「マッキーのつれづれ日記」

進学教室の主宰が、豊富な経験を基に、教育や受験必勝法を伝授。また、時事問題・趣味の山登り・美術鑑賞などについて綴る。

マッキーの現代陶芸入門講座(30)…萩焼・波多野善蔵と兼田昌尚のぐい呑と湯呑

2010年10月20日 | 陶芸
今日は、私が評価している2人の萩焼作家のぐい呑と湯呑についてお話ししましょう。

二十数年ほど前、湯呑みやぐい呑みを集中的にコレクションしたことがありました。

その中で、日常使いやすいと感じる湯呑みを作っている作家として、波多野善蔵(はたのぜんぞう)と兼田昌尚(かねだまさなお)の二名の萩焼作家を、今日は紹介します。


萩焼は、陶器の中でもざっくりとした陶土を使っていて、多くの作品は手に持った感触が比較的軽く、熱伝導率が小さい印象を受けます。

そうした利点を生かして、抹茶茶碗や湯呑み、ぐい飲みなどの焼き物として、広く使われています。

萩焼の胎土は、焼成されると微細な空隙ができるよで、浸透性のある陶器が多いのも事実です。

唐津焼の器にもかなり浸透性のある作品があり、米のとぎ汁を使って水漏れを防止したことがあります。


そうした理由で、萩焼は熱伝導率が小さく、また使いこなしていると手に馴染み、次第に色合いも変化します。

それが、「萩の七化け」「萩の七変化」と呼ばれる所以ともなっています。

従って、かなり高価な人間国宝級の萩焼の作品は、それを使うことを躊躇することになります。

こうした焼き物を、大事に棚に陳列して鑑賞用の陶器とするか、破損や劣化の危険性を認識しつつも、実際に使って楽しむ焼き物とするか、その判断は所有者の考え次第です。


萩焼の作家の作品については、以下のブログでも取り上げましたので、興味ある方はご覧下さい。

マッキーの現代陶芸入門講座(29)…萩焼・坂田泥華さん死去

マッキーの現代陶芸入門講座(24)…坂倉新兵衛と田原陶兵衛と坂高麗左衛門の萩焼

マッキーの現代陶芸入門講座(18)…坂田泥華と吉賀大眉のぐい呑みと湯飲み

マッキーの現代陶芸入門講座(5)…三輪休雪のぐい呑み



波多野善蔵 萩湯呑(1986)


波多野善蔵の作品は、記録によればぐい呑み2点・湯呑み5点、兼田昌尚の作品は、ぐい呑み2点、湯呑み2点あるはずです。

ただ、今回箱を見つけた点数は、波多野善蔵4点・兼田昌尚3点でしたが、破損したのかどこかに隠れているのか不明です。



波多野善蔵 萩湯呑(1987)


波多野善造の湯呑みは、とても使い易い。

日頃使う湯呑みは、萩焼や志野焼が趣があります。

磁器の湯呑みは、お客様用として清潔に見えて良いのですが、自宅用・マイカップの湯呑みは、是非陶器の器を使ってみることをお薦めします。

萩焼は、一見壊れやすい印象を受けますが、乱暴な使い方さえしなければ、永~く使えます。



波多野善蔵 萩ぐい呑(1987)


一概に萩焼と言っても、釉薬の種類やかけ方によって、だいぶ印象が異なります。

萩焼の基本的な釉薬である透明な土灰釉ではなく、特に地肌が見えなくなるほど、藁を焼いた灰を混ぜた藁灰釉と呼ばれる白い釉薬をかけた萩焼があります。

この藁灰釉と呼ばれる白い釉薬を施した萩焼は、比較的新しい萩焼と私は考えていました。

しかし「李勺光たちが日本に来た頃には、朝鮮に藁灰を使った釉薬はなかったが、萩焼には当時から藁灰を使った形跡がある」と、林屋晴三が述べているという文章を読み、かなり古くから萩焼に白い釉薬が使われていたことを知りまいた。

余談になりますが、日本橋三越本店美術部のかつての私の担当が、林屋さんと言い、林屋晴三さんの甥御さんでした。



波多野善蔵湯呑み(1989年)


私の趣味としては、藁を混ぜた土壁でも見るかのような素朴な味わいがある萩焼が好きです。

低火度の焼成のせいでしょうか、萩焼は土物の焼き物の風趣がよく表現できる陶器であると思います。



波多野善蔵 萩茶碗「朝がすみ」(1986)


20年以上前、私が三十代の頃、上の写真の波多野善蔵の萩茶碗と、山本陶秀の備前茶碗の銘を、東大寺元管長の清水公照さんにお願いしして付けてもらったことがありました。

しばらく茶碗を鑑賞した後、墨で銘を箱書きされました。

「若いのに、茶碗が趣味とは珍しいね。」とおっしゃって、気さくにお話ししていただいたことを、この茶碗を見る度に想い出します。



清水 公照(しみず こうしょう)箱書き:銘「春がすみ」


ちなみに、すでに手元にはない山本陶秀の備前茶碗の銘は、『長沙』でした。

備前の侘び錆びた茶碗の色が、その頃シルクロードブームだったせいでしょうか、その色合いが長沙を連想するとおっしゃりながら、その銘をお書きになりました。



波多野善蔵 箱書き

山口県指定無形文化財である波多野善蔵氏は、実は唐津生まれで、唐津焼の中里無庵とその御子息と幼少より親交があったそうです。

萩焼と唐津焼の人的交流は、他の作家にもあり、地理的な側面の他に、何か特別なものがあるように感じます。

しかし、波多野善蔵においては、何故か唐津焼の影響はさほど私には感じられません。

しいてあげるなら、次に解説する私が持っている兼田昌尚の三十代の作品の方が、唐津焼の影響を感じます。




兼田昌尚 萩ぐい呑(1989)


