耳を洗う

世俗の汚れたことを聞いた耳を洗い清める。~『史記索隠』

“瘀血(おけつ)”のはなし

2007-05-14 08:38:17 | Weblog
 康海さんは北京中医学院を出た中医師である。1980年代前半、日本人の母(中国人の父は他界)と中国人の妻(彼女も北京中医学院卒)とともに永住帰国、福岡市東区の市営住宅に住んでいた。以前から中国帰国者と交流していた私は康海さん一家とも親しくしていたが、一家はまもなく埼玉県戸田市の県営住宅に移り住んだ。それからおよそ10年後、上京した私は康海さんの勤務先であるイスクラ薬局原宿店で再会した。

 中医師の康海さんは日本の医師資格がないので医療行為はできない。そこで日本語に堪能な彼は、中医学の知識を生かし漢方薬局で健康相談を受け持つことになったわけだ。私が訪ねた時も結構忙しそうだった。ついでにストレス由来の高血圧に悩んでいた私も相談に乗ってもらい、康海さんのアドバイスで「柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」を服用することになった。服用を中断せずに康海さんのアドバイスを守っていたら、後の解離性大動脈瘤発症もなかったろうと反省しきりである。

 さて、康海さんが力説したのが“瘀血(おけつ)”である。そして頂いたのが「中国漢方で健康家族 瘀血のはなし」(日本中医薬研究会)ほか三部の小冊子だった。聞きなれない言葉かも知れないが、“瘀血”は中医学(漢方)でよく耳にする言葉である。富山医科薬科大学の寺澤捷年(かつとし)教授は「瘀血というのは、血が滞るという意味です。すらすらと流通すべき血液が何らかの原因でつかえてスムーズに流れなくなった状態」と説明している(『東洋医学入門~日中シンポジュウムの記録』/読売新聞社)。私が貰った「瘀血のはなし」には「血液の粘度が高くなり、血の流れが悪くなった状態」とある。いずれにしても、体に害を及ぼすように汚れたり、滞ったり、固まりやすくなったりした血液のことを瘀血といっている。以下康海さんに頂いた「瘀血のはなし」から参考になる部分を紹介しよう。


【瘀血の原因はなにか?】
 運動不足、偏った食事、不規則な生活などがあるが、なかでも一番の大敵は精神的なストレスという。血液の質と量を管理し、新陳代謝を行い、血液の貯蔵、循環をつかさどるのが肝臓。ストレスは肝臓の働きを悪くして〔お〕血の大きな原因になる。また、肉食に偏ると血液の粘度が増し、運動不足や過労も血流を悪くする。

【あなたの瘀血度は? ~<瘀血度チェックリスト>】
≪皮膚≫
・顔色がどす黒い  5点
・歯ぐきが暗赤色  5点
・皮膚が硬化しざらついている(さめ肌)  5点
・打撲によるうっ血がある  5点
・目にくまができる  3点
・シミ・ソバカスが多い  3点
・手のひらに紅班がある  3点
・アザができやすい  2点
≪頭・肩≫
・肩や首すじが凝る  3点
・手足が冷える  2点
・物忘れしやすい  2点
・頭痛  3点
≪痛み≫
・関節痛がある  5点
・手足がしびれる  3点
・リューマチ  3点
・胸に刺すような痛み、あるいはしめつけるような痛みがある  5点
≪舌≫
・裏側の静脈が暗紫色に腫れている  5点
・舌の色が暗赤色、または紫色のシミがある  5点
≪血管≫
・唇が紫っぽい  5点
・腹や足の静脈が浮き出ている  3点
≪生理≫
・月経の色が黒ずんでいたり、塊が混じる  5点
・生理通  3点
≪痔≫
・痔がある  2点
・タール状の黒便  3点
≪内臓≫
・内臓にポリープや腫瘍がある  5点

●瘀血症状判定基準●
・3~6点    瘀血傾向
・7~11点   瘀血
・12点以上   瘀血が進んでいる
 *ただし5点の症状が1つでもある場合は、瘀血と判定。

【“瘀血”に対する養生法は?】
[運動]
 その人の体力に見合った適度な運動を続けることが基本。寝たきりの人には、軽いマッサージだけでも血行促進効果がある。リハビリ中の人にはツボや経絡を刺激してやるのも効果的。
[精神面]
 精神面のアンバランスは「気」の流れを悪くし、「気」に乗って流れている「血」にも影響する。イライラしないよう、気持ちを常にリラックスさせること。気や血のエネルギーが、体のすみずみまでのびやかに行き届くようなイメージをするのも有効。
[食事]
 イワシやサバ、アジなどの青魚、シシトウ、サヤインゲン、ホウレン草、トマト、シソ、タマネギ、セロリ、パセリ、ニラ、ネギなどの野菜、メロン、イチゴ、グレープフルーツなどの果物には、血液をサラサラにする働きのあることがわかっている。旬のものを組み合わせて摂るようにしたい。

 最後に先にあげたシンポジュウムでの寺澤教授の話を紹介して締めくくりにしたい。

 <瘀血にならないということは、いまいちばん問題になっている老人性痴呆や、脳血管障害や、心筋梗塞、狭心症のような動脈硬化性の疾患を防いでいく最大のポイントになると思います。私の身近にもこれをいい方向で実践している人がいます。七十歳を過ぎた方ですが、晴耕雨読ではないが、晴れた日は畑に行って雑草を一本もはやさないで、自分のつくった野菜を食べており、肉や魚はあまり食べない。畑を耕すからよく運動をします。埼玉県・東松山の歩け歩け大会に行って三十キロ歩いてきたりする。あるいは、万葉集を読んだりもする。進取の気に富んでいるわけです。そうやって自分の精神的なストレスを解消し、適度によく眠る。やたらに薬は飲まない。そういう人はたぶん長生きするのではないかと思います。その原理は瘀血にならないということです。>