『毎日新聞』に経済評論を執筆している?(現在続載中かどうか購読していなので不明)浜矩子さんの近著『グローバル恐慌~金融暴走時代の果てに』(岩波新書)を読んだ。表紙帯には「大不況がやってきた本当の理由」、「世界と日本はこれからどこへ行く?」とある。新聞評論でその筆さばきの巧みさに一目おいていたが、本書も現在進行中の生々しい世界「恐慌」に関し、われわれ素人にも分かりやすい切口で解説してくれる。
まず「はじめに」で彼女は、現状を“危機”ではなく「恐れ慌てる」“恐慌”ととらえる。「経済という名の生き物がいかに凶暴な側面を持っているか。経済が牙を剥いた時、いかに人々が戦々恐々として周章狼狽するか。“恐慌”の字面から、実によくそのイメージが伝わって来る」といい、以下の章立てでそれを解明する。
・第1章 何がどうしてこうなった
1 地獄の扉が開いた日
2 事の起こり~証券化という名の錬金術
3 グローバル・バブルの背景
・第2章 なぜ我々はここにいるか
1 原点はニクソン・ショックにあった
2 金融自由化から金融証券化へ
3 金融が地球を一人歩きする時
・第3章 地球大の集中治療室
1 迷走するアメリカ
2 足並み乱れる欧州
3 擬似体験者、日本のお粗末
・第4章 恐慌を考える
1 恐慌とは何か
2 歴史が語ること
3 21世紀型グローバル恐慌とは
・第5章 そして、今考える
1 金融サミットの残された課題
2 グローバル恐慌、モノの世界に及ぶ
3 引きこもる地球経済
・おわりに~金融暴走時代の向こう側
現在進行中の「恐慌」を著者はこう述べている。
<かくして、今日の状況は実にユニークだ。管理通貨制度の下で、恐慌は起こらないという戦後の通念を破った。しかも、むしろ基軸通貨国の管理通貨制度への移行が恐慌への第一歩を形成したと考えられる。モノとカネとが決別状態にある中で起こったという点で、従来の資本主義論的な恐慌の理解をどうも逸脱している。しかも、むしろモノと決別したカネの暴走に問題の焦点がある。>
このカネの内実に関しては本ブログ(08.10.02『“大恐慌”に怯えるアメリカ~これぞ自業自得』http://blog.goo.ne.jp/inemotoyama/d/20081002)ですでに概略取り上げたが、浜さんは「カネの暴走」が「モノの世界」に、ひいては「ヒト」へ及んでくる恐怖を語っている。とくに印象に残るのは、彼女が引いている「良きにつけ、悪しきにつけ、最終的にものをいうのは理念である」というケインズの言葉である。ここには、従来の概念では捉えきれない「資本主義」にどう立ち向かうかという課題がこめられているようだが、彼女が答を示してくれているわけではない。ただ文末で、「グローバル時代の通貨」との中見出しで、「筆者は、その軸が“地域通貨”になるのではないかと考えている」と言っている。
アメリカ発のこの「世界恐慌」に処方箋はないのか。なぜか浜さんは触れていないが、社会主義に目ざめた中南米に目を向ければ、わが国のマスコミが書かない目覚しい胎動が見られる。『北沢洋子の国際情報』に「途上国から見た金融危機とその処方箋」として詳しく取りあげられているが、中にこんなことが書かれている。
<たとえば、これまでボリビア産の大豆を一手に輸入してきたコロンビアが、米国との間で自由貿易協定(FTA)を締結した。そこで、ベネズエラとキューバがボリビア産大豆をほとんど買い取るという協定に合意した。キューバはその見返りにボリビアの貧しい地域に医師と教師を派遣することになった。ベネズエラは、このキューバのプロジェクトの支援として石油をキューバに輸出する。
ここには、ボリビア産の大豆が、物々交換(バーター取引)に近い形で取引され、代価として保険や教育のサービスを提供するという「社会的貿易」という概念がある。これは、ドルを基軸通貨にした「経済的貿易」に対抗するものである。>
ケインズが言う「理念」が見事に実現していると言えないだろうか。IMFや世界銀行を通じさんざん痛めつけられた中南米諸国。その「理念なき大国アメリカ」と決別した国々の行動を抜きに、現実進行中の「世界恐慌」は語れないだろう。
・参照(必読!):『北沢洋子の国際情報』:http://www.jca.apc.org/~kitazawa/
[中南米の事情を理解する手がかりとして、本ブログの次の記事もご参照下さい。]
・『米国が経済封鎖する“キューバ”に行ってみたい』:http://blog.goo.ne.jp/inemotoyama/d/20080614
