日本の生殖医療を世界レベルに!

男性不妊症専門医が学術活動ならびに雑感を徒然と綴ります。

ESHRE

2011-04-28 15:48:18 | 日記
今年のヨーロッパ生殖会議は初夏にスウェーデン、ストックホルムで開催されます。
「micro-TESE後の男性ホルモン低下について」の演題を出していましたが、無事oral sessionでの発表にacceptされました。
採択率の非常に低いこの学会での2年連続でのoral sessionでのacceptは非常にうれしいことです。
おまけに、昨年日本まで手術見学に来られたドクターから招待を受け、学会前に少しその施設に立ち寄って講演する予定まで決まりました。
世界中に知り合いができ、ネットワークがあるのはありがたいことです。
狭い社会でやっていると、「自分たちのやっていることが絶対である」と錯覚することが多いように思います。
いろいろな意見に耳を傾け、さらに謙虚な姿勢で教えを請う、こういった姿勢で今後も臨んでいきたいですね。

こういった機会を決して無駄にせず、少しでも多くのことを吸収して今後の臨床につなげていきたいと思います。

第99回日本泌尿器科学会総会 名古屋

2011-04-25 14:41:47 | 日記
先週末は本学会のために名古屋へ。
今年は自院や他院の外来診療の影響でフルに参加することはできませんでしたが、演題を出し発表もしてきました。
新幹線でいったり来たりでしたが、名古屋と神戸は近いです。たったの一時間。通勤圏内ですね。

泌尿器科の中では生殖医療はマイナー分野で、聴衆も非常に少ないです。
盛り上がりも生殖の学会に比べると格段に落ちてしまいます。
やはり泌尿器科の一分野としてより、生殖に特化して臨床を行う方がよほど効率的で、また効果的であると思われました。
先細りが見えてしまっています。

母校(中学・高校)の泌尿器科医の同窓会が総会に合わせて行われるのですが、こちらは非常にいい刺激を受けました。
「朋あり遠方より来る、亦楽しからずや」ですね。
「われらの信条」朗読と「校歌斉唱」、毎年のことながら、中学高校当時を思い出します。

4月も残りわずか、頑張っていきます。


精液検査

2011-04-15 17:07:45 | 日記


精液検査は不妊検査の中で最も大切なもののひとつです。精液検査とはその名の通り、精液中の精子の性状を調べる検査です。精子は基本的に体外に射精されますので、女性と比べるとその検査は至って簡単で、肉体的な苦痛はまずありません。一般的な精液検査では「精液量」「精子濃度」「精子運動率」「精子奇形率」「白血球数」を調べます。これらの正常値については表を参考にしてください。

精液検査の正常値 (2010WHO)
精液量 1.5ml以上
精子濃度 1ml中に1500万個以上
精子運動率 40%以上
正常形態精子 4%以上
総精子数 3900万個以上
白血球 1ml中に100万個未満


検査の時期によりかなりの変動がありますが、精液量がほぼ0mlあるいは1ml以下の場合は、逆行性射精(膀胱内に射精してしまう)、射精管の閉塞、もしくは精液の産生障害が考えられます。逆行性射精を疑う場合は、射精後の尿検査をして、尿中に精子が認められるかどうかを検査します。

精子濃度が2000万/mlより低い場合を「乏精子症」と呼びます。中でも500万/ml以下の場合は「高度乏精子症」、射出精液内に全く精子がいない場合は「無精子症」と呼びます。

精子運動率が50%以下の場合を「無力精子症」、運動精子が全くいない場合を「精子死滅症」と呼びます。ただし精子に関して、「動いていない=死んでいる」ではありません。動いていない精子でも受精の確率は機能的に無いわけではありません。また数は少ないですが、精子尾部の構造異常を呈する症例もあります。

奇形精子が70%を超えると「奇形精子症」となります。ここでいう奇形とはあくまで精子の形態異常を指し、「奇形児の出生」を示唆するものではありません。たとえば精子の頭部が二つある場合、また円形の巨大精子頭部を有するものなどがある場合、受精率は極めて低くなります。
一応正常値は4%以上正常形態精子があれば正常となっていますが、これは便宜的なものです。

白血球が100万/ml以上の症例を「膿精液症」と呼びます。ほとんどが副性器(精嚢や前立腺)の炎症によるものですが、知らないうちに精路感染を起こしていることもあります。白血球が増えることにより、精子の運動性が低下し、無力精子症を呈することも多くあります。実際の臨床においては、この膿精液症を呈する患者が非常に多くおられます。特に性病の既往のある方は要注意です。

今回の精液検査の改定にはオーストラリアでの職場のボスで、私のよき理解者であったDr. McLachlanが絡んでいます。改定の面白い時期にご一緒させていただきました。WHOの数字の決め方など興味深いものでした。



精子の尾部構造

2011-04-12 09:12:10 | 日記

精子は、鞭毛構造を使って活発に動きますが、そのエネルギーを供給するのが、中間部に存在するミトコンドリアです。
中間部や尾部、終末部にはDNA情報は全く認められず、受精後に機能することはありません。
精子の鞭毛は、気管支などの繊毛と同様に9+2の軸糸(円形に配列した9組の軸糸の中央に2本の軸糸がある)としての基本構造を持ちます。
電子顕微鏡を用いて、拡大するとこの構造が見えます(図参考)。
精子の運動率が低い(50%以下である)「精子無力症」の患者の中にはこの9+2構造が壊れていて、9+0構造になっている方がおられます。このような精子は運動がほとんどなく、自然に受精することはまずありません。
こういった場合は顕微授精の適応となります。

私がオーストラリアで行っていた基礎研究はこの精子無力症に関しての遺伝子研究です。
後任に引き継いだ成果はもうすぐ論文として世に出ます。反響が楽しみです。