小浜島で結ばれたえりぃと文也は、その足で真理亜とともに那覇の古波蔵家を訪れた。
文也「恵里さんと結婚させて下さい。突然で驚いたと思いますけど、僕たち結婚したいんです。兄との約束覚えていらっしゃいますか?」
勝子「うん覚えているよ。」
文也「その約束を果たそうと思います。恵里さんと結婚させてください。どうかよろしくお願いします。」
勝子「よかったね。」
おばぁ「和也くんも喜んでいるさ。」
文也「はい、ありがとうございます。」
勝子「えりぃお母さん嬉しいさ、えりぃはずっと一人の人を思い続けてそれが実ったんだもの。でもね、結婚っていうのはどうかな?いきなりすぎるんじゃない?まだ早いんじゃないかな?」
おばぁ「そうかねーおばあは全然上等だと思うけどね。今日知り会って今日結婚したって全然大丈夫さ。」
勝子「なんでですか?お母さんえりぃと文也くんは、ちゃんとお付き合いしてないんですよ。全然。それでいきなり結婚っていうのは、どんなかなって思うんですけど。そりぁ私みたいにいうと現実的でおもしろくないかもしれませんが、本人同士が大人になってからのお互いのこと、まだよく知らないわけだし」
恵文「そうだね。お父さんもそう思うさ、結婚を決めるには早すぎるさ。だからさ、付き合ってみてさ長く長ーくゆっくり時間かけて付き合ってさ、お互いのことがわかってから、それでもしたかったらというふうにしたらいいでしょう。それに付き合ってるうちにお互いの嫌なとこが見えてさ、やめようと思うかもしれないでしょう。」
えりぃ「思わないよ、文也くん。」
文也「うん。あの…」
真理亜「ここではさ、もっとこうガッと出なきゃダメなんじゃないの?東京と違うんだから。」
文也「あのですね、小浜からここに来る間に二人で話したんですけど、確かに順番は普通の人と違うかもしれないですけど僕たちは結婚を決めて、そして今日から恋愛を始めよう。そう話し合って決めたんです。ね?」
勝子「それは何?結婚を前提にお付き合いするっていうのと違うの?」
文也「ちょっと違います。結婚を前提にというのは、さっき言われたように結婚を前提に付き合ってみて、それで決めることですよね?だけど僕たちは結婚はするんです。」
勝子「ゴメン、よくわからないさ。」
真理亜「私がご説明しましょう。いいですか?だいたいね、子供の頃にした約束を本気で信じているバカと、その約束を本当に守ろうとして小浜島まで飛んでくるようなバカの二人なんですから。」
えりぃ・文也「ん?」
えりぃ「真理亜さんもう少し愛のある説明できませんかね?」
真理亜「できません。」
勝子「話、続けて。笑」
真理亜「つまり、この二人は普通と違うんだということを頭の中に入れておいてください。じゃないとね、考える方が頭痛くなりますからね。そもそもこの二人は結婚をするというところから始まっているんです。それは運命だからです。これほどまでに強く運命で結びついているんだから、約束を果たすべきだ。結婚すべきだと二人は考えた。そうすれば絶対に不幸になんかなるはずがない。確かに今のお互いのことは知らない、だから恋愛しよう。いいじゃないか普通と逆になったって。みんなに変だと思われても結婚をしてから恋愛をしたっていいじゃないか、そう決めたわけです。」
勝子「なるほどね、運命か……」
えりぃ「だってお母さん。」
えりぃは勝子にスーパーボールを渡した。
勝子「あれ?これ何年も前に無くなったんじゃないの?」
えりぃ「文也くんに辿り着いたの。このスーパーボール。」
文也「そうなんです。」
勝子「へぇ…。運命かぁ、神様には逆らえないのかなぁ。そういうのもいいかもね。お母さんは賛成。」
