白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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コミについて・その1

2017年05月13日 23時00分50秒 | 囲碁について(文章中心)
皆様こんばんは。
本日は永代塾囲碁サロンで指導碁を行いました。
雨の中お越し頂いた方々、ありがとうございました。

さて、本日はコミについてお話ししましょう。
囲碁は明らかに先番が有利なゲームです。
そこで、昔は実力が同じ人同士の対局では、1局ごとに黒白入れ替えて対局していました。
これが互先の語源です。

もちろん、一発勝負のトーナメントなどではそういう訳にはいきません。
しかし、そこは運も実力の内ということで割り切っていたのでしょう。
それに、結局は本当の一番を決めることにはならないのです。
名人という不動の権威が存在していたからです。

ですが、スポンサーが主催するトーナメント(またはリーグ戦)に権威が移ることになって、状況が変わりました。
碁界の頂点を決めようというのですから、運の要素が大き過ぎては困るのです。
何しろ、黒を持つか白を持つかは勝敗に大きく影響します。
トッププロ同士であれば、恐らく黒が7割ぐらい勝つのではないでしょうか。

かといって、手番を入れ替えて打つとなると最低2局は打たなければいけませんし、お互いに黒番勝ちを続けて決着が付かないかもしれません。
決勝だけならまだしも、本戦や予選があることを考えると現実的ではありません。
そこで、とうとうコミが正式に導入されることになります。
その始まりが第1期本因坊戦です。

旧制度での最後の名人、本因坊秀哉の時代にはコミがありませんでした。
木谷実七段(当時)との引退碁も当然コミ無しです(そもそも、九段※と七段なので定先の手合です)。 ※名人は九段格
その本因坊秀哉名人から権威を引き継いだ本因坊戦を開催するにあたり、コミが導入されたのです。

囲碁界が大きく変わったのはもちろん、残される棋譜の内容も大きく変わって来ます。
コミ無し碁では、黒番はいかに逃げ切り、白番はいかに工夫して追い付くかの勝負でした。
ところが、コミのある碁では黒番が盤面でコミ分以上勝たなければいけませんから、先に打てる利点を生かして積極的に仕掛けて行くことになります。
正反対、とまでは言えませんが、黒と白の作戦は大きく変わりました。
現代碁とコミの無い時代碁の序盤を比べると、布石にかなりの違いがありますが、技術の差よりコミの有無が大きく影響しているのです。

ただ、いきなり全ての対局がコミ無しになった訳ではありません。
例えば、呉清源九段はコミ無しの打ち込み十番碁の実績により、九段に推挙されました。
また、十番碁は読売新聞の部数を大きく伸ばすほどの目玉企画でもありました。
しかし、タイトル戦が増えるにつれ、次第にコミ碁中心になって行きます。
そして2003年に日本棋院、2004年には関西棋院で大手合が廃止され、ついに公式戦からコミ無し碁が消えました。
現在、プロ同士の公式戦は段に関わらず全て互先で行われています。
コミ無し碁が見られるのは、新初段シリーズなどの企画ぐらいですね。

ですが、これらはどうしても勝負を付けなければならない、プロの世界の事情です。
囲碁を面白くするためにコミがある訳ではないのです。
以前からお話ししているように、アマ同士の対局ではもっとコミ無しの互先が打たれても良いと思います。
盤面だけで決着が付くというのは、何と言ってもシンプルですからね。

また、個人的にはトッププロ同士のコミ無し碁も見てみたいと思っています。
果たして本当に黒番で7割も勝ち切れるのでしょうか?
それとも、ミスの少ない世界では8割勝つことすら可能なのでしょうか?
長年の疑問であり、ぜひとも答えが知りたいですね。

次回は、コミは何目が適正なのか?
という疑問についての考えを述べたいと思います。