全予約制ですので、初診の方もご予約を宜しくお願いいたします。
ご予約が取りにくくなっておりますので、お早めにお願いいたします。

なお、11/15フジテレビの「とくダネ!」(08:00-)で男性不妊特集が組まれており、放映される予定です。
何点か取材も受けましたので、興味、そして時間のある方はご覧ください。

精子DNA損傷

2011-11-04 16:39:46 | 日記
精子の頭部にはDNAが入っています。これが精路を通過する間に損傷を受けます。いかにこの損傷を防ぐかで、妊娠率が変わってくるといわれています。それではどうすればDNA損傷は減るのでしょうか?またDNA損傷を引き起こす酸化ストレスを下げるためにできることは。

今回IVF学会ではそのことをテーマに講演させていただきました。少し取り上げておきます。
1. 禁煙:たばこによりあっという間に精子DNA損傷が増えます。禁煙、出来なければ節煙を3ヶ月間は頑張りましょう。
2. 高温:精巣は高温環境に弱いです。実験では37度にすると造精機能が半分に、39度にするとほぼ全滅するといわれています。
ブリーフを避け、トランクスにしましょう。ずっと座り続けることはよくありません。たまに起立して精巣をブラーーんとさせましょう。
3. 精路感染:女性が膀胱炎になりやすいのと同様、男性は精路感染をきたしやすいのです。既往がある際はなるべく精液中の白血球を下げましょう。これが酸化ストレスの原因となります。
4. 抗酸化剤:2011年のCockrane reviewで抗酸化剤(ビタミンE)の内服はIVF結果を改善するとの報告がでました。抗酸化剤であるビタミンC, Eを積極的に摂取しましょう。
5. 精索静脈瘤:積極的に外科治療を行いましょう。精索静脈瘤は酸化ストレスと共に陰嚢内の温度まで上昇させます。すぐに治療できる施設に行きましょう。精液所見が原因で、男性側の診察をせずにARTにいくのは問題ありです。
6. 禁欲期間:ARTするなら毎日でも射精するべし。少なくとも1週間に3回は射精してください。射出に出てくる精子のDNA損傷は瞬く間に下がります。
7. 精巣精子:精液所見不良でART反復不成功例では、精巣精子の使用も考慮に。男性不妊専門医に診てもらいましょう。DNA損傷は精路にいる間に一番損傷を受けます。特に精巣上体を通過してる間に。

DNA損傷が高いと、たとえ顕微授精で子供を授かったとしても、産まれてくる子供の健康問題にまでつながります。
一つずつの心がけで妊娠率はアップすることでしょう。
ゴールは妊娠することでなく、出産して、元気な赤ちゃんを家に連れて帰ることです!