えりぃ「ありがとう。」
文也「ありがとうございます!」
結婚に反対する恵文は、東京の恵達に電話をした。えりぃが文也と結婚すると聞かされ恵達は、驚きの悲鳴をあげた。もちろん結婚には賛成だった。
二人の結婚を祝福する中、恵文はひとり反対していた。そして文也に結婚を賭けて泡盛の飲み比べで勝負をしようと無茶なことを言い出した。文也はその勝負を受けることに。勝負を始めたものの、初めて泡盛を飲む文也。お酒に強い恵文と勝負していても圧倒的に不利だった。文也は泥酔して頭が回らない中でも、自分の思いを伝え、勝負を続けた。
文也「俺、えりぃをずっと一人にしてきたから……兄貴との約束、守れなくなってしまうから……」
文也の思いに心を打たれた恵文はわざと先に倒れてしまう。文也もその直後に倒れてしまった。酔い潰れた文也は離れの部屋で休んでいた。恵文は文也を介抱しながら結婚を許すことにした。恵文と文也が離れにいる頃、女性陣は縁側で話をしていた。
えりぃ「私さ、小浜に真理亜さんと行って、文也くんのこと忘れようとした。ふっきろうと思った。でも、文也くん来てくれてさ、結婚しようって、和也くんとの約束果たそうって言ってくれて。いきなり結婚しようと言われて何が何だかわからなくてなんかボーっとしてしまってさ。
でも私は文也くんのことずーっと思ってたし東京で会ってからもずっとやっぱり好きだなーって思ってた。でも文也くんはそうじゃない。そんな文也くんがさー小浜まで来てくれるなんてすごいなーって、私なんかより文也くんの方がもっと気持ちの整理なんかつかないはずなのにさ、来てくれたんだなーって。なんかめちゃくちゃ嬉しくてさ、だからさ文也くんについていこうって信じようってそう思った。」
おばあ「えりぃ、夫寄し妻寄し(うとぅよしとぅじゅし)」知ってるか?沖縄のことわざさ、夫婦はお互いを思い合ってそして助け合っていけば大丈夫ということさ。」
えりぃ「ありがとう。おばぁ」
東京の「ゆがふ」で、恵達は、えりぃと文也が結婚することになったと伝えた。全員が驚く。そりゃ驚くよ。小浜に行ったえりぃのところに、文也がやってきてプロポーズしたのだから。
柴田「け、結婚するんですか?」
恵達「はい、らしいですね。」
容子「はーそんなことあるんだ本当に。」
恵達「あるんですね。」
容子「なんか人生観変わるな、私。運命か……。そんなことあるんだ。」
店長「あるんだね。」
容子「私もどこかで気づかずに運命の出会い見逃してしまっているのかな?どうなってるんだろうな。」
柴田「また一つ、恋が終わった。」
店長「儚い恋だったねー。」
古波蔵家から結婚の許しを得た文也は、えりぃを連れて上村家に戻り、静子にえりぃと結婚したいと打ち明けた。えりぃと静子が会うのは、小浜に滞在していた時以来だった。
静子「恵里ちゃん大きくなったのね。そうだよね、でも全然変わらない。」
えりぃ「そうですか?」
静子「ありがとう。和也との約束果たしてくれるのよね。ありがとう。」
意外にも、静子は二人の結婚を賛成した。反対されると思っていた文也は不思議に思った。
文也「母さん?」
静子「あれ?なに意外そうな顔してるの?何?二人とも私が反対すると思ってたの?ねぇそうなの?」
文也「いやそうじゃなくて。」
静子「そうなんだー。どうして?反対なんかしないわよ。私。そんな風に見えるのかな?結構リベラルな女性のつもりなんだけどなーこれでも。」
文也「そうゆうわけじゃなくて。」
静子「じゃあなぁに?」
文也「え?ほら小浜の話、あまり好きじゃなかったじゃん、お母さん。」
