白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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更新再開のお知らせ&Master対棋士第36局

2017年05月01日 23時51分18秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様、お久しぶりです。
本日から更新を再開します!

まずはお知らせです。
Masterの棋譜と簡単なコメント、またコメントをしているサイトへのリンクをまとめたページができていました。
こちらからご覧いただけます。
全60局もあると、どの碁が何局目だったかというのはとても思い出せません。
探すのに時間がかかってしまうこともよくありますが、こういうページがあると便利ですね。
私も暇があったら、副題付きでまとめてみましょうかね?

Masterの棋譜はネット上、雑誌、解説会等、様々な場所で紹介されています。
棋士によって注目している場所、見解が違うので、その違いも楽しんで頂けるのではないでしょうか。

さて、今回はMasterと辜梓豪五段(中国)の対局をご紹介します。
辜五段は1998年生まれの19歳、利民杯(若手の国際棋戦)での優勝経験があります。
なお、1回の記事では4~5図ぐらい使って行く予定ですが、今回は再開記念ということで図を多めにしてみましょう。



1図(実戦白16~黒17)
Masterの黒番です。
もはや、2間締まりや肩ツキ程度の手を見ても何とも思いません(笑)。
しかし、本局はさらに驚きの手が出ました。
白1と白3子を補強したばかりの所に、黒2と強襲!
白の連絡の薄みを狙った手ではありますが、この手自体が黒△とつながっておらず、見た目は打ち過ぎているように見えます。

この手では黒△との連携を考えて黒Aと打つ手もあり、それが普通の感覚です。
白2と受けさせて多少のポイントを稼ごうという、ジャブのような手です。





2図(実戦白18~黒29)
しかし、打ち過ぎに見えて、意外と白の対応が難しいのです。
実戦は白11まで、黒△と白△を取り合う分かれになりましたが、良い勝負でしょう。
むしろMaster先生を信用してのことか、白の立場でこの図を避ける棋士が多くなった気がします。

そして出ました、右下黒12といきなりの三々入り!
第23局でも現れましたが、本局は下辺の空間が広い分、さらに違和感があります。
この手はどういう理屈で理解するべきなのでしょうか・・・。





3図(変化図)
例えばこのように、右下白の壁攻めを狙う構想でしょうか?
私には下辺黒の方が薄く感じますが・・・。





4図(実戦黒45~白46)
辜五段は黒からの壁攻めを警戒し、右下白を厚く打ちました。
そして黒1と転戦しましたが、白2と分断に来られて一見打ち過ぎに見えます。
隅で生きるようでは、黒△や黒〇が弱くなってしまいます。





5図(実戦黒47~白59)
しかし、黒△は囮でした。
結果は黒13まで、外側の黒が厚くなる分かれになっています。
上手い捌きでした。





6図(実戦白60~白64)
白1に黒2、白3に黒4と、白が左辺を割っている間に黒地が増えて来ました。
その代わり白5と抱えられ、再び黒△が弱くなっています。
この黒がふらふら逃げて行くようでは、白にポイントを稼がれてしまうでしょう。
下辺黒にまで害が及ぶ展開もあり得ます。





7図(実戦黒65~黒67)
しかし、Masterは黒1、3の手筋を用意していました。
白Aは黒Bで両当たりですし、白Cは黒Aが先手になります(手抜きは黒3を逃げ出す手があります)。





8図(実戦白68~黒77)
そこで、実戦は白1と変化しました。
こう打てば後はほぼ一本道で、白9までとなりました。
黒は左下隅を荒らし、白は左辺を白地にしました。

広さで言えば白が得したかのようにも見えますが、もう1つ見るべき所があります。
それは黒△がほぼ取られたこと・・・逆に言えば、逃げる必要が無くなったということです。
安心して黒10の好点に回り、優位を確立しました。

大局観とは碁盤全体を見る力のことで、単に広い所を目指すことだけではありません。
時には狭い所に潜り込む打ち方も、大局観が基になっているのです。