【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【北京から昆明へ】

2007年07月15日 | アジア回帰
 北京名物の大渋滞に引っかかってしまった。

 ホテルを出たのが、10時半過ぎ。

 チェックアウトの精算に手間取るフロントスタッフを、小楊が静かな迫力で急かしてやっとタクシーをつかまえたというのに、クルマの列は一向に流れない。

 目の前に空港行きのハイウエイが見えているのに、30分もそこをびゅんびゅんすっ飛ばすクルマの群れを指をくわえて眺めているのは、さすがに健康に悪いというものだ。

 私の場合、昆明行きは一日にかなりの便数があるから、乗り遅れても次の便にずらすことができる。

 だが、小楊が乗る洛陽行きは、わずか一日に一便だ。

 これを逃すと彼女は明日の仕事に出ることができず、彼女の帰りを待ちわびているホテルのマネージャーから大目玉を喰らいかねない。

 気が気ではない様子で、渋滞の列を眺めてはため息をつくばかりだ。

「小楊、こればかりはどうしようもないよ。とにかく、仏陀に祈るしかない。駄目だったら、今日もどこかに遊びに行こう」

 そう慰めるのだが、初めて飛行機を利用する彼女の気持ちはよく分かる。
       *
 それにしても、来年にオリンピックを控えた北京の街は、まるでごった煮の鍋のようだ。

 熱気と焦燥の中で待ったなしのスクラップ・アンド・ビルドの火鍋が煮えたぎり、渾沌の具がもつれあい、絡みあう。

 33年前の東京も、かくのごとき様相を呈していたのであろう。
       *
 小楊の心配をよそに、高速に乗ってからはあっという間に空港に着いてしまった。

 12時半発の私も、45分前にはチェックインを済ますことができた。

 小楊は、10分遅い12時40分の離陸だ。

 幸いなことに、隣り合った搭乗口だったので、10分ほど会話を交わすことができた。

 とは言っても、10日間も一緒に過ごしたせいかそれほど話すこともなく、手持ちぶさたの私はホテルから持参した桃をがりがりとかじっては、ため息をつくばかりだ。

「10日間はあっという間だったね」

「うん。本当に、あっという間だった。でも、楽しかったよ」

「・・・明日からは、また仕事だな」

「うん、マネージャーがたっぷり仕事を抱えて待ちかまえているんだ(笑)」

「でも、素敵なおみやげを買ったから少しは手加減してくれるだろう。あ、そろそろ搭乗しないと・・・」

「うん、そうだね」

「じゃあ、くれぐれも体に気をつけてな」

「うん」

「また、メールするから」

「うん、分かった」

 未来のボーフレンドに悪いから抱きしめてほっぺにキスするわけにもいかず、やむなく握手を交わして搭乗口に向かった。

 チケットをもぎってもらい振り返ると、椅子にちょこんと腰をおろしたままの小楊が小さく手を振った。
        *
 眠気に襲われてうとうとしていると、いったん滑走路に出た飛行機がまた元に戻り始めた。

 メカニックトラブルで、点検の要があるというアナウンスがあった。

 結局2時間ほど待って、3時の離陸になった。

 昆明空港に着いたのは、5時半。移動だけで、丸一日がつぶれてしまった。

 「メーターを使ってくれ!」

 30元、とふっかけてきたタクシーの運転手を叱りとばして、18元でホテルにたどりついた。

 小楊が予約してくれた金泉大酒点は、市中心部の大通りに面した4つ星ホテルだった。

 ロビーは町中のようなにぎわいで、部屋も西洋人を意識したつくりでやたらに仰々しい。

 チェンマイの安宿に比べると、天国と地獄ほどの違いがあるが、まあ、たまにはこうした宿に泊まってみるのも悪くはあるまい。

 おかげで、フロントの気の強そうなお姉ちゃんと英語でがんがんやり合うことができたし、旅行部門の商売上手のお姉ちゃんとは明日の「石林」(世界遺産)行きの料金を巡って楽しい値引き交渉を楽しむことができた。

 ホテルの近くの食堂では、肝っ玉かあさんのようなおかみに面倒をみてもらい、なかなかうまいチャーハンを食うこともできた。突き出しには、金山寺味噌のようなものをキャベツにからめたものができて、なんだかとても懐かしい味に出会ったような気がしたものだ。

 すべては、一期一会である。
       *
 部屋に落ち着いたところで、チェンマイのラーに電話を入れた。

 昨夜のパーティーには、10人ほどのマッサージ学校仲間が集まったらしい。

 明日は、運転手のウイワッと一緒に空港まで迎えに来るという。

 10日ぶりのチェンマイは、どんな新しいドラマを用意して私を待ちかまえているのだろうか?
 

 

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