静子「あぁそれはまぁね、やっぱりちょっと辛い思い出だから私にとってはね、あそこは。でもそれは小浜島のせいじゃないしね。あそこはいいとこだわ。それに恵里ちゃんには関係ないしね。むしろ恵里ちゃんには感謝してるのよ。ホントによくしてくれたもの。はぁでも、お母さん嬉しいな。文也はね、和也のこともあったし、お父さんのこともあったし、あ、その話文也から聞いてる?」
えりぃ「はい。」
静子「だからね、私に多分心配させないようにって、ずっと思ってるような子だったと思うのよ。だからどこか実は臆病っていうのかな。ものすごく常識的なのよね。なんていうのかな、私がね、え!?何これ?って驚くようなこととかね、そういうことって一切ないような子だったのよ。」
文也「そうかな?」
静子「そうよ。だから突然恵里ちゃんと結婚するって言い出すなんてちょっと嬉しいな。面白い。」
文也「そう。」
静子「うん。恵里ちゃんもそう思うでしょ?」
えりぃ「いや私はまだよくわからないっていうか、文也くんのことそこまでは。」
静子「あーそうか、そうなんだよね。ねぇ大丈夫なの、文也?それで。」
文也「大丈夫だよ。」
静子「うん、ならいいけど。」
えりぃ「すみません。」
静子「謝らなくたっていいのよ。うちは基本的にね私は私、文也は文也の人生ってそうゆう考え方なんだから。で、いつするの?結婚。」
文也「んーまだ具体的には。」
しかし静子が、あっさり結婚に賛成したのは意外だったなー。小浜に滞在していた頃のイメージだと簡単に結婚を認めないような感じがしたし。それに静子さん、和也のことでえりぃを怒ったこともあったからなぁー。
静子「やっぱり、でもあれじゃないかな?今すぐっていうのはどうなのかな?あなたたち仕事始めたばっかりでしょ?少しがんばって結果出してからの方がいいんじゃないかな?」
文也「結果?」
静子「うん。それぞれの仕事でちゃんと一人前になってから。その方がいいんじゃないかなと私は思うんだけど。まぁね、決めるのはあなたたちだからね。」
両家から結婚の許しをもらえて、えりぃと文也はカフェでくつろいでいた。これが二人の初デート?笑
えりぃ「文也くん、疲れてない?」
文也「俺?うん、大丈夫。二日酔いの薬さ、よく効くよね。あんなに飲んだの初めてだったからさ、死ぬんじゃないかなと思ったけど、なんか大丈夫。それになんかここんとこ昨日今日ってさ、笑 雲の上にいるような気分だし。」
えりぃ「それは何?ひょっとして夢のようだってこと?」
文也「夢のようっていうか夢の中にいるって感じかな。えりぃは?」
えりぃ「うん。私も夢なら覚めないでって感じ。でも良かった。賛成してくれて。それからさ、お母さんが言ったこと確かにそうかなって。ほら仕事のこと。一人前になってからの方がいいんじゃないかって。そうだなーって思ったんだよね。」
文也「一人前かー。」
えりぃ「そうしよう。お母さんがいうみたいに一人前になったら、そうしたら結婚しよう。」
文也「うん。」
えりぃ「文也くんは優秀だからもう一人前だと思うけどさ。私はまだ三分の一人前ぐらいだからね。」
文也「そっか。」
えりぃ「そっかって、そんなことないだろうとか言わないの?普通。三分の一っていうのはやっぱり少し謙遜して言ってるんだけどなぁ。笑」
文也「え、そうなんだ、ごめんごめん。笑」
えりぃのあどけない笑顔や会話が、文也に好影響をもたらそうとしていることがわかるシーンだ。
文也は、生真面目で努力家で誠実な青年だ。でも、自分を客観視しながら生きてきて、心の奥底にあるものをずっと抑えてきたわけで。それは仕方ないことだと自分自身で納得してきたんだよぁ。悪い言い方をすれば堅物な人間になっていた。特に変化も起きず、おもしろくない生き方をしてきた。
