団地小説短編集を歩く

団地小説短編集の舞台を歩きながら団地や地域の魅力をお伝えします。

連載小説AKB 14 第17話 伯野さんの思い出

2017-06-23 07:30:33 | 日記
  明  伯野さんが亡くなった。92歳だった。

  建  しばらく「まつにカフェ」に来られてなかった。

  舞子 きっとまた元気になって出て来られるとみんなで話していたのに。

  明  我々A(明石舞子)K(子供)B(防衛隊)がこんなに有名になれたのも伯野さんのお陰だ。

  建  明舞書店で「連載小説AKB」が載っている「団地小説短編集」を見つけて下さった。

  舞子 そしてたくさんの人に話して下さった。

  建  6月11日に日本聖公会明石聖マリア・マグダレ教会でお葬式があった。

       

  明  実に渋い教会だ。いぶし銀の和瓦の上に鐘楼があて十字架が建っている。世界遺産級の教会だ。

  建  昭和の初めの建物で戦後明石に移築された、イギリス国教会の教会だ。

  舞子 やっぱり伯野さんは本当のイギリス紳士だったのね。       

       

  建  お葬式にはたくさんの方が来られて小さな教会は一杯になった。

  舞子 伯野さんはいろんなことをされていた。頂いた名刺には色々いっぱい書いてあった。

  明  地域の活動も熱心だった。だからこんなにたくさんの人がお別れに来られたのだ。

       

  舞子 キリスト教のお葬式はオルガンの賛美歌から始まります。

  建  伯野さんは ヨハネ ハクノ ヨウイチ になって天国に行かれた。

  明  ローマ法王のような立派な名前だ。

  舞子 伯野さんと牧師さんは30年ほど前にお会いになっていたそうです。神戸に入港した船員さんのための教会があってそ

     こには貧しい国の船員さんが安くお酒が飲めるパブがあって伯野さんはそこでボランティアをされいたそうです。若い

     頃の牧師さんはお金が無いのでそこで飲んでたそうです。

  建  伯野さんはずいぶん昔からボランティアをされてたんだ。それにしても奇遇だ。

  舞子 伯野さんは東京商船大学機関科を卒業されて大阪商船三井船舶で機関長をされて、54歳で定年退職されてそれから

     78歳まで日本海事検定協会でお仕事されてたそうです。

  明  それから明舞団地に来られたたがとってもお元気だった。礼儀正しくて、凜とされていた。ずっと海の仕事をされて

     たから海の見える明舞団地に来られたのだ。

  建  明舞団地は広い芝生があってニュージーランドの住宅に似ているいとおしゃってた。

  舞子 世界中を回ってこられて明舞団地がいいと思われたのね。

  建  明舞団地には高齢者向きに改造した住宅も有る。

  明  有機農法野菜で減塩でまったりとしたいいお味、NPOのお食事処ひまわりも有る。いつもお世話になっている。

  建  おまえは何歳だ。明は食べられない。

  舞子 伯野さんが船の機関長だったなんて知らなかった。

  明  それで「連載小説AKB 第2話 明石海峡異常なし」で「飛鳥Ⅱ」が登場したので喜んでおられたのだ。

  建  明舞団地から見える船の話がお気に入りだった。

  明  戦争中は、呉で五人乗りの小型潜水艦「蛟竜」の訓練をしていた。呉が空襲が激しくなったので艦とともに相生に疎開

     して訓練をしていたと言っておられた。

  建  蛟竜は約60トン豆潜水艦で何百隻も作って敵を迎え撃つ計画だったが非常に危険な任務だった。

  舞子 伯野さんはA(明石舞子)K(子供)B(防衛隊)の大先輩だったのね。

  建  伯野さんは戦争が終わって出撃されることは無かったが広島も知っておられる。呉で訓練中の部隊で広島に救援に向か

     ってその後若くして亡くなった兵隊さんも多い。だからいっぱい働いて、いっぱい勉強して、ボランティアもいっぱい

     されてたんだ。

  舞子 連載小説AKB 3 明石舞子団地 まつにカフェ にお伺いしました(2016.10.17)に伯野さんが出ています。 

     「団地の長老です。所属は違っても二人は同年兵です。 左 陸軍さん 右 海軍さん です。」の写真の右の海軍さ

     んが伯野さんです。

  明  阪神淡路大震災のボランティアの話も聞いたことがある。

  建  避難所の体育館で夜中にお年寄りがトイレに行くのを案内していた。真夜中の体育館は暗い。段ボールのついたてもあ

     る。しかし声を出せば他の人が起きてしまう。そこで伯野さんは竹をいっぱい切ってきて布を付けて旗を作った。旗が

     上がれば伯野さんが案内するのだ。

  舞子 海の男の経験が活かされたのね。 

  建  伯野さんは灘中学(旧制)の卒業生だった。昔はそんなに難しい学校では無かったと謙遜しておられたけど。しかし先

     生は立派な先生が集められていたと言っておられた。英語の先生は海外勤務の経験のある方で美しい英語を話されてい

     た。伯野さんも話せる英語を子供達に教えたいとずっと言われていた。    

  明  英語の研究もされてました。

  舞子 私たち今5歳だから、伯野さんに100歳まで生きてもらって英語を教えてほしかった。

  建  世界中の港の話を聞きたかった。

  明  蛟竜の話をもっと聞いておけば良かった。

       

  舞子 最後にみんなで白い菊の花を献花してお別れをしましたをしました。伯野さんありがとうございました。



   連載小説AKB 1~8話は「団地小説短編集」に収録されています。9~16話はバックナンバーからご覧下さい。