・『今の“世界恐慌”はチリのクーデターが発端!』:http://blog.goo.ne.jp/inemotoyama/d/20081028
まず「はじめに」で彼女は、現状を“危機”ではなく「恐れ慌てる」“恐慌”ととらえる。「経済という名の生き物がいかに凶暴な側面を持っているか。経済が牙を剥いた時、いかに人々が戦々恐々として周章狼狽するか。“恐慌”の字面から、実によくそのイメージが伝わって来る」といい、以下の章立てでそれを解明する。
・第1章 何がどうしてこうなった
1 地獄の扉が開いた日
2 事の起こり~証券化という名の錬金術
3 グローバル・バブルの背景
・第2章 なぜ我々はここにいるか
1 原点はニクソン・ショックにあった
2 金融自由化から金融証券化へ
3 金融が地球を一人歩きする時
・第3章 地球大の集中治療室
1 迷走するアメリカ
2 足並み乱れる欧州
3 擬似体験者、日本のお粗末
・第4章 恐慌を考える
1 恐慌とは何か
2 歴史が語ること
3 21世紀型グローバル恐慌とは
・第5章 そして、今考える
1 金融サミットの残された課題
2 グローバル恐慌、モノの世界に及ぶ
3 引きこもる地球経済
・おわりに~金融暴走時代の向こう側
現在進行中の「恐慌」を著者はこう述べている。
<かくして、今日の状況は実にユニークだ。管理通貨制度の下で、恐慌は起こらないという戦後の通念を破った。しかも、むしろ基軸通貨国の管理通貨制度への移行が恐慌への第一歩を形成したと考えられる。モノとカネとが決別状態にある中で起こったという点で、従来の資本主義論的な恐慌の理解をどうも逸脱している。しかも、むしろモノと決別したカネの暴走に問題の焦点がある。>
このカネの内実に関しては本ブログ(08.10.02『“大恐慌”に怯えるアメリカ~これぞ自業自得』http://blog.goo.ne.jp/inemotoyama/d/20081002)ですでに概略取り上げたが、浜さんは「カネの暴走」が「モノの世界」に、ひいては「ヒト」へ及んでくる恐怖を語っている。とくに印象に残るのは、彼女が引いている「良きにつけ、悪しきにつけ、最終的にものをいうのは理念である」というケインズの言葉である。ここには、従来の概念では捉えきれない「資本主義」にどう立ち向かうかという課題がこめられているようだが、彼女が答を示してくれているわけではない。ただ文末で、「グローバル時代の通貨」との中見出しで、「筆者は、その軸が“地域通貨”になるのではないかと考えている」と言っている。
アメリカ発のこの「世界恐慌」に処方箋はないのか。なぜか浜さんは触れていないが、社会主義に目ざめた中南米に目を向ければ、わが国のマスコミが書かない目覚しい胎動が見られる。『北沢洋子の国際情報』に「途上国から見た金融危機とその処方箋」として詳しく取りあげられているが、中にこんなことが書かれている。
<たとえば、これまでボリビア産の大豆を一手に輸入してきたコロンビアが、米国との間で自由貿易協定(FTA)を締結した。そこで、ベネズエラとキューバがボリビア産大豆をほとんど買い取るという協定に合意した。キューバはその見返りにボリビアの貧しい地域に医師と教師を派遣することになった。ベネズエラは、このキューバのプロジェクトの支援として石油をキューバに輸出する。
ここには、ボリビア産の大豆が、物々交換(バーター取引)に近い形で取引され、代価として保険や教育のサービスを提供するという「社会的貿易」という概念がある。これは、ドルを基軸通貨にした「経済的貿易」に対抗するものである。>
ケインズが言う「理念」が見事に実現していると言えないだろうか。IMFや世界銀行を通じさんざん痛めつけられた中南米諸国。その「理念なき大国アメリカ」と決別した国々の行動を抜きに、現実進行中の「世界恐慌」は語れないだろう。
・参照(必読!):『北沢洋子の国際情報』:http://www.jca.apc.org/~kitazawa/
[中南米の事情を理解する手がかりとして、本ブログの次の記事もご参照下さい。]
・『米国が経済封鎖する“キューバ”に行ってみたい』:http://blog.goo.ne.jp/inemotoyama/d/20080614
・『今の“世界恐慌”はチリのクーデターが発端!』:http://blog.goo.ne.jp/inemotoyama/d/20081028