笑うしかない友
～すけすけ
１
おまえか、フユミの男、盗ったってのは。
知らない。フユミって誰よ。ていうか、あんた、誰。
そんなこた、どうだっていいんだ。盗ったんだよな。
盗らない。
へえ、じゃあ、もう捨てたか。
捨てるわけないじゃん。
じゃあ、盗ったんだ。
ばっかじゃないの。
何だと。もう一遍言ってみろ。
盗ってないし、捨ててもない。
ばっかはおまえだろう。盗ったか、捨てたか、どっちかだろう。
あんた、絶対、頭、おかしいって。
盗ったに決まってるだろうが。そんな透け透けのブラウスなんか着やがって。そんなにまでして男が欲しいのかよ。
透けてないもん。
透けてんだよ。計算だろ、夕日しょってブラジャー透けさせて髪を靡かせてぼんやり突っ立ってたら男が寄ってくるぐらい、わかってるくせに。おまけにコーラの瓶まで舐めてやがって。
知らないってば。だいたい、ハルミって誰よ。
ハルミじゃない。
ナツミ？
フ・ユ・ミ。
じゃなくて、フユミの男って誰よ。
へえ。そんなに何人もとやってんだ。
そりゃ、まあ。でも、一度に一人だよ、糊代は別だけど。
糊代のことは思い出せないか。
思い出さないようにしてる。
思い出させてやるよ。
もう、うるさいんだけど。
おい。フユミ。ちょっとこっち来い。
あれがフユミ？
知ってんだろ？
し、知らない。見たこと、ない。話、したこともない。
フユミで～す。ねえ、あんた、ちょっとあっち行ってて、女同士でナシ付けっからさ。
２
フユミってんだ。
まあね。
うふふ。
ありがとう。ちょっと瓶貸して。
あ、これ？
そう。ちょっと、あいつに見られないようにね。はい、どうぞ。バイト代。
わあ。こんなにもらっちゃっていいのかな。
いいのよ。どうせ、あいつの金だもん。
すっご～い。やり手ね。
ちょっと話そうか。時間稼ぎ。
素敵な元彼って、どんな人。
あはは。そんなの、いるわけないじゃん。
そうなんだ。
あいつ、しつこいから、別れようって言ったら、男が出来たのかって聞くんだ。
出来たんだ？
まあ、まあ。その話は置いといて。だから、口から出まかせで、元彼のことが忘れられないって言ったの。そしたら、俺が取りもどしてやるって。
こえ。
しょうがないから、もう、彼女いるんだって言っちゃった。
そしたら、会わせろって？
その彼女の役をあんたがやってくれたわけよ。
ふうん。
もう、いいや。バイバイ。
バイバイ。頑張ってね。
うん。
３
は～い。済んだよ。
おう。どうなった。
もう、彼女とは別れたって。
なあんだ。そういう男なんだぞ。わかったか。
わかった。
じゃ、諦められるよな。
ううん。逆。もっと素敵だって思った。私、そういう男に憧れてんの。港を出ていく船のような人がいいの。ごめんね、素直じゃなくって。
同じ星に生まれたから、よくわかった。待ってろ。
４
おおい。おまえ。
ひえっ。何で？ 話、終ったよ。
いいから、教えろ。
何？
おまえの元彼が今付き合っている女。
知らない。
どうして？
知るわけないじゃん。
おまえもあの男に未練があるのか？
ない、ない。
どうして？
プレーボーイはお断り。
一途なのが好きか。
うん。好き。
俺、一途だぜ。
あら、素敵。私と付き合ってみる？
いいのか。でも、あいつがなんて言うかな。
わかった。話してくる。ここにいて。
おう。
４
お待たせ。
待ってないよ。どうした、あいつ。
私のこと、口説いてくんの。
ふへえ。で？
オーケーした。
趣味悪。
嘘よ。人助け。その代り、キャッシュ。
えええっ？ 今、ない。
じゃあ、あいつが人質ね。
意味、わかんないけど、いくら？
さっきの二倍で、どお？
まじ？
まじ。できたら、色付けてね。
狡い。
どっちがよ。じゃあ、明日の今頃、さっきのお店で。
うん。バイバイ。
バイバイ。あっ、でも、大丈夫。あいつ、しつこいよ。
平気。怖いお兄さん、ついてるから。
えっ。じゃ、あんたも？
そう。こわ～いお姐さんよ。
あわわ。お見それいたしました。では、明日、必ず、きっと、はい。
はいはいはい。
５
おまた～。
済んだか。
泣いてたわよ、あの子。この女泣かせ。
そうか。でもな、そういう男が好きなんだって、あいつ。
ふう。妬けるう。
くふ。そうか？ 俺、ひょっとしてモテ期？
そりゃあ、もう。モテモテよ。さ、行こ。
どこへ？
地獄の底まで。
付いて行く。
（終）
