白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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昨日の対局

2017年12月15日 17時02分42秒 | 対局
皆様こんにちは。
国民栄誉賞のニュースは既に広く知られており、囲碁を知らない方と話してもまずその話題になります。
間違いなく囲碁に興味を持つ方は増えるでしょう。
ただ、ヒカルの碁ブームのように持続性があるものではなく、放っておけば普及のチャンスはあっという間に過ぎてしまいます。
これから囲碁を覚えようとする方をいかにサポートするか、そして覚えた方が実際に打てる場を提供できるかによって、囲碁人口は大きく変わるでしょう。

さて、本日は昨日の趙治勲名誉名人との対局を振り返ります。
タイトル獲得数歴代1位のレジェンドとの対局は、非常に楽しみにしていました。
打ち始めると苦しみに変わることは分かり切っているのですが・・・。



1図(実戦)
私の白番です。
この碁を見たアマの方からは、「白が気分良く打っている」という声が多く聞かれました。
確かに、黒は2線や3線に石が多いですが、白は全体的に位が高いですね。

ただ、打っている私としては「これは武宮正樹九段でも甘くて打てないだろうな」と思っていました。
むしろ趙名誉名人の方が気分が良かったのではないでしょうか。
まあ、私としては少し形勢が悪くても、無理をせずチャンスを待つ作戦でした。





2図(実戦)
その後黒×を取り込み、中央はますます大きくなりました。
ただ、上手く捨てられた感じで、形勢ははっきり白が悪そうです。

そんな場面で黒△が打たれました。
白Aと分断してくる狙いがあるので、その前に白△を取り込んで禍根を断ったものです。
確実に打って逃げ切ろうという、いわゆる「勝ちました」という手ですね。
ただ、私としてはこれで細かくなる目が出てきたように感じました。

この手では黒Bあたりに打ってCの傷を狙うべき、という趙名誉名人の反省がありました。
そう打たれていればリードが広がり、白は取り付く島が無かったでしょう。
白Aと打っても、黒△と切られて上手くいきそうにありません。

黒はここまで順調に進み過ぎ、一瞬気が緩んだようです。
常に最善の一手を追求する趙名誉名人でも、時にはこういうことがあります。





3図(実戦)
とは言え、黒が優勢であるという判断に間違いは無く、また私にもミスが出るのでなかなか差が縮まりません。
白△と下がった場面で、黒Aと手を入れていれば黒に負けはありませんでした。
控えめに見ても盤面10目、コミを引いて3目半は残りそうです。
ところが、ここで手を抜いたため、左下で事件が起こりました。





4図(実戦)
白1のハネ出しから白3のツケコシが手筋です。
このコンビネーションにより、左辺の黒地に手が生じました。
このパターンの手筋は、確か中国の古典問題集「官子譜」にも収録されていたと思います。

さて、白5の後、黒は5子を取られないよう、AかBかの2択ですが・・・。





5図(変化図1)
4図の後、黒1に対しては白2、4が上手く、ダメ詰まりの黒はAと打てません。
黒△が取られてしまいます。





6図(変化図2)
4図の後、黒1と下から当ててくれば、白2と一本逃げてからの白4下がりが好手です。
白6となって、やはり黒はAとダメを詰めることができません。

ただ、この後黒Bとコウを取ってCの切りを狙う粘りがあります。
お互いにコウ立ての仕方が難しく、果たしてどうなったでしょうか?
正しく打てば白がやれそうにも見えますが、秒読みでは自信がありません。

実戦は違うコースに入り、白勝ちになりました。
形勢の良い場面が最後の数手しかないという苦しい碁でしたが、運が良かったですね。