でも、文也は気づいたんだろうなぁ、陽だまりのようなえりぃといると、気持ちが明るくなれて、元気になれて、楽しくて、抑えてきたものから解放されて。緩々になれて。バカやってもいいんだみたいな。初恋の人が今も初恋の人のままでいてくれて。文也的には「あー運命に感謝!最高!」って感じだなー。笑 改めて、えりぃは人に凄い影響力を与えるスーパーヒロインだなって思う。けれども、問題が残っている。
えりぃ「いいけど。あとさ、何かいいにくいっていうかあれだけど…。」
文也「何?」
えりぃ「遥さんのことなんだけどさ…。」
文也「あぁ、そのことはえりぃは考えなくていい。俺の問題だから、ね。」
そう…文也は、えりぃとのことを遥に伝えなければならない。
えりぃ「うん、わかった。」
文也「さてと、仕事行ってこようかな。あ、どうする?病院のみんなには(結婚)黙ってる?」
えりぃ「言う時は自分でいうし、それにまだちょっと早いような気もするし。」
文也「わかった。じゃあー行ってきます。」
えりぃ「行ってらっしゃい。がんばって。」
文也「うん、なんか今のちょっといい感じだったね。」
えりぃ「うん。」
文也「なんかだんだん自分が壊れてくような気がするんだよなぁ。でも悪くないけど。笑」
えりぃ「行ってらっしゃい。」
見送られた文也は、今まで以上に仕事にも活力が湧いている。えりぃは、文也を見送りながら幸せを噛みしめていた。結婚を決めてからの二人の交際は順調なスタートをきった。
文也が病院に出勤すると、遥は文也がやってくるのを待っていた。二人から沈黙が流れた。
遥「おかえりなさい。仕事終わったら付き合って。断らないで、私にはちゃんと話を聞く権利があると思うの。」
仕事が終わった文也と遥は、おしゃれなバーにいた。おそらく遥の行きつけのお店なのだろう。そこに文也が付き合って…の繰り返しだったのかな。バーの雰囲気からこれまでの遥との関係性がよくわかる。硬い表情で文也は、えりぃと結婚することを打ち明けた。
遥「運命っていうわけですか。」
文也「うん。」
遥「上村、悪いけど私、認めたくないな。別に嫉妬とかそういうんじゃないけど認めたくないな。はぁおかしい、運命なんて。運命で人の人生が決まってるんなら医者なんかいらないんじゃないのかな。私たちの仕事は運命に逆らう仕事なんじゃないのかな?医学ってそういうものじゃない?別に二人の仲を裂こうなんて思わないわよ。今は運命ごっこしてればいいじゃない。でも私は信じない。いつか壊れると思う。私はそう思う。」
文也は、遥の隣で遠い目をしながら意外な言葉を口にした。
文也「でも俺、今の自分嫌いじゃないんだ。」
遥「え?」
文也「えりぃに会ってからの俺、嫌いじゃないんだ。なんかわかんないけど嫌いじゃないんだ。」
遥「私にそんなこと言わないで。私だって女の子なんだから。」
文也「あ、ごめん。」
文也くん、遥ちゃんを傷つけちゃったなー。えりぃの影響を受けた文也は、緩々になってしまったから無意識に出ちゃった言葉なんだよね。遥からすれば「遥といた時の自分は好きじゃなかった。えりぃと会ってからの今の自分の方が好きだ。」と捉えられる。
遥「帰るね。また誘う。同僚として、断らないで。」
そう言いつつも、遥はきっと未練がましいことはしないだろう。えりぃは休みが終わって張り切って職場に戻ってきた。
えりぃ「婦長と佐々木さんにお願いがあります。私がですね、一人前の看護婦になったら教えていただきたいんです。待ってますからね、私、がんばりまりますから。よろしくお願いします。」