この時期の兼田昌尚の作品は、手捻り風の趣のある作品を作っていました。

釉薬の掛け方は、朝鮮唐津風と言ってもよいでしょう。



兼田昌尚 萩ぐい呑(1989)


最近の兼田昌尚の作品は、その手捻りから発展して、粘土のかたまりをくりぬいて作る技法「刳貫技法」を用いた作品を作っています。

その作品を実際には手にとって鑑賞したことがないので、はっきりとした評価はできませんが、独自の道を歩んでいるようです。



兼田昌尚湯呑み(1986年)


この湯呑みは、一般的な萩焼の胎土よりも黒みがあり、そこに白泥を化粧掛けした粉引風の出来具合になっています。

兼田昌尚の最近作の中に、三輪家の影響を多分に受けたと思われるものが見受けられます。

雪のように白い釉薬 「休雪白」が分厚く大胆に施された焼き物は、本来の萩焼の良さを殺している面もあり、ほどほどにしておいたほうが無難だと、私は思います。

かつて、三輪龍作の初咲茶碗なども、私は持っていましたが、このたっぷり掛かった白い藁灰釉を上手く使いこなせるのは、三輪家の人以外なかなか難しいように思います。



兼田昌尚 箱書き



【波多野善蔵 陶歴】 

昭和十七年  佐賀県唐津市に生まれる
昭和四十七年 山口県美術展知事賞
昭和四十八年 日展入選(三回)
昭和四十九年 現代工芸展入選(三回)、九州・山口陶磁展第一位(二回)、山口県美術展文部大臣奨励賞
昭和五十二年 第二十四回日本伝統工芸展初入選
昭和五十四年 日本工芸展入選(以後連続入選)
昭和五十六年 第二十八回日本伝統工芸展、日本工芸会奨励賞受賞
昭和五十七年 山口県芸術文化振興奨励賞受賞
昭和六十一年 田部美術館「茶の湯造形」展優秀賞
平成二年   明日への茶道美術公募展入選
平成四年   「日本の陶芸〈今)100選展」出品。山口県選奨を受ける
平成九年   日本陶磁の秀作アジア巡回展
平成十三年  日本伝統工芸展入選(二十四回)
平成十四年  山口県指定無形文化財萩焼保持者に認定
高島屋 三越 大丸 さいか屋等で個展
現在 日本工芸会正会員



【兼田昌尚 陶歴】

1953年 七代兼田三左衛門の長男として萩市に生れる
1977年 東京教育大学教育学部芸術学科彫塑専攻卒業
1979年 筑波大学大学院芸術研究科彫塑専攻終了 父三左衛門につき作陶を始める
1985年 日本工芸会正会員となる(’91同退会)
1996年 山口県芸術文化振興奨励賞
2004年 山口県文化功労賞2005年 八代 天寵山窯就任
2006年 八代天寵山窯就任記念「陶’06」日本橋三越 他
その他入選受賞多数ブルックリン美術館・サンフランシスコ美術館・横浜総合美術館など作品収蔵



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2 コメント

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陶器の記事、勉強になります (高山)
2016-08-25 08:32:00
還暦を過ぎ現在気ままな一人親方の植木屋です。
器は源右衛門をつかっていますが、太郎右衛門窯や大眉さんの窯のものを最近少しづつもとめ、陶器もいいなと思っていたところ、このプログに出会いました。
波多野さんの記事を読み、今回湯呑をネットで買いました。添付写真と同様、親指でおさえたようなへこみがありました。なんなんでしょうかね?
植木道具も手打ちの鋏をつくる職人が高齢などで廃業しています。陶芸もですが、いい手仕事が続いてほしいものです。そのためには和風総本家やNHKのイッピンではないですが、消費者にこれだけ手をかけていいものなんだとアピールする努力が、生産者、流通業者も必要ですね。

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日本の手仕事 (マッキー)
2016-08-25 12:52:35
日本の特徴であり、世界に誇れる伝統的な手仕事・職人仕事は、存続して継続できるようにしなければなりません。その需要を喚起し、仕事として成立する環境を整える必要があります。そうした環境が整備されれば、若者にもその魅力を自信を持って伝えることができるでしょう。
 焼き物は、偶然の割れや変形・窯変・自然釉の掛かり具合などの無作為の部分も重要な鑑賞要素となります。指の動きが面白い景色になることもあります。仰っている陶器上のへこみなどは、作為的に付けたものと思われます。そうした行為も、趣ある焼き物には欠かせません。
 これからも、高山さんが収集された作品の感想などをコメントいただけると、私も嬉しいのですが。
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