その季節にしか出会えない動植物を求めて、特定の場所を訪れたいという衝動に駆られることがあると思います。
9月、高尾山のメインルート・稲荷山ルートを登り、城山・景信山と歩き、明王峠から相模湖駅に下るか、陣馬山まで歩きバス停まで歩道歩きをするコースで、私は山歩きをしたくなります。
理由は先に述べたように、その季節にしか出会えない動植物と山で再会するためです。
9月26日(日)7時少し前に自宅を出て、8時30分頃高尾山口駅に到着。
8時40分、幾つかある高尾山までのルートのうち、稲荷山ルートを登り始めました。
登り口に、まず期待していた最初の出会いがありました。
それは、この時期このルートの至る所に咲いているホトトギス。
毎年咲いている登り口のホトトギスは、とても薄暗いところにあるので、撮影には向いていません。
しかしこの判断が、今回は大間違い。
高尾山までの登山路に、例年ですと9月頃に普通に咲いているはずのホトトギスが、今年はこの登山口を除き全く見ることができませんでした。
どうした訳でしょう。
若干時期が遅かったからか、今年の猛暑が原因なのか、それは登るにつれ明らかになっていきました。
登山口のホトトギスを写真に納めておくべきだったと後悔しましたが、幸いにも下山道で偶然一株だけ咲いているホトトギスを発見、カシャッ!。
《ホトトギス》
ホトトギスは山野草として人気の高い植物で、東アジア~インドに約20種類(内、日本原産のものが10種類)が分布します。
名前の由来は、花びらの斑点模様が、鳥のホトトギスのお腹の模様に似ているところに由来します。
次の出会いは、タマアジサイ。
この時期は、高尾山から城山への迂回ルート上に、ヤマアジサイやガクアジサイより遅咲きで、7月~9月に開花が見られる瑞々しいタマアジサイの花が、咲き乱れているはず。
ところが、随所に咲いているはずのタマアジサイは、例年よりもかなり数が少ないだけでなく、花も貧弱。
《タマアジサイ》
玉紫陽花は、アジサイ科アジサイ属の落葉低木。
樹高は1.5mから2mくらいになります。
花期は7月から9月で、苞に包まれ玉状になった蕾が裂けるように開花し、淡紫色の小さな両性花の周りに花弁4枚の白色の装飾花が縁どります。
名の由来は玉のような蕾から。
次は、サラシナショウマ。
かなりの数のサラシナショウマが、毎年群生して咲いている場所では、花の穂が垂れるようにして咲いているはずが、タマアジサイと同様に咲いている花の数が少なく貧弱な花つきでした。
《サラシナショウマ》
キンポウゲ科サラシナショウマ属
升麻はサラシナショウマの漢名で、サラシナというのは、若菜を茹でて水で晒して食用に供することからつきました。
北海道~九州の落葉樹林内や草原などに生えます。
茎の先に15~30cmの穂状花序を出し、柄のある白い小さな花を密につけます。
花期は8~10月。
ツルニンジンの花も、あるべきところに無く、下山道に咲いているのを偶然に見つけました。
《ツルニンジン》
ツルニンジンはキキョウ科の蔓性多年草で、東アジア一帯の森林に生育します。
別名はジイソブ(爺のそばかすの意)といい、これは類似種バアソブ(婆のそばかすの意で、花冠にある斑点による)に似て、より大きいことに由来します。
こうした例年と異なる植物の生育を考えると、記録的な今年の猛暑は、間違いなく生態系に影響を及ぼしたようです。
クマの出没や、凶暴化したサルの人家付近への出没などが、今年は特に話題になりましたが、こうした環境の変化が原因かもしれません。
ところで、私にとって花の撮影の他に、もう二つ出会いたいものがありました。
その一つは、アサギマダラという蝶であり、もう一つは、ヤマイモの蔓に生るムカゴ。
北高尾山稜では、この時期にかなりの数の群れで舞うアサギマダラと遭遇することがあります。
今回、幸運にも高尾メインルート上で、一頭のアサギマダラを写真に収めることができました。
蝶の助数詞は「匹」ではなく「頭」が、アカデミックな数え方です。
アサギマダラは、タテハチョウ科・マダラチョウ亜科に分類されます。
秋になると、海を渡って南西諸島や台湾まで南下する渡りをするチョウです。
私がカメラを向けていると、問いかけてきた老人がいましたので、「海をこれから渡る珍しい蝶」であることを教えてあげると、「ほう、そうですか。」と言いながら、感慨深げに見入っていました。
以前のブログで、アサギマダラを取り上げていますので、興味ある方はご覧ください。
マッキーの随想:生きる力を学ぶ…チョウや植物から
マッキーの随想:自然は不思議なことばかり…秋の山の話
むかご(零余子)は植物の器官のひとつで、種子ではなく栄養繁殖器官です。
さて、最後になりましたが、ヤマノイモのムカゴ。
今回のルートで、例年さほど多くは採れないムカゴですが、今年は写真のように豊作でした。
小どんぶり2杯分のムカゴ
蔓性植物のヤマノイモは、今年の猛暑をものともせずに、光合成で作った栄養をしっかりとムカゴに蓄えたのです。
帰宅後に、さっそく塩ゆでにして、ビールのつまみになりました。
翌日は、ムカゴ飯として、朝食と昼の弁当になって、我が家の家計をちょっぴり潤したのでした。
小さめのムカゴを使ったむかご飯
かつて私たちの祖先は、有限ではかない人生に対比して、自然の強靭な永続性を疑わなかったようです。
国破れて山河在り 城春にして草木深し
戦火で都は荒廃してしまったけれども、春が訪れていつもと変わらず草木が生い茂っている情景から、人の世のはかなさに比べて、自然の永続性を詠んでいると思います。
年年歳歳花相似たり 歳歳年年人同じからず
毎年季節が巡ってくれば、美しい花は同じように咲き自然は変わらないけれども、この花を見る人々は毎年変わっているという、人の世のはかなさを詠んでいます。
しかし、現代においては、こうしたゆるぎない自然の営みは人間の幻想であり、実は人間の世と比べても、とても繊細ではかないものだということが、認識されつつあります。
人間の欲望の追求は、ついには地球全体の環境をも破壊するエネルギーを持つに至ったようです。
自然の変わらないと思われた営みの変調が、私たちに警鐘を鳴らしているように思います。
【標準タイム】
清滝登山口~1.10~高尾山~1.00~城山~1.00~景信山~1.10~明王峠~1.25~相模湖駅 (計5時間45分)
高尾山系の山登りとしては、以下の3つのルートに大まかに分けることが出来ますので、興味有る方はご覧下さい。
◎展望は少ないけれども登りごたえのある北高尾ルート
2008.1.28北高尾山稜縦走…1年で最も寒い時期の山登り
◎最も整備され展望も良い高尾山~陣馬山メインルート
2008.06.04ミシュランの三つ星:陣馬山~景信山~城山~高尾山の山登り (今回の逆ルート)
◎それから南に位置する南高尾ルート
2008.02.18南高尾山稜…冬の日だまりハイク
今年はツリフネソウの群落が目立ちました。
ツリフネソウ(釣船草 )は、ツリフネソウ科ツリフネソウ属に分類される一年生草本植物です。
色が黄色のツリフネソウもよく見かけますが、キツリフネ(黄釣船)と呼ばれています。
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