かつて少年だったSは、今の飼い犬たちの幸せそうな暮らしぶりをみるにつけ、昔の二匹のポチが不憫でなりません
戦争が終わってもヒトさえ満足に食べられなかった時代、ノラ犬たちは、毎日生きのびるのに必死でした
そまつな残飯でももらえれば、その家の縁の下にもぐりこんで、次の残飯がもらえるのを待ちました
そして、少しでもかわいがってもらえれば、まるでその家の子になったように甘えます
半ノラの初代ポチは、まさにそんなイヌでした・・・
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ヒトに飼われていたものか、ヒトから逃げてきたものか、
はたまた、ヒトにすてられたのか、氏も素性もわからない
いったい全体、どうやって、生きてきたのか生きのびたのか、
だあれも知らない、名無しイヌ
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放し飼いだった初代ポチは、S少年のお父さんが朝、お勤め先の工場に自転車でいくのにならんで走っていったばかりでなく、夕方には、工場の門の前までお迎えにもいきました
また、家族みんなが銭湯にいくのにくっついて歩き、一家が風呂からでてくるまで、銭湯の前でじっと待っていました
そんな初代ポチでしたが、ある日忽然とすがたを消し、二度と戻ってくることはありませんでした
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かたや2代目ポチは、知り合いからもらい受け、予防注射も登録もされた、れっきとした飼い犬でした
庭に犬小屋もつくってもらい、毎日こどもたちと楽しく遊んでいました
家からはなれて冒険などできない、臆病な性格でした
そんな2代目ポチでしたが、ある日なんの前触れもなく急変し、あっけなく亡くなりました
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すっかりオジサン&オバサンになったS少年&姉たちのこころの中には、こどもの頃二匹のポチにかけたたくさんの愛情と、たのしい思い出が残っています
姉たちもやがて結婚し、それぞれ家庭を築きましたが、ハスキーを19才まで育てたり、聴導犬さながらのシーズーとくらしたりしてきました
そして今、Sオジサンは、ちょっぴりビビリな犬、シェルティーのラン吉とくらしています
「ラン吉、お前、ひょっとして、ポチの生まれ変わりか?
臆病なところ、ポチとそっくりだものなあ・・・
それにしても、今のわんちゃん達は、みんな幸せだよなあ・・・
毎日おいしい物をいろいろともらって、体もきれいにしてもらって・・・
昔の犬たちは、今からおもえば本当にかわいそうだったよ・・・」
そんな言葉が、ついつい口をついてでてきました
ラン吉ママ(Sオジサンのつれあい)が、それを聞きとって物語にしました
多少の食いちがい等は、ご容赦おねがいいたします
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* * 最後に、ラン吉ママより * *
現代でも、けしてしあわせとはいえないペットがいます
遺棄、虐待、悪徳なブリーダー、多頭飼い崩壊, etc...
ペットが健康でしあわせに生きる権利をふみにじる、残酷で気の毒な話はあとをたちません
ペットと飼い主との関係は、この世にひとつしかない絆のはず
ペットは家族、、ヒトのわが子とおなじです
親がわが子に願うのは、健やかにしあわせに生きてほしい、ただそれだけ
ましてや、自分より先に亡くなるわがペットであれば、一緒に生きていられる間に、惜しみなく、ただ愛情をそそぐだけ
「なにも特別なことなんて、できなくっていいからね・・・
一緒にいられるだけでしあわせだから、見かえりなんていらないよ
ただ、一日でも長く元気でいて、見あげて尻尾をふってくれるだけでいいんだよ」
ヒトもペットも愛し愛され、今を大切によりしあわせに、みんなが生きていかれますように・・・
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ながい連載となりました「ポチの思い出ものがたり」でしたが、最後までお読みくださったみなさまには心よりお礼申しあげます。
どうもありがとうございました。
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次回は、番外編「トチの思い出ものがたり」です
Kさんが子どもの頃に飼っていた秋田犬「トチ」の思い出話をご紹介します
ペットの数だけ、思い出ものがたりがありますね
(番外編があるのは、連載もののお約束・・・
どうか、おつき合いいただきますよう・・・)