白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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棋士紹介第4回・許家元碁聖

2019年02月09日 21時06分07秒 | 棋士紹介
<本日の一言>
本日は永代塾囲碁サロンにて指導碁を行いました。
お越し頂いた方々、ありがとうございました。
お客様ゼロも覚悟していましたが、思ったほど雪が降っていなくて良かったです。
また、珍しく永代オーナーと居合わせましたが、どうやら4歳のお子さんの特訓(?)に来ていたようですね。
インストラクターのお姉さんにアタリを教えてあげている姿が微笑ましかったです。
</本日の一言>

皆様こんばんは。
昨夜は9時頃に猛烈な眠気に襲われ、夕食もとらずに眠ってしまいました。
そういう時に無駄な抵抗をすると、体調がおかしくなってしまうものです。

さて、言い訳を済ませたところで、本題に入っていきましょう。
今回は棋士紹介第4回です。
ちなみに、棋士の段位や保持タイトルは変化するので、題名に入れるべきか迷いましたが・・・。
記事を書いた時期が分かるという面もあるので、この形になりました。

<許家元碁聖(公式プロフィール)

許碁聖は平成9年(1997年)12月24日生まれの21歳、台湾出身です。
普段の人柄は柔らかく、よく笑っている印象があります。
しかし、対局中は非常に厳しい表情をしていますね。
もっとも、棋士はそういう人が多いですが・・・。

碁は読みが深く、パワフルな棋風です。
若手には大抵その傾向がありますが、許碁聖の特徴としては、非常に柔軟でもあるということが挙げられると思います。
激しく仕掛けたと思いきや、パッと身を翻して新天地に向かうようなことがあり、それは特に入段間もないような頃によく見られた気がします。
棋士の碁の本質は、若い頃ほどよく表れるというのが私の持論です。
似ている碁と言えば、若い頃の王立誠九段でしょうか?

さて、今回ご紹介するのは大竹英雄名誉碁聖との対局です。
2014年7月3日の名人戦予選、まだ許碁聖が入段2年目の16歳、二段の頃ですね。



1図(実戦)
大竹名誉碁聖の黒番、黒△と打った場面です。
オーソドックスな進行で、ここまで全く同じ手順の碁も沢山打たれていそうですね。
現在、白△が弱くなっているので、白Aと守る手が真っ先に思い浮かびます。
実際、そう打っている人が多い気がしますが・・・。





2図(実戦)
実戦は白1とケイマして、中央の勢力争いを制しました。
黒4にも慌てず騒がず白5と詰め、小さく取るならどうぞと言っています。
碁盤全体を見た判断ですね。

しかし、黒6、白7の交換により戦力が増えたので、この後黒Aに対して即座に白Bと動き出していきました。
この柔軟な立ち回り方は、「いかにも」と感じます。





3図(実戦)
白が黒×全体を狙っている状況です。
しかし、今すぐ眼を取りにいくと、黒Aから反撃されて破綻します。
そこで、白1~5と激しく仕掛けました。
一種の陽動作戦で、この周辺に白石を増やして黒Aを無効化しようというのですね。
許碁聖は力が強いですが、直線的に石を取りにいくイメージはありません。





4図(実戦)
黒1、3と中央を突き出させましたが、代償に白4、6と左下隅を破っていきました。
この後も激しい戦いが続いていきます。
最終的には許二段が終盤のコウを頑張りきり、黒番半目勝ちを収めました。


ところで、この対局は許家元碁聖の対局の中で一番印象に残っているのですが、実は一番の理由は盤外にあります。
後で記録を見たところ、消費時間は黒174分に白179分、終局は17時14分となっていたのです。
許二段は当然として、大竹名誉碁聖が残り5分の秒読みに入っているではありませんか!
これには当時非常に驚いたものです。

大竹名誉碁聖は若い頃から早打ちでしたが、年齢を重ねてからはそれに拍車がかかり、碁界でもトップクラスのスピードです。
持ち時間3時間のうち半分程度しか使わないのが標準で、半目勝負の碁を1時間程度しか使わず打ち切ることすらあります。
それは高尾紳路九段や張栩九段のような棋士を相手にしても同じで、それで勝ってしまったりします。
その大竹名誉碁聖が、3時間の碁で秒読みに入った!
その事実は、私の中で大ニュースになりました。
16歳の少年の才能を感じていて、久しぶりに本気を出したくなったのではないかと思っています。
もし今後大竹名誉碁聖が、3時間の碁で若手相手に秒読みに入ったとしたら、その若手は間違いなくタイトルを取るでしょう(笑)。