読み書きの合間に、ぶらりと宿の周辺を散歩する。
宿の前には、レンガ色のチェンマイ門と要塞の跡が残っており、要塞の向こう側に水をたたえた濠が伸びている。
濠の土手からは、朱色の花をつけた火焔樹が大きな枝を延ばしているのだけれど、その鮮やかな色の花も終わりかけ、枝からは巨大な莢がぶさがって次の実りに備えている。
なじみのカレン族食堂を左にみて土手を進み、濠を横切ると大きな道路に突き当たる。
その脇の遊歩道を歩くと、宿や食堂から眺めているいつもの風景を逆の方向から眺めることになり、少しだけ気分が変わる。
濠に設置された噴水ごしに眺める火焔樹の風情も、なかなかである。
*
市場に行くついでに、いつも濠に囲まれた旧市街の内側から眺めているチェンマイ門も、外側から眺めてみるとまた異なった表情を見せる。
今日は、その門の脇に一台のシクロ(人力タクシー)が停っており、年配の運転手が道路脇にしゃがみ込んでいた。
この人力タクシー、私が初めてチェンマイにやってきた2年半前には、「急速なモータリゼーションの普及ですぐにすたれるのではないか」と地元の人から聞かされていたのであるが、なに、今もこうしてしぶとく生き残っている。
私自身は、なんとなく年配の運転手に自転車を漕いでもらうのが申し訳ないような気がして、実際に利用したことはないのであるけれども、市場のあたりではよく荷物を抱えた年配の女性や老女たちが便利に使っているようだ。
私が、チェンマイ門を背景にしてカメラを向けると、老運転手が立ち上がって「どこへ行く?」と声をかけてきた。
残念ながら、いまはどこにも行く予定がない。
「悪いけど、今度にするよ」
そう言って、彼のそばを離れた。
たいていの場所は歩き、かなり距離がある場合には赤いソンテオを利用するのが私の流儀である。
人力タクシーを使って行くような適当な場所が、私にはなかなか思い当たらない。
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