えりぃは一人前になるときが一体どんな風にやってくるのかなーと思うと胸がワクワクしていた。そして聡子たちに一人前の看護婦になったら文也と結婚することを打ち明け、祝福された。
聡子「ただね一人前になったら教えてってゆうのやめなさい。人から教えられて思うもんじゃない。自分でそう思ったら一人前なんじゃないかな。それにね、そもそもここで仕事をする以上一人前じゃなきゃ困るのよ、厳密に言うとね。」
シフトがなかなか合わない中、えりぃと文也はカフェでデートをしていた。
文也「へぇいい話だね。婦長さんの話。」
えりぃ「そうだよねーなんかいいなぁって思った。私にはどんな一人前ストーリーが来るのかなって、そう考えたらドキドキする。」
文也「一人前ストーリーか、俺も欲しいな。一人前ストーリー。」
えりぃ「文也くんも?」
文也「うん、まだそんな瞬間ないな。目の前のことこなすのが精いっぱいでさ。」
えりぃ「文也くんでも?」
文也「うん。でもさ、なるべく早くお願いしますよー。」←すっかりおどけるようになった文也くん
えりぃ「はい。がんばる。」
文也「うん。」
文也は、えりぃといると緩々になって、いたずらっぽい面も覗かせるようになっていた。こんな文也、見たことない。笑 えりぃといる時間が本当に楽しいんだろうな。えりぃも夢のような時間を過ごしていた。
えりぃは、遥に呼び出された。遥に対しての幸せの代償は大きい。
遥「別に恨み言を言うつもりじゃないんだよ。安心して。」
えりぃ「はい…すいません。」
遥「あなたに謝られる筋合いはない。怒るよ。それ以上言ったら。あなたと上村を結び付けた運命の神様ってやつ、随分よね。よりによって私がキューピットだもんね。でもちょっと納得できないんだ、私。
あなたと結婚することが上村にとって本当に幸せなのかどうかってことが。正直言って疑問なの。だから…だから見届けさせてもらう。別に運命とかそういうのはどうでもいいの。あなたと結婚して、上村が幸せなんだろうなぁってそう思えたら、その時は私、素直におめでとうって言うわ。でもやっぱりそうは思えないって私なりに結論が出たら......その時は私…奪い返しに行く。わかった?」
えりぃ「はい。」
えりぃは、遥と話したことを文也には言わなかった。文也を心配させたくないし、遥が納得できないことをしてしまったわけで。その怒りに怯えていた。それから、遥ちゃーん、あなたは嫉妬してないと言ってたけど、めちゃくちゃ嫉妬してますよ。笑
祥子が暴露したことによって、病棟では、えりぃが一人前の看護師になれたら結婚するという噂が広まり、えりぃは患者たちから声援を受けていた。その噂は文也の耳にも入っていた。忙しく仕事のシフトがなかなか合わないえりぃと文也は、カフェでデートすることが多かった。
えりぃ「文也くんも言われたわけ?もうーまいったねー。笑」
文也「あ、俺さ、一人の患者さん今日から任せられることになったんだよね。」
えりぃ「ふーん、すごいね。」
文也「でもやっぱなんか緊張するよね。」
えりぃ「へー。文也くん一人前だね。」
文也「それがちゃんとできたらね。」
えりぃ「そっかー私全然ダメである、なんか患者さんに励まされてしまってさー。力になるよと言われてさー。逆だよね。ま、なんくるないさ。笑」
文也「なんとかはならないよぉ。笑 がんばらないと。」←すっかりえりぃの前でおどける文也くん
えりぃ「はい、すいません。笑」
えりぃと文也の親密さは増すばかり。デザートをシェアしながらイチャコラやっている。笑
えりぃは新しい患者・田所の看護を担当することになった。しかし田所は、えりぃにわがままを言って冷たく当たってしまう。聡子は患者が辛くあたることはよくあることだと言った。入院すると人間いろんな感情が出てしまうと。えりぃは心を尽くせば、きっと田所に通じると思っていたが現状は厳しかった。文也は大変そうなえりぃを見かけ心配していた。
文也「大丈夫?」
えりぃ「うん…なんかやっぱり難しいね、なんか全然心開いてくれないさ。」
文也「そっか、大変だね。看護婦の仕事もね。」
えりぃ「うん、あ、文也くんはどう?担当の患者さん。」
文也「うん、まぁ何とかやってるけど。」←順調だけどえりぃを気遣う文也くん
えりぃ「そうすごいねー。」
文也「あんま焦んなよ。おふくろがさ、変な目標仕事に持ち込ませちゃってるみたいでさ。」
えりぃ「ううん、結婚のことは別としても、私も早く一人前になりたいし。」
文也「うん。でもさ、えりぃ。忘れないか?」
えりぃ「忘れるって?」
文也「こうしてる時はさ、仕事のこと忘れない?」
えりぃ「うん。」
文也「何食べよっか?って言ってもさ、俺たち給料前だけどね。笑」
えりぃ「そうだね。笑」
文也「早く一人前の給料欲しいなー。」
えりぃ「もしかして、今は私の方がいっぱいもらってるんじゃないの?」
文也「えー?あ…そうかも。笑」
えりぃ「奢ろうか?」
文也「はー⁉でも、俺たち貯金全然ないよね。」
えりぃ「そうだね、なんくるないさ。笑」
文也「なんとかなるか。笑」
落ち込むえりぃをさりげなくフォローする文也。お互い支え合って和気藹々とした夫婦になりそう。
デート帰りに、えりぃは文也に頼んで病院に寄ってもらった。田所のことが心配だった。
えりぃ「ごめん、寝られないらしいわけ、よく。だからさ…」
文也「どうぞ、覗いてきてください。」
病室を覗くと田所はぐっすり眠っていた。寝顔を見ながら、えりぃは田所のことを心配していた。
文也「どうだった?」
えりぃ「寝てた。」
文也「そっか、あのさ、俺も覗いてこよっかな?ちょっと、ちょっと待ってて。」
えりぃが患者を心配する気持ちを共有する文也の心遣いがとてもいい。文也はグッドサインを出して患者の病室に向かった。それからも相変わらず田所の看護は大変で、えりぃは元気がなかった。
そんなある日、謎めいた女性が病棟の廊下を歩いていた。文也は、それが静子だとすぐに気づく。
文也「母さん?」
静子「はぁバレちゃったかー。」
文也「は?何やってんの?」
えりぃ「どうも。」
静子「どうも。あの、ちょっと様子をね、見に来たの。」
文也「なんで?」
静子「二人がいつ一人前になって結婚するのかなーて心配になって、様子をね。」
文也「なんだ、それ。」
静子「怒らないでよ、怒ると思ったからこうやってちゃんと変装してきたのよ。もう。」
文也「何が変装だよ。もう勘弁してよ。もう。」
静子「もう、わかったわよー。とにかくいつになってもいいから、一つだけ決めてくれないかなー。」
文也「何を?」
静子「私ね、留め袖作ろうと思ってんのよ。」
文也「は?」
静子「夏物と冬物じゃ全然違うのよね、着物って。で、どっちかだけ決めてくれないかなぁー。注文したくても出来ないのよ。」
文也「はい?」
静子さんって暗いイメージがあったけど、実はこんなにユーモアがあってかわいい人だったとは。変装してやってくるし。笑 元気がなかったえりぃも、文也と静子の会話で笑顔になってよかった。えりぃたちが話しているところに沖縄にいる恵文と勝子も現れた。両家は人目もはばからず挨拶をしながら、子供たちの結婚を喜んでいた。えりぃの一人前ストーリーはどんどん大ごとになっていた。