「マッキーのつれづれ日記」

進学教室の主宰が、豊富な経験を基に、教育や受験必勝法を伝授。また、時事問題・趣味の山登り・美術鑑賞などについて綴る。

マッキーの現代陶芸入門講座(26)…佐伯守美の陶芸・新たな地平を求めて

2009年04月15日 | 陶芸

佐伯守美(さえき もりよし)この作家は、私にとって思い入れの大きい陶芸家です。

この現代陶芸入門講座も26回目となりますが、この作家のことを書こうとすると、なかなか筆が進まない、それくらい佐伯守美は、私にとっては特別な存在です。

この作家との出会いは、多くの作家と同様に、陶芸の収集を本格的に始めた25年ほど前に遡ります。

銀座黒田陶苑に福島さんと言う方が勤務されていた頃、その方から佐伯さんの作品を見せてもらったのが初めての出会いでした。

福島さんは、黒田陶苑の金看板を背負って、全国の陶芸家を回っていたので、ある意味では現代陶芸に関して、その当時最も情報通だった方でした。



練上象嵌ぐい呑み(1986年)



練上象嵌ぐい呑み(1986年)



練上象嵌湯呑(1986年)



練上象嵌徳利(1986年)
茶碗や酒器は、陶器として、極めて難しい!
その奥深さは、計り知れない!
手に持ったときの何か…数値的に割り出せない何かが、そこにある


陶芸の見方に関しては、福島さんと私は、異なる部分もありましたから、作品に対する評価に対しては、共通ではありませんでした。

しかし、現場で鍛えた福島さんの作家観などは、並の美術評論家よりは、はるかに傾聴に値するものでした。



最初に目にしたこの作家の作品は、佐伯さんが作った樹木文の花器の最も初期の作品です。

象嵌した樹木文と、異なる陶土を表面上に練り込んだような風景は、技術的に試行錯誤の作品で、その完成度はまだ高くありませんでした。



最も初期の練上象嵌樹木文壺(1985年)


樹木文は、下手をすると壁紙風になってしまうので、どういった変遷をたどるのか興味も感じました。

彼の象嵌樹木文は、始めエミールガレやドームなど、アール・ヌーボー様式の作家を私に連想させました。

この件について、後々彼に直接私の印象を述べたことがありましたが、肯定も否定もしませんでしたので、彼自身も多少意識していたのではないかと推測されます。



ビアマグ(1988年)



練上象嵌ビアマグ(1988年)
グラスで発砲するビールを楽しむのも良いが、お気に入りの陶器製ビアマグで飲むビールも格別です…どうぞお試しを!



練上象嵌冷酒入れ1989年)



佐伯さんのビアマグと食器に盛ったキャベツのおひたし



陶器表面に、具象を表現するとき、絵筆ならかなり微細な表現が出来るのですが、彼が使った象嵌は、そこまで細かな表現が出来ないので、一歩間違えると樹木の文様に成り果てる危険も感じました。

この危険な綱渡りを、今後どの様に展開していくのか、疑問も感じながら注目していました。

そうした期待に違わずに、佐伯さんは、背景の処理に泥彩を用い、独自で高度な象嵌技術を駆使して、高いレベルの作品群を制作しているように思います。



象嵌樹木文蓋もの(1989年)



蓋もの



蓋もの


彼が、芸大で非常勤講師をしている30代の頃のこと、彼が始めて第28回伝統工芸新作展(1988年)で奨励賞を受賞した、彼にとっても記念すべき作品を、私は買い求めました。



伝統工芸新作展(1988年)で奨励賞を受賞した『白掻落山帰来文鉢』
この作品で、私は、この作家の力量を改めて感じ取ることが出来ました



奨励賞受賞作品解説



箱書き



また、私が代表を務めていた美術愛好家の団体・美学社(現在の美楽舎)の例会として、平成2年に陶芸家「田村耕一回顧展」ならぴに「佐伯守美展」を見学し、佐伯さんに解説して頂きました。

それから平成5年には、やはり美学社の例会として、佐伯さんの窯場を、かなりの数の会員とバスを使って訪問し、先生を交えて懇談会を行いました。

また、彼の代表作である『白掻落山帰来文鉢』の写真撮りのために、私の自宅に佐伯さんに作品を取りに来て頂いたこともありました。



佐伯さんの皿・雑器の制作も上手い(1989年)



佐伯さんの皿・味のある作品(1990年)
実際に、私の作った料理を盛りつけて楽しんでいます



実は、ここ十年以上、彼の個展を含めて、実際の作品を観ることも、作家本人にお会いすることもありませんでした。

手元にある佐伯さんの作品をあらためて眺めると、技量の確かな陶芸家であることを感じるとともに、私の兄貴分の年齢であリ、今年還暦を迎える人間味のある佐伯守美を想い出します。

東京芸大の卒業制作でサロン・ド・プランタン賞を受賞し、大学院修了制作が東京藝術大学資料館買上となるなど、順調な陶芸家人生をスタートさせた佐伯守美は、その後日本工芸会で活躍しています。

そうした活躍を見て、ある業者は、将来『~に推挙されること間違いなし』と言って、作品を売っているようですが、こうした行為は、作家にとって良い影響はありません。

たとえ大きな器の作家だと確信しても、推測を商売上で公言すべきではなく、またそれはフライングというもので、慎むべき行為です。



練上象嵌花瓶(1988年)



灰釉茶碗(1993年)


美術作品を鑑賞することは、その作品の作者に思いを馳せることにもなります。

ましてや、作品を自分のお金で買った人は、その作品だけではなく、その作家に思い入れがあるはずです。

佐伯さんが、今後も独自の作風を進化させて、陶芸家として、かつての巨匠が到達した新たな境地に至ること を、私は確信しています。



かなり大きな練上象嵌花入(1992年)




練上象嵌花入・詩情が感じられる象嵌樹木文




佐伯守美陶歴

1949年 彫刻家佐伯留守夫の長男として生まれる
1975年 東京藝術大学院修了、「掻落し芙蓉文大皿」芸大資料館買上げ
1978年 栃木県芸術祭工芸部門芸術祭賞受賞
1987年 東京藝術大学非常勤講師となる(~2001年)
1988年 第28回伝統工芸新作展奨励賞受賞  国際陶芸展優秀賞受賞
1989年 栃木県文化奨励賞受賞
1990年 マロニエ文化賞受賞
1991年 第31回伝統工芸新作展「練込象嵌樹林文扁壺」東京都教育委員会賞受賞
2001年 文星芸術大学非常勤講師となる
2002年 「象嵌釉彩樹林文扁壺」宮内庁買上  第4回益子陶芸展審査員特別賞受賞
2004年 大滝村北海道陶芸展金賞受賞  第66回 一水会陶芸展 一水会賞